女性アスリートに於けるACL(前十字靭帯)断裂の予防プログラムについて考察する。

いやー、怒涛の3週間でした…。
期末試験から、試験を終えて全ての採点。そして就職活動の現地面接がふたつに
先週末にはVirginia州へ長年履修したかった講習を受けに(↓写真)と飛行機で飛び回り、
ここ2週間ほとんど家を空けていました。実りは多かったけど、疲れた。。。
今日は帰りのフライトが機体トラブルで2.5時間ほど遅れて(初めて、一度搭乗した後に
「ちょっと修理します、数分で終わります」と言われ、20分後くらいに「直らないので一旦降りて下さい」になり、ついに「別の飛行機を用意します」というすったもんだの展開でした)、
さっきやっと家に帰ってくることが出来ました。ここから向こう2週間は家にいられるので、
とりあえず一息です。ホッ。
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ちなみにこの講習(↑)は大先輩のまささんや高橋先生も一緒で、
わいわいお喋りもできて楽しかったです!

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さて、これらとは全く関係ないのですが、
諸事情あって実はACL(膝前十字靭帯)断裂予防関係の論文を幾つか読んでいました。
特に最新のこのmeta-analysis(↓)11が面白かったので、簡単にまとめてみますね。
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●男女差
ACLの断裂が起きるのは、統計的に女性アスリートが男性アスリートに比べて4-6倍も多い1というのは、スポーツ医学会ではもはや常識かと思います。
一度ACLを断裂すると、その後手術で再建し、リハビリを行おうが、手術せずにリハビリで筋の強化を図ろうが、どちらにしてもosteoarthritis(OA)になる可能性が健康な人の10倍も高まる2、また、ACLの怪我から機能回復をしても20年位内にはその患者は確実に(100%)OAになり、慢性的な膝の痛みを抱えることになるかも。その後の人生に多少なりとも影響が出るかも知れない、という嫌な統計もあります。3
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●何故か?
この理由を説明するのには幾つかの説があり、
- ホルモンの影響:女性ホルモンの影響で女性は男性に比べて身体が柔軟なため、
 関節の可動域が大きく、安定性に欠けるが故に怪我に繋がり易いのでは?
 (特に、月経の周期に伴ってACLの怪我のリスクの上下に関係があることは
 幾つかの研究4,5で言及されています。preovulatory もしくはovulatory phaseの間が
 postovulatory phaseに比べて怪我が多いのです)
- 解剖学的:典型的なもので言うと、女性は男性に比べて骨盤が大きく、
 Q-angleが大きい。故に、動きの中で生まれる膝にかかるtorque(捻れのチカラ)も大きい?
- Neuromuscular(NM) ability: 男性のほうが自分の身体を思い通りに動かす
 能力に長けていて、女性はというと、分かりやすく言うと少しどんくさいのかも?
 特に、若い女性アスリートによく見られる、着地時の内股(dynamic knee valgus
 during landing
↓)はACLの断裂と密接な関係があると言われています。
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これらの危険因子のどれが一番実際の怪我に繋がりやすいのか、という結論を現時点で出すのは難しく、恐らく全ての要因が複雑に重なり合って起こるのだと考えるのが一番理に適っているのではないかと思います。
では、これらに対して我々はどのようにアプローチすべきなのか?

●どうすればリスクを減らせるか?
もちろん、女性ホルモンが原因だからといって男性ホルモンを注射しちゃえー、とか、
骨盤が広いのがいけないなら手術して削っちゃえ―、というのはとんでもありません!
でも、一番最後のNMに関して言えば、アスリートを特別な『予防エクササイズプログラム』において正しい身体の使い方を学んでもらうことで、予防できる怪我もあるかも知れません。こういったエクササイズのプログラムを、この文献ではNeuromuscular training (NMT) interventionと呼んでいます。

