アメリカ大学男子バスケットボールにおける怪我の現状と傾向。

再掲になりますが、EBP講習のお申し込みを引き続き受付中です!
以前帰国時に大先輩にあたる日本人ATCの方から、「Evidence-Basedって、どうなの?」と否定的トーン・怪訝な顔で聞かれた時に、まだまだ日本には「エビデンスに基づいた医療 (EBP)」に対して正しい理解が充分に広まっていないのかな、と思ったんですよね。エビデンスに基づく医療は、正しく理解・実践さえできれば臨機応変でウキウキわくわく楽しいもので、全ての臨床家の医療の価値を一段階も二段階も引き上げてくれるものだと私は信じています。英語論文を読んだり解釈したりすることに苦手意識がある方やこれから世に出る学生さんにこそ是非来てもらいたいと思って、今回の講習を作りました。興味のある方は下記のリンクから詳細を御覧ください。お申し込みに関して不明な点がある場合は主催の高橋忠良(tdtakahashi@guardiansatt.com 090-6487-5970)までお願い致します。

12月16日(水) 18:30-21:30pm Evidence-Based Practice 診断編 東京・立川
12月17日(木) 18:30-21:30pm Evidence-Based Practice 治療介入編 東京・立川

12月23日(水) 9:30am-12:30pm Evidence-Based Practice 診断編 大阪
        14:00-17:00pm Evidence-Based Practice 治療介入編 大阪

ちなみに受講料は診断編が8000円、治療介入が9000円です。どちらの講習もBOC EBPカテゴリーで各3.0 CEUs認定されています。ふたつ併せて6.0 EBP CEUs。両方も、どちらかだけでも受講可能です。夏には対象制限を儲けましたが、今回はそれをとっぱらって、年齢経験資格関係なく、どなたでも大歓迎しております。



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さて、決してめちゃめちゃ新しい論文1ってわけではないのですが、読む機会があって面白かったのでまとめておきます。アメリカ大学スポーツ界(NCAA)は様々なスポーツの規模が年々拡大しており、男子バスケはその中でももちろん花形と呼ばれる地位にあります。チーム・選手数も1988年の全米768チーム、12203人から、2004年には997チーム、16028人と3割も上昇。こうなると、この16年間(1988年→2004年)の間でスポーツ中にどんな怪我が起こってきたのか、どういう変化や傾向があるのか気になる所ですよね。
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●練習と試合の受傷率
まず特筆すべきは、練習中の受傷率と比べて、試合中のそれは2.3倍 (98%CI: 2.2-2.4)に跳ね上がるというところでしょうか。
詳しい統計は、"4.3 vs 9.9 injuries per 1000 athlete-exposures (AEs)."
分かりやすく言い換えると、一回の練習で一人の選手が怪我をする可能性が0.43%であるのに比べ、一回の試合で怪我をする確率は0.99%、ということですね。で、一年間を通して選手は平均94の練習と28の試合をこなすというデータ(NCAA D-I)がありますから、これらのデータを併せると、選手がひとり一年間プレーを続けて、練習中にひとつ怪我をする可能性が約40%同様に、年間を通じて試合中にひとつ怪我をする可能性は約28%ということになります。練習と試合の両方を合わせて、ひとつも怪我をしない可能性は3人に一人。なかなか幸運でないといけませんね。Athletic trainer(AT)の観点から、1チーム16人ほどいると考えると一年間でそのうち約11人は怪我をする、と考えるとやはりなかなか大変です。
何故か?を考察するのもまた面白いですよね。最初は「練習中は指導している時間も長いから、運動量で言うとそれほどでもないとか?」と思ったけれど、それを言ったら試合中もクロックは頻繁に止まるので、どっこいどっこいなのではないかなという気もするのです。試合は練習に比べて参加人数が限られているのにそれでも受傷率が高いということは、それだけ試合中には激しく、予測しづらい流動的な運動が求められるということなのかなと。

●ディビジョン別、時期別の受傷率
もっと詳しく見ていくと、NCAA Division I = 10.8, II = 9.9, III = 9.0 injuries per 1000 AEsという、緩やかな競技レベル別の受傷率の傾向も確認できます。ディビジョンがより高いほうが、薄っすらと受傷率も上がるというわけです。
もっと面白い発見は、Pre-season、In-season、Post-seasonの比較ですかね。受傷率はPre-season = 7.5, In-season = 2.8, Post-season = 1.5 per 1000 AEsで、Pre-seasonはIn-seasonの2.7倍 (95% CI: 2.6-2.8)、In-seasonはPost-seasonの1.9倍 (95% CI: 1.5-2.3)、怪我をする確率が高いということが言えます(それぞれp < 0.1)。
これも個人的な考察ですけど、Pre-seasonは選手の身体が出来ていない、あとは、体力付け・根性付けのきっつい追い込み系メニューが多い、というのがあるのかなーなんて。こちらが目を覆いたくなる程酷い"Punishment practice"みたいなのもこの時期が一番多いと経験から感じます。In-seasonになるにつれ徐々に練習の時間も質も変化して、2時間半から1時間半ほどに、そして、技術と戦術の確認が比重を占めてくるという印象です。

