DVTのClinical Diagnosis: 良くないものは、淘汰される?

Deep Vein Thrombosisについては以前にまとめたことがあるのですが、
この時は、「意外とマイナーな下肢の怪我の後でも起こるんだよ」
「Pulmonary embolismを起こして生死に関わることがあるよ」という話をしただけだったので、
今回は、ではいざDVTの可能性がある患者を目の前にしたときに、
ATCがどのように評価ができるのかという話をしたいと思います。

ATCが、と限定したのには訳があって。
例えば手段を問わなければ、現在ではDVTの診断におけるGold Standardはvenographyとどの文献でも明言されているのですが、かと言って「可能性がある」患者を片っ端から医者に送りつけても仕方ないし、医療システムの最前線で戦う我らATCだからこそ、refer/not referを決める、non-invasiveで手早いスクリーニング方法が必要になってくると思うのです。

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●Homans' Sign
恐らく、DVTを診断する上で世に最も知られ、受け入れられているであろうこのテスト。
患者の足首をPassiveにDorsiflexするだけ、という、至ってシンプルなもので、
この動きによって患者がPopliteal regionや、ふくらはぎの痛みを訴えれば陽性。

…しかしその一方で、そのDiagnostic valueはというと…
Cranley氏1の研究によれば、統計は以下の通り。
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Diagnostic valueは残念ながらほとんど無いと言っても良いでしょう。

ここでちょっと補足…。そもそも私が今回文献を調べてみてびっくりした点は、
Dr. John Homans自身はこのサインをHomans' Signとも名付けていないし、
素晴らしく正確なテストであるとも全く述べていないという事実です。
彼自身は「(このサインは)The dorsiflexion signと呼んで頂きたい」と明言しており、テスト自体の「DVT患者の一部にしかpositiveは確認されなかった」というその正確性の欠如も認めていたり、陽性の定義は必ずしもふくらはぎの痛みでなく、「あくまで逆と比べての違和感のみでいい」のだ、と言っていたり…とにかく、私達が現在Homans' signとして認識しているものは、彼が元々提唱したものとは姿形がだいぶ変わってしまっているようです。2
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ちなみにこのHomans' Signに関してはいくつかのバリエーションがあり(↑)、
「足首をDorsiflexする」点はどれも共通なものの、「膝は完全に伸展したまま」というものと、「膝は軽く屈曲させる」というものと、二種類あります。「膝を曲げる」派の主張としては、腓腹筋の緊張を取り除くというのと、(炎症を起こしているであろう)Posterior Tibial Veinが膝を屈曲することで引っ張られ、痛みを生む、と考えられているからだそうで(何故膝を曲げることでPosterior Tibial VeinにTraction forceがかかるのか、という肝心な説明は誰もしてくれていないのですが)。Dr. Homans自身はどのようにやっていたのかとOriginalの文献を見てみたら、「足首をDorsiflexさせる段階で、患者自身が自然に膝を軽く曲げるようであればそれは許容して構わない」という、以外にもユルい描写をしております。3 Examiner自身が無理に伸ばす必要も曲げる必要も無いみたい。

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●Calf Swelling
前述したCranley氏1の研究で、最も数字が良かったのは何と意外にも「単純にふくらはぎの腫れの具合をテープメジャーで測る」というCalf Swellingの計測。
患者を仰向けに寝かせ(写真はちょっと異なりますが)、膝を少し屈曲させた状態で、ふくらはぎのCircumferenceを測る。健側と比べて、男性なら15mm以上、女性なら12mm以上の違いがあれば陽性…ということみたいです。ここを測りなさい!という場所の指定は特に記述に無いので、とりあえず同じLandmarkを使っていれば良いのでしょうか。
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統計を見ると、かなり優秀。Rule inもoutも出来る数字ですね。

