続・音叉と聴診器で骨折判別?

前回の続きです。
前の記事をアップした後に、友人知人と「音叉じゃなくて携帯のバイブレーション機能を使って同じことはできるのだろうか?」なんて話をしていましたが、まさにそれを検証した興味深いPilot Study1を見つけたのでそのまとめ。
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Clinical Bottom Line: The use of cell phone vibration + stethoscope is moderately effective in ruling in a fracture in humerus/femur and somewhat useful in ruling it out - Positive but not definitive study, with severe threats to validity (Diagnostic, Level 2b-)

この研究では3体の献体を用いて、上腕骨と大腿骨それぞれに
Bone saw(骨のこぎり), hammer(ハンマー), chisel(ノミ)を使って人工で骨折をさせ、
今まで一度も携帯のバイブレーション機能はおろか、音叉も使った骨折診断をしたことのない、
27人のEmergency Medical Residents(研修医)と1人のAttending Physician(救急医)に聴診器を持たせ、どれほど正しく骨折を診断できるかを実験しました(↓写真はイメージ)。
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人工で造りあげた骨折はtransverse, oblique, communitedの3種類。造られた骨折は上腕骨、大腿骨にそれぞれ合計6本のうち(2本 X 3人)二箇所ずつ。クリニシャンはどこにそれらの骨折があるか分からない状態で(= blinded)左右のlimb音を聞き比べ、
Q. どちらに骨折があると思いますか?
 a. Left
 b. Right
 c. Either(どちらでもない)
の質問に答える形で最終診断を下します。

携帯によるバイブレーションはiVibeというアプを用いて、
上腕骨の場合はlateral epicondyleに、大腿骨の場合はpatellaに、
聴診器はそれぞれanterior shoulder(それ以上の記述は無し)とpubic symphysisにあてがわれた状態で3秒間音を聞き、必要があれば何度でも繰り返して良い、という統一されたルールの下実験は行われました。携帯電話はケースを外し、それぞれのbony prominenceに『ぎゅっと押し付ける』のではなくあくまで軽く『触れた』状態で(↓写真参考)。
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(from Figure 1-4, Matzek et al 2014)

診断結果の統計は以下の通り。
Sensitivity 73% (CI 64-81%), Specificity 83% (CI 77-88%),
+LR 4.31 (CI 3.16-5.89), -LR 0.32 (CI 0.24-0.44)
(*+LRと-LRの95% CIは表記がなかったので私が計算しました)

これらの統計に基づいた結論は、
携帯によるバイブレーションと聴診器による診断は、骨折をrule inするのにそこそこ有効(SpのCI Lower endが77なのでそこそこ優秀、+LRはもう一息)、rule outにはまぁまぁ有効(Snは全体的に10%程低め、-LRも少し数値が高いしCIに幅もある)という感じ。

特筆すべきはこれらの全てが我々のするClinical Evaluationに反映されるわけではないということでしょうか。例えば、
 1. 実験では献体が用いられたけれど、骨はともかくsoft tissueはどれほど考慮される
  べきなのか?献体ではsoft tissueも生きている状態とは違うし、それらが振動の伝え方を
  どう変えるかはこの実験では検証されていない。
 2. この実験では骨折がシミュレートされ、ノミやのこぎり等で人工的に造られたが、
  それは本当に自然に起こる骨折と本当に質が同じと言えるのだろうか?
 3. 『どちらに骨折があると思いますか?』というのと、『右腕に痛みがある選手、
  これは骨折なのか骨折ではないのか?』ではだいぶ診断に臨むクリニシャンの
  メンタリティーが違う。ここらへんも影響してくるのか?
 4. 実際にATがon-fieldで診断しているとなると、騒音もかなりあるハズ。
  我々の普段の労働環境でも聴診器による診断の精度は落ちないのだろうか?
…等の疑問が残ります。過去の似たような研究2-4によれば、
(これらの論文が用いたのは携帯電話ではなく音叉でしたが)
こういった診断の仕方ではほぼ同様のSn, Sp, +LR, -LRが報告されていますが、同時にbilateral pubic rami fractures, chronic osteomyelitis, obesity, posterior hip fracture, fracture impaction, buckle fracturesの場合は診断に限界がある(inaccurateな結果になりやすい)ということも言及されています。今回の実験ではこれらの要素に関しては検証されませんでしたが、これらも『音叉・携帯電話によるバイブレーションと聴診器を用いた骨折診断』の手法のlimitationとして我々の頭に留めておかねばいけません。

…ともあれ、我々ATは音叉よりも携帯電話のほうが素早くアクセスできるのは確かですし、
これがシンプルでお金のかからない、手早い診断法としてこれからますます注目される可能性は大いにあります。他の診断法(i.e. bump test, squeeze test)と併用することでよりconclusiveな診断に辿り着けるかも知れません。これから携帯電話を使った診断は(バイブレーションはもちろん他の機能やappsもどんどん出てますし)ガンガン広がってきそうですね!いやいや、ATもテクノロジーの進歩に置いて行かれてはいけませぬ。目と耳を広く持たねば!

1. Matzek BA, Fivecoat PT, Ritz RB. Novel approach to the diagnosis of fractures in an austere environment using a stethoscope and a cellular phone. Wilderness Environ Med. 2014;25:99-102.
2. Bache JB, Cross AB. The barford test: useful diagnostic sign in fractures of the femoral neck. Practitioner. 1984;228(1839):305-308.
3. Misurya RK, Khare A, Mallick A, et al. Use of tuning fork in diagnostic auscultation of fractures. Injury. 1987;18(1):63-64.
4. Moore MB. The use of a tuning fork and stethoscope to identify fracture. J Athl Train. 2009;44(3):272-274.

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  by supersy | 2014-06-16 12:00 | Athletic Training | Comments(2)

Commented by かや at 2014-06-17 21:55 x
メディカル関係で,スマホのアプリの活用などが増えてきてますが,こんな形での活用もたしかにアリですね!
使えそうなものはどんどん使い,活用していく・・・という気持ちも面白い。(正確性,確実性ももちろんたいせつですけれど。)
Commented by さゆり at 2014-06-18 08:28 x
そういわれてみれば、医療系アプリに関してもそのうち書きたいなーと思っていたので今回まとまてみました!いよいよ情報化社会も、なんというか、取捨選択の判断が大事になってきましたね。使えないけれど高価なものもあれば、使えて無料なものも多い。我々も、賢くないと、ですね!

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