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Knee Dislocation: ATは何を考えなければいけないか?

今回はちょっとインパクトのある写真を使っていますので苦手な方はご注意下さいね。

















医療従事者として、
一生に一度見るか見ないかみたいなド派手な怪我ってありますよね。
我々は基本交通事故患者ではなくスポーツによるOrtho injuryを見るのが仕事ですから、
(選手が交通事故に遭うようなことがあれば結局それも見ざるを得ないですが)
high impactの滅多に起きないような怪我…例えばそれこそ膝関節の脱臼とか、
そんな怪我には学生はもちろん我々Certified Athletic Trainerでもうっかりすると「授業で習っただけ」「教科書で読んだだけ」の知識しかなかったりするわけです。

でも!長いキャリアの中で一度見るか見ないかの大怪我だからこそ、
いざ起きた時にきちんと対応できるかどうかが大事なわけですよね!
私の現場でのモットーはやっぱり不測の事態をいかに予測するか、ですから。
こういう場面を目にして、どういう事が脳内を駆け巡らなければいけないか、
練習やシュミレーションすることは大事だと思うのです。
何事にもまず、準備しようと思ったら正しい知識を持つことが必要不可欠です。
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例えば、上のような膝関節の脱臼みたいな大怪我は英語でもblowout injury (しっちゃかめっちゃか)と表現される程。実際に起こった場合、まぁ最低でも靭帯が複数切れているだろうとか、半月板もいっちゃってるだろうな、とかそういう心配は二の次です。
我々が最も心配すべきはNeurovascular injuryなんですね。神経や血管に損傷が起こっていないか。特に血管に損傷が起こって、膝から下に血流が行かなくなってしまっている場合、発見や措置が遅れれば取り返しの付かない壊死が始まり、最悪の場合膝上のamputationということも有り得ます。膝だと、一番危ない動脈はpopliteal arteryですね。
神経だと構造上、一番怪我をしやすいのはCommon Peroneal Nerveなんだそう。
Fibular Neckを巻き込むように走っているから、伸ばされやすいんでしょうね。
この神経に損傷が起こると、総じてDflexを起こす筋肉が影響を受けるため、
所謂Drop Foot Gaitというpathological gaitの原因になります。
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そんなわけで、こんな論文1を読んでみました。2014年に発表された、過去の23の研究、合計907人の患者を対象にしたSystematic Reviewです。
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さて、こまごましたことはふっとばして、一気に結果・統計の紹介です。
私なりに重要だと思ったことは…
- Knee Dislocationとしては、方向はPosterior(38.04%)かAnterior(36.89%)が、
- 損傷としてはKDIV(28.35%: panligament rupture、4つのligament全て断裂)が、
それぞれ一番多い(上のチャートの赤い部分)。
    *Schenck System with Wascher Modificationを用いた分類
     KDI: ACL or PCL + MCL and/or LCL
     KDII: ACL and PCL only
     KDIII: ACL and PCL + MCL or LCL
     KDIIIMの場合はMCL限定、KDIIILの場合はLCL限定
     KDIV: ACL, PCL, MCL + LCL (全ての靭帯に損傷)
     KDV: 骨折を伴う脱臼    …ということだそうです。


その中でVascular injuryを起こしていたのは、
- 全ての研究を併せると、Knee Dislocation全体の19.84% (12.8-22.2%)
- ACL + PCL + LCLの損傷が起こっているとき(KDIIIL: 32.14%)
 それからPosterior Dislocationのとき(25%)、Vascular injuryが起こりやすい。
 (上のチャートの黄色部分)
- 損傷される血管は、Popliteal arteryのみの場合がほとんど(76%)だが、
 稀に他の血管の損傷を伴ったり、他の血管のみだったりすることもある。
 損傷が報告された血管は他にSuperficial femoral, Anterior tibial, Common femoral,
 Medial genticular, Posterior tibial artery。
- 血管損傷が見られた患者の殆ど(80%: 72.8-87.5%)は手術を必要とし、
 そのうちの12% (4.8-19.3%)は足の切断を余儀なくされた。
- 足の切断の直接の原因としては、感染症か血管修復の失敗によるischemia (73%)が最も多く、
 それ以外は神経血管系の完全断裂や、ischemiaが長きに渡りすぎたことなどが原因だった。

中でNerve injuryを起こしていたのは、
- 全ての研究を併せると、Knee Dislocation全体の27.57% (13.9-35.7%)
…それ以外の記述は神経系の怪我については無し。
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●現場のATが知っておきたいこと
まとめると、約20%のVascular complication rate, 約28%のNeurological complication rateはなかなか高いなぁという印象です。Vascular injuryが起こった症例のうち、80%が手術が必要で12%がamputationというのも怖い…。やはり、膝の脱臼はまずrefer!EAP!っていうことですね。
で!考察部分で驚いた記述がですね、
- 現場で通常のdistal pulseが確認されても、多量の出血が原因で血栓が形成され、
 結果、時間をかけながら徐々にvascular compromiseが起こる例もある
- Popliteal Arteryが断裂していても通常のdistal pulseが確認される例も多い
ということで、我々ATが行う通常のphysical examinationでは、決定的な血管損傷を正しく認識できないこともあるそうです。Pulseが確認できても楽観視しないほうがいいってことですね!
上の研究結果と併せると、特にPosterior Dislocationの場合は特に要注意。
あと、例えばこういう見た目(↑)だとKDIIILの可能性が高そうですから、
それもred flagとして認識したほうが良さそうですね。

もちろんキャリアのうち一度も見ないで済めばいい怪我ではあるんですが、
だからといって、毎日「今日は膝の脱臼がありませんように」と指をクロスして(=お祈りして)仕事に向かうのでは仕方ありません。最悪の事態を想定し、誰もがパニックになりそうな時にも冷静沈着に動けるようでありたいですね。

【追記】
すみません追記です。
このSystematic Reviewには、「Ischemia timeの長さがamputation率に直接影響がある」こと、それから、「immediate reduction」を推奨する旨が明記されています。「どう」reduceするのかというところには触れられていませんし、このジャーナルはそもそもClinical Orthopaedics and Related Researchという整形外科医・手術医を中心としたaudienceをターゲットにしたものなので、これをATが鵜呑みにするのは多少のリスクはありますけれど(各州の法律をまず参考にして下さい)、Soft tissueのcreepingという意味でも「現場にいる医療従事者がなるべく早くに脱臼を整復してくれ」と医師に言われたことは私自身あります。前にもどこかで書きましたよね。それで血流をrestoreできて足を切断しなくて済むなら確かに我々ATはそうすべきです。最低でも整復を「試み」て、例えば何かが引っかかるような感覚があり整復が不成功だった場合、それ以上は無理強いをしない、くらいの気持ちで、と私は思っています。

あと、この論文にはこの膝関節の脱臼自体「many dislocations spontaneously reduce before presentation」という記述もあります。これはちょっと意外でした…写真のように足がぐにゃりと曲がったままのケースのほうが少ないんでしょうか?でも膝の構造から考えたらナルホドなのかな?肩や股関節だとまぁ自然に戻るということは難しそうだけど、膝は丸っこいし基本flatだし…。

1. Medina O, Arom GA, Yeranosian MG, Petrigliano FA, McAllister DR. Vascular and nerve injury after knee dislocation: a systematic review. Clin Orthop Relat Res. 2014;472(9):2621-2619. doi: 10.1007/s11999-014-3511-3.

  by supersy | 2015-04-03 23:59 | Athletic Training

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