Neuroplasticityについて考える。
CTEについて初めて学会で講義を聞く機会があったのが一昨年の夏。
それから大分経って、『CTE』という言葉もアメリカになかなか浸透してきたのかな、という印象です。今ではESPNのニュース等でも、CTEというフレーズが使われていますからね。
日本は脳震盪然り、こういった分野の理解がまだまだだと聞きます。
以前にまとめた記事のリンクを張っておきますので、
- NATA Convention in New Orleans その2。(2011年6月21日)
- CTEについて追記。と、色々。(2011年7月13日)
この機会に「Chronic Traumatic Encephalopathyって何か聞いたことがない・よくわからない」という方は是非読んでみてもらえたらと思います。
私が思うCTEの怖いところは、「脳震盪と一度も診断されたことがない選手もCTEを発症していた」という事実ですかね。選手が脳震盪を過去に起こしつつも隠していた、という可能性も否定はできないけれど、やっぱりsub-concussive forceの蓄積でもCTEが起こり得る、というところは私達がスポーツ医学の専門家として改めて認識しなければいけないし、それをいかに一般市民にも知らせるか、知らせた上で、本当にこのスポーツ(特にアメフト等)をやりたいのかを確認する必要があると思います。今回の件も訴訟沙汰になっていますし、これからはNFL選手が全員「CTEになっても訴訟しません」という誓約書にサインさせられる可能性は十分にあるでしょうね。
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さて。脳みそつながりでこんな話でも。
今週はというと、遠征でNew Orleansに来ています。
シーズン中は飛行機での移動も多く、その時間を少しでも有効に使おうと
今年は「仕事に直結しないようで直結する」というテーマで色々と本を読むことにしています。
…で、最近読み終わったのがこの本!
ATCさんたちには是非読んでみてもらいたい一冊です。
内容をざっくりを説明すると…
しかし、最近の研究で、"Our brain is plastic = 脳は私達が思うよりも自己形成力に長けており、常に自分自身を環境に適用するように変化させ続けている"ということが分かってきているのです。この「神経が自身を再形成させる能力がある」ことを、Neuroplasticityと言います。
(Neuro ="neuron," Plastic = "changeable, malleable, modifiable") 日本語では可塑性(かそせい)というみたいです。
例えば、患者が脳卒中で倒れ、身体が麻痺したり、まともに喋ったり食事を取れなくなったりするケースがあります。これは、脳の一部に血流が届かず、壊死することで起こるわけですが、この時に死んだ脳の機能回復はほぼ見込めないとされてきました。最近の理学療法では「患者がERにいるうちに、受傷後なるべく早く始めればそこそこの効果が挙げられる」とされ、患者がまだ意識を取り戻さないうちからのリハビリも広まりつつありますが…。この本には脳卒中後、何十年と経った後でも、このPlasticityを利用した特殊なやり方で、医者も匙を投げられた患者たちが次々に機能回復していくエピソードが描かれていたりします。
その他にも、薬の副作用で三半規管がやられ、バランス感覚を全く失ってしまった女性が、舌に取り付けた装置を装着して徐々にバランス感覚を取り戻し、最終的に装置無しで全く普通に生活できるようになった話や、言語障害、Autism(自閉症)、OCD(脅迫障害)の患者もトレーニング次第で治ったという逸話が次々と紹介されていて、時間さえあればずっと読んでいられるような、どんどん引き込まれる内容です。患者さん自身の努力もそうだけど、やっぱりクリニシャンのアプローチが斬新で面白い!
まぁ、脳卒中の患者を私が看ることは今のsettingで働く限り無いかと思うのですが、
この神経系、中でもCNSに働きかける整形外科のリハビリ、というのを
ここ数年私も色々と模索しているところでした。色々ヒントを頂きました。
怪我そのものや、怪我の原因が脳そのもののシグナル伝達にあるとしたら、
筋肉や靭帯をいくら治療してもそれは一時的な効果しかありませんよね。
この本を読んで、たくさんたくさん目からウロコでした。
中でも"Plasticity is competitive"
"Neurons that fire together wire together"というre-wireのシステムを、
これから私がいかにアタマに入れて仕事ができるか…というところ、
自分でも特に意識していきたいなぁ。
neuron同士のコネクション・伝達の速さが多少変化するもの。
CNSに働きかけるリハビリを20-30分もすれば、患者がリハビリを終えて帰る頃には、
その身体に何らかの変化が起こっているはずなんです。
刻々と、人間の身体は、脳は、与えられる刺激に対応して変化しているのです。
「この患者が来たからまた今日も昨日と同じこのメニューを」ではなく、
「今日はどんな変化をターゲットし、また患者をそれにどれだけengageさせられるか」
というアプローチで行きたいなぁ。
by supersy | 2013-01-24 23:30 | Athletic Training