●いつリスクに変化が見られ始めるのか?
興味深いことに、前述したACL断裂の怪我発生頻度における男女差は、思春期前には存在しないようなのです。どうやら思春期を境に、男女の身体がそれぞれ変化していくにつれ、女性の怪我のリスクが男性のそれと比較して上昇していくことが分かってきています。 男性ホルモンと女性ホルモンがそれぞれ活発に分泌され、体つきも変化していく中で、男性が身体能力が伸びていく(具体的にはpower/strength、それからcoordinationの値が平均してぐんぐん上昇する)のに比べ、女性は身体の変化についていくのに苦労し、慣れ切らないままオトナになる人が多い、という表現が正しいかも知れません。6
丁度その時期に女性アスリートのバイオメカニクスに変化が見られ、7,8 ACL断裂の頻度がピークになる8のも、偶然ではないように思えてきます。

さて、前置きはこのくらいにして、それでは女性アスリートに対して、どのような内容のNMTを、どのようなタイミングで課すのか。そしてどのくらい続けさせればより効果的なのかについてこのmeta-analysis11を読み解いていきたいと思います。

このmeta-analysisで細かく分析されたのは条件に当てはまった14の研究(Table 1)ですが、
その結果がなかなか面白いのでごく簡潔に紹介したいと思います。
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●年齢別のNMTの効果とACL断裂リスクの減少値
被験者の結果を年齢別に分けて分析すると、ハッキリとした違いが見えてくるのです。
女性アスリートをmid teen (14-18歳)、late teen (18-20歳), early adult (>20歳)に分けて分析すると、mid teensのリスクが72%減少したのに比べ、late teens52%, early adultsNo Reduction(0%)と年齢によってプログラムの効果に大きな影響が出ることが明らかになりました(Figure 4)。つまり、NMTの細かい内容よりも、選手が幾つの時にやらせるか(potential windowがある=思春期の、なるべく早い時期が良い)、が成功の一番のカギになってくるというのです。シンプルに結果を18歳以下と18歳より上で比べた場合のリスク減少度は、それぞれ72%と16%と、これもびっくりするほどの差(Figure 3)が出ています。
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20歳以上には効果が見られなかったというのが個人的に驚き。
これは論文中で「もしかしたら、20歳以上のアスリートはそれだけ運動能力も高いから既にNM能力が高いという可能性もあるけれど」とは言及されていましたが、個人的な経験からすると、このくらいの年齢だと「This is just the way I am」という態度のアスリートも増えて、「これが私だから変えるつもりはない」「別に今までもこれでなんとかなってるし」と考えていたりNMTそのものを「面倒くさい」「何でやらなきゃいけないの」なんて感じているケースも多かったりするんじゃないかな、なんて。若い子ってやれと言われれば比較的なんでも楽しみながらやってくれたりするけど、年齢を重ねてくるとそうでもなかったりする。もちろん、幾つになっても謙虚で何でも挑戦してみたい!という選手にも多く会ってきましたが。

●早ければ早いほどいいのか?
こうなると、『18歳では手遅れかも知れないことが分かった』→『では、早ければ早いほどいいのか?いつから始めるのが適切なのか?』という新たな疑問も浮かんできます。これはmeta-analysisから少し反れますが、7歳の女の子(小学2年生)対象に体育時の授業の一環としてNMTを取り入れた実験9 では、このプロファイルのアスリート(…と、この年齢では呼ぶべきではないかな?)が特にNMTに対して順応する能力が高い。非常に高い効果が見込めるのでは、という結論が導かれています。もちろん、指導の仕方は年齢に応じて分かりやすい言葉を使う等変化させる必要がありますが。

●どれくらいのDurationでやるべきなのか?
Padua氏らの研究10によれば、NMT(この場合は『正しいジャンプと着地』に重きをおいたプログラム)を3ヶ月続けた場合と9ヶ月続けた場合では、プログラムを修了後3ヶ月後に再測定した時に3ヶ月のみやったグループは着地のメカニズムがプログラム履修前に戻ってしまったのに比べ(=学習効果が失われてしまった)、9ヶ月の方はしっかりと修正されたままの着地フォームだった(=効果が維持された)そう。NMTもそれなりに長くないと(少なくとも3ヶ月では不十分、9ヶ月程やらないと)成果が長持ちしないということですね。

