ハムストリング損傷の診断を考える。

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さて。丁度一ヶ月前はSeattleのMyokinのコースにお邪魔していましたが、
先週末はNorth CarolinaのMyokinへ行ってきました。
(NC Stateのフットボールスタジアムを見下ろす素晴らしいviewでの講習でした…)

こうして色々なMyokinに行くのも、色々な講師の教え方を学んだほうが良い、ということで、これもFaculty Trainingの一環なのです。今回は、Jennifer Poulin氏(通称: Jen)の下でお勉強させてもらいました。彼女は授業をきっちりと組み立て、マニュアルに沿った授業をする、私に近いタイプなのでとても学ぶことが多かったです。いやー、PRIも需要が上がるにつれ、講義の種類も、開催回数も、そして必然的に講師の数もぐんぐん増えていますが、同じ授業でもこれでもか!ってくらい講師によってdeliveryの仕方が変わるから面白いですね。私とケニーはどんな色になるやら。

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さて、それでは本題なんですが。
学生から学ばされることって本当に多いなーと思う今日この頃です。

この間(といっても数週間前になりますが)、学生に書かせた課題の論文で、「下肢に起こるorthopedic injuryで実習現場で見たものをひとつ選び、その患者がどういう症状を訴え、どういう評価を経て診断にたどり着いたのか、また、エビデンスを調べ、どういった診断方法が最も効果的で的確かまとめよ」というものがありました。こういう課題の時は学生には何べんも『題材選び』が大事だよ!良い文献があればそれだけで論文の質の7割が決まると思え!と言ってます。例えば、『前十字靱帯断裂』とか『半月版損傷』とか『High Ankle Sprain』とかだったらもうウハウハじゃないですか。最新のエビデンス引っ張ってきて、苦もなく20ページくらい書けちゃう。題材にもアタリとハズレがあるんです。『自分の選んだトピックが良いか悪いか不安なら相談においで』と言っているのですが(そして実際来てくれる子も多いのですが)、どうしても相談ナシでちょっとズレたトピックを選んじゃう子がいるんですよねぇ。

そんなわけで、題材に「ハムストリング肉離れ」を選んじゃった子がいました。

『選んじゃった』という表現をするのは、この怪我は基本『他の怪我をrule out』した上で、MMTと触診を中心に「ハムストリングだね」と結論付けるものだからです。そういう意味で、よく見る怪我ではありますが、課題の趣旨に合ったトピックではありません。案の定論文の出来はイマイチで、「もうー、慎重に選べって言ってるのにぃー、だいたいこんなトピックじゃそもそも診断系の文献がないでしょ…」と思ってPubMedでカタカタ検索をかけてみると…。意外にも面白そうな論文がヒットしました。ええ、なに、ハムストリングの肉離れ診断に使えるSpecial Testってのがあるの?知らなかった!
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…で、今回ご紹介したいのはこの研究。
2013年にReiman氏ら1が過去に発表されたHamstring StrainのSpecial Testについての研究を3件reviewし、まとめたもの。早速結論に飛んじゃうと、こんな感じです。
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*例によってPositive & definitiveなものを赤で色つけてます。

Schneider-Kolsky氏らの研究は最もQUADASが高く、バイアスの可能性が低いのですが、彼らのexamineしたComposite Clinical Assessment (Passive SLR, Active Knee Extension, MMTのうちひとつでも痛みが出るかどうか)はSensitivityは優秀なものの、LRの値がダメダメで、結局post-test probabilityに変化が見られないという決定的な欠陥が。
対してCaccio氏らの研究はQUADASがちぃと低め、そして、どちらかというとChronic Hamstring Injuryの患者を対象にした研究なので、Symptom Durationが15.0±7.2 moとかなり長めです。Acute Hamstring Injuryの患者にも同じ結果がでる保証はありません。統計的にはBend-Knee Stretch TestModified Bend-Knee Stretch Testがどちらもrule in & outに有効。LRの値も優秀です。

