17日のEBP講習席追加 & 半月板縫合と切除まとめ。

ひとつ前のエントリーで告知させて頂いたEBP講習ですが、
ありがたいことに予想以上に受講希望者が多かったので、
17日(18:30-21:30pm)の講習に限り別会場に移し、席数を10から30まで
増やすことが出来ました。調整してくださった高橋さんに感謝です。アリガタヤー。
そんなわけでキャンセル待ちを申請してくださっていた方全員ご案内できる運びになったのと、あと5月23日夜現在で約10の席が空いていると聞いております。
 *お陰様で24日朝現在満席になりました。募集は締め切らせて頂きますが、
 現在キャンセル待ちは受け付けています。

受講ご希望の方はお早めに、主催・高橋(tdtakahashi@gatt.jp)までご連絡ください。
講習内容詳細を確認したいという方はこちら(ATACK NET)から。
お申し込み詳細は一つ前のブログエントリーを参照ください。

21日(9am-12pm)の講習は予定通り、こじんまりとやりますのでよろしくお願い致します。こちらは既に申し込みが定員に達しており、受講希望の方はキャンセル待ちになりますので、その旨高橋まで。
17日の講習も、定員に達し次第キャンセル待ちを開始致します。

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さて、今学期(Summer 2015)は3つの授業を受講していますが、
そのうちのひとつが"Connective Tissues and Injury Repair: An Evidence-Based Approach"というタイトルで、鬼のような文献を毎日読んでおります。でもこの授業の楽しいのは、教授が我々に選択の自由を多く与えてくれること。組織別(i.e. tendon, articular cartilage, bone, ligament etc)に自分で興味のあるトピックを選び、掘り下げて、文献を読んでエビデンスをcriticallyにreviewし、まとめて発表…ということやっており、私はつい先日meniscus/labrumのセクションで「半月板損傷時の縫合(repair)手術」について発表したりしました。なかなか面白かったのでここに書き残しておきます。

●Meniscus and 3 Vascular Zones
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さて、半月板はその外側に血流が集中していて、中に行くほど血流が無くなると言われており、それらは
 Red-Red Zone (R/R): 血流が充分にあり、治癒能力が高い
 Red-White Zone (R/W): 限られた血流がある
 White-White Zone (W/W): 血流がなく、治癒能力が無い
という3種類に分けられる、という考え方が一般的です。1,2
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●Meniscus Repair vs Meniscectomy
さて、実際に半月板に損傷が起こり、手術が必要となった場合、
その手術は縫合術(Repair)か切除術(Resect)のどちらかになります。
歴史的に言うと、半月板損傷はそのタイプや程度に関係なく問答無用で全切除(total meniscectomy)していた時代もありました。しかし、半月板を完全に取り除いてしまうとArticular cartilageの変質が著しく起こることが1940年代頃に判明し、現在は「損傷の程度を見極め、残せるだけ残すよう処置する」のが膝の機能を出来る限り保つのにベストだと言われています。1,2
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具体的には、R/R zoneで起こった損傷はなるべく縫合して自然治癒(↑イメージ右)、W/W zoneに起こった怪我は残念ながら治癒が見込めないので、最低限の箇所を切除(↑左)、ということになります。あまりに小さい損傷は「何もしない」こともありますが、unstableなtearは放っておくとふとした動きで力がかかり、損傷が悪化することがあるので、それを防ぐ意味で切除するわけです。(内視鏡で見ると、ふたつのprocedureはこんな感じ↓。ぬいぬいとがりがり)
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●R/Wは、どうするか?
で、問題なのは「ちょっとばかし治癒能力が残っている」R/W zoneにおける損傷の場合です。これは、縫合すれば治るものなのか?諦めて切除すべきなのか?そういうテーマで今回色々調べておりました。あんまり長々と書いてもアレなので、軸になった文献(↑)3を紹介します。

1996~2013年までに発表された23の研究をまとめたこのSystematic Review。
全てを併せた767件のR/W tear repairを検証してみたところ、そのうちの637件(83.1%)が『臨床的に回復した=手術成功』とされ、それ以上の手術を必要としなかった、という統計が出ています。研究にもよりますが、これらの『臨床的に回復した』という定義は広く1) 痛みや頻繁な腫れ、Clickingや関節のLockingなどの諸症状が見られない、and/or、2) MRIで手術箇所に>50%以上の半月板組織再生が認められたことを指します(注:MRIで確認できた治癒が『不十分 (<50%)』だったにも関わらず患者に自覚症状が一切無く、結局再手術をしなかった4人の患者も『手術失敗』のカテゴリーに入れられています)。成功・失敗の基準がそんなに緩くて大丈夫なのか?と思った方は鋭い!全てではありませんが、second-look arthroscopyと呼ばれる内視鏡手術をして半月板の回復を確認した研究もかなりあります(でも金銭的・ethicalな理由でこの方法が全対象患者に採用できなかった研究ももちろん多いのです)。

