New NATA Position Statement: 脳震盪―この10年で私たちが学んだこと。

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さて、少し間が空いてしまいました。
まずは、ご報告です。
担当していた大学女子バスケットボールのシーズンが正式に終了しました!
昨年はシーズン通じてたった4勝という苦しいものでしたが、
今年は18勝と、昨年と比べて+14という、『全米で最も急成長しているバスケットボールチーム』になり、うちのヘッドコーチもCoach of the Yearを獲得するなど、実り多き一年でありました。
しかし、その反面ずっとバスケットボールで忙しく、
読みたい文献が次々に出るのになかなかまとめている時間がありませんでした。
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そんなわけで、今回は中でも私が一番大事だと思うもの、NATAがつい最近発表した最新のConcussion ManagementのPosition Statement(現在はオンラインでのみavailable、次号のJATに掲載予定)についてお話したいと思います。前回の発表が2004年でしたから、ここ10年で何が変わったのかを振り返るいい機会にもなるかなと。

ちなみに脳震盪関係で比較的最近まとめた他のエントリーはこちら。
 SCAT3を考察する。
 AANの最新Concussion Evidence-Based Guidelineを考察する。
 Consensus Statement on Concussion "the Zurich Paper"を考察する。



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以前足首の捻挫に関するPosition Statementでもそうだったように、
今回もEvidenceのStatement全体を通じてレベル別に内容がカテゴリー分けされており、
   Evidence A: Based on consistent, good quality patient-oriented evidence
      = What we MUST do
   Evidence B: Based on inconsistent or limited-quality patient-oriented evidence
      = What we SHOULD do
   Evidence C: Based on consensuss, usual practice, opinion, disease-oriented evidence,
      case series for studies of diagnosis, treatment, prevention, or screening
      = What we CAN do
私も今回のブログでこれらを引用しながら私が超個人的に大切、心に刻んでおこう、
というものを全13項目に分けて挙げてみたいと思います。
独断と偏見を含みますので、プロやAT学生の皆さんは、ちゃんと全文を読んでくださいね!

●Education & Prevention
まずは、一般の方に対する教育を、というところから始まるのは素晴らしい!
1. 脳震盪に対する正しい理解を深めるためにもATが率先して正しい用語を用いるべし。
 (Evidence B)
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英語だとdingやbell ringerなんて古い表現がありますが、
(アニメのように、頭がごい~んと鳴るイメージ) プロの医療従事者がそういったコトバを使うのは言語道断。脳震盪への軽視を高めてしまう恐れがあります。
正しい知識は、正しい言葉で広げよう、ということです。


2. 競技参加者、(未成年の場合は)保護者、そして現場の指導者に1) ヘルメットなどの防具は完璧ではなく、完全な予防は出来ないこと (Evidence C)、2) 脳震盪の予防・メカニズム・どう認識し、患者をreferするか、3) 脳震盪を受傷した場合の競技復帰の大まかなプロセスと日常生活にかかる制限、そして4) 不適切な対応をしてしまった場合の患者へのリスクについて、しっかり教育する場を設ける。(Evidence B)
脳震盪に関する様々な法律が、数々の州で争うように発表されているアメリカ。
脳震盪の正しいケアは教育に始まり、教育に終わると言っても過言ではありません。
教育も含めて我々の医療従事者の義務であり、それがNATAのPosition Statementで言及されていることは大きな一歩です。


●Documentation
法律上、これら全てのことを『書類にして残しておく』ことは必要不可欠。
3. ATは、勤務する母体組織の脳震盪に関するPolicies & Proceduresを把握しておくこと。また、選手(や保護者)が以下のことを理解した、ということを書類に収めておく。
 1) 脳震盪の症状
 2) 脳震盪を受傷した場合の、ATへの報告義務 (Evidence C)
報告義務に関しての記述が増えたのも嬉しいことです。
恐ろしいことに、過去の研究では高校生アスリートの50%以上、1 大学アスリートに至っては約80%2が脳震盪を受傷しても適切な医療従事者に「報告しなかった」と答えており、その一番の理由が「それほど深刻だと思わなかったから」「脳震盪とbellringers/dingersは違うものだと思っていた」「意識を失わなければ、脳震盪ではないと思った」という、知識の欠如が露呈しています。
患者、保護者、コーチらに適切な教育を提供し、脳震盪を理解してもらう。
その上で「なるほど分かりました」「受傷して報告しなかった場合の責任は自分にある」と署名してもらうことで選手(や保護者)の意識も高まりますし、書類に残しておくことで、万が一の場合のATの(訴訟の場等での)プロテクションにもなります。
我々は、我々自身の身だって守らねばいけません。
実はこのセクション、このPosition Statementで最も長く、実際の訴訟例も挙げながら解説されています。Documentationは決して我々ATの得意とする分野ではありません。正直に言って、看護師や理学療法士、医者等の他の医療従事者からかなり後れを取っていると思います。細かいところもしっかりやろうぜ自分のケツは自分で拭こうぜ!ここんとこ、意識して変えていこうぜ!という、NATAからの明確なメッセージだなという印象です。


