New NATA Position Statement: 熱中症についての最新改定版を考察する。

どーも。Utahから帰ってきて、3日ほどCorpusで過ごしてから今度は学会でFloridaはタンパに行っていたりして、かなり仕事が遅れ気味…。ばたばたしています。とりあえず、学業のほうは今日ようやく先取り完了できました。なので、ここしばらく書きたいと思っていた内容をちょこっと。

さて、つい先月、NATAより熱中症対策のPosition Statementの最新改訂版が発表されました。ATCの皆さんはもう読みましたか?
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えっ?そんなの出たの?という方、是非こちらから確認してみてください。Exertional Heat Illnessesは一番上に掲載されているやつです(時系列順なので)。ちなみにNATA Position Statementsは5年ほど掛けて全米屈指の専門家たちが話し合って書く、最新最高の我々ATCのClinical Practiceのガイドラインであると同時に、誰でも読めるよう一般に公開になっている、素晴らしい情報源です。是非現場でもりもりやっている皆様にこそ熟読して現場に活用して欲しいです。

…で。
今回はせっかくなので、私が読んで「おお?」とちょっと驚いた・学んだ点を中心に書き残しておきたいと思います。今年5月に私が『スポーツ中の熱中症対策、できてますか?Exertional Heat Strokeについて考える』という記事を書いた時にかなり詳細に1) 何故診断に直腸温が無くてはならないのか、2) 何故治療には冷水に全身を浸すことが必須なのか、についてまとめており、今回発表されたNATAのPosition Statement改訂版のメイン内容にも同様の文献が引用され、同じ理論で同じ結論が導かれています。つまり、

- 現時点で我々は労作性熱中症(Exertional Heat Stroke, 以下EHS)患者の生存を
 ほぼ確実に確保する知識を持っていると言って良い

- 患者をEHSと診断するのにゴールドスタンダートと言える深部体温測定法は
 直腸温のみ。EHSかHeat Exhaustionか判断しかねる場合は(個人的にはEHSか
 Exercise-associated hyponatremiaか区別できない場合も)直腸温をすぐに
 測るしかない。他の体温計速報は信頼性も妥当性も欠如しており、
 患者の健康を危険にさらす恐れがある。
 推奨度・A

- 計測した体温が40.5℃(105°F)より高く、EHSという診断が確定した場合には
 すぐに全身を冷水・氷水に浸してaggressive coolingを開始。どんなに長くても
 患者が倒れてから30分位内に体温を38.9℃(102°F)まで下げることを目標とする。
 推奨度・B

- この際、選手が(shoulder padや幾層ものユニフォームなど)過度な服を来ていた場合、
 もちろん脱がせたほうがcoolingの効果は上がるのだが、それに時間が取られた故に
 coolingが遅れるほうが致命的なので、これは冷水の中でやること。
 5-10分毎に患者のバイタルを確認することも忘れずに。
 推奨度・B

- 冷水・氷水の温度は1.7~15℃(35-59°F)の間で、最速で体温を低下させるため、
 患者を首までつからせ、cooling中は水を常にかき混ぜておくこと。患者の
 体温が38.9℃(102°F)に達した時点で体温の超低下を避けるために水槽から出す。
 推奨度・A

…というのが一番のtake home messageですかね。
まぁここまで特に驚くこともないとして、今回新たに学んだのが、

- 今まで私達がHeat Crampと呼んでいたものが、Exercise-Associated Muscle Cramps
 という名称に。これは、俗称・Heat crampは体温の上昇を伴わない、ただ暑い中じっと
 座っていただけでは起きない(=熱が原因とは言えない)、暑くなくとも、温かい・
 もしくは涼しい環境下でも起こりうる、ということから、『Heat Crampは
 正しい名称ではない』という流れになっているみたい。なるほど。

- 推奨度Cと強くないけど、「熱の効果は蓄積する」という表記、そして、
 「選手は最低でも涼しい所で7時間の睡眠を・バランスの取れた食事と、
 水分を一日通じてしっかり補給すること」が含まれるように。
 そうそう、睡眠不足とEHSの関係に関する論文、どっかで読んだなー!

- EHSの症状で学生時分には『hot and dry skin(皮膚は熱く、乾いている)』と
 習ったものですが、今回の表記では『hot and wet (sweaty)』に変更されています。
 曰く、『非労作性ならば乾いているが、労作性だと汗ばんでいることが殆ど』だそう。
 よく考えたら、そりゃそうか!
 推奨度・B

- Heat Exhaustionの場合は、whole body coolingの必要は無いが、
 涼しい場所に患者を移動させたり、扇風機・アイスタオルを使用して体温を
 下げること、というマイルドな表記に留まりました。
 こういう、『EHSの場合は使ってもほぼ無効』なものでも、
 Heat Exhausionの時に役に立ったりするから、一応用意しておいた
 ほうがいいってことね。なるほどなるほど。
 推奨度・C

あとは、競技復帰に関して、

- Heat Exhaustionの場合は、当日復帰はお勧めできないしするべきではない、
 というかなり端的な表記のみ…。次の日ならいいのかな?
 推奨度・C

- EHSの場合は、競技復帰はかなり複雑。
 もしすぐに体温の低下が迅速且つ効果的に行われた場合は、
 その日に(病院でなく)家に帰らせても良い。7~21日しっかり自宅休養を取らせ、
 患者の症状(倦怠感等)が完全に無くなり、医者が血液検査の結果が通常だと
 確認した上で、恐らく1ヶ月以内に軽い運動を開始することができるだろう。
 そこからAT、もしくはEHSの知識のある医療従事者の指導のもと、
 徐々に運動量を増やしていき、完全競技復帰を目指す。
 ただ、治療が遅れて後遺症が残った場合、運動を再開するのに数ヶ月、数年かかる
 場合もある。競技復帰が不可能なケースも、ゼロではない。
 推奨度・C

うーむ、競技復帰のプロトコルというのはまだまだこれからの分野なのですね。
Heat illnessって一度なると、再発するリスクが高いですから…。難しいところです。

そんなわけで!今回の一番のサプライズは、
Exercise-associated muscle crampという新名称と、
EHS時の肌は湿ってるもんだ、ということでした!いやー、ホント、自分が学生の頃習った知識のどれがいつひっくり返されるか、わからないもんですねー。これだから医療界は怖い。でも楽しい!

ちなみに、今回も私の解釈としては、
推奨度A = what we MUST do 我々がやらなければいけないこと
推奨度B = what we SHOULD do 我々がやるべきこと
推奨度C = what we think we should do 我々がやったほうが良いであろうもの
という感じです。
推奨度Aはよぼどの理由がなければPosition Statementにそうそう出てくるものではないので(ほとんどが推奨度BかCですよね、やっぱりね)、是非その背景を理解して、全てのATがこの知識を現場に活かしてくれるよう、祈っています。
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  by supersy | 2015-10-20 23:30 | Athletic Training | Comments(0)

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