Bend-Knee Stretch Test:
  -Patient is supine, the hip and knee of the symptomatic limb are maximally
   flexed. Clinician gradually extends the knee while keeping the hip flexed.
   Note exacerbation of the symptoms.
Modified Bend-Knee Stretch Test:
  -Patient is supine with the entire LE extended. Clinician maximally flexes
   the hip and knee, then rapidly straightens the knee
   *下写真: スタート(左)とフィニッシュ(右)のポジショニング
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フムフム…ハムストリングがストレッチされる感覚と、肉離れの痛みの感覚の違いは恐らく左右差(健側と患側)で区別しろってことでしょうね。
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個人的に一番面白いと思うのは残念ながらQUADASが一番低いZeren & Oztekin氏の研究からのTaking-off-the-Shoes Testです。日本語名は「お靴ぬぎぬぎテスト」ということにします。

このテストでは、「患側の靴を健側の靴を使って脱がす」という動作をさせ、それによってハムストリングに痛みが出るかどうか、という実にシンプルなもの。患側の股関節を90°程ERし、患側の靴のかかと部分を健側の土踏まず部に押し付けるように引っ掛け、膝を屈曲させる…という、(説明すると長ったらしいけれど)本当に我々が自然にする「靴を脱ぐ」動作をさせるだけ。


このテストは140人のプロサッカー選手にやらせてほぼ100%でハムストリングの怪我の有無を言い当てられるというスグレモノ。95%CIも文句なし。この研究そのもののQUADASが低いことは否めないけれど、これだけのSN, SP, +LR, -LRが出るテストってのも珍しいですよね。
このLRの値だと、陽性・陰性の場合共にpost-test probabilityが決定的にシフトするので、もうこのテスト一発でconclusiveな結果が出るってことに…。

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同年(2013年)に発表されたKerkhoffs氏らのLiterature Review(↑)7にもある通り、もちろん『基本』どおりの触診・MMT・PROMの情報も大事だし、これからも変わらず参考にさせてもらうけど、今度ハムストリングの肉離れをsuspectする機会があったら、是非今回学んだ3つのテストも是非交えてみたい、なんて思っております。簡単だし、Routineにも入れやすい。例えばPROMをチェックしてる時にさらっとBend-Knee Stretch/Modified Bend-Knee Stretch Testを混ぜちゃうとか、靴脱いで治療テーブルに上がってもらう時に手を使わず、Taking-off-the-Shoes Testをやってもらっちゃう、とか。かなりClinical Usefulnessはあるんじゃないかと思いますね。

もちろん、他の怪我の可能性も考えて!
ハムストリング損傷以外のposterior thigh painの原因となるDifferential Diagnosisとして、L-spine radiculopathyをrule outするのにSlump test (SN 83%)2SLR test (SN 97%)3が、SI Joint DysfunctionとPiriformis Syndromeをrule outするにはそれぞれcluster testing: Thigh Thrust, Sacral Thrust, SI Compression, SI Distraction Testのうち陽性が1つ以下(SN 88%)4もしくはThigh Thrust, Sacral Thrust, SI Compression, SI Distraction, Gaenslen’s のうち陽性が2つ以下(SN 91%)5、そしてFAIR test (SN 88-97%)6が有効ですのでご参考までに。

いやー、学生の気まぐれがきっかけで読み始めた文献だったけど、
色々勉強させてもらっちゃいました。自分だけだったらまさかハムストリング損傷の評価についての論文を検索しようなんて思わなかっただろうから…。学生のランダムさにも、感謝することが多いです。今学期もあと一週間で終わりますが、期末試験も実技試験も採点も頑張って綺麗に締めくくろうと思います。アメリカは年度末。かきいれどきじゃー!