●Evaluation & Return-To-Play (RTP)
4.脳震盪受傷率の高いコンタクトスポーツに参加する全選手は、シーズン開始前にBaseline Examを受けるべきである。また、脳震盪受傷歴のある中高生も、同様に毎年Baseline Examを受けるべきである。(Evidence B)
脳に関しては若い方が回復が遅い、ということは以前にも書きましたよね。
Adolescent athletesに関して特筆されていることはポイントです。
*ここで言うBaseline Examとは、"a clinical history (including any symptoms), physical & neurological evaluations, measures of motor control (eg, balance) , and neurocognitive function (原文ママ)"を総じて評価するテストのことを言います。
脳震盪の症状は非常は多面的で、個人差もあるため、何かその患者の『普通』なのかを健康な状態でassessしておく必要があります。もちろん、全アスリートに出来たら理想的ですが、『最低でも』リスクの高い、コンタクトスポーツ選手は必ず、ということのようです。Baseline Testがなければ、Post-injury Testも意味を成しません。これらは、脳震盪の診断そのものというよりは、RTPの指針のひとつとして用いる方が理に適っていると言えるでしょう。


5. Any athlete suspected of sustaining a concussion should be immediately removed participation and evaluated by a physician or designate (eg, AT). (Evidence C)
脳震盪の疑いのある選手は、直ちに競技参加を停止、プロによる評価を受けるべきである。
少しでも『疑いのある』場合はまず評価。競技継続は危険です。
ただ、正直"スポーツによっては怪我の評価・手当てに時間制限があるものもあるが、ATやメディカルスタッフは脳震盪の診断をする際にプレッシャーを感じるべきではない”という表記には疑問。私らだって人間ですから、時間制限があるのとないのとでは物事へのアプローチの仕方を変えるのは当然です。…かといって、選手が頭を打つ度に試合を止めてじっくりゆっくり評価、というわけにもいかない。ここらへんは、NATAとして『脳震盪特別ルール』等を特定のスポーツで設けようという動きに繋がるのか、なんなのか…気になるところです。


そして、もちろん脳震盪の評価は多角的なものでなくてはなりませんが、
6. もし、練習中・試合中に手早く評価をする必要がある場合は、SAC等の短めの脳震盪評価ツールとmotor-control evaluation/symptom assessmentを併用した評価をするべき。(Evidence B) 当日の競技復帰は不可。(Evidence C) 完全な競技復帰は、脳震盪の診断に関する特別なトレーニングを積んだ医療従事者による判断に基づいて行われなければならない。(Evidence C)
うーん、SCAT3の中からpick & choose、という認識でいいのでしょうか。
(SCAT3は素晴らしいけどsideline examとしてはやはり長すぎると私は思っています) 明記されているのは、『大丈夫?』や『行けそう?』はAssessmentとして十分ではない、ということ。
Comprehensiveなneurologic evaluationを、consistent fashionで、ということです。


7. 脳震盪との診断が正式に下されたら、患者の日々の回復を見守るのも重要な仕事のひとつ。しかしその際、毎日Neurocognitiveやmotor-controlのテストを患者に繰り返す必要はない。まずは患者が日常生活をする上で症状が完全に無くなってからでよい。 (Evidence C)
これが明記されているのも重要ですよね。脳震盪の回復にはやはりinitial restが欠かせません。無理に頭痛のある患者を引っ張ってきて毎日cognitive examなんかしていたら回復を遅らせてしまうこともあるでしょう。まずは、休息。
日常生活における症状が完全に無くなった時点で、患者のcognitive levelも通常まで回復しているケースがほとんどですが、統計的に40%の患者がまだcognitive skillがBaselineレベルまで回復していないことも。こういう患者はまだ脳の機能が完全に回復しているとは言えません。もう少し待たなければ、ですね。


8. 脳震盪患者がまだ若年で脳震盪受傷歴が複数回あったり、発育疾患、精神疾患が認められたりする場合は神経心理学者(neuropsychologist)の受診が妥当な場合も。(Evidence C)

9. 患者が完全に回復した後に医療記録目的でグレード (Grade 1-3, or mild/moderate/severe etc)を付けることはアリ (Evidence C) だが、それ以前の脳震盪のグレード化はもはや用いられるべきではなく、一人ひとりの患者をしっかりと評価・対応することが求められる。(Evidence B)
以前は症状が15分以内に無くなったらグレードXX、とか、グレードXXなら回復までこのくらい、とか、様々なGrading Scaleとのその使い方がありましたが、現在でははっきりとグレーディングはせず、患者一人ひとりと向き合い最善の選択をすることが勧められています。

