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叩いたり引っ張ったりはしません。

今回は特に内容が無いのでスルーしたい方はご遠慮なく。



さて。今日、とあるニュース記事を目にしてびっくりしました。
記事のタイトルは「岩隈を傷つけた球団トレーナー」。ライブドアニュースより。
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メジャーリーグで活躍する岩隈選手が、『トレーナー』の治療によって首を負傷、選手は痛みを乗り越えながら勝利を挙げた、という内容なんですが。記事からの抜粋によれば、

『米国のトレーナーはケガを防止したり治療したりするどころか、選手を傷つけるのか。ある日本人メジャーリーガーによれば、「アメリカのトレーナーは治療やマッサージが雑な上に手荒」だ。

 例えば筋肉に張りが出た場合は、日本のトレーナーのようにマッサージするのではなく、患部を強引に引っ張ったり、叩くことも珍しくない。ウソかマコトか「血流を良くするため」という話もある。』

そして、元ネタになっている岩隈さんのブログも読んでみましたが、
エントリー『5勝目☆』からこれまた直接抜粋させていただくと、
『試合前のストレッチ中にチームのトレーナーが僕の首を触った瞬間に何かのはずみでグキッとなってしまい、痛みでだんだん動かなくなり、登板回避寸前でしたが、気持ちで乗り切りました。』
『首はまだ痛いですが、パーソナルトレーナーに治療してもらい、だいぶ良くなってきました。』

何と言うか…うぅむ。

●叩いたり引っ張ったりしません
まず、この記事に関しての私の大きなリアクションとしては、「本気でこれを記事にしてるの?」でした。友人にはゲンダイの記事なんか気にするなと言われましたが、そうも行きません。
アメリカのアスレティックトレーナー(以下AT)は叩いたり引っ張ったりして治すと思われてるの?うそん、冗談でしょ?
もちろんセラピストはその哲学、技術、知識には個人差が相当あり、「日本人は」「アメリカ人は」と一般化することがそもそもナンセンスなことを敢えてぶっ飛ばしてちょっと書かせて下さい。
自己矛盾すみません。

日本でほとんど勤務経験が無い私の戯言ですが、確かに日本の治療家さん(と言うんですよね?)の施術は手技中心で至れり尽くせり、患者さんは寝ていれば良いだけ…というモノが多いのかなと言う印象です。そういう風に扱ってもらえれば患者さんもきっと気分も良いことでしょう。アメリカ人の患者でも受身の子はこういうタイプの治療をとても好みますし、「尽くしてもらった」精神的な満足感が生まれれば実際に患部も「良くなった」と感じる一因になるかも知れません(私も選手が精神的に参っているときなんかは敢えて小一時間使って一対一で施術することもあります)。それでなくても日本人は総じて丁寧な仕事をしますし、実際に手の感覚も一般的なアメリカ人より優れているのかも知れません。

一方アメリカ人ATの間では(特に最近の傾向を取り入れるタイプのニンゲンであれば尚更)、最近は極力患者に触らずに(広い意味での)Corrective exerciseなど、患者を起こして実際に何かをさせ、患者自身の治癒力と機能を最大限に引き出して治す、というアプローチが増えています。徒手療法も必要があればもちろんしますが、私が診る患者はAT Facilityで過ごすその2/3以上の時間を身体の使い方の実践授業のような感じで、風船を膨らませてみたり、普段使わない筋肉を「起こして」みたり、アクティブな治療に費やしています。
叩いたり引っ張ったりはしません。_b0112009_211226.png
どちらが優れている、劣っているではなく、
哲学・技術・知識の質が違うのですからそれはそれで良いと思います。

しかし、私が憤慨しているのは「アメリカ人ATは選手の意見も聞かず荒っぽい治療をして、しょっちゅう選手を叩いたり引っ張ったりして症状を良くさせるどころか怪我させる」みたいな書き方がされているところです。
日本人だろうが、アメリカ人だろうかそんなことは関係無い。良いセラピストは患者さんを一対一で評価し、findingを患者さんとじっくりシェアした上で、「こういうアプローチはどうかな」「こういうオプションもあります」とそれぞれの選択肢を説明。患者さんと治療プランを共に立てていくものです。
現場で切り盛りしていく中で、効率も非常に大事なので、ATさんのプロとしての判断で「これは時間をそれほどかけなくても良い」「これは丁寧にやろう」という取捨選択がなされることはあります。それにしたって、患者に「何か良くわからない勝手なことをやられて症状が悪化した」なんて感想を持たせるような仕事はプロならば絶対にしません。
仮にもMLBですし、もしこの話が本当なら担当ATのクビは飛んでいると思います。

●チーム内の信頼関係
もうひとつ気になるのは、「チームのトレーナーに怪我をさせられた」とブログに書いてしまう選手。
そして「パーソナルトレーナーに治療してもらって良くなりつつある」という記述です。
私の読解が正しければ、「チームのトレーナー」と「パーソナルトレーナー」は別人を指すものを取れますが、そもそもチームのトレーナーさんは怪我をさせたことを認識しているのか?ブログにこんなことを書いてアップする前にチーム内でコミュニケーションはしっかり取られているのか?怪我をさせた本人が責任を取って治療することもなく、パーソナルトレーナーさんのところへ頼ってしまうの?そんなチームで気持ち良くこれからも、長いシーズンを乗り越えていけるの?
もっと言うと、たかがニュース記事、そして一個人のブログとはいえ、きちんとした言葉を使って欲しいものです。トレーナーではなくアスレティックトレーナー。我々ATはアスリートやスポーツをする人たちに特化した医療従事者ですが、パーソナルトレーナーという表記ですとアメリカではクライアントにニーズに合った運動を処方・監督するフィットネスのスペシャリストのことを指すので、この言葉が正しかった場合、記事中の「パーソナルトレーナー」さんは無資格で医療行為をしていることになってします。これはもちろん違法であり、許されることではありません。詳しくはNATAの出しているこちらの資料を見てください。

私がこの記事を読んで一番感じた気持ち悪さは、チーム内の信頼関係やコミュニケーションをあまり感じられなかったから、というところにあるのかも知れません。
少なくとも、私はATとして選手の怪我を改善・予防するために働く立場であって、
悪化させたり怪我をさせるなどとんでもないし、
もし私の実践する医療に患者が納得していないのなら、それをツイッターやフェイスブック、個人のブログで書かれる前にちゃんと選手自信が私に文句を言いに来るようであって欲しい。
それだけの信頼関係は、プロのチームなのですからスタッフも選手も心がけて作らねばいけないものだと思います。岩隈選手がどうなのかはわかりませんし、個人攻撃をするつもりは全くありませんが、「日本人メジャーリーガー」は英語を十分に話せない分、自分のパーソナルATを連れて行って仕事もプライベートもまるで付き人のように面倒を見させ、チームから孤立する選手も少なくないと聞きます。今回の件が、そういったコミュニケーション不足から生まれたものでないことを、そして岩熊選手の首が一刻も早く治り、痛み無く登板できますよう祈っています。

ぺしぺし叩いて治るならそうしとるわいっ。
今時ネコだってそんなこたしないわよ。

  by supersy | 2014-06-25 02:10 | Athletic Training

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