足首のテーピングとサポーター、どっちがいいの?

って、よく聞かれるんですよね、うちも選手にも。

D-Iのバスケチームだとよくある話ですが、うちのコーチ達が選手全員に、
「練習・試合時には必ず足首のテーピングもしくはサポーターをするように」とお達しをしているため、選手はどちらか選ばなければいけないのです。3-4年生にもなれば好みが確立しているので「私はテーピング」「私はサポーター」というのがハッキリしているのですが、どちらもそれほど経験したことのない1年生なんかは、「どっちがいいの?」となるわけです。
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足首の捻挫はクセになりやすく、再発を防ぐために何かしよう!
…という気持ちは立派だと思うのですが、実は何故捻挫がクセになりやすいのか、
一度目の捻挫後に、足首にどういう変化が起こって「クセ」になってしまうのか、
という肝心なところは実はまだ明らかになっていません。

しかしながら、ひとつの仮説として、
"Proprioception is impaired following the first ankle sprain"という考え方があります。
Proprioceptionという概念は日本語では固有感覚とか自己受容とか呼ばれるみたいですが、
ざっくりと説明すると、体の一部(この場合は足首)が空間に於いて現在どのあたりに位置しており、どの方向を向いていて、どのくらいの速度で動いていて…という静的動的位置情報を感じ取り解釈する能力のことを意味します。例えばBOSU ballやDynaDisc等の不安定なsurfaceに立った状態で、バランスを保つ時にもこの能力は必要不可欠で、足からの「こっちに傾きすぎてるよ!このまま行くとバランス崩して倒れるよ!」という情報があるからこそ私たちは姿勢や体重をシフトしてadjustできているわけです。
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足首が初めての捻挫をsustainした際に、靭帯そのものだけでなく、
関節包、そしてその内外に位置するmechanoreceptor(機械受容器)にも損傷が起こります。mechanoreceptorこそが、今身体の一部にどのくらいの緊張や圧迫がかかっているか、といった「感覚」を感じ取る情報屋さんたち。彼らは適切なproprioceptionの主要な構成員と言えます。
これらが損傷し、幾つかのmechanoreceptorが機能しなくなることで
afferent informationは不正確・不十分なものとなり、
結果としてproprioception能力が落ちるわけです。
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Proprioception能力が低下すると、どんな影響が出るのか?
前述のようにこの能力はバランスを保ち、関節の位置を微調整するのに非常に重要な役割を果たしています。これが十分に機能していないと感覚がニブくなり、「足首がおかしな格好になっていて、もうちょっと行き過ぎると怪我をしてしまう」といった大事な情報が効果的に入ってこず、結果、反射や微調整ができないまままた怪我をしてしまう、ということになりかねません。

つまり、捻挫を一回してしまうと靭帯がゆるゆるになって、また怪我をしやすくなる、
というよりも、捻挫を一回してしまうと足首周りの機械受容器が損傷を受けて鈍くなり、
上手く情報の伝達が出来ず次の捻挫に繋がってしまうのではないか、
というコンセプトのほうが今の所一般的であるのです。
前者も全くないとは言えませんが、後者のほうが影響力があるんじゃないかってことですね。

では、捻挫を予防するために足首のテーピングやサポーターをすると、
具体的には足首にどのような変化が起こるのでしょう?

ぶっちゃけて言ってしまうと、あんなテープの切れ端や布(中には合成樹脂を使ったサポーターもありますが、それにしたって)そのものが靭帯の損傷を起こすほどのチカラに毎回対抗できるわけがありません。ガチガチに固めて動かないようにしたって、耐久性はたかが知れています。捻挫が起きるときは起こります。
専門家によれば、狙いはそこ(= providing mechanical support)ではないんです。

テープやサポーターを足首に「巻く」ことによって、皮下のmechanoreceptorが刺激され、
普段よりも活発に働くようになることで、損傷を起こした分のmechanoreceptorの働きを補えるのでは。そして、低下していたproprioceptionが通常のレベルに戻ることによって、捻挫の予防が可能になるのではないか、というのが実は真の仮説の訴えるところであり、狙いであるわけです。

なるほど、論は理にかなっているように思えます。
…しかし、本当にこれは仮説通りに実現されているのでしょうか?
本当にテーピングとサポーターは効果があるのでしょうか?
順位をつけるとしたら、どちらのほうがより効果的と言えるのでしょうか?
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最近目にした記事で、こんなもの(↑)がありました。
足首のテーピングとサポーター(英語ではsupporterと言わずbraceと言いますが)proprioceptionにどういった変化・影響を及ぼすのかという過去の研究を全てまとめたsystematic review & meta-analysisです。

結論に先に飛んでしまうと、一番面白かったのは、
1. 個々の研究を見てみると、Reviewされた32の比較のうち、
 - 19は「テーピング・サポーターをしてもしなくても大きな変化なし」
 - 10は「テーピング・サポーターをしたほうがproprioceptionに改善が見られた」
 - 3は「したほうが悪化した」
 という結論に達した。
 興味深いことに、「悪化した」と結論付けた研究の全てはテーピングのみ
 によるもので、悪化したのは「movement detection」の能力だった。
 (さらに限定すると、in/eversion planeのみで悪化が確認された。plantar/dorsiflexionではヘ変化無し)
 「改善した」という結果になったのはテーピングもサポーターも両方含む研究だったが、
 計測に使われたのは「joint position sense」の能力だった。
 =どちらか、と言えばサポーターのほうがまだ良いと言えるのかも。
 =joint position senseは高まるけどmovement detection能力は落ちる、という可能性が。


2. 全ての結果を総合し、ひとつの統計としてまとめると、
 テーピングをしてもサポーターをしてもproprioceptionには効果は無し!ということになる。

3. しかしながら、テーピング・サポーターをすることで足首の捻挫のリスクが低下することは
 統計として証明されているところであり、この結果が出たからと言ってテーピング・サポーター
 の使用がdiscouragedされるべきものではない。リスク低下の原因がproprioceptionとは
 直接私達が思っていたよりも結びついていないのかも、というだけだ。
 (文献にもよりますが、テーピング・サポーター共に、何もしないに比べて約70%ほど
 足首の捻挫の確率が下がるという研究が出ています1)

という点でした。
この記事内でも指摘されているのですが、テーピングのタイプが統一されていないとか、
多少なりとも今までの研究に問題はあり、完璧な結論とは言えないですが、
それでも今の所、Proprioceptionに限って言えばテーピングもサポーターも
効果がそれほどないということになります。
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さて、これらを踏まえて。
冒頭の「どっちがいいの?」という質問に戻るのですが、
「コストパフォーマンスと時間的手間、それから持続性(テープは動き出すとどうしても緩くなる為)を考えるとサポーターの方がオススメかな、という感じだけれど、研究によれば効果はどちらも同じか、ちょっとサポーターがいいかな、くらい。でもテーピングの方は個々に合うように微調整が可能だし、どちらにも良し悪しはあると思うよ。もしよかったら、どっちも一回ずつ試してみて、気に入った方にしてみる?」
と私は答えるようにしています。
今現在では、14人いるactiveな選手のうち、テーピングをするのが7人。Braceが7人。
ちょうど半々ですね。個人的には皆がサポーターしてくれたほうが楽は楽ですけども(笑)。
学生ともこのトピックでは毎年必ずディスカッションをするようにして、
「で、おまいらは