●部位別の受傷率と怪我のメカニズム
試合中、練習中に起こりやすい怪我のトップ5は以下の通り。
   試合             練習
 足首の捻挫 26.2%      足首の捻挫 26.8%
 膝関節内の損傷 7.4%    膝関節内の損傷 6.2%
 腿打撲 3.9%        股関節筋・腱損傷 4.4%
 脳震盪 3.6%        膝蓋骨・膝蓋靭帯損傷 3.7%
 膝蓋骨・膝蓋靭帯損傷 2.4%  腰筋・腱損傷 3.6%

足首の捻挫が断トツですねー。怪我の約半数(練習中 43.6%; 試合中 52.3%)が他プレイヤーとの接触によるものでした。部位で言うとやはり、全体で見ても練習・試合に関わらず下肢の怪我が約60%と多いです。脳震盪の受傷率は、練習中に比べて試合中のほうが約3倍も高い (0.12 vs 0.32 per 1000 AEs, RR = 2.7, 95%CI 2.6-2.8)というのも興味深い。この統計を取った16年間で、頭部・顔の怪我が毎年平均6.2%のペースで増え続けているというデータも出てきました。フィジカルなプレーが増えているのと、脳震盪そのものの診断基準がアメリカで確立されつつあるのとの相乗効果でしょうか。選手も細くてひょろりよりもがっしり重く強いタイプが好まれるようになってきていますし。
練習期間が長くなったり、許される練習回数も増えているから下肢の慢性的な怪我も増加傾向にあるのかな?と思ったら、こちらはそうでもないんですね。統計的に優位でない、緩やかな下降傾向が認められました。これは、コーチの技術指導の向上、それから、日常的にATが現場にいて健康管理、指導をしている賜物なのかもしれません。

●他リーグとの比較
練習中の受傷率はカナダの大学男子バスケリーグのもの2と比較しても酷似しているのですが(4.3 vs 4.5 injuries per 1000 AEs)、面白いのは試合での受傷率の違いです。カナダ大学2、アメリカ大学1、NBA3,4を比較すると、6.0 vs 9.9 vs 19.3-21.4 per 1000 AEsという、それぞれ統計的にも臨床的にも有意な差が見て取れます。
つーか、NBAの怪我、多…。
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さて、まとめてみると、
ATも、もちろん練習の日は気を抜いていいというわけでは決してありませんが、試合の日はいつもの2倍気を引き締めて臨むべき、ということが言えますよね。実際の競技者は少ないのに全員の受傷率が2倍にあがるのですから、中でもプレータイムの多い選手が怪我をする可能性は3-5倍とか、もっとあると心しておくべきでしょう。あとは、足首の捻挫が非常に多いことから、再発予防のリハビリプログラム、テーピング・サポーターがこれから確立されるべきであるということ、あとは頭部・顔損傷をこれからどう防いでいくかというところですね。膨大なデータですけど、こうしてまとめてみると面白いです。この研究に含まれているチーム数・選手数がめちゃめちゃ多いため、95%CIの幅が一貫してかなり狭いのもこの研究の長所と言えます。

ここ数年で男女バスケ共に夏にもがっつり練習するようになりましたし、これによってまだ怪我の内訳や受療率がどのように変わっていっているのか是非学んでみたいです。こういった研究は頻繁に発表されるものではないので、次の発表を待つことにします!

1. Dick R, Hertel J, Agel J, Grossman J, Marshall SW. Descriptive epidemiology of collegiate men's basketball injuries: National Collegiate Athletic Association Injury Surveillance System, 1988-1989 through 2003-2004. J Athl Train. 2007;42(2):194-201.
2. Meeuwisse WH, Sellmer R, Hagel BE. Rates and risks of injury during intercollegiate basketball. Am J Sports Med. 2003;31:379–385.
3. Starkey C. Injuries and illnesses in the national basketball association: a 10-year perspective. J Athl Train. 2000;35:161–167.
4. Deitch JR, Starkey C, Walters SL, Moseley JB. Injury risk in professional basketball players: a comparison of women's national basketball association and national basketball association athletes. Am J Sports Med. 2006;34:1077–1083.

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  by supersy | 2015-11-29 16:00 | Athletic Training | Comments(0)

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