研究別に見てみると、こんな感じ(↓)。
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(Table 2: Barber-Westin & Noyes, 2013)
いやー、このテーブル、美しくまとめられていますね!素晴らしい。
殆どの研究が80%以上の『成功率』を出していることが確認できます。
(上のテーブルの一番右端の数字が成功率を示します)
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(Table 3: Barber-Westin & Noyes, 2013)
こちらは損傷のタイプ別、そして手術の細かいテクニック別にまとめられたもの。

個人的な解釈を上げていくと、例えば半月板損傷の中でも最も扱いやすいとされる、Longitudinal (Vertical) Tearが中でも成功率が高いのは納得できます。例えばChoi et al4のデータはキレーにhomogeneousな"longitudinal posterior horn tear in the medial meniscus"患者を縫合手術して2年以降後にfollow-upして集めたもの。全患者(48/48 = 100%)が『成功』と認められたのですが、詳細を見てみると、R/R("Partially (>50%)" Healed vs "Completely" Healed; 8 vs 10)よりもR/W (3 vs 11)の方が完治度は高かったりします。

では、もうちょっと複雑な損傷になってくるとどうなのか?Bucket-Handle Tear (↓左)は数あるタイプの中でもかなり『厄介』とされる損傷ですが、O'Shea & Shelbourne5は『Bucket-Handle Tear (in R/W)がズレてしまって膝関節の伸展を激しく制限されてしまっている』患者11人中10人がRepairで治った、と報告しています。内訳を見てみると、Second-look arthroscopyで"Completely" Healedとされたのは72.7% (8人)、"Partially" Healedが18.2% (2人)。唯一"Failed"とされた患者1人(9%)にも自覚症状は一切なく、機能としては100%の回復が見られていたというから、果たしてそれを患者自身が『失敗』と捉えているかは疑問が残ります。興味深いのはComplete Radial Tear (↓右)の縫合を検証したHaklar et al6の研究。被験者の数は5人と少ないですが、31±15.5ヶ月後のfollow-upでは全員(100%)がほぼ完全に機能回復、受傷前のActivity levelに復帰することに成功しました。これら2種類の損傷は、一般的には今まで『縫合不可能、Meniscectomyするべし』とされてきたことが多く、損傷自体も大きいので切除となると半月板の大部分を取り除いてしまうか、ひどい場合は全摘出ということも珍しくありません。しかし、もしR/W zoneの半月板縫合がこれだけの確率(> 80%)で成功するならば、我々はもっとアグレッシブに縫合を行うべきなのではないか、それで救える半月板は、我々が思っていたより多いのでは?という結論を私はこの課題の答えに導き出しましたとさ。
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もちろん、アスリートにおいて縫合はMeniscectomyに比べて競技復帰に時間がかかる、という大きな障害もあります。Frizziero et al7らによれば、半月板縫合手術の後に選手が競技復帰する平均時間は、以前は5-6ヶ月と言われていたのが最近では3-4ヶ月に縮みつつあります…が、やはり切除手術の3-6週間(練習再開可能)や5-8週間(完全試合復帰)に比べると長いと言わざるをえません(切除1週間後に復帰した選手とか、聞かない話ではありませんし)。もちろん、長期的に見て選手にベストな選択をするのが一番良いに決まっていますが、シーズン中の怪我のtime-sensitiveさもATの皆さんなら分かるはず。「プレーオフに間に合うか…」「決勝までに…」となると『時間がかかる』というのはそれなりに大きなデメリットではあります。
(そんな話も前にまとめたりしました: "プレー続行か否か。最善の選択をする、ということ")

これからの課題はもっと長期的なfollow-upを重ね、患者が10年後、15年後にも健康でいられているかもっと検証する必要があります。特に、縫合の新しいテクニックであるall-insideに関してはそういった研究がまだまだ足りません。一昔前に非常に多く使われていたinside-outという手法では平均16.8年後には成功率は29件中18件(62.1%)にまで落ちてしまったという報告がありますが、8『inside-outよりも良い』と言われているこのall-insideテクニックがbreak throughになってくれるかもしれません。


