ACL断裂と月経周期の関連性はあるのか?完結編。

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●ACL断裂と月経周期
この関係性を学ぶのに、一番手っ取り早いのはsystematic review読むことでしょ!
…ということで、似たようなのは2006年1と2007年2にもそれぞれ発表されていますが、どうせ読むなら最新のものを。2013年に発表されたSystematic review(↑)3にまとめられているのは、1998年から2011年までに発表された論文で、Hewett et alのSystematic review2に含まれていない13の論文。これらをまとめてみるとこんな感じ。
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一番右のMSS…Modified Sackett Scoreの高い順、つまりデザインに優れた、質の高い研究順に並べてみたんですけど(満点は38点)、メインでassessしてるoutcomeがACL損傷の場合と、ACLのLaxityとで二種類あるのでご注意下さい(左から二番目、『outcome』参照)。13の研究の内5つ(青)が「月経周期のいつでも特に統計的に有意な差は見られず」という結論だったのに大して、7つ(赤)が「Ovulatory期に統計的に有意なレベルのLaxityの悪化・Injury頻度の増加が見られた」という結果に。どちらかというとこの7つのほうが(有意な差無しとした)5つに比べて研究の規模が大きめなのも気になります。
Belanger et al3は「まだまだ質の高い研究は足らず、矛盾も多い」としながらも、「大多数の研究がACLのLaxityと損傷リスクが最大になるのはOvulatory期という発見をしている。この時期の怪我には特に気をつけるべきだ」と述べています(気をつけろってのはまた、ずいぶんぼんやりした結論ですが…)。

このreviewの『Hewett et al2で使われた文献は省いて』という表現が気になったので(何故合せないで省いたんでしょう?)、Hewett et al2のほうも引っ張り出してきて、読んでみました。
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こちらのreviewでは、ACL損傷頻度と月経周期を比較、検証した7つの研究についてまとめています。下の表(↓)は私が独自にまとめ直したもので、実際Hewettらが論文に掲載している数字と少し違うのですが、それはOral Contraceptives (OC)を使用していた患者をこの表では全て省いたためです。OC、いわゆるピルを飲んでいると、ホルモンがそれによって大きく影響を受けてしまう可能性があるので。私はあくまでピルを飲んでいない、ふつーの状態の女性アスリートのACLへの影響が知りたいのです。(ちなみに一番最初のWojtys et alの研究はOCを使用している患者もしていない患者もごっちゃにした統計しか言及しておらず、28人中5人いたらしいOC患者を省くことができませんでした。…というか、この研究はBelanger et al3の方にも含まれてるんですが…どうなってるの?)
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結果はというとなかなかどうして、バラつきがあるんですよね。一番の問題はどう『月経周期』を確認するか。上のテーブルで**がついている研究は月経周期を確認するのに、尿検査や唾液、血液検査をしたのではなく、「怪我したとき生理来てました?」的な、あくまで質問形式で決定した『月経周期』なので、本当に正確な報告か分からない、recall biasなどあるかも、という信憑性のあやふやさが気になります。

ともあれこの7つの研究全てを合せてみると、
Follicular期に85件のACL損傷、Ovulatory期に55件Luteal期に77件
という数字になります。Ovulatory期が一番少ないじゃん!と思われるかも知れませんが、Follicular期は9日間、Ovulatory期が5日間、Luteal期が14日間であることを考えれば、そのまま比べるのもどうかと思うんですよね。なので、一日あたりの平均値に換算してみると、Follicular期は9.44、Ovulatory期が11.0、Luteal期が5.5と、かなり数字に変化が見られるのがわかります。Ovulatoryが決定的に高いかと言われるとそうではありませんが、Follicular + OvulatoryはLuteal期に比べて格段に高いことは分かります。

そんななので当然というか何と言うか、Hewett et al2の結論もPre-ovulatory (Follicular + Ovulatory、つまり前半14日間)のACL損傷頻度はPost-ovulatory (= Luteal、後半14日間)よりも高い、というものでした。

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もうひとつ見つけた最新のOriginal Article(↑)4では、172人のACL断裂患者(レクリエーショナル・スキーヤー)の月経周期を検証。結果としては、Follicular期の損傷が58件(33.72%)、Ovulatory期が63件(36.63%)、そしてLuteal期が51件(29.65%)。OCの使用・不使用に関わらず(これは過去の研究と食い違うところですね。OC使用に関しては、リスクが上がるという報告も)、pre-ovulatory期の損傷はpost-ovulatory期に比べて2-4倍多いと言って良い、という結論でした。
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まとめると、今のところ、Pre-ovulatory phase (follicular + ovulatory)にACL損傷のリスクはPost-ovulatory phaseの2-4倍に跳ね上がる、というのはもうconsensusに達したと言っても良いのではないでしょうか。で、もうちょっと詳しく見ると、follicularとovulatoryを比べた場合、ovulatoryのほうが多い傾向にはあるけれど、これを決定的と言うにはもっとhigh qualityの研究がまだまだ必要、という感じですかね。
ただ、これをどう現場で活かすかがなかなか難しい。Pre-ovulatory phaseは28日周期中14日間もあるわけだし、ACL損傷予防のためだけにその14日間練習を制限する(例: cuttingを減らすとか、contact drillを減らすとか?)というのはかなり非現実的。例えovulatory phaseの5日間のみ練習内容を変更するといっても、実際問題しんどいですよね。特にチームスポーツの場合、選手一人一人異なる月経周期に振り回されていては、なかなかproductiveな練習も出来ないかもしれません。どーしたもんっすかねー。

