NATA最新の『アスリートの脊髄損傷に対する適切な搬送前措置』改正案とその修正についてまとめ。

さて、がっつり真面目な話でも。
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ATCの皆さんなら"Acute Management of the Cervical Spine-Injured Athlete"のPosition Statementは幾度と無く読んだことがある重要書類かと思うのですが、これ、実は発表されたのは2009年と古く、現在、アメリカでは全米規模で様々な専門家を集めたTask Force(特別チーム)が編成されていて、特に、Spine-Injured Athleteのprehospital management (病院搬送前の適切な措置)についての改正案を製作中です。近々(…といってもあと数年かかるでしょうが) 新たなConsensus Statementが発表予定になっています。発表されれば恐らく、NATAやNCAA、USOCのみでなく全米各専門医師協会なんかからもendorseされる、どでかいConsensus Statementになりそうです。

で、提案される予定の修正案は大きく14の項目に分類されます。
これらは6月に発表されているのですが、意訳して書くと:
1. (高校・大学・プロを問わず)チームはローカルの救急隊(EMS)と提携してEmergency Action Plan (EAP)を作るべきである
 - 確かに、チーム側が立派なEAPを用意していてもEMS側がそれについての知識が
  無かったり、共有が十分にされてないことによって救急措置が遅れる、
  もしくは正しい対処ができないという話はよく聞きます。EMSさんたちに
  EAPを作る際に一緒に座ってもらい、話し合いながら決める、という行為は
  選手の命を救うことにつながるでしょう。

2. スポーツ医療チームは、シーズン開始前にきちんと時間を設けてEAPを復習し、緊急時の人手や用具の確保、可能性を確立させておく

3. 脊髄損傷が確認されたら、その深刻度に基づき、適切なEAPのアクティベーションが素早く行われるべきである

4. その際、
選手が着用している防具は病院搬送前に速やかに外すべきである

5.
防具を外す際、最低でも3人の訓練を積んだ人物がいることが絶対条件である。もし人数が足りない場合は、十分な人数が到着するのを待って迅速に行う

 - これら二項目が恐らく最も重要で、最も議論を引き起こしている修正箇所です。
 - 以前(2009)のPosition Statementでは、「搬送前には防具は外さない、
  搬送後に病院で外すべき」と表記されていました。これを「搬送前に外すべし」
  とは、180度の方向転換です。この大きな変更の理由として、
  タスクフォースは1) 防具そのもののデザインが向上し、取り外しがしやすく
  なっていること、2) 最も訓練を積んだプロによって防具の着脱が行われるべき
  ならば、それは現場で最も場数を踏んでいるATによって行われるべきであり、
  病院の救急病棟スタッフより適任である、3) 防具を外すタイミングを早めることで、
  患者が適切な治療をより迅速に受けられるようになる…などの利点を挙げています。

しかし!6月に「こういう改正案を提案予定ですー」とタスクフォースが発表して以来、この改正部分に多大な懸念が寄せられました。それを受けて、タスクフォースはつい先日、8月5日付けで改正案の修正を発表。その中で、
 - 『防具は搬送前に取り外されるべき(should)』という表現を
  『適切だと判断された場合、搬送前に防具を取り外してもよい(may)』
  というより柔らかい表現に変更する、という方針を発表しました。
全米各地でEMSや病院の救命病棟スタッフの資格に差があること、地域や高校・大学・プロなどのレベルによって人事的・物資的な資源に制限があるかも知れないことを挙げ、それぞれの状況に応じて判断ができるよう含みを持たせた表現をするに留まるみたいです。しかし、
 - 『6月の発表を受けて防具除去の訓練に取り組み始めた団体を我々は支持する』
という一文も取り込んでおり、立場としてはやっぱり迅速な現場での防具除去が望ましいと思っているという態度は明らかです。状況が許すかぎり、『防具はその場で外す』が最善の医療であるとほぼ確立したと言っても良いでしょう。我々はその為の準備を日々欠かしてはなりません。

6. スポーツによって様々な防具が存在し、同じスポーツでもその道具に多様なスタイルがある。スポーツ医療チームはそれらを熟知し、取り外しの練習を積む必要がある

7. (防具の除去後)硬い素材のCervical collarで頚椎を搬送前に固定すること

8. 搬送中、患者の脊髄は硬い素材の装具を用いて固定されていること

 - これ、ちょっとまだ私よく分かってないのですが、『スパインボードの固定は真のSpinal Motion Restriction (SMR)」には不十分』とか『スパインボードに長時間固定されていると実害も』という表記があるので、もしかしたら大幅な道具の変更があるのかな(これからは全身バキューム系の固定法が主流になるとか)?と思いきや、でも『今のところはスパインボードの使用を推奨します』と書いてあったりで、まだ代案になるような、取って代わる道具が確立されてないのかなという印象です。

9. 搬送前の固定の際は、脊髄の動きを最低限に抑えるようなテクニックを用いる
 - 状況に応じた6+ liftとかlog rollとかですね

10. 搬送のプランは練習・試合開始前に前もって立てておく

11. 脊髄損傷患者は、それに特化した治療・対処のできる特定の病院に搬送されるべき

12. 医療チーム、コーチ、選手とで脊髄損傷予防に取り組む

13. 医療チームは最新の研究、それから全米・各州の法律などの知識を常にアップデートしておく

14. これからもSMRを確保するのに最も効率の良い技術を確立するために研究を重ねていく


そんなわけで、元々のアグレッシブさは半減されそうですが、防具の取り外しがこれからどんどん行われるようになること、そして、我々ATもそれに向けての知識を蓄え、訓練を積む必要があるよー、というまとめでした。時代はどんどん移り変わりますね。6年前にはダメだと言われていたことがひっくり返るのだから医療の世界は本当に興味深いです。日々、最善の医療の為に心とアタマと腕を磨かねば、です!

原文を読みたい方はこちら。8月5日の修正案も含まれたやつです。
"Executive Summary of Appropriate Care of the Spine Injured Athlete Inter-Association Consensus Statement"
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  by supersy | 2015-08-11 14:00 | Athletic Training | Comments(0)

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