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救急医療の知識とスキル、磨いてますか?

私が医師でも看護師でも理学療法士でもなく、Athletic Trainerという職業に恋に落ちたのは、
ATが唯一健康なpopulationも見られる職業だったから、ということ。
元気に飛び回り、走り回る選手と毎日を共にする。…ということは、怪我に繋がる危険因子や、
怪我になる前の予兆を見つけて早めに取り除ければ、怪我を予防することができる。
痛みが出てから、何か出来なくなってから会いに行く存在、なのではなく、
毎日顔を合わせる存在。変化に気づける存在であること。
患者が患者になる前から時を共にできること。
そんなユニークな医療従事者、他にあまりいませんよね。
だからこそ、ATの『怪我の予防』という分野に於けるポテンシャルったらないぜ!
と思ったわけです。

予防って、本当に素晴らしい。
予防できた怪我や病気は、評価・治療・リハビリすらする必要がないんですもの。
最も効率の良い医療と言えます。
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しかし、ATがスポーツ医療の現場に必要な、最も重要な理由はこれ以外にあります。
それは、突発的な大怪我や救急の迅速な対応。
最近だと、プロ野球で選手同士の衝突により阪神・西岡選手が意識を失うケースがあったり
(日刊スポーツ記事―後に脳震盪・肋骨骨折・肩鎖関節脱臼・鼻骨骨折と診断)、
サッカーではキーパーと衝突、膝を顔面に受けたウクライナの選手が倒れ、意識不明になるという症例があったり(日刊スポーツ記事―後に脳震盪・歯牙破折・顎関節打撲と発表)しました。
こういう場面、もちろんプロスポーツでなくても(高校や大学、アマチュアetc)十分に起こりえます。そんなとき、医療のプロが現場にいるのといないのでは大違い。そう思いませんか?我々ATの究極の仕事は、(時に観客、オフィシャル、コーチ等も含めて)その場にいる全員が安全にスポーツを楽しめる環境を作ること。そして、そこから状況が逸脱するようなことがあれば、即座に対応すること、なのです。つまり、我々は選手の命と人生(QOL)を守るためにいるのです。

**ちなみに、一応プロとして言及しておくと、選手が意識を失ったからと言って
口に手を突っ込んで舌を引っ張り出すのは正しい対処法ではありません。
確かに、意識を失うと舌が緩み、落ちて気道をふさぐ恐れはあります。
しかし、患者の口に手を突っ込むことはまず我々はしません。道具さえあればNPA/OPAなどの補助器具を使って気道を確保するか、もしくはシンプルにHead-tilt/Chin-lift(最も一般的)かJaw Thrust(頚椎・脊髄の損傷が疑われる場合)を使うのが正解です。患者さんの口に手を入れるのは、吐しゃ物があって、それを取り除かなければいけない場合に限ります。しかもそれも、小指でかき出す程度。
即座に対応したカンカバ選手の迅速さと気持ちは素晴らしいですが、餅は餅屋。間違ったテクニックを美談にせず、「やはり現場にはATを!」と皆さんには感じてもらえたら嬉しいです。


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もう時効だから書きますが、
今年、とある試合会場で練習のために会場入りしたら、廊下にその施設の職員さんが意識を失って倒れていて、私と学生が救急対応をした、なんていうこともありました。倒れた時に口の中を切ったみたいで、口から血が出ていたので一瞬吐血を疑ったり、患者さんの病歴が分からないので、心臓発作?脳卒中?癲癇?と数秒間で様々な可能性を考えなければならなかった。自発呼吸と脈拍があり、朦朧としていたものの意識が戻り、最終的には事なきを得たのですが、私達がたまたまあの時間にあの場を歩かなかったら、と考えると怖い気もします。
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(写真はイメージです)