こうなってくるとそれこそOC等で怪我のリスクが減らせるのか、はたまた増えるのか…ということにもなってくるんですけど、それまで書きはじめちゃうとキリがないので今回はやめておきます。ただ、サラッと見た限りでは、OCに関しては「怪我が増える」派と「影響なし」派がいるみたいですね。「減る」派は今のところ見かけていません。

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●Neuromuscular Factorとの相乗効果も?
最後にもうひとつ…。ホルモンの変化は、直接靭帯のpropertyに影響を及ぼすだけではなく、もしかしたらNeuromuscular controlにも変化をもたらすのでは?という説もあるのです。つまり、月経周期の特定の期間、エストロゲンレベルの上昇によってACLのlaxityが上がる→それによってmuscular responseも変化、dynamic activity時のカラダの使い方にも変化が→それによって更にリスク増加?という相乗効果みたいなもんもあるんではないか、と。
この著者ら(↑)は「着地時のsagittal-plane motionの減少、そしてfrontal- and rotational-plane motionが増加することで↑ACL loading = 着地時に膝・股関節を屈曲させてチカラを吸収する代わりに、屈曲度を浅くしたまま、膝が横にブレたり股関節の回旋などの代償運動で前十字靭帯にかかる負担が上がる」とした上で、「過去の研究5では月経周期による動作変化は見られないという結果が出たが、これは、ホルモンの影響を大きく受ける人、受けない人との個人差から来ているのかもしれない」、「我々は『ホルモンの影響を受けやすい女性』としてACL損傷歴がある患者のみを対象に同様の実験を行った」…としています。これは、「一度ACLを損傷した患者は、逆膝のACLも断裂することが多い(25%という報告も)。こういった怪我を負う患者の88%は女性であることからも、ホルモンが危険因子として関わっているのか調査する必要がある」のだそうです。へぇぇ。

被験者の規模は20人(19.6 ± 1.3 y/o)と少なめですが、結果としては、ovulatory phaseの最中の被験者の着地時に、統計学的に有意な膝valgus momentの上昇(p = 0.01, Cohen d = 0.9)と股関節の内旋度(p = 0.047, Cohen d = 0.4)が見られた、そうで。この動作は前回も書きましたけどモロにACL損傷のメカニズムと一致することもあり、「仮説通り、oculatory期に代償動作によるACLへの負担が増加することが確認できた」と結論づけています。生理学的観点からだけではなく、バイオメカニクスの観点からも、ホルモンの影響によって怪我のリスクが上がることもある…みたいですね。

ホルモンの影響は直接修正できないこともありますが、
ホルモンの作用で二次的に起こるbiomechanical changesは修正可能かも知れません。
もっとコレに関しては論文読みたいですね!もちろん、ovulatory phaseのみ、超短期間で怪我予防エクササイズをやらせる、では無意味かと思うのですが、特にovulatory phaseにreminderとして繰り返すといいエクササイズとか、verbal cueとか、そういうのはいくらでも工夫できそう…。我々は神ではないので出来ることにもちろん限りはありますが、怪我の予防に日々尽力、工夫を重ねながら臨むのも大切な仕事のひとつです。

1. Zazulak BT, Paterno M, Myer GD, Romani WA, Hewett TE. The effects of the menstrual cycle on anterior knee laxity: a systematic review. Sports Med. 2006;36(10):847-862.
2. Hewett TE, Zazulak BT, Myer GD. Effects of the menstrual cycle on anterior cruciate ligament injury risk: a systematic review. Am J Sports Med. 2007;35(4):659-668.
3. Belanger L, Burt D, Callaghan J, Clifton S, Gleberzon BJ. Anterior cruciate ligament laxity related to the menstrual cycle: an updated systematic review of the literature. J Can Chiropr Assoc. 2013;57(1):76-86.
4. Lefevre N, Bohu Y, Klouche S, Lecocq J, Herman S. Anterior cruciate ligament tear during the menstrual cycle in female recreational skiers. Orthop Traumatol Surg Res. 2013;99(5):571-575. doi: 10.1016/j.otsr.2013.02.005.
5. Chaudhari AM, Lindenfeld TN, Andriacchi TP, Hewett TE, Riccobene J, Myer GD, Noyes FR. Knee and hip loading patterns at different phases in the menstrual cycle: implications for the gender difference in anterior cruciate ligament injury rates. Am J Sports Med. 2007;35(5):793-800.
6. Bell DR, Blackburn JT, Hackney AC, Marshall SW, Beutler AI, Padua DA. Jump-landing biomechanics and knee-laxity change across the menstrual cycle in women with anterior cruciate ligament reconstruction. J Athl Train. 2014;49(2):154-162. doi: 10.4085/1062-6050-49.2.01.

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  by supersy | 2015-09-19 15:30 | Athletic Training | Comments(0)

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