1. Xu C, Zhao J. A meta-analysis comparing meniscal repair with meniscectomy in the treatment of meniscal tears: the more meniscus, the better outcome? Knee Surg Sports Traumatol Arthrosc. 2015;23(1):164-170. doi: 10.1007/s00167-013-2528-6.
2. Mordecai SC, Al-Hadithy N, Ware HE, Gupte CM. Treatment of meniscal tears: An evidence based approach. World J Orthop. 2014;5(3):233-241. doi: 10.5312/wjo.v5.i3.233.
3. Barber-Westin SD, Noyes FR. Clinical healing rates of meniscus repairs of tears in the central-third (red-white) zone. Arthroscopy. 2014;30(1):134-146. doi: 10.1016/j.arthro.2013.10.003.
4. Choi NH, Kim TH, Victoroff BN. Comparison of arthroscopic medial meniscal suture repair techniques: inside-out versus all-inside repair. Am J Sports Med. 2009;37(11):2144-2150. doi: 10.1177/0363546509339010.
5. O'Shea JJ, Shelbourne KD. Repair of locked bucket-handle meniscal tears in knees with chronic anterior cruciate ligament deficiency. Am J Sports Med. 2003;31(2):216-220.
6. Haklar U, Kocaoglu B, Nalbantoglu U, Tuzuner T, Guven O. Arthroscopic repair of radial lateral meniscus tear by double horizontal sutures with inside-outside technique. Knee. 2008;15(5):355-359. doi: 10.1016/j.knee.2008.05.012.
7. Frizziero A, Ferrari R, Giannotti E, Ferroni C, Poli P, Masiero S. The meniscus tear. State of the art of rehabilitation protocols related to surgical procedures. Muscles Ligaments Tendons J. 2013;2(4):295-301.
8. Noyes FR, Chen RC, Barber-Westin SD, Potter HG. Greater than 10-year results of red-white longitudinal meniscal repairs in patients 20 years of age or younger. Am J Sports Med. 2011;39(5):1008-1017. doi: 10.1177/0363546510392014.

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  by supersy | 2015-05-23 19:30 | Athletic Training | Comments(4)

Commented by takahiro at 2015-05-31 10:35 x
はじめまして!ミズーリにある小さな大学でATの勉強してます!
さゆりさんのブログで学校で習えないことなどとても勉強になります!以前のoccult scphoid fx, hook of hamate fxのようなひとつひとつの怪我についての投稿はとても勉強になります!これから色々学びたいので投稿宜しくお願いします!
Commented by さゆり at 2015-06-02 06:30 x
takahiroさんはじめまして、コメントありがとうございます。もう日本に帰ってきてしまったけれど、丁度ミズーリにお邪魔していたところでした。マイペースに好きな事ばかり書いている自分勝手なブログですけど、誰かのためにもなれてるなら幸いです。気長にお付き合いください。
Commented by tsune at 2015-06-10 21:23 x
以前、お邪魔してコメントをしたことのありますPTのtsuneと申します。今回も改めて半月板に関して勉強になりました。ありがとうございました。
医師が切除だ再建だを決めるのは結局何なのでしょうね。自分がある医師に確認したのは、やはり内視鏡で判断とのこと。もっとMRIとか実際に侵襲行為をしないで正確に判断できるツールはないものかと考えています。超音波もなかなかという意見もありますが。RR zoneやRW zoneなどは具体的にどう定義されているのでしょうか?それこそMRIとかで見える化できないのでしょうか?
さて、自分が読んだPaperで興味深いものがあり、膝OAの危険因子として半月板損傷、半月板亜脱臼の強い相関は良く知られていますが、それがMCLの膨隆による形状と緊張の変化によるとの話。これは私見ですが、MCLがある程度柔軟でMMの亜脱臼がしやすく、力学的ストレスをそこで逃がしているのであればMMはintactなことが多いのか。後療法を担う者としてはUSでMMの柔軟性を向上させたら…とsimpleに考えてしまうもので。PTの徒手誘導で関節の動くルートを変え、疼痛の軽減が可能であったケースが何名もいたもので。
いつも長々すいません。また勉強させて下さい。
Commented by さゆり at 2015-07-07 10:44 x
tsuneさん、返信が遅くなって申し訳ありません。半月板を切らずに正確に見ることはどんな画像診断でもまだまだ難しいでしょうし、画像診断でに基づいてなんらかのプランを持って内視鏡手術に望んでも、画像では見えなかった、もしくは画像診断の時には無かった新たな損傷が見つかったりして、現場でspontaneousにならざるを得ないのは仕方ないと思います。専門医も当然これらの知識のupdateがあって手術する・しないの決断をしているわけですから、それを医者でない我々がわーわー言うのも医療界で何らプラスにはならないと個人的には思っています。後半は私の勉強不足で意味が読み取れず、申し訳ありません。tsuneさんが信じる治療法で、患者さんが幸せになるならそのアプローチは正解ということだと思いますよ。

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