アメリカ脳震盪サミットと、プロのあくなき挑戦心。

"スポーツは私自身若い頃とても重要な人生の一部だった。スポーツ大国であるこのアメリカ合衆国で、今日も多くの若者がボールを追いかけ、汗を流している。そのスポーツの現場で、彼らが安全にのびのびとプレーできる環境を作るのは我々大人の重要な役目"
(かなり意訳ですが、彼が冒頭言っているのはこういうこと)

5月29日はアメリカのATにとって歴史的な一歩を刻む日となりました。
オバマ首相が国を挙げて(NFL, NCAA、NATAを含め)何千万ドルという予算を投じて脳震盪の研究を進めること、もっと正しい知識を得、それを国民と共有していくことを脳震盪サミット(正式にはWhite House Healthy Kids & Safe Sports Concussion Summit)で発表したからです。
オバマ首相の政治的方針は賛否両論ありますが、この件に関しての個人的な感想は、
大国の首相が、「時代は変わってきていて、脳震盪というものが何なのか少しずつ理解し始めた今、頭を打って気分が悪いと訴えることは決して彼らが『弱い』のではなく、『賢い』ことと認識しなおさねば。多くの脳震盪が診断されずに闇に葬られる公式はもう捨てよう」と国家として明言してくれるというのは、もう、とんでもなく意味ある行動なわけで、この17分の彼のスピーチで、我々ATの5年分の地味な努力とPR活動同等の価値があるんじゃないかという…有り難いし、素晴らしいし、言葉がありません。

この動きの中で、我々の母体組織であるNATA (National Athletic Trainers' Association)
は中でも鍵となる役割を担い、NFLと提携してより多くの学校でのAT雇用を増やすこと、
そしてスポーツの現場の最先端で、我々ATが正しい知識を持って選手、保護者、コーチらを教育し、脳震盪とその深刻なconsequenceの認識を高めていくことを宣言しています。
NATAの記事はこちら。ホワイトハウスが出したFact Sheetはこちら
関係者の方々は是非一度それぞれじっくりと目を通してくださいね!

このサミット宣言を受けて、うちのローカルニュース番組も脳震盪の特集をしたい、誰か喋れるやついないか、ということでこの発表があった先週木曜日に急遽職場に取材班がやってきました。
当日アポだったので(『今日これから行ってもいいですか?』と言われた)びっくりでしたが、
リポーターさんがかなり前々から勉強されているみたいで、『Sub-concussiveというトピックが論議を呼んでいると聞いたのですが、それについてお話頂けますか?』と結構ツボなことを言われてしまい、CTEについて(昔これらについて書いた記事はこちらこちら)、それからアスリート、親御さんやコーチがこれらをどう認識すべきかについてお話させていただきました。
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ちなみにニュース映像が見たい方はこちら。アメリカの脳震盪に対する
取り組み方(特にテキサス州で)が分かるニュース番組になっているかなと。

*ちなみに放送を見て残念だったことがふたつあって、一つはリンク先の記事で「脳震盪の研究をしている平石氏」みたいな扱いだったこと(そんなことは一言も言っておりませぬ)、それからリポーターはともかくうちの地区の高校を総括するATさんまでも自分たちのことを『トレーナー』と呼称していたこと。自分たちの職業くらいちゃんと呼べないとね。我々はアスレティックトレーナーです。

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さて。話は全く変わりますが。
実はずっとシーズン中書きたかった話があるのです。…が、あまりにタイムリーだとどうかなと思ったので今まで自粛していました。もうシーズンも終わって3ヶ月ほど経ちますし、メディアにももう十分語りつくされている話なのでここで解禁にします。

私のスポーツではなかったのですが、うちの大学で、
シーズン開幕直前にとある選手がベンチプレス中にダンベルが滑り、顎を直撃。
Mandible (下顎)を骨折するという大怪我が起こりました。
*詳細は省きますが、一応S&Cコーチの名誉の為にこのセッションはプロによって指導・監督されていたし
spotterはいたとだけは書いておきます。
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(*写真はイメージです)

もちろん担当ATがすぐに対応。選手は手術をし、しばらくまともにモノが食べられなかった以外は
(顎の開閉がしばらくほとんどできなかったので)問題も無く驚くほど順調に回復。
ほんの数週間でそろそろ競技復帰をしても良い、ということになったのですが、
骨が完全に治癒する前に同じところに衝撃が加わっては敵わない。
競技中は何か防具になるものをつけるようにと医師から指示が出ました。ま、当然です。

しかーし。何しろスタッフの誰もこういう怪我を経験したことが無い。
アメフトやホッケーのようなヘルメット、鼻の骨折を守るフェイスガード、目を保護するアイプロテクター等は我々も見知っているのですが、下顎を守るような構造のプロテクターとはどういうものであるべきなのか、それと、「競技中違和感を最小限にして装着できる」実用性を兼ね備えるとなると…と、しばし議論。過去に同様の怪我がバスケットボールで起こったか、どう対処されたかなどを調べていたら、こんなサイト(↓)を発見。ふむふむ、これを参考にするとこういう感じで顎のラインをカバーして…呼吸はしやすいようにしたいから…且つ頭に固定するためには…

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担当ATと私、いつも靴底を作ってくれる業者さんとで
ひとしきり話した後、イメージは沸いてきました、いっちょやってみましょう!
と言う頼もしい業者さんの言葉で、まずは顔の型作り。
熱と水分で柔らかくなる特殊な素材を使って選手の輪郭を取り、目と口の位置を記録。
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なるべく最小限のごつごつしさで軽量化し、且つズレたりしないように、
と最終的にはこういうデザインになりました。ぎょ、業者さんGood job!
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ちなみに当の本人は開幕すぐの試合こそ出られなかったものの、これを装着してシーズンを通してほぼ支障なくプレーすることができました。…というか、むしろ大活躍でした。
もちろんこのフェイスマスクを見たら誰だってぎょっとするし、
お蔭様でメディアの話題にもよく登ってしまったんですが…。
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D-Iの大学で働いていると、大概のものは手に入ります。
サポーター、ブレース、プロテクター…最近は本当に細かく色々な製品がありますしね。
でもそれでも「極々稀な怪我」というのが起こることはあるし、それに対応できる製品が世に無ければ、持てる知識・技術を結集させて必要なものを作り出さなければいけないこともある。もっと言うと、予算の限られた高校なんかで働いていたら何でも手元にある素材で作るしかないわけです(これは大学院時代にイヤと言うほど経験しました)。想像力が問われますし、なんかこういうのは妙にワクワクもしますよね。
今回は私は横からやいやい言っていただけなので、頑張ったのは業者さんと担当AT!
カスタム靴底を作るのが仕事なのに、こんな質のフェイスマスクまで作っちゃう業者さん、
すごすぎです。「そういうのは専門外なんで」「やったことないんで」ではなく、
やったことないからこそ「いっちょやってみましょう!」と言えるようなプロに、私もなりたい!
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  by supersy | 2014-06-02 12:00 | Athletic Training | Comments(0)

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