落雷注意!Lightning Safetyの日米差を考える。

Lightning(ライトニング)とThunder(サンダー)の違いって皆さんご存知ですか?
日本語だとLightningは稲妻。Thunderは雷、雷鳴。
そう、つまり、Lightningは(目に見える)光、そしてThunderは(耳に聞こえる)轟なのです。
感じる感覚器が違うんですよ。共通のものから発されるのに違う単語がある、って面白いですね!
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さて、そんな余談はさておき。

先日、ラグビー好きの相方からこんなサイトを見せられてびっくりしました。
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実はこれ、日本ラグビー協会の「雷に関する注意(通達)」というページから抜粋したものです。リンクはこちら。別にラグビー協会さんを個人攻撃するつもりでも何でもないのですが、このリストに皆さん違和感を覚えませんか?少なくとも私は「ええ?」と感じる部分がありました。

「付近で落雷、って、どのくらいで付近なのか」「一回の突風だけでも練習をやめるべきなのか」等、描写がちょっと曖昧すぎやしませんか、という点は置いておくにしても、
一番私が気になるのは「付近で落雷のあった場合は、樹木、ポール、電柱等5m以上の物体を探し4m以上離れた場所に避難する。」という書き方です。高い物体を探し、そこから4m離れる?探しておいて、離れる?どうして4m?遠ければ遠いほうがいいの?4mがベストなの?AさんとBさんだったら、木から4m離れたAさんの位置は理想的なの?Bさんはどうなの?
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木から離れすぎちゃうと自分にモロに落ちちゃうかも知れないから、木にそこそこ近づいておいてそちらに落とさせ、自分はそこから4mの距離を取っていれば影響無いから大丈夫、ってこと?4mで本当に大丈夫なの?どういうエビデンスを根拠にこういう数字を決めたのか、資料も明記されてないし…なんか、よくわかんないなぁって思うのです。

一方で、NATAの打ち出す落雷とセーフティーに関するPosition Statement (正式発表されたのは今年3月と最新)はもっと細かい所まで提言されています。落雷とスポーツの専門家が(私の記憶が正しければ)4年もかけて練り上げた大作です。
1. スポーツをするならば、落雷に関するEAPを作るべし。
 統計によれば、48-64%の落雷による死亡者はOrganized or recreationalのスポーツ参加中
 だったと言います。「屋外でスポーツをするならば、『落雷の時にどう対応するか』という
 緊急時用のプランをしっかり立てておくこと」「誰に、どの順序で連絡をするのか
 (chain of command)、どこに避難するのか(evacuation location)、どのように
 天候の変化を監視し、スポーツ再開の判断は何に基づいて下すのか、
 前もって想定し、話し合い、練習し、シェアしておくこと」


2. どこが安全な場所なのか。
 どういった所が安全なのかにも言及しており、このPosition Statementによれば、
 Substantial, fully enclosed buildings with wiring and plumbing, such as a school,
 field house, library, home, or similar habitable (私達が普段生活・仕事をしているような
 大きくて閉め切り可能な配線・配管装備の建物、例えば学校や図書館、家など)

 それから、
 Fully enclosed metal vehicles such as school buses, cars, and vans
 (金属製の閉め切れる乗り物、例えばスクールバス、車、バンなど)

 という記載がされています。
 どこを見ても、5m以上の樹木、ポール、電柱という表記はないんですよねぇ。

3. 逆に、安全でない場所はどこなのか?
 Most places termed shelters, such as picnic, park, sun, bus, and rain nonmetal shelters
 and storage sheds (シェルターと名の付いた雨宿り場のような簡易避難場所、小さな倉庫)
 Open areas, such as tents, dugouts, refreshment stands, gazebos, screened porches,
 press boxes, and open garages (ガレージやダグアウト、プレスボックスなどの開けた空間)
 Tall objects (eg, trees, poles and towers, and elevated areas)
 (樹木、ポールやタワー等の背の高い物体や、高台など)

 Large bodies of water, including swimming pools (池やプール等の水辺)

 また、室内にいても配線や配管の近くにいたり、シャワー、洗面台、室内プール、
 電気製品を使用していたりすると落雷時に感電→怪我を起こす可能性も大いにあることも
 記述されており、配線・配管があるかも知れない壁から離れ、
 部屋の中心に集まると良いみたいです。