1. Reiman MP, Loudon JK, Goode AP. Diagnostic accuracy of clinical tests for assessment of hamstring injury: a systematic review. J Orthop Sports Phys Ther. 2013;43(4):223-231. doi: 10.2519/jospt.2013.4343.
2. Stankovic R, Johnell O, Maly P, Willner S. Use of lumbar extension, slump test, physical and neurological examnination in the evaluation of patients with suspected herniated nucleus pulposus. A prospective clinical study. Man Ther. 1999;4:25-32.
3. Vroomen PC, de Krom MC, Wilmink JT, Kester AD, Knottnerus JA. Diagnostic value of history and physical examination in patients suspected of lumbosacral nerve root compression. J Neurol Neurosurg Psychiatry. 2002;72:630-634.
4. Laslatt M, Aprill C, McDonald B, Young S. Diagnosis of sacroiliac joint pain: validity of individual provocation tests and composites of tests. Man Ther. 2005;10:207-218.
5. Laslatt M, Youg SB, Aprill CN, McDonald B. Diagnosing painful sacroiliac joints: a validity study of a McKenzie evaluation and sacroiliac provocation tests. Aust J Physiother. 2003;49:89-97.
6. Fishman LM, Dombi GW, Michaelsen C, et al. Piriformis syndrome: diagnosis, treatment, and outcome – a 10-year study. Arch Phys Med Rehabil. 2002;83:295-301.
7. Kerkhoffs GM, van Es N, Wieldraaijer T, Sierevelt IN, Ekstrand J, van Dijk CN. Diagnosis and prognosis of acute hamstring injuries in athletes. Knee Surg Sports Traumatol Arthrosc. 2013;21(2):500-509. doi: 10.1007/s00167-012-2055-x.

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  by supersy | 2015-05-01 23:30 | Athletic Training | Comments(7)

Commented by りゅうじ at 2015-05-02 13:43 x
今回も勉強になる記事ありがとうございます!というかFacebook記事にあげようと思ったら先に越されてしまいましたw まあこんな具体的でわかりやすく、Medicine-Basedではなく経験的に現場で使用している評価としてだけど・・・

普段使っているテストがまさか論文出ているとは知りませんでした・・・・。
これで胸張って言えますw
Commented by さゆり at 2015-05-02 14:03 x
りゅうじさん、早速のコメントありがとうございます!普段から使っている、というのはお靴ぬぎぬぎテストですか?さっきわざわざ靴を履いて外に出てまで試してみたんですけど、確かに単純な動きなのに確実にハムにチカラ入りますもんね。よく出来てます。現場の友人らにも勧めてみようかな…。
Commented by りゅうじ at 2015-05-02 14:49 x
さゆりちゃん、Bend kneeの方です。SLRのようなHip joint flexionと膝屈曲時のhip flexionでのROMと、同じ要領でMMTも行いだいたいどこに損傷があるか考察する要素としています。

靴ぬぎぬぎテストは、疲労しているときに選手がよく靴脱ごうとしたときつりました!っていってくるので、疲労を判断するツールとして心の中で判断していますw
Commented by じでん at 2015-05-04 10:20 x
ふとHamstring Injuryで思いだしたんやけど、
2年前にBr J Sports Medに掲載された論文(Mueller-Wohlfahrt et al. Terminology and classification of muscle injuries in sport: the Munich consensus statement. Br J Sports Med. 2013 Apr;47(6):342-50.)で議論されたmuscle injury のterminology と新しいclassification systemってどんだけ現場に浸透してんねやろ?
Commented by さゆり at 2015-05-04 10:43 x
じでん、あれ読んだけどさ―、ぶっちゃけ新しいterminology長いし分かりにくいと感じたよのね。診断名として、長い、言いにくい、書きにくいってちょっと致命的かなと思ったんだけど…。まだまだ他の論文・教科書はold terminologyだし、私はあの内容は一切授業では教えてません。もっとpushするべきなのかな?じでんはどうしてる?
Commented by ジデン at 2015-05-04 13:12 x
正直に言うと、全く使ってへんしPushする必要あらんと思ってる。Buckets Treatmentが主流になってきてる今、あんな細分化(しかもわかりにくく)する必要なしと思ってる。あと、新しいTerminologyとClassificationがさまざまな分野のHealth care provider間でのCommunicationを円滑にするとはどうしても思えへん。 あのTerminologyを使ってる人を見たことあらんくて、どんだけ現場とか教育の場で使われてるのかなぁ~?と、ふと思ったから聞いてみた。ありがとね。
Commented by さゆり at 2015-05-07 09:34 x
だよねー!良かった、私もあの論文読んで違和感だったんだけど、同じことを感じた人がいるっていうのは安心だわ。Common Terminologyを作るのってなかなか難しいね。

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