「患者が痛みに叫び声を挙げて転がりまわっているならまだいい」
授業でも現場でも何度も強調します。
「叫んで動けりゃ意識がある。脈がある。自発呼吸がある。少なくともこの3点は既に確認が出来ていることになるからね。本当に深刻な患者は叫ばない、動かない。救急の知識と技術だけは日々磨くことを忘れないように」

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Athletic Trainers are the first line of defense!
スポーツ最前線で仕事するATは、カリキュラムに則って救急医療は授業でもイヤってほど習いますし、心肺蘇生・AEDの資格を常に保持していなければいけなせん。
それで、十分?いいえ、とんでもありません。
やはり、一年に数回は学生はもちろん、プロの医療ライセンスを持つスタッフもフォーマルな『訓練』な場を設け、シュミレーションすることが重要です。どんなに知っているつもりでも、反復を繰り返さなくてはやはりどうしても精度が落ちてしまう。救急医療においては、素早く的確な判断ができるかどうかが全て。自らの知識・技術の精度と現場での緊張感を常に高く保っておく必要があります。

…そんなわけで、今年もやってきました、Emergency Care Workshop!
うちのATプログラムでは、毎年この時期に学生を主体とした救急医療の全員参加ワークショップを行っています。プログラム最上級生の4年生が組織して企画を担当(これも彼らの授業の一環になっています)。講義も実習も全て彼らが下級生に教えます。今年は4時間みっちり使った、充実したワークショップに。とても質が高かったので、私もプログラムディレクターの上司もほとんど口を挟まず、にこにこ眺めていたり一緒に練習したりして無事に終わりました。4年生、とても頑張った!

最初の二時間は、
 ● Wound Care & Splinting
 ● Sudden Death in Athletes
 ● Management & Evaluation of Sport Concussions
の3つのステーションに分かれて、それぞれ講義と軽い実技を。
骨折が疑われる場合はどう患部を固定するか、血のついたグローブをどう安全に外すか…。中でもトマトを使ったsteri-strippingの練習のアイデアは素晴らしかったなぁ。よく思いつくなぁこんなの。使用したトマトはスタッフが後で美味しく…頂けなかったのは申し訳ないですけども。
(粘着剤を使ってしまったので…)
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残りの二時間は
 ● Spine-boarding
 ● Equipment Removal
について、これまた講義とがっつり実技。
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NATAが推進するテクニックやエビデンスを振り返りながら、
「患者がうつぶせの場合は?」「仰向けの場合は?」
「(スパインボードに協力する)人数が多い場合は?少ない場合は?」
と様々なシナリオ設定に基づいて実践、練習。
スパインボードでは、頭を持つ人が「現場責任者」となるため、その人物が周りにいかに明確な指示を出せるか、統率を取って患者を安全にスパインボードに固定できるかがカギになります(i.e. "On the count of three, we will lift the patient up by 6 inches as a unit and hold, and XXX, please push and slide the spineboard up to the patient's head till I say "stop." Ready? One, two, three!" どういうキューで何をするのか、混乱する余地の無いくらい明確に、明確に。細かいテクニックについては以前にまとめた別記事をどうぞ)。
うちと提携している高校にあったらしい、Scoopingタイプのスパインボード(写真中央)でも練習。
皆口々に「これキライ!」と言ってましたけど。
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患者をうつ伏せから仰向けに移動させる際に頚椎がズズッと動いてしまって
「あーー!!!もう一回!」となったり(いいのです、その為の練習です)、
一年生がもう立派に頭を持って、テキパキと指示を出していたり。
それらを監督・指導する四年生もなかなか大人びた顔つきになっていて、
すっかりこのプログラムも成長したなぁと実感しました。

4時間と言う長丁場にも誰も文句言わず、皆真剣に取り組んでくれました。
最後は、皆で集まって集合写真。はいチーズ、で皆ピースをするようになったのは、すぐに「Syバージョンも撮ろう!」と日本人の真似をしたがるうちの子らならでは??
愛されてんだかバカにされてんだか、もう(苦笑)。
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  by supersy | 2014-04-04 23:59 | Athletic Training

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