つまり、私が思うのは、
NATAのPosition Statementでは避けるべき場所、行くべき場所がしっかりと定義されているにも関わらず(そして、背の高い物体は避けるようにと明言されている)、
日本は室内や車の中に入れとは一言も書かれていないし、背の高い物体を探した上で、それに近づいて、適度な距離を取る?だいぶNATAのそれとは矛盾しているように感じます。

加えてNATAのPosition Statementには、以前にもまとめましたが、
1. 雷や見えたり聞こえたりしたら、すぐに避難。
昔はFlash-to-Bang theoryという、雷がピカッと光ったのを見たら耳で雷鳴が聞こえるまでの秒数を数え、それを5で割って距離を出す(in miles)。5マイルいないなら競技中止。という面倒くさいことをやっていましたが、それはもう過去の話。今は、「見えたり聞こえたりしたら即中止」というより厳しいものに変わっています。

2. 競技再開は、最後の雷が見え/聞こえてから30分間経ってから。
スポーツにおける落雷死の多くは、嵐の去り際、つまり、30分待たずに外に出て練習を再開してしまうことから起こるそうです。しっかり30分待ち、嵐が去ったのを確認してからresumeすべし。

3. スポーツ参加者、スタッフ、オフィシャル陣、そして観客全員分の避難場所を確保すること。どういう経路で避難するのか、避難するまでにどれくらいの時間がかかるのかも想定しておくこと。
…等の決まりもあります。
うーん。やっぱり、何度読み返しても、だいぶ違う。
詳細がちょっとずれているくらいじゃなくて、メッセージ性が、全然違う。

日米差は何においてもあると思いますし、
全てアメリカのものをコピーして使う必要もないかと思うんです。
例えば、日本では避雷針が非常に普及していて、20m以上の高さの建物では法律上設置義務があると記憶していますが、正しいのかな?あと、学校や病院、危険物を扱う工場等にも大概ありますよね。そういうのは日本独特の優れた部分だし、スポーツでもtake advantageするべきだと思うし。

しかし、ラグビー、アメフト、サッカーという規模となれば、周りに建物のないだだっ広い芝生なんかが会場になることも珍しく無いはず。避雷針が無い状態も想定に入れた上でこの程度の備え?それを日本協会が打ち出している?と考えると非常に怖く感じます。せめて「避雷針がこの範囲内にある場合はこういう避難・対処の仕方。避雷針がない場合は…」とか分けたらどうなんだろうか。どれほどの専門家がこの今年度発表された「注意(通達)」の制作に関わっていたのだろう…。

落雷に打たれる確率は1/10,000,000だと言います…が、
人生で7回に落雷に遭った人物もこの世にいると言います。
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いざ試合・練習を開始しようとしたときに、突然暗雲が立ち込め始めた…。
あなたはどれだけ自信を持って、あなた自身とその場に要る選手たちが安全だと胸を張って言えますか?私たちの仕事は常に起こりうる最悪の事態を想定し、それを避けることを一番に考えるべき職業であるはず。用意は周到でなければいけません―そうであれば、悪いことなど決して起きないのだから。
日本でも、落雷とスポーツの安全について、もう少し議論が進めばいいなぁ、と思っています。

最後に、くどいですがNATA Lightning SafetyのPosition Statementへのリンクはこちら。NATAが発表している全てのPosition Statementsへのリンクはこちらです。興味のある方は是非。
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  by supersy | 2013-07-08 22:30 | Athletic Training | Comments(8)

Commented by けいこ at 2013-07-09 14:06 x
いつも情報に富んだブログありがとうございます!毎回、色んなことを考えさせてもらいながら、楽しく読ませて頂いています!