●その他
<Equipment>
10. ヘルメットは死亡事故(頭蓋骨骨折など)の予防には有効だが、脳震盪の危険性を著しく下げる("do not significantly reduce")ものではない。(Evidence B) マウスガードも同様、カスタムマウスガードの場合は歯科損傷の予防効果は大いにあっても脳震盪への効果はまだ不明。(Evidence B) サッカーのヘッドギアの脳震盪への影響は今あるエビデンスでは断定しかねる、よって、現時点でヘッドギアの着用はencourageもdiscourageもしない。(Evidence C)
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<Pediatric Concussion>
11. Children and adolescents takes longer to recover from a concussion. (Evidence B)
何度も言われてきていることですが、コドモのほうがまだ脳も発達中なので
脳震盪の際の回復には時間がかかる。より保守的になったほうが良いでしょう。

<Home Care>
12. 全脳震盪患者に使う、Home-instruction FormをATと医者が協力して作っておき、
受傷があった場合には口頭と書面の両方で患者本人と保護者・ルームメイトに
すべきこと、してはいけないことをしっかり説明する。 (Evidence C) 例えば…
 - 頭痛にはAcetaminophen以外飲まない(抗炎症剤はダメ!)。
 - アルコール、ドラッグやその他のsubstancesは摂取しない。
 - 肉体的、精神的疲労を避け、受傷後はしっかり休息を。
  故に、夜に無理に患者を起こす必要はない。*症状が重く、脳内出血が疑われたりする場合は別。
 - 水分補給をしっかりとし、バランスの良い食事を取る。
これらの各項目もEvidence C

<Multiple Concussions>
13. 脳震盪の受傷歴が複数回ある患者はより保守的にRTPさせること。(Evidence B)
より僅かな力でも脳震盪が起きるようになってきたり、回を追うごとに症状が重くなっていたり、Baselineがどんどん下がってきていたりする場合は脳神経の専門家に委託すること。(Evidence C)
Second Impact SyndromeやChronic Traumatic Encephalopathyについては
それらの存在をcontroversialとしながらも、『こういうことも稀にある』『こういうことを言う学者もいる』…という、一応知っておいて、気をつけて、程度の記述に留まりました。


●Position Statement、読んでますか?
こうして振り返ってみると、Evidence Aがひとつもないのにびっくりしますね。
やはり脳震盪は、randomized controlled studyとかし難い分野だもんなぁ…。
あと、恐らく皆さんならもう知っている内容なので割愛してますが、
他にももちろん今まで散々言われてきたこと、例えば、RTPはGradualであるべきだ、とか、
そういうこともこのPosition Statementには含まれています。

2004年のものと読み比べてみると、『ちょっと書き足しました』というレベルを遥かに超えた、
まるごと書き直した、という表現が正しいほどの論文です。
AAN、Zurichとはほぼ矛盾も無く、一貫性があるものと言ってもいいでしょう。

Position Statement = Where We Stand as Professionals、(プロとして、私たちはこの事項に対してこういう風に立場を取ります、という重みのある宣言)なんですが、
皆さん知っていますか?NATAがこうしてPosition Statementを発表するまでに、
長いものだと約10年の時間をかけていたりするんですよ。
全米でもその分野のトップの、権威と呼ばれる人たちが委員を設立し、一堂に会して、それはもう長いこと話し合うのです。何百、何千と言う研究や発表を振り返りながらね。今回のPosition Statementには約200もの文献が引用されていますが、これを書き進める段階で読まれた文献はこの数倍になるでしょう。

何が言いたいかと言うと、『こんな素晴らしい完成品を、全ての人にオープンにシェアしてくれるなんて本当に素晴らしいこと!』ってことなんです!これがNATAのPosition Statementとして発表された今、現ATCは全員(そしてこれからプロになるATS達も)脳震盪に関してはこれらをスタンダードンの知識として持っていなければいけない。これに背いたことをして訴訟沙汰にでもなれば、貴方の医療ライセンスは剥奪されるでしょう。いやでも、訴訟云々じゃなくてもこんなに素晴らしい最新の情報を、知らないなんてもったいないとしか言えません!皆さん、時間をかけてもいい、是非一度でいいので全文をしっかり読んで下さい。10年の専門家の努力の結晶を我々がさらさら読めてしまうなんて、どんなに恵まれているか。「長い」「めんどくさい」なんて思わないで、分かりやすくまとめてもらって有り難いなぁと感謝の気持ちを込めてひとつひとつ大切に読んでもらえばと思っています。

1. McCrea M, et al. Unreported concussion in high school football players: implications for prevention. Clin J Sports Med. 2004;14(1):13-17.
2. Sefton JM, et al. An examination of factors that influence knowledge and reporting of mild brain injuries in collegiate football. J Athl Train. 2004;39(suppl):S52-S53.

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  by supersy | 2014-03-18 19:00 | Athletic Training | Comments(0)

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