●どのような内容のNMTが好ましいか?
論文内では"plyometrics, dynamic stabilization, strength, and feedback-driven technique training (p.212)"の要素を兼ね備えたプログラムが最も相乗効果が高いのでは、と指摘しています。適切なfeedback無しにはプライオもバランストレーニングも効果が確認できなかった、としているところも実に面白い。つまり、ただ単にジャンプや着地の動きを数こなせばいい、というわけではなくて、適切で迅速な「今のはつま先で着地してしまっていたからもう少し足全体を使ってごらん」「今のはいいね、気持ちお尻をきゅっと締めて、ちょっと大殿筋を意識してみようか」などという、正しい理解に基づいた質の伴う建設的なアドバイスが必要というわけです。もちろん、こういった的確feedbackが誰にでも出来るわけではない。それぞれのスポーツコーチやS&Cコーチもしっかりとしたトレーニングを積めば十二分にこの役目を果たせるでしょうが、怪我のメカニズムと選手の動きの癖を見抜くプロである、医療従事者の我々アスレティックトレーナーが最も適任かと思いますね。
Compliance(選手が、指導者の言うことをどれだけしっかりと聞き、従うか)も重要である』、というstatementも面白い。ComplianceとACL断裂の危険性には反比例の特徴があるそうですよ。しっかり指導を聞き、取り入れようとする選手ほど怪我が少なくなるわけですね。

また、トレーニングを取り入れてから効果が見られるまで少し時間がかかるため、「シーズン開始とともに始めるのではなく、プレシーズンから始め、シーズンを通して長期プロジェクトとして行うことで、予防効果が満遍無くシーズンを通して期待できる」ともまとめられています。

ふーむ、age-specific windowが存在するというのは面白い発見ですよね。
こうなってくると中学・高校で働くATさんがこういった活動をいかにするのかが大事になってきますし、
大学で働く我々にとっては、「以下に一年生の早い段階でこれらをトレーニングに混ぜ込めるか」というところが重要になってきそうです。まだまだ分からないことも多いですが、これから研究が更に広がって行きそうな分野ではあります。皆さんも何か最新情報があれば是非シェアして下さい!

1. Arendt E, Dick R. Knee injury patterns among men and women in collegiate basketball and soccer. NCAA data and review of literature. Am J Sports Med. 1995;23:694-701.
2. Fleming BC. Biomechanics of the anterior cruciate ligament. J Orthop Sports Phys Ther. 2003;33:A13-15.
3. Myklebust G, Bahr R. Return to play guidelines after anterior cruciate ligament surgery. Br J Sports Med. 2005;38:127-131.
4. Wojtys EM, Huston LJ, Lindenfeld TN, et al. Association between the menstrual cycle and anterior cruciate ligament injuries in female athletes. Am J Sports Med. 1998;26(5):614-619.
5. Beynnon BD, Johnson RJ, Braun S, et al. The relationship between menstrual cycle phase and anterior cruciate ligament injury: a case-control study of recreational alpine skiers. Am J Sports Med. 2006;34(5):757-764.
6. Beunen G, Malina RM. Growth and physical performance relative to the timing of the adolescent spurt. Exerc Sport Sci Rev. 1988;16:503-540.
7. Hewett TE, Myer GD, Ford KR, et al. Biomechanical measures of neuromusculae control and valgus loading of the knee predict anterior cruciate ligament injury risk in female athletes: a prospective study. Am J Sports Med. 2005;33:492-501.
8. Myer GD, Ford KR, Divine JG, et al. Longituidinal assessment of noncontact anterior cruciate ligament injury risk factors during maturation in a female athlete: a case report. J Athl Train. 2009;44:101-109.
9. Faigenbaum AD, Myer GD, Farrel A, et al. Sex specific effects of integrative neuromuscular training on fitness performance in children during physical education. J Athl Train. In press.
10. Padua DA, DiSrefano LJ, Marshall SW, et al. Retention of movement pattern changes after a lower extremity injury prevention program is affected by program duration. Am J Sports Med. 2012;40:300-306.
11. Myer GD, Sugimoto D, Thomas S, et al. The influence of age on the effectiveness of neuromuscular training to reuce anterior cruciate ligament injury in female athletes. Am J Sports Med. 2014;41(1):203-215.

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  by supersy | 2014-05-22 23:59 | Athletic Training | Comments(0)

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