こうしてたくさんのデータを元にしっかりと作られた最善策があるのに、未だにそれに猛反対するコーチがいることが私は残念で仕方ありません。私は去年、高校のFootballの練習中、evacuationするかしないかでコーチと口論になり(もちろん私の意見を押し通しましたが)、その後、ADや校長を交えての会議を開くほどまでに問題は発展しました。私がまだまだ未熟者で、コーチから絶対的な信頼を得られていなかったことも一つの原因ではあったと思いますが、生徒の安全を第一に考えているのなら、反対する理由はないと思うのです。その後、コーチとはしばらく難しい関係が続きましたが、私の下した判断を覆すつもりもありませんし、その時の口論を見ていた保護者の方達からも“子供達のために戦ってくれてありがとう”と言ってもらえて、間違ってなかったんやと再認識することもできました。
でも、どうすればコーチ達にこのposition statementの重要性を理解してもらえるのでしょうか。起こってからでは遅いんだというのを伝えるだけではだめなんでしょうか。
Commented by さゆり at 2013-07-10 05:10 x
けいこさん、コメントありがとうございます。ATとして(特に新米の若いうちは。私もGAの頃は色々コーチ・親御さんから見下され、悔しい思いをした覚えがあります)こういった事柄に関しては1) Education, 2) 先手を打つ, 3) Documentation documentation documentationだと思います。
Commented by さゆり at 2013-07-10 05:10 x
自分がやっていることは単にoverconservativeになったり、選手に甘いことをしているわけではない、こういう本当の危険を防ぐためにやっている、(他はflexibleになれるが)ここだけは医療従事者として譲れないという目的を共有するEducation。重要性を理解してもらうために統計を出すのも良いでしょう(毎年スポーツ中に落雷でXX人が死んでいる etc)。私は具体的な数字を出し、詠みたい方にはposition statementを送ります、と言ったことも。大事なのはタイミング。各コーチとのこういう会議の場をシーズンスタート前に設けておいて、lay the groundworkをしておく。そうすればシーズン中の嬉しくないサプライズは避けられるはず。
Commented by さゆり at 2013-07-10 05:10 x
長くなりました、最後です。、

そして、最後はdocumentation。会議の最後に、「私は●●とこういう話し合いの場を設け、質問する機会を与えられ、以上のポリシーに納得しました。」というフォームにサインしてもらうのも手だし、もしシーズン中コーチたちがあなたの指示に従わないようなことがあれば、You are overriding my decision, I have to document thatと明言し、実行すべきです。ADに先に話を通しておいて"仲間"にし、そちらから一言言ってもらうもの効果があると思います。ADはコーチたちの上司ですから。ADは法的責任みたいな言葉を出せばほぼ間違いなくあなたの言葉を真剣に受け取り、協力してくれるはずです。
Commented by けいこ at 2013-07-10 09:41 x
いつも詳しいお返事ありがとうございます!!
やっぱり何事もdocumentationなんですね。シーズン前にミーティングを開いたり、統計を提出してみたりはしていたのですが、documentationまでは実行できていませんでした。それから、コーチが私の判断をoverridingしているというのは、分かっていたつもりなのに、新しい考え方だな感じました。それは分かっていなかったのと同じことですよね。また新たに良い意味で臨戦態勢に入る覚悟が決まりました!
いつも真剣に質問に答えて頂いて本当にありがとうございます。先輩方の肩を借りつつ、もっともっと成長していきたいと思います!ありがとうございました!
Commented by さゆり at 2013-07-10 23:53 x
もちろん分かり合えるのが一番だし、常に「戦う」気持ちでなくてもいいんだけどね。でも自分が持てる努力を全てして、それでも相手があまりにunreasonableなんだとしたら、その法的責任まで自分が被るのはおかしいでしょ?線引きをするにはやっぱり証拠を書面に残しておかないといけません。選手を守るにはまず自分の身の安全を確保しておかなきゃいけないし、自分の身を守るのは自分しかいないからね。色々あるけれど、お互い頑張りましょ!
Commented by Yuni at 2013-07-16 12:29 x
 はじめまして。
 日本の高校サッカー部でアスレティックトレーナーとして働いている者です。FacebookのシェアからBlogを読ませていただきました。
 ちょうど私も最近、自分のBlogで情報のシェアしようということを始めたばかりで、雷のことも書いていたのでとても勉強になりました。

 さゆりさんのBlogを拝読して、自分の考え、情報の「精度」のようなものが圧倒的に詰めが甘いな、と感じました。自分のBlogが恥ずかしいですが今後の課題としてそのまま進めようと思います。

 私は日本の体育学部→鍼灸専門学校と進んで、ずっと現場はやっていますが、やはりあいまいにしている部分が多すぎると改めて思わされました。Blogでシェアして下さっているposition statementもできる限り読んで、精度を上げていきたいと思います。

 長々失礼しました!いつもBlogの更新、ありがとうございます。
Commented by さゆり at 2013-07-17 08:45 x
Yuniさん、コメントありがとうございます。このブログはあくまで私個人の偏見たっぷりの趣味の一環のようなものなので、自分のブログと比べてどうこうとかあまり気にせず好きに活用して頂ければ幸いです。ATには表現力は必要ですが文章力はそこそこで良いと思いますし(笑)。それよりもやはり、現場に繋がる知識をどれだけ持っているかという引き出しの多さだと思いますね。お互い頑張りましょう!

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