膝に靭帯が新しく見つかった!? - Anterolateral Ligament of the Knee

もうご存知の方がほとんどでしょうが、ようやくまとめる時間ができたので。

膝に新しい靭帯が見つかった!
こんなニュースがAT界に衝撃を与えたのは11月上旬でした。
しかもこの靭帯、別にちっちゃかないんですよ。結構普通に大きいの。
まだまだ解剖学で私達が把握できていないことが多いとはいえ、
そんなサイズのものが「今まで見つけられませんでした」なんてことがあるんだ!?
とびっくりしませんか?私だって人体解剖何回もしてきたけど、「あれ、これなんだろ?」と疑問にも思わなかった。膝の靭帯はこうなってます(↓)、と教えられてきたニンゲンには、見えたいものしか見えない。無いと思っているものは目にはいらない。思い込みって怖いですよね。
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この発表にはそれなりに賛否両論あって、理由は少しだけ後述しますが、
私は個人的にはこうして認識を広められたことは大いに意義があると思うし、
この靭帯についてこれからもっと様々な情報が後々出てくるのがとても楽しみに思います。
とにかく解剖学が好きだからどんな発見もうきうきわくわくなのです!
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新しい靭帯は、Claes氏1ら(↑)によってAnterolateral ligament (ALL) of the kneeとこの記事では呼ばれています。私もコレに習って以下ALLと記述させて頂きます。

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●History
興味深いことに、実は「ここに繊維っぽいものがあるんだけど…」と
誰かが文献で発表したのは今回が初めてではありません。
一番最初に「何か」の存在に気がついたのはフランス人の整形外科医、Dr. Segond。2
Segond fracture (avulsion fx of the lateral tibial condyle、下写真↓)を名づけた張本人で、この骨折に発見時(130年以上前になる1879年)に、「骨折部位に"a pearly, fibrous band"が付着している」と述べています(この時点で彼はそのstructureに名前をつけることはありませんでした)。
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それから散発的に「この辺に靭帯のようなものがあるね」という発表は時々されたものの、
一貫性のある名称は無く、その構造は好きに"Anterior band of the lateral collateral ligament,"3 "the (mid-third) lateral capsular ligament,"4 "anterior oblique band,"5 "anterolateral ligament"6と毎回異なる名で呼ばれ、その描写は"a relatively consistent structure in the lateral knee"6止まり。それが一体どういう役目を果たすのか、どこからどこに正確に位置しているのか等が深く討論されることはありませんでした。
(今回Claes氏が一部で批判されているのは、これが原因。必ずしも彼らが発見者第一号ではなかったこと、そしてこれが彼のDoctoral dissertationであることからです。こんな他人の名誉を横取りするような発表を成果とみなしていいのか。そんな研究者に博士号を与えてしまって良いのか、みたいに言う人もいるそうです。私は全然良いと思うんですけどね)
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●What it is
Claes氏1によれば、彼らが解剖した41の献体の膝の中からたったひとつを除いた40の膝で(97%)「IT bandからもAnterolateral joint capsuleからもはっきりと区別できる靭帯が見つかった」のだそう。過去のレポートには「IT band、もしくはCapsuleの一部なのでは」という仮説もありましたから、これを覆す発見となります。完全にdissectされたその靭帯、まずは自分の目で見てみたいですよね。では、この記事からの抜粋ですが…



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*Figure 2: Photograph of a typical right knee after complete dissection of the ALL (Claes et al, 2013)


これを更に分かりやすく図解したものは、こんな感じ。
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*(Claes et al, 2013)


かなりはっきりとしたstructureで、本当にびっくりしますよね。
上の図からも見て取れるように、この靭帯はlateral femoral epicondyleからproximal tibiaまで斜めに走っており、insertionはGerdy's tubercleの後方20mm程。靭帯の一部はlateral meniscusまでに伸びているそうで、正確には"the periphery of the middle third of the meniscal body(↓四角く赤で括った部分) of the lateral meniscus (p. 323)"にconnectしているんだそう。これ、少しわかりにくい表現だけど、私の解釈はこんな感じ(↓)。半月板の上部、下部の縁にそれぞれ繋がるmeniscofemoralmeniscortibial portionがあり、それらが作るトンネルの中にはlateral inferior geniculate artery & veinが走っています。
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長さは平均で38.5±6.1 mm(膝最大伸展時。膝関節屈折時には3 mm程伸びる)、幅は大腿骨の起始部で8.3±2.1 mm、膝のJoint lineで6.7±3.0 mm、脛骨の停止部で11.2±2.5 mmと、中心部が起始停止に比べて細くなっているのが特徴です。
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●Clinical Significance
言ったところで結局小さな繊維のカタマリでしょ?何でそんなに大事だって言うのさ、と思う方もいるかも知れません。この靭帯がこれだけ騒がれている背景に、'Injury to this ligament might be a precursor of an ACL tear'という我々が無視できない強いsuspicionがあります。

