「貴方の常識」は「患者の常識」?意思疎通の大切さ。

**そんなにひどくはないかと思うのですが、
今回はちょっと手術の写真など出てくるので苦手な方は注意してくださいね**

さて!昨日の深夜にユタから帰ってきました。3回めの博士課程オンサイトです。
今回は3日半でプレゼン3つ、試験がひとつとなかなかキツかった…。
無事に終わってほっとしています。今回もたんまり学んできました。
プレゼンの最優秀賞も頂けて、ちょっと自信がつきました。
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滞在最後の夜、何故かBYUのホームカミングゲームに招待されてお邪魔することに。大学のフットボールの試合って久しぶりー!やっぱり雰囲気がいいですね。山が背景に見えるフットボールスタジアムの立地も素晴らし―。いつもの仲良しメンバー(-1人)で試合をバックに写真をぱちり。「明日のプレゼンの準備が終わってない!」と、課題を優先して参加できなかったクリスが写ってないのが残念。
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さて!本題です。衝撃的なケーススタディーを目にしたので記録に残しておきます。
いやー、これが2014年に発表されてるっつーのがねー、こわいっすねー。
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このケーススタディーでは、練習中に手を地面について右人差し指を怪我(undiagnosed)した17歳の高校生アメフト選手に焦点が充てられています。現場にATがいたという表現はどこにもないので恐らくいなかったのだろうと憶測せざるを得ないのですが、この選手は受傷後コーチに「これで冷やせ」と冷凍庫で凍らせるジェルタイプのcold pack(↓)を直接肌に充てがわれ、elastic wrapでぐるぐる巻かれたそうな。
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特にいつ外せという指示もなかったため、選手は長ければ長い程良いのだろうと推測。約2時間程そのままにしておいたそう。外すときに、(怪我をした)人差し指と(怪我をしていない)中指が赤く腫れていたことが確認されており、痛みは全く無かったとのこと。

その後、この選手は一応骨折をr/oするために病院に行ったのですが、レントゲンでは骨に異常なし、「軽い突き指でしょう」との診断を受けます。親御さんの話でも、この時、肌に異常は見られなかったそうです。
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翌日になって、選手は人差し指と中指が水ぶくれ状に腫れあがっている(↑)ことに気が付き、整形外科医院に駆け込みます。この時、患部に痛みはなく、指の感覚は完全に無くなっている状態。水ぶくれが血管を圧迫する程膨れ上がっていた("creating a tourniquet-like constriction that cut off circulation to the distal portions of the finger")結果、指先のcapillary refillは確認できず。II度~III度の深刻な凍傷と診断され、遮られていた血流を回復させるため、緊急のdecompressionの手術を受けます。水ぶくれを開いて水分を出し(写真A・B)、圧迫を解いたわけです。超音波で少量の血流の回復が確認された上で、縫合。
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(写真Cは術後2週間、Dは特注のトラクション・スプリント)
術後28日で肌が再生、32日で可動域が戻り、走っても指の痛みが出ないまでに回復し、46日でまだ感覚異常はあったものの、機能回復が充分だったためdischarge。術後70日で「スポーツと日常生活をする上で必要な感覚は戻った」と選手が自己評価した上でフットボールへの完全競技復帰を果たしたそうな。グローブの下にゲルをパット代わりに入れる以外は制限も無かったそう。いやしかし、コーチのついうっかりで10週間は長いですよね…。

このケーススタディーから学べるところはいくつかあって、まずは現場にATがいないと、その場にいる人が間違った知識でとんでもないことをしてしまうことがある、ということ。ジェルタイプのcold packは通常の氷を使ったアイスパックに比べて長時間低温を保ててしまうので、指のようなdistal body partに使うときは特に注意が必要です。肌に直接充ててしまうのも、elastic wrapでぐるぐる巻いてしまうのも、我々は絶対にしない行為です。やるなら、ice slushと言われる『氷水をカップ状の容器に入れ患部を氷水にひたす』という方法でしょうけれど、それにしても指先は特に冷やすぎないよう配慮すべき部位です。

あとは、痛いほど冷やしてはいけない、2時間もそのまま置いておいてはダメ、という共通意識が選手に無かったことも一因です。もちろんこれは選手のせいではなくて、こんなに若い選手を相手にしている場合、「○分したら外すんだよ」と大人が指導すること(そうです、この怪我はたったこの一言で防げたかもしれないのですから…)。そして、指導しっぱなしでなく、きちんと時間がたったら戻ってきて外していることを確認することまで責任を持って行わなければいけません。こんなこと我々ATからしたら『常識』でしょうし、「フツーわからない?」と言いたくなってしまうかもしれませんが、そうです、普通は分かりそうな当たり前のことをいちいち繰り返して伝え、根気よく確認してこそプロだと私は思っています。以前のヘルスリテラシーの記事でも書きましたが、我々は、我々の考える『常識』レベルの医療の知識を一般の人に強要してはいけません。我々の知識レベルは「専門」の域に達していて、そしてもちろんそれはそうでなくてはいけないものなのですから。曖昧な言葉の使用は避け、患者さんに分かりやすい言葉で説明すること。「こういう感覚はこの治療・modalityでは普通なんだけど、こういう感覚は普通じゃないから、こうなり始めたら教えてね」、と、その治療の「normal」「abnormal」をきちんと定義すること、そして、「始める前に何か質問はある?」と、患者さんにも話すチャンスを与えること…物理療法の授業を教えていた頃は学生にいっつもこんこんと教えておりました。願わくば、うちの学生が世に出て、こんなケースを作り出してしまわないように…明日もまたたんまり教えてきますわー。
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  by supersy | 2015-10-12 21:30 | Athletic Training | Comments(0)

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