脳震盪の診断:AANの最新"Evidence-Based" Guidelineを考察する。

SCAT3の話を書いたまさに昨日、
The American Academy of Neurology (AAN)がエビデンスに基づいた
最新のConcussion Evaluation & Management Guidelineを発表しましたね!
SCAT3が出てあまりに日が浅いので、もしかして脳震盪診断推進月間にでもなっているのかしらん?とニュースを見てびっくりしてしまいました。
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AANと言えば1997年に打ち出したガイドライン(↑)が最後になっていて、
授業で習ったときも「これらは総じてoutdatedだなぁ」という印象を受けていました。
しかし、今回AANが過去57年のエビデンスを総結集して再編した新たなガイドラインがこちら

気がついた点をピックアップしてなるべくさらりとまとめたいと思います。
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●ハイリスクスポーツ(→)
男:フットボール、ラグビー、アイスホッケー
  (アメフトはポジションで言うと
  特にOL, LB, DB)
女:サッカー、バスケットボール

●防具の効果性
ラグビーのヘッドギアは脳震盪予防効果あり。
一方でマウスピースの予防効果は確認されず。
フットボールヘルメットが、どのメーカー・タイプのものが特別良いと結論付けるのに十分はエビデンスは今のところ存在しない。

●選手自身の要素
BMIが27kg/m²以上、もしくは練習・トレーニングが週に3時間に満たない選手は脳震盪のリスクが増える。

●脳震盪の疑いがある患者の有効診断法
Post-Concussion Symptom Scale (PCSS)とGraded Symptom Checklist (GSC)は脳震盪の診断に有効(sensitivity 64-89%, specificity 91-100%)
Standardized Assessment of Concussion (SAC)も有効(sensitivity 80-94%, specificity 76-91%)
Neuropsychological testingは筆記もコンピュータータイプも両方効果的(sensitivity 71-88%)。ここは、特記されていないけれどImPACT Test系のものたちのことなのかな?思春期前の若い患者に対しての使用はまだverifyされていない。
BESSはイマイチと言ったところ。low-to-moderate accuracy(sensitivity 34-64%, specificity 91%)
Sensory Organization Test (SOT)もイマイチ。low-to-moderate accuracy(sensitivity 48-61%, specificity 85-90%)
テストは、単独よりも複数を組み合わせたほうがより効果的である。しかし、どの組み合わせがベストなのかを結論付けるデータは不十分。

●選手が脳震盪の疑いがある場合、どうやってより深刻な患者を見極めることができるか
PCSSとGSCのスコアが高い、SAC、Neuropsychological test、SOTのスコアが低い、BESSでエラーが多い場合はより深刻な脳震盪であると言える。

●選手が脳震盪を受傷した場合、どういった要素があるとよりこの脳震盪が深刻である、症状が長く続くかもしれない、と予測できるか
以前に受傷した脳震盪の症状が今も続いている状態である、過去に脳震盪をsustainしたHistoryがある、などと言う場合が当てはまれば、新たな脳震盪を受傷したときにそれがより深刻になりやすい。
患者が若ければ若いほど、脳震盪からの回復にも時間がかかる傾向がある。
また、アメフトにおいて人工芝でプレーにしていた最中に受けた脳震盪は天然芝よりもより深刻な脳震盪につながり易い、という結果も。
脳震盪を過去に受けたことのある患者は、二度三度と受傷しやすい。特に一度目の脳震盪を受傷してから10日間以内は次の脳震盪を受傷しやすい状態にある。更に、過去に何度も脳震盪を経験したことのある患者は、慢性的なneurobehavioral impairmentを起こし易い。

●効果的な治療
今のところ、脳震盪受傷後に回復を早めるのに効果的な治療、慢性的な症状を予防する方法などは見つかっていない。


これらを踏まえた上で、AANが今回推奨している「すべきことたち」は:
● Pre-Participation Counseling
経験のあるLicensed Health Care Provider(LHCP)が選手とその周りの大人たちを教育すべき。

●脳震盪の診断、管理
選手が脳震盪を受傷した疑いがある場合、すぐに競技を中止させ、experienced LHCPが診断をするまで復帰させないこと。この際、LHCPはbaseline scoreと複数のテストを使用し、総合的に脳震盪の診断を行うこと。

●脳震盪後の競技復帰
LHCPによる診断で、(頭痛止めなどの)薬を飲んでいない状態で症状が完全に無くなってから復帰を試みること。患者が高校生かそれよりも若い場合、よりconservativeになること

●複数の脳震盪受傷による、競技続行の中止
プロの選手が複数の脳震盪受傷経験があり、長期のNeurobehavioral impairmentに悩まされている場合は長期的な脳に起こる致命的な変化についてLHCPが患者を教育した上で、脳神経医などの専門家に委託すること。

…こんな感じでしょうか。やっぱりな、と思うものがほとんどですが、
個人的に、あまり知識が無かった、面白い!と感じた部分に赤で色をつけてみました。
最近の法律の変化にも通じるところがありますが、やはりAANの新しいガイドラインでも、
「選手・患者の身近に精通した医療従事者がいること」と最重要視しているのが明らかです。このAANのガイドラインに関して、NATAの現プレジデントであるJim Thornton氏も賛同を示しています。
…これが発表されたってことは、以前のトレンドであった「脳震盪の深刻度をGrade付けする」という動きはなくなった、と見ていいのでしょうか?実は私は個人的にアレは無意味だと思っていたもんで…。脳震盪がいかに深刻だったか、なんて症状が完全に治ってからじゃないと言えないじゃないですか。脳震盪自体はたいしたこと無くて、患者はLOCが全く無い、記憶障害もない…けど、頭痛がもう2ヶ月も続いている、というケースより、患者が受傷時に意識を5分ばかり失ったけど、1週間で全ての症状が消えた、というケースのほうが、格段にGradeが軽いと言えるでしょ?でも、現在のGrading Scaleでいうと、逆になってしまう場合もある。脳震盪が起こったときにこれはGrade 1、3、とか数字を課すことに必死になるよりも、ひとつひとつの脳震盪をケースバイケースでユニークなものとして扱い、多方面から診断して、回復まで慎重に待つ…に勝るものは結局今のところないのかな、と個人的には思います。
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  by supersy | 2013-03-19 09:05 | Athletic Training | Comments(4)

Commented by Y at 2013-03-21 01:26 x
既に読んだかもしれませんが、4th international conference concussion in sportがペーパーになってますね。おせっかいかもしれませんが、リンクをどうぞ(読者の人にも、という意味もこめて)。
http://bjsm.bmj.com.proxy1.cl.msu.edu/content/47/5/250.long
Commented by さゆり at 2013-03-21 03:13 x
読んでいました、書いていました(笑)。素晴らしいタイミングですね、ありがとうございます!
Commented by 石川 愛恵 at 2015-04-13 12:51 x
初めまして。2年前に神奈川から札幌に家族で越し、小学生6年の息子と5年の娘がアイスホッケーをはじめ、脳震盪なども起こすので、こちらを拝見させていただいております。

息子は幼稚園の頃から、いわゆる「脳震盪」を数回起こし、先週に練習での軽い脳震盪で計7回ほどになりました。

この先を案ずるより、アイスホッケーはやめさせますが、他のスポーツに移行するのに、脳震盪評価テストなどを受けさせて、現状を把握したいと思いました。

米国では、小学生はアイスホッケーの「チェック」は、させないと伺ったり、シーズン初めには皆さんImpact baseline concussion testingをしていると伺いました。

札幌でIm Pact テストなどする病院を探しましたが、今のところありません。

調べて日本語版があるとか、ですが、御記載の通り、判断基準を複数合わせて出すのがより良いとも思えます。

夫が内科精神科医で、チームのご父兄にも医師がいるので、評価テストの購入をし、独自で始めるのも方法の一つかと思われます。が、私は、スポーツ選手でも、医療関係者でもないので、どうしたらいいかな?代わりの人がいないかな? と考察中です。

日本、札幌は特に脳震盪への対応が無く、コーチ陣も、海外のリサーチを求める事がないので、いざ息子のスポーツへの進退を決めるには、医療関係者でもない母親がネットサーフィンをして、決断するしかない?なんとも貧しい環境です。

米国で勉強していたこともあるので、英文はまだ理解できます。

このままですと、愚痴で終わってしまうのですが、
子どもたちが属するチームのみでなく、札幌のスポーツ界へ、貴殿のご研究のリサーチ、ご意見などをお知らせし、みんなで勉強して、意識を高めて行きたいと思っております。

これからもどうぞよろしくお願いいたします。 石川愛恵




Commented by さゆり at 2015-04-15 10:48 x
石川様、コメントありがとうございます。こんな垂れ流しのようなブログでも何かのお役に立てれば幸いです。アメリカでは脳震盪のこじらせケースには神経系の専門医に委託することもありますが、日本ではそういう方も数少ないのでしょうか。改善すると良いですね。

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