●(Original) Wells Score and Modified Wells Score
その他に、特定のSymptomsやHistoryの有無を調べ、幾つ当てはまるかでConditionの存在している危険性を測る、Clinical Prediction Ruleがあります。有名なものはWells Score。
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Original Wells Scoreでは、「患者に現在進行・治療中の癌があるか」等の8項目の質問と(それぞれ当てはまれば一点加算されます)、最後に「DVTと同等かそれ以上のalternative diagnosisが有り得る」という項目が当てはまればマイナス二点。八点満点で採点されます。Modified Wells Scoreもこれとほぼ同様の手順で、最後にもうひとつ「以前にDVTと診断されたことがある」という項目を加えたのみ。つまり、九点満点になるわけですね。
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…で、この八点もしくは九点満点のうち、0点ならばLow Risk、1-2点ならばIntermediate Risk、そして3点以上ならばHigh Risk、と患者をカテゴリー分けすることができるわけです。こうして患者をスクリーンすることで、誰がfurther eval procedureが必要かをふるい分けできるということに。

…で、このTestの統計はというと…
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Rule inするのに十分な数値です。Engelberger et al4による約300人と対象にした大規模な研究結果でも、「Wells ScoreもModified Wells Scoreも同様にDVTの診断に役立つ」という結論付けがなされています。「特にproximal DVTとoutpatients(外来患者)の場合は」という条件付き。逆に、Isolated distal DVTの場合とinpatient(入院患者)の場合の数値はあまり良くなく、決してusefulとは言えない、という面白い記述も。

他にもCalf tenderness (ふくらはぎの張りと痛みの有無を聞く、指でふくらはぎを押すのもアリ)というテストや、Popkin's signなど、スペシャルテストは数々ありますが、きちんと研究されていないか、数値はまぁまぁ、という感じのものがほとんど。私が文献を調べた結果としては、

  1) Homans' Signはもはや使わない、使えない
  2) Calf swelling, Wells Score (Original & Modified共に)のほうが診断における
   実用性ははるかに高く、これからの教育ではClinical Signs & Symptomsと
   Its Courseと共に、重点を置かれるべきもの

…であるということが言えるかな、と思っています。
そういうわけで、今学期(明後日からいよいよ始まります)の下肢評価の授業では、
Homans' Signは触るだけにして(昔はこんなテストがあったけれども…と)、
Wells ScoreとCalf Swellingのテストの重要性を強調していかなければ。
教育界って難しい。数年前まで当たり前に教わっていたことが、もう間違いだったりする。
EBPを押している今だからこそ、EBPに沿った教育をしなければ、と思うけれど、
だからこそ、私自身も積極的に文献に触れていかなければ!と思うけれど、
まだまだ変革の真っ只中だから、例えばBOCやState Licensure ExamにHomans' signが出題される可能性だってある。…いや、BOC Examではもう出ないかも知れないけど、TexasのState Examでは十分有り得ると思う。残念ながら。教師として、どちらの可能性も考えながら、どちらにも学生が対応できるように教育していかなければいけないのだ。Evidenceによって「実用性無し」と判断されるものはこれからどんどん淘汰されていくのだろうけれど、完全に移行を終了し、全ATCにEBPが浸透するまでに時間はかかるわけで。いや、全ATCには永遠に完全には浸透しないかもしれない。この流れに乗り切れない、強く抵抗を続ける人たちも出てくるでしょう。
そういうものも淘汰されて、真のEBPなのかな、と。

Evidenceが将来的に数多くのセオリーや仮説を否定していくであろうように、
考えが古く、向上心の無いATCたちもこれから居場所を失い、いなくなっていくのかも。
そうして、ATCという職業が根本的に改革されていくのかな、という気もしています。

   "When you are finished changing, you are finished."
ベンジャミン・フランクリンの有名な言葉ですが、プロのATCとしても、人間としても、
これからもBe Open-Minded & Skeptical!をモットーに生きていきたいと思います。


1. Cranley JJ, CAnos AJ, Sull WJ. The diagnosis of deep venous thrombosis: fallibility of clinical symptoms and signs. Arch Surg. 1976;111:34-6.
2. Sternbach G. John homans: the dorsiflexion sign. J Emerg Med. 1989;7:287-90.
3. Homans J. Thombosis of the deep veins of the lower leg, causing pulmonary embolism. N Engl J Med. 1934;211:993-7.
4. Engelberger RP, et al. Comparison of the diagnostic performance of the original and modified wells score in inpatients and outpatients with suspected deep vein thrombosis. Thromb Res. 2011;127:535-9.
5. Wells PS, et al. Accuracy of clinical assessment of deep-vein thrombosis. Lancet. 1995;345(8961):1326-30.

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  by supersy | 2013-01-21 21:30 | Athletic Training | Comments(0)

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