キツツキは何故脳震盪にならないのか、フクロウの頸動脈は何故切れないのか。

…って、もはやAthletic Trainingには関係ないですね。
某ゆっけ氏が(もはや隠れていない)Facebookに載せていた記事を見て、
動物特集もたまにはいいなかぁと思い立ったので、つらつらとまとめてみます。
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まずはキツツキ。
一応、元日本野鳥の会・会員として言わせていただくと、『実はキツツキという名前の鳥はいない』というのご存知でしたか?キツツキ科キツツキ目という分類名はあるものの、固有種名はアカゲラ、クマゲラ、コゲラなど、「~ゲラ」で終わるものがほとんどです。木を突く習性のある鳥を総じてキツツキと緩く総称しているだけで、キツツキという名前の鳥は実は存在しないのです。意外に知らない人が多いので、豆知識まで。

さて、このキツツキですが、一秒間に20回という速さでクチバシで木を叩き、穴を掘ることで知られています。衝撃も…身体がこのサイズにしては、かなりだと思いませんか?これほどの速さでアタマを着に打ち付けた場合、頭部にかかるチカラは重力の1000倍を超えると言われています。生身の人間が耐えられるチカラは平均46Gだと言いますから、まーとんでもない自殺行為です。どうしてこんな状況を生き延びられるのでしょう?
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●目玉が飛び出さないために
これだけのチカラがかかるとなると、アニメのようですが本当に「目玉が飛び出す」という現象が可能になってしまいます。それを防ぐために、extra protectionが必要になってくるのです。だって、打ち付ける度に目玉拾いに行ってたら…大変でしょ?実際に、交通事故の被害者なども、眼球にかかる衝撃で目の周りで血管の損傷が起こったり、神経が損傷を起こしたり、ということは珍しくないと聞きます。
実はキツツキには、上瞼と下瞼に加えて、隠された3枚目のマブタ(nictitating membrane)があるそうです。木を突く瞬間に、木のクズが目に入らないようキツツキは目を瞑るのですが、そのときにこの内側の分厚い3枚目のマブタが、眼球に対してシートベルトの役割を果たすそう。そうでもしないと、加速力で網膜剥離は間違いないというのだから、命がけの進化です。
詳しく知りたい方はこちら

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●ムチ打ちにならないために
ニンゲンは、交通事故の衝撃で首が大きく振れ、首周りの筋肉がspasmを起こしてムチ打ちになってしまうこともよくあります。キツツキだって同じハズ。どうしてムチ打ちにならないの?
キツツキの首の筋肉はニンゲンとは比べ物にならないほど強靭に発達しており、そのムキムキもりもりの筋肉を木と接触する瞬間に緊張させることで衝撃を吸収しているのだそう。

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●脳震盪を起こさないために
どうして脳震盪を起こさないのか?その答えは、頭部の構造にあります。
脳そのものがニンゲンに比べて小さいというのももちろんですが、
キツツキは上クチバシが下よりも1.2mmほど短くできていて、可動性があるそう。
更に、Hyoid bone (舌骨)の造りも独自に発達しており(↑上写真の部分)、クチバシから頭蓋骨上方にまでくるりと丸まって伸びており、文字通りシートベルトのような構造をしています。この上下の構造の違いと可動性の効果で、衝撃が加わった瞬間、脳を回避・直接衝撃をかけずに頭蓋骨の後底部にチカラを受け流すという離れ業ができるのだとか。
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そもそも脳のOrientation(向き)がニンゲンと違うということも一役買っているよう。
ニンゲンのように「横向き半月」よりも、キツツキの「縦向き半月」状態のほうが、前後の衝撃に強いそうです。頭蓋骨内に脳がぶつかっても表面積が多いのでチカラが逃げやすいですよね。
衝撃の短さももうひとつの要因です。NFLの調べによれば、フットボールで脳震盪が起こる場合の衝撃はおよそ15ミリ秒ほど(ほんの一瞬)らしいのですが、キツツキが木を突くその衝撃がかかるのは0.5~1.0ミリ秒とその更に15~30分の一の短さです。CSFも少なめで、ニンゲンほど遊びがない→きつきつに詰められている→脳が頭蓋骨内で回転を起こしにくく、より安定するという一面も。頭蓋骨そのものも硬く出来ているというより、スポンジ状のスカスカ骨(↓)で、まるで梱包材で包んでいるよう。
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こういったキツツキの特殊構造を、フットボールのヘルメットに採用することで
脳震盪予防を更に高められないか、と考える専門家もいる
ようです。
もちろん、出来ることと出来ないことが出てきますけどね。

参考文献:Gibson LJ. Woodpecker pecking: how woodpeckers avoid brain injury. J Zoo. 2006;270(3):462-5.


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さて、お次はフクロウ。
こちらは短めに。

フクロウは首をぐるりと270度回せることで有名です。
首周りのAmatomyはとてもデリケートです。ニンゲンがそんな極端に首をぐるぐる回したりしたら、神経に損傷が起こったり、大事な大事な頸動脈たちが切れてしまうかもしれません。頸動脈は御存知の通り、脳に血液を送る大切な役目を果たしており、これに損傷が起こるようなことがあれば、脳に血液が行かなくなる→4-6分で脳が壊死を始めると言われています。直接命に関わる恐れがあるため、ATは首周りの怪我の評価や治療には特に慎重になるくらいです。

しかし、フクロウが、「首を回しすぎて血管損傷して死んだ」とか、
「首を回しすぎて血管が挟まれ、脳への血流が遮られてしまい、死んだ」などというマヌケな報告は、今までに聞いたことがありません。これは、どうしてなのでしょう?

実は、フクロウの首周りの血管なんですが、Mobilityを上げるために、
 1. 血管が全てのVertebraをsupplyしていない
 2. 血管の通る穴がニンゲンに比べてとても大きい→故に、挟んだり損傷したりが起きにくい
という「血管そのものにtensionがかかりすぎないよう、ゆったりとした構造がされている」という特色があるほか、血管の染色と解剖の結果、とんでもないことが分かったそうな。

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これは百聞は一見にしかずなので、上の絵を御覧ください。フクロウの頭蓋骨のすぐ下で、血管が少し膨らんで血が溜まっているのが分かりますか(↑絵の中央と右上)?これは、言うなれば血の貯蔵庫。万が一首の過多な動きによって血流が遮られるようなことがあっても、この「予備」の血を脳に送れる余裕があるというわけ。フクロウが首を回すといっても、extreme ROMの状態で10分も20分も動かないわけではないから、数分くらいならばこの予備の血液で事足りるというわけ。まさに、フクロウならではの独自の進化です。

この絵は「フクロウの知られざる解剖学をよく描写している」ということで、これを描いた研究者・de Kok-Mercado氏はthe National Science Foundation's annual contest for visualizing sciencesの2012年イラスト部門第一位という賞を獲得したそうな。


ずっと前に馬の話を書いたこともありましたが(わ、もう7年も前だ)、
たまには人間以外のモノについて考えてみるのも面白いですね!
獣医さんはこんな様々な種類の、様々な解剖学を満遍なく知っていなければいけないのか…
何て大変な職業なんだ!こちとら、ニンゲンだけで手一杯!
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  by supersy | 2013-02-02 20:30 | Athletic Training | Comments(0)

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