脳震盪の新たな治療法?DHAサプリメントについて考察する。

いやー、今週末は土~月曜と、アメリカでは珍しい三連休だったんですけどね。
風邪ひいちゃってすっかり無駄にしちゃいました。お出かけでもしたかったのになー。
日本→ミネソタと間髪入れず飛び回っていたツケかしら。
ようやく体調が回復してきました。よかったよかった。

さて。本題です。
脳震盪って、一度受傷したらひたすら「待ち」の怪我なんですよね。
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脳はダメージからゆっくりゆっくり回復していく。それをひたすら待たなければならない。その間、テレビゲームはだめよ、とか、辛いものは食べちゃだめよ、とか、走り回っちゃだめよ、とか適切な指示を与えつつね。で、脳が準備できたかな、と思ったら我々は適切な量のストレスをかけてみて、症状が戻るか検証→無事にRTPまで行ければ万々歳、というか。
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この間、セラピストとして私たちが出来ることと言えば「患者を観察し続けること」くらい。
靱帯の損傷等と違ってsoft tissue mobilizationしたり、冷やしたり暖めたりということもない。
回復を待つ。これだけなんです。
治療としてできることはない。



…と思ってたんですけどね。

某SEC大学で働く友人に
「うちのチームドクターは脳震盪の患者にDHAのサプリメントを処方するんです。
受傷後数日してから、これだけの量を今日からあげ始めてね、と指示を受けて…」
という話を聞いて、へぇー、アメリカ医学最先端ではそんなことが!とびっくり。
(私の働いている大学はアメリカ最先端というには程遠い…)

一応この夏もRegionalレベルでConcussion Workshopをホストする身としましては、
ちゃんとそういうEmerging treatmentにも目を向けていかなければ!と思ったので、
とりあえず自分で調べられる範囲で調べてみることにしました!
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●DHAとは?
英語での正式名称はDocosahexaenoic Acid、日本語ではドコサヘキサエン酸。
DHAはOmega-3 polyunsaturated fatty acidsの代表的なもののひとつ。魚に多く含まれることで有名ですが、日本人の魚離れも進む近年、現代っ子はDHAが不足気味とも聞きます。

DHAを取ると頭が良くなる!なんて小さい頃聞きましたが、あながち間違いではないのです。
DHAは脳内のfatty acid contentの97%を構成する!というだけあり、
その効果も神経系や脳の機能に直結したものが多いんですよ。

DHA is essential for:
 normal neurological development, maintenance of learning and memory,
 neural plasticity

DHA can affect:
 neural function by enhancing synaptic membrane fluidity and function,
 regulating gene expression, mediating cell signaling, and enhancing long-term potentiation.
脳の均衡を保つために必要なNeuroprotein D1 (NPD1)のprecursorでもあるので、
怪我が起こった後のoxidativeを抑える、という受傷時の大切な役目もあるようです。
以前Neuroplasticityについてまとめたことがありますが、DHAはこの源。脳を文字通り柔らかく保ち、臨機応変に、活発に保つ、という重要な役割を果たしていることが分かります。
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では、DHAのサプリメントというのは一般的によく知られていますが、
これはどういった効果が今まで研究によって認められているのでしょうか?

Dietary DHA supplementation:
 improves learning ability, enhances long-term memory in both young and old animals,
 can reduce cognitive decay during aging and Alzheimer's disease1
老化やアルツマイハー病に効果あり!と言われれば、
Traumatic Brain Injury (TBI)による脳機能の低下を克服するのにも使えないのかな?
という流れは言ってみれば自然なことかも知れません。

●What does Evidence say?
そんなわけで、DHAサプリメントとTBI、というこの2つのトピックに絞って、
文献を探してみました…が、これがなかなか手に入らないったら!
特に、あれですね、人体実験の文献は一切無い。
そんなわけで、大学院以来初めて動物を対象にした実験モノを読んでいます。
この分野はまだまだこういう段階なのですね。
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例えば、こちらの研究。Wu et al2は…
1. 48匹のネズミをランダムにグループ1と2に分類。
2. グループ1はRegular Diet(RD)組、グループ2はFish Oil Diet (FO)組。
 これらの食事を4週間続ける。
3. 4週間後、グループ1aと2aのネズミは人工的にTBIを受傷させる。
 グループ1bと2bはShamなので、prepのみして受傷はナシ。
4. さらに一週間、RDかFOの食事を続け、脳を検査。b0112009_630359.png

加えて各ネズミにcognitive testingも実施。
足の付かない深さのプールに泳がせ、
唯一立って休めるplatformをどれだけ短時間で短距離で見つけられるか、というテストをやらせた結果(足場の位置は一定なので、学習さえすればすぐに短時間・短距離で見つけられるようになるはず、というもの)…Sham-RD、FPI(人工的に怪我をした)-FOグループがほぼ同様に20秒以下で見つけられた=高いcognitive levelを発揮したにも関わらず、FPI-RDグループは断トツのビリ。受傷によってcognitive thinkingの能力が落ちたままで回復も他のグループに比べ見られないことが明らかになりました(↓下グラフA)。
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Neural excitabilityをpromoteし、シナプスの伝達を促進するBDNF (brain-derived neurotrophic factor)のレベルも測定され、Sham-RDとFPI-FOはほぼ変わり無いという結果に。Sham-FOの数値がずば抜けて高いのも特筆すべき(↑上グラフB)。

つまり小難しいことを一切省いてまとめると、
DHAサプリメントはTBI受傷後のoxidative damageを抑圧し、cognitive functionをrestoreする効果がある。故に、TBIの治療における可能性は十分にある。
…ということが言えると思います。

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では、サプリメントの投与を受傷後のみに限った場合はどうでしょう?
Mills氏が行った動物実験は、大まかに以下の通り。3
1. ネズミを 1) injured-10mg/kg/d DHA supplement、2) injured-40mg/kg/d DHA supplement、
 3) injured-no supplement、4) sham injured-no supplement の4グループに分類。
2. グループ1-3は受傷した後、30日間のサプリメントを投与。
 4はprepだけして実際の怪我は与えず。
3. 受傷30日後、脳を検証。

…すると、 APP-positive axons(つまり受傷によって損傷を起こしたaxonの量)がグループ1では7.7 (± 14.4)、グループ2では6.2 (± 11.4) axons per mm2だったのに大して、グループ3は182.2 (± 44.6) axonsだったというのだからこれは顕著な差です。ちなみにグループ4は4.1 ± 1.3(↓下グラフ参照)。つまり、『受傷後のDHAサプリメントは脳の損傷拡大を最小限に防ぐor回復を高め、受傷30日前後で受賞前のレベルにほぼ戻る』という結論付けができます。
Bailes氏の研究も、構造・結果・結論共にこれとほぼidentical。4
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●実験を現実に応用できるか?
さて、これらの実験を丸々現実に移し替え、
「なら脳震盪患者も皆DHA取ればいいんじゃない?」
と結論づけてしまうにはちょっと気が早いかも知れません。その理由として考えられるのは、
1. 実験された怪我はTBI、頭部にincisionを作って人工的に損傷を起こさせているので、
 mTBIである脳震盪に同じ結論がそのまま当てはまると考えてしまっていいのか。
 (mTBIはあくまでTBIの一種ですから。どうも実験に使われている怪我はmTBIと呼ぶには深刻かなと)
2. つーか実験対象ネズミだし。
 人間相手だとちょっと結果が変わってくる可能性はありますよねー。

ですが、DHAサプリメントの副作用もほぼ確認されておらず、老化予防に効果はあることからも、比較的万人向けで、リスクの少ない有効なサプリメントと言ってもいいのではないのかな、と色々調べた結果、私は個人的に考えています。金銭的に許すならば、かなりの人が今日からでも摂取し始められ、長期的で多面的な効果を得られるサプリメントと言ってもいいのではないでしょうか。

将来これが脳震盪治療の主流になってくるかは分かりませんが、
これからもっともっと研究もされ、注目されていく分野かも。
私も現時点で自分の選手にこういった治療法を勧めるかはまだ分かりませんが、
個人的には是非取ってみたいサプリメントではあります。脳みそ、たるんできとるし。

皆さんのところでも、もうこれを採用している!なんてところありますか?
是非専門家の意見を聞かせてください。(文献も面白いのがあれば是非シェアもらえたら嬉しいなー)

1. Hashimoto M, Hossain S, Shimada T, et al. Docosahexaenoic acid provides protection from impairment of learning ability in Alzheimer's disease morel rats. J Neurochem. 2002;81:1084-1091.
2. Wu A, Ying Z, Gomes-Pinilla F. Dietary omega-3 fatty acids normalize BDNF levels, reduce oxidative damage, and counteract learning disability after traumatic brain injury in rats. J Neurotrauma. 2004;21(10):1457-1467.
3. Mills JD, Bailes JE, Sedney CL, et al. Omega-3 fatty acid supplementation and reduction of traumatic axonal injury in a rodent head injury model: laboratory investigation. J Neurosurgery. 2011;114(1):77-84.
4. Bailes JE, Mills JD. Docosahexaenoic acid reduces traumatic axonal injury in a rodent head injury model. J Neurotrauma. 2010;27(9):1617-1624

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  by supersy | 2013-05-27 14:00 | Athletic Training | Comments(0)

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