Claes氏の研究から、ALLの重要な機能に
- resists against internal rotation of the tibia when the knee if slightly flexed (30-90°)
ということが分かりつつあります。
このチカラ、偶然にもACL断裂のメカニズムと一致するではありませんか!(↓)
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…ということはどういうことか?これは完全に私の仮説ですが、
- Isolated ALL sprain can lead to the anterolateral rotatory instability of the knee, and thus can predispose the individual to further sustain the ACL sprain. In other words, if we can somehow detect ALL sprain early and effectively treat it, it might be a new way to prevent future ACL sprains.
(ALLの靭帯を断裂するようなことがあれば、その膝にはそれなりのAnterolateral instabilityが起きるようになる。Tibial Internal Rotationに対しての抵抗力が弱まり、次に大きなチカラが掛かった場合、それはACLに集中してしまう→ACLの断裂の可能性も上がることになる。逆に言うと、ALLの怪我を早期発見・治療する効果的方法が見つかれば、前十字靭帯断裂予防の新たな要素になる可能性は十分に考えられる)

- Outcomes of ACL reconstruction surgery are sometimes poor: The reported rate of graft failure ranges from 1.9% to 34.4%,7, 8 and patients often exhibits chronic anterior knee pain (4-56%), instability and giving-out episodes (2.5-34%), stiffness (2-25%), as well as the early onset of OA.8 Maybe we have been missing a piece: Should we perhaps consider the examination of ALL prior to the surgery, and may need to reconstruct the ALL as well in order for the patient to fully restore the knee stability/function?
*数字に幅があるのはgraftの種類によってoutcomeもかなり違ってくるからです。
(ACLの再建手術って、実は成功率が高いとも言えなかったりする。グラフトが切れてしまうこともあるし、慢性的な術後の膝の痛み、グラグラ感、カタさを訴える患者さんは多く、骨関節炎を若いうちに発症する可能性も上がる。これらは、もしかしたら私達がALLという靭帯を全く視野に入れてなかったことから起こっているのかも?もしかしたら、ACLの再建手術の前に、患者のALLの状態が健全なのかも調べ、もし損傷があればこちらも再建したほうが、膝の安定性・機能回復には理想的なのかも知れない)

大学院時代に一緒に働いていたチームドクターさんが、
「ACL sprainってどうしてだかlateral knee painを伴うことが多いのよね…」と呟いたことがあったのですが、それもALLがACLと同時に損傷を起こしていたとしたら合点がいく。
ALLのstress testとかそのうち出てくるんだろうなー。
30°のflexionでTibial IRとか?勝手に想像してワクワクしています。

おそらく私のこれらの仮説が立証(もしくはreject)されるには、
ここからさらに5-10年かかってしまうんでしょうけれども。
個人的には、こんな小さな繊維のカタマリが、スポーツ医学の前十字靭帯断裂という
メジャーな怪我のアプローチを大きく変える可能性がある、という事実に
心から単純にうきうきしています。いやー、解剖学って終わりがない。素晴らしい。

1. Claes S, et al. Anatomy of the anterolateral ligament og the knee. J Anat. 2013;223:321-328.
2. Segond P. Researches cliniques et experimentales sur les epanchements sanguins du genou par entourse. Progres Mesical (Paris) (accessible from http://www.patrimoine.edilivre.com/)
3. Irvine GB, et al. Segond fractures of the lateral tibial condyle: brief report. J Bone Joint Surg Br. 1987;69:613-614.
4. Hughston JC, et al. Classification of knee ligament instabilities. Part II. The lateral compartment. J Bone Joint Surg Am. 1976;58:173-179.
5. Campos JC, et al. Pathlogenesis of the Segond fracture anatomic and MR imaging evidence of an iliotibial tract or anterior oblique band avulsion. Radiology. 2001;219:381-386.
6. Vincent JP, et al. The anterolateral ligament of the human knee: an anatomic and histologic study. Knee Surg Sports Traumatol Arthrosc. 2012;20:147-152.
7. Freedman KB, et al. Arthroscopic anterior cruciate ligament reconstruction: a metaanalysis comparing patellar tendon and hamstring tendon autografts. Am J Sports Med. 2003;31(1):2-11.
8. American Academ of Orthopaedic Surgeons. ACL injury: does it require surgery? Available at http://orthoinfo.aaos.org/topic.cfm?topic=a00297

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  by supersy | 2013-12-23 18:20 | Athletic Training | Comments(0)

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