股関節唇損傷(Acetabular Labral Tear)について。その2・完結編。

さて。前回はGold Standard→Diagnostic Imagingまでreviewしたところでした。
今のところ、
 - Hip ArthroscopyがGold Standard
 - 画像診断はMRA、条件によってはCTやUltrasoundも効果的か
…という感じでしたね。
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それでは初心に戻って、エビデンスに基づいて
HOPSの順でもう一度症状の出方をおさらいしてみると、どんな感じでしょうか。

●History
 - Chief Complaintを再確認しよう!
Anterior groin painはほぼ間違いなくpresent(私が独自に4つの研究結果をまとめたところ、sensitivityは94%1,6-8)だが、acetabular labral tearに限った症状であるとは言えない(specificity 4%7)。Anterior groin painに加えてposterior and/or lateral hip painが出ることもあるが、あくまで『Anterior groin painに加えて』という記述なのにご注意頂きたい。逆に言えば、Anterior groin painが無くてposterior hip painのみがpresentだったりすると、SIかな、という思考になったりしますわな。

Mechanical symptoms、中でもClicking (動きに伴うポキッとかガリッとか、何かが引っかかるような音を聞いたり感じたりすること)は診断に使える症状のひとつということが分かっています(同様に、総合のsensitivityは70%6,7,9,10、specificityは92.1%7,9)。
このとき、intra-articular clickingとextra-articular snappingをしっかりと区別すること!股関節周りには、他にもIT bandやIliopsoasなど、clickingの原因となる可能性のあるextra-articular structureがたくさんあります。Martin et al.11は、"股関節の内旋外旋(IR/ER)で起こるclickingはlabral tearによるもの。股関節伸展状態から屈曲したときに起こる、股関節前方のclickingはIlippsoasがiliopectineal eminanceかfemoral headの上をsnapして起こっているもので、股関節の横(lateral)で起こる屈曲時からの伸展で起こるclickingはITBがGreator trochanter上を動いて起こるもの"という興味深い表記を残しています。経験からくるstatementで強いエビデンスとは言い難いですが、参考にはなるかなと。

●Observation/Palpation
 - Deep structureなので目に見える変化や触診による痛みは特になし
逆に言うと、目に見えて腫れや変色があったり、触診で圧痛があったりすると、
Intra-articular pathologyではない、別のもの、という考え方ができます。

●Special Testing
 - すぺしゃるてすといっぱい
FABER, Resisted SLR, Impingement, Fitzgerald, Hip Quadrant, Hip Scour…
様々なテストが提案されたものの、中でも研究された優れたものを、となると話は別です。
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Hip ScourとHip Quadrantは未開の地。研究がほぼなされていません。
Hip Scour(↑)のintra-rater reliabilityが0.87ICCというだけ。
偏見かもしれないけど、Hip Scourって使えるんじゃないかと思うの…。誰か研究して下さい。

 - ダメそうなものたち
研究された上で、Acetabular labral tearの診断において実用性の無さそうなものたちは
Resisted SLR Test(患者の患側の足を約30°active SLRさせ、膝上部に手をおいてresist、groin painが出れば陽性↓)とTrendelenburg Sign。Glu Med weaknessが必ずしもAcetabular labral tearとcorrelateしていないというのは私の中ではちょっと面白い発見。だってChronic acetabular labral tearの場合、患者がGlu Medを上手く使えてないとassumeしがちじゃないですか?まぁ、あくまで診断の要素として使えないというだけであって、必ずevalの中には含まれるべきだと思うけれど。
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 - よさそうなものたち
色々研究を読んでみて、ふたつのspecial testが実用性があるかなぁという印象です。
そのふたつは…
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御存知の通り、このFABER(またはPatrick)TestはSI Joint Dysfunctionにも使われるので、陽性であった場合、「痛みがどこから来ているのか」をexaminerがしっかりとidentifyすることが大事。Posterior hip (over SI)ならばあくまで「SIに陽性」なのであって、Acetabular labral tearの診断を目的としている場合は陰性に等しい結果ということになります。

もうひとつは…
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このテスト、あまり有名ではないと思うのですが(私は実際大学でも大学院でもこれを習っていません)、Impingement Testがもっとも研究されていて、且つ最も実績を上げているというテストになります。テスト自体は至ってシンプル。Examinerがpassiveに股関節をflexion (90°)、internal rotation、そしてadductionに持っていく。つまるところ、femoral head-neck junctionの辺りをanterior superior labrum(最もtearが起きやすい箇所)/acetabular rimに押し付けるイメージです。そして、groin painが起これば陽性。(個人的にちょっと不思議に思ったのですが、clickingのみだと陰性だそうです。ふむ)
このふたつのspecial testの統計はこんな感じ(↓)。
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完璧とは言えませんし、まだまだ研究は必要ですが、他のものに比べればdiagnostic valueがあり、他の要素と組み合わせて十分effectiveな診断が可能なのでは、という数値です。

そんなわけで、要約すると、
 - Anterior groin painがある。
 - Intra-articular clickingがある(特に内旋・外旋時)。
 - Observation, Palpationでは特に何もremarkableなものがない。
 - FABER test、Impingement testが陽性である可能性が高い。

という診断内容であれば、患者を専門家にreferしたほうが良いでしょう。
その際の画像診断はMRAが好ましく、諸事情で無理ならCTかUltrasoundで代用。
そして最終的にはHip Arthroscopyで確認…という流れでしょうか。

しかしこの題材、久しぶりに苦労しました。
やっぱりこういうタイプの怪我で、クオリティーの高い研究を見つけるのは難しい!
subjectを集めるのも大変だろうし、(arthroscopyするとなれば)お金も技術者も要るし、
中にはMRAをGold standardとして使っている研究も多く、
デザインがconvenience寄りになってしまいがちで、どの数値に信頼性があるやら。
なので、上はあくまで私が様々な研究を見たまとめですが、他のATC/PTで
「いや、そうではない」と思われるベテランの方がいらっしゃる可能性もあります。

ここまで読んでくださった方の中でも、
珍しい怪我だしこれくらい知っておけば今は十分かな、と考えられる方もいるでしょうし、
ちょっと興味が湧いたから自分でももっと調べてみよう、でもいいかも知れません。
私が今回ここに挙げなかったspecial testもまだまだ他にもいっぱいあるのです。
サッカーやダンス・パフォーミングアーツ等に特化されているATCの方は、
それらにもっと精通している必要があるかも知れませんね!

しかし、これのどちらも「珍しい怪我なら知らなくていいや」という態度とは全く違うものです。
珍しい=知らなくて良いでは困ります。PTやMDならば「特定の怪我を持つ患者が専門家であるアナタを選んで会いに来る」ということが可能ですが、ATCは全ての怪我にそれなりに精通していなければならない。何故なら、あなたは特定の患者を抱えているのだし、患者は怪我を選べないからです。

そんなわけで、股関節周りだけでなく、「腰痛の診断が苦手」「肩がちょっとよく分からないなぁ」という苦手分野を抱えているATC、もしくはATSの皆さん。その自覚があるのは幸いなこと!今のうちに自分でEvidenceを調べ、自分なりの診断基準を作って準備しておきましょう。いざ患者と面と向かって診断となれば、用意しておいたプランどおりにはいかないかも知れない(i.e. pain levelが高すぎるetc)。でも準備をしている、ということが大切なのです。

1. Burnett RSJ, Rocca GJD, Prather H, et al. Clinical presentation of patients with tears of the acetabular labrum. J Bone Joint Surg Am. 2006;88(7):1448-57.
4. Troelsen A, Mechlenburg I, Gelineck J, et al. What is the role of clinical tests and ultrasound in acetabular labral tear diagnostics? Acta Orthopaedica. 2009;80(3):314-8.
6. Fitzgerald R. Acetabular labrum tears: diagnosis and treatment. Clin Orthop Relat Res. 1995;311:60-8.
7. McCarthy J, Busconi B. The role of hip arthroscopy in the dianosis and treatment of hip disease. Can J Surg. 1995;38:S13-7.
8. O'Leary J, Berend M, Parker T. The relationship between diagnosis and outcome in arthroscopy of the hip. Arthroscopy. 2001;17(2):181-8.
9. Narvani AA, Tsiridis E, Kendall S, et al. A preliminary report on prevalence of acetabular labrum tears in sports patients with groin pain. Knee Surg Sports Traumatol Arthrosc. 2003;11:403-8.
10. Farjo L, Glick J, Sampson T. Hip arthroscopy for acetabular labral tears. Arthroscopy. 1999;15:132-7.
11. Martin RL, Enseki KR, Draovitch P, et al. Acetabular labral tears of the hip: examination and diagnostic challenges. J Orthop Sports Phys Ther. 2006;36(7):503-15.
12. Beck M, Leunig M, Parvizi J, et al. Anterior femoroacetabular impingement: part II. Mid-term results of surgical treatment. Clin Srthrop Relat Res. 2004;67-73.
13. Ito K, Leunig M, Ganz R. Histopatholigic features of the acetabular labrum in femoroacetabular impingement. Clin Orthop Relat Res. 2004;262-71.
14. Mitchell B, McCrory P, Brukner O, et al. Hip joint pathology: clinical presentation and correlation between magnetic resonance arthrography, ultrasound, and arthroscopic findings in 25 consecutive cases. Clin J Sport Med. 2005;13:152-6.

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  by supersy | 2013-02-20 18:00 | Athletic Training | Comments(0)

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