脳震盪診断シリーズ、一区切り。脳震盪で最低限知っておきたいこと。

以前、脳震盪関連で法的ケースを抱えている方から伺ったのですが、
日本では脳震盪の理解がまだまだ乏しく、頭を打ったわけではないから脳震盪ではない、とか、
意識を失わなかったから脳震盪ではない、とか、CTスキャンで異常は確認されなかった、とか、
そういった被告側の主張でケースが思うように進まなかったり、ということがあるようです。

正直これを聞いて私は本当にびっくりして、
「Concussionはそもそもラテン語で"concutere = to shake"という意味です。頭部に直接衝撃がかからなくても、脳を揺らすだけの力がかかればそれで十分脳震盪なのですよ」と言ったら、
向こうが逆に驚かれて、とても助かります、と陳謝され、
更に私がええ、これくらいで!とびっくりした、なんてこともありました。
日本は脳震盪に関してかなり遅れていると聞いてはいたけど、本当に「頭を打った打たない」が日本の裁判で実際に焦点になっているのだとしたら、これではアメリカの学生レベル以下の知識です。今回の内容は本当に、少なくとも日本の医療従事者の間では「アタリマエ」であって欲しいことですが、一応、明記しておきます。
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今回はSCAT3の基になったThe new Zurich paperを引用しながら書いていきたいと思います。
ちなみにこれも今月発表されたばかりで、脳震盪の文献としては最新・最大の規模のもの。
去年の11月に行われた第四回スポーツにおける脳震盪国際学会(the 4th International Conference on Concussion in Sport)で話し合われ、決められたことを合意声明として発表したもので、書いているのは様々な国の脳震盪の権威。錚々たるメンバーです。Primary authorは例の「SISは本当に存在するのだろうか?」というものすごい切り口の疑問を過去に投げかけた、Dr. Paul McCrory氏で、他のco-author達も文献で見た名前ばかり。Cantu Grading SystemのRobert Cantu氏や、Maddocks ScoreのMaddocks氏もいますね。


1. "Concussion may be caused either by a direct blow to the head, face, neck or elsewhere on the body with an “impulsive” force transmitted to the head. (p.90)"
脳震盪は頭に直接がつーんと物がぶつかったりして、衝撃が加わって起こるものだ、と考えている一般の方は少なくありません。もちろんこれは間違いではないですが、実はそれほど限定的でもないのです。頬骨や顎、首、胸部や背中に衝撃が加わったり、引いては直接どこかを何かにぶつけなくても、交通事故などで起こる急激な原則が原因でムチウチになるように首が大きく振られ、脳が頭蓋骨内で滑り、頭蓋骨内部にぶつかること(sudden movement of the brain)で起こります。これは、前後の揺れだけではなく、横の揺れ、回転的運動でも起こりえます。以前にも紹介しましたね(この記事の前半部分をご覧下さい)。
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2. "[Concussion] may or may not involve loss of consciousness (p.90)."
脳震盪=意識を失うもの、という認識は正しいものではありません。統計的に、90%以上の脳震盪はLOCを伴わないということが確認されています。

3. "[Concussion] is defined as a complex pathophysiological process affecting the brain, induced by biomechanical forces (p.89)" and "the acute clinical symptoms largely reflect a functional disturbance rather than a structural injury (p.90)."
脳震盪というのは、脳の一部から出血が起きたり、脳細胞が死亡したりという状態ではありません。構造的な怪我ではなく、機能的な障害をもたらす怪我なのです。脳内のコミュニケーションの役割を果たす神経細胞・axon(軸索)の一部が引っ張られたりして損傷を起こし、様々な化学物質がそこからリリースされることで、脳内の代謝のバランスが崩れ、脳内の血流が悪くなったりコミュニケーションが円滑に行われなくなったりすることが確認されています。

4. "Brain CT (or MR brain scan) contributes little to concussion evaluation (p.91)."
前述したように、構造上の損傷は伴わないのが脳震盪ですので、脳のCT scanやMR scanでは異常は認められないのが普通です。頭蓋骨の骨折やその他脳そのものの損傷をrule outする目的でこれらの診断画像を取ることは場合によっては必要ですが、これが陰性だからと言って脳震盪はない、とは結論付けられません。見えなくてアタリマエです。診断画像という意味では、今のところfMRI (functional MRI)が有効とされています。これは、患者に数学の問題を解かせたり、特定の動画を見せたりしながら、その間に脳がどういった活動を行っているかを目に見えるよう具現化したものです(↓)。
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5. "No return to play on the day of concussive injury should occur (p.92)."
「脳震盪を起こしても、その症状が5-15分以内で無くなればその場で競技復帰を許して良い」なんて言われていた時代もありましたが、それももはや過去のこと。脳震盪の深刻な影響(特に長期的なもの)が次々と明らかになる中、「一度脳震盪と診断された患者はその日のうちには競技復帰をするべきではない」というのが現在の専門家の一般的な見解です。症状が本当に無いのかどうか確認するのは難しいこともありますし(選手が試合に戻りたい一心で嘘をつくこともあります)、仮に一時的に症状が無くなったとしてもまだ症状が戻ってきたり、脳震盪受傷後すぐは脳が一時的に脆くなっており、次の衝撃がかかるとより深刻な脳震盪を起こし易いことが分かってきているからです。少なくともその日は休み、プロによる診断を仰ぐ、というのが最も適切です。

ここらへんは、医療従事者はもちろん、
ハイリスクスポーツに関わる選手・指導者・親御さんなんかも、是非知っておいてもらいたいなぁ、
と私が個人的に思う脳震盪101です。
日本で脳震盪関連のワークショップやセミナーの開催も増えていると聞きます。
医療従事者の知識の底上げももちろんですが、指導者や保護者、選手自身を対象にした教育の場も、これからどんどん全国的に、学生、アマチュア、プロの満遍無い競技レベルで設けられていけばいいなぁと思います。もし私が次に日本に帰国して(いつになるか分かりませんが)、そういう機会に是非お手伝いできたらとも個人的に感じています。脳震盪の専門家ではないですが、是非こんな私も使ってやってください。
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  by supersy | 2013-03-20 13:00 | Athletic Training | Comments(2)

Commented by Daisuke at 2013-03-21 03:43 x
かつては、魔法の水、なんていうこともいわれていたことを考えると物凄い早さでいろいろ変化していますね。これ以上なく月並みですが、やはり日々のアップデートというのは本当に大事だなと改めて思います。
Commented by さゆり at 2013-04-02 23:32 x
自分らが今教えてる内容も、あと10年もしたら「間違い」になるのかも、と思うと怖いけどね!本当に、一生勉強ですわ。

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