ごろごろ靭帯関係文献まとめ。

面白い論文まとめメモメモです。
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これは面白かった!
アスリートがACL断裂したときにはauto- かallograftを使って再建手術をするのが今やスタンダードとして定着していますけど、それに至るまでには長い長い試行錯誤の歴史があります。初期にはACL Repair (修復)も試みられたし、合成素材の人工グラフトとかも色々なものが試された。しかし結果は無残なまでの(>90%)失敗!!!だったんですよね。

…でも、かといって現在スタンダードになっているACL再建が完璧かというとそうではないんです。大きな乗り越えるべき課題がふたつあります。

1. 失敗率は未だに他の手術と比べて結構高い
  →文献にもよりますし、何を『失敗』と定義するかにもよりますが、
   高いもので失敗率40%というリポートも。
2. どんな手術をしてみても、結局早期OAのリスク10倍という危険性は下げられない
  →ダブルバンドルにしようが、トンネルの位置を変えようが、とにかく無意味。
   故に再建手術こそ成功すれど、患者さんがその後、若いうちから
   慢性的膝の痛みに悩まされたり、生活を制限されることも珍しくない。

これら問題を克服するのに、実は、いまこっそりACL Repair(修復)の注目が再び高まってきています(…といっても、実用化されるまであと10年はかかりそうですが)。『修復』というのは、断裂した靭帯を完全に取り除いて新しい腱を靭帯代わりに使う『再建』とは違い、千切れた繊維を縫合しなおしてオリジナルの組織を残し、そこから靭帯の再生を図る技術のこと。これは、初期の手術で失敗率90%超と、逆・輝かしい数字を残しています…が、何故今?もうこの技術は諦めたのでは?

そもそも、ACLが『再建すべきもの』と認識されるようになったのは、
『自己修復が可能』なMCLに比べて、ACLが「血流に限りがあり、自己治癒力が無い」とされていたからですが、これが誤りであることは結構前から研究で分かっているんです。血流、怪我に対するneurogenic reaction、collagen production…そういうものは、実はACLとMCLでは酷似しています。自己治癒の可能性はACLにも充分備わっている。では、決定的に違うのは何か?
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それは、platelet clotなんですね。部位の損傷が起こり、出血が起こったらまずできるはずのもの、血栓の形成です。ACL損傷時は関節内で滑液がシャバシャバ動いてしまうため、修復の足場になる充分な粘り気のある『血栓』が作れない/作っても流されてしまう。新しく繊維を形成しようにもそれらが落ち着くために必要な足場となる血栓がないから、靭帯の充分な補強が行えない。結果、治らない。

んで、この論文にはACL修復に絡めて細胞治療(これは今度stem cellの正しいdifferentiationを促せるように慣ればかなりアリなのでは)、遺伝子治療(プロテイン合成を促進するRNAに書き換えるウィルスを敢えて入れたり…でもabnormal cell growthから発がんのリスクとか、実用性はマダマダ)、Growth Factor投与(PRPがその典型)など色々論じておりますが、結論としてはbio-scaffoldsの将来性を大きく示唆しています。scaffold = 足場、という意味ですが、つまるところ修復した組織の周りに人工の『足場』を提供し、繊維が引っかかり活動する場になれるようなそこそこ閉じられた空間を作ってやることで、先に問題となっていたconstant synovial fluid flow→unable to establish clot formationという課題を克服できるのでは?ということです。動物実験ではこのセオリーに答えるような良い結果が出ており、中でもPRP + Scaffoldを併せると相乗効果が有り、特にoutcomeが良かった、なんていう報告もあります。

そこまでして再建ではなく修復をしたい理由には、
 - 元々の組織をpreserveするため、proprioceptionが失われない
 - 少なくとも動物実験の段階では、Reconstructionと変わらないclinical outcomeで、
  且つOAのリスクがかなり低く保てる
OAのリスクが、というのは本当に面白くて…。最近の大規模な動物を使ったRCTではACL再建をした膝の80%にOAが一年以内に確認されたのに比べ、repairしたグループではOAがひとつも確認されなかったと。80% vs 0%ってのは…すごいですね。ACL損傷の現存する唯一のOAに有効な治療法として、これからの発展に期待です。

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これも面白いです、喫煙が膝の1) 靭帯; 2) 関節面軟骨: 3) 半月板の手術からの回復にどう影響を及ぼすか?というSystematic Review。

結論を先に言うと、
1) 喫煙は靭帯・軟骨の両組織の治癒を大いに妨げるものである。
 (半月板に関する研究は未発表なので今回は検証不可)
 特に、decreased cell density, type I collagen expression, strength/stiffness
 of the ligament, growth factors, fibroblast activity, protein content…などなど、
 様々なレベルでの治癒の妨げになる結果、機能回復が充分に起こらない/graft failureの
 可能性を高めてしまう等、多岐にわたってその悪影響が報告されています。
 中でも、手術の場合、治癒の初期に起こるべき「fibroblast, RBCs, macrophagesの
 機能」を喫煙によって低下させてしまうのは致命的と言ってもいいのでは…
 という考察でした。

やはり、医者がこういった手術をする前に「喫煙しているなら禁煙を」を進めることはこれからも続けられるべきだ、とこの論文では結論付けられていますが、「どのくらいの期間やめるのがベストなのか(手術前後だけでいいのか?: time-dependent relationship)」、「どのくらいの喫煙だとどういった影響が出るのか(dose-dependent relationship)」などもまだまだ研究が必要です。でも、こういう内容はRCTが組みにくいから難しいですよね…。先進国では喫煙率はどんどん下がりつつあるし

b0112009_15344054.jpgあと、これは靭帯関係でも論文でも無いんですけど最近読んだので!
解剖学を勉強する者、やはり日本における解剖学の進化の歴史をappreciateしないとアカン!と思って、新装版・解体新書(講談社学術文庫)を読んでいました。ターヘル・アナトミア。杉田玄白がこれを訳した時は漢文調だったのですが、この本は更にそれを現代語訳したものなので私でもスラスタ読めます。

ほとんどオランダ語を知らなかった杉田玄白が苦労しながら同朋らと訳したこの本、「五臓六腑などの間違った概念ばかりに囚われている中国・日本の医学ではいけない!オランダの解剖に基づく忠実な解剖学から学ばねば!」「これで日本の医療の質は飛躍的に伸びる!歴史を変える本になる!」という熱い思いがこもっています。自分でも誤訳が多いのは分かっていたそうですが、それでも私が生きているうちに絶対に出版にこぎつけなければいけないと目の色を変えて、スピードを落とさずガンガン翻訳を進めたそうな。「私が思うに…」と個人的見解を追記している部分も多く、まだまだ臓器の機能等、推測していたものが多い中、この時代にここまで解剖学を深く掘り下げていたとは感服です。我々は、こういった人たちの尽力があってこそ、いまかなり確立された医学を学べているということを、改めて感謝しなければなーと思いました。
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  by supersy | 2015-07-13 15:30 | Athletic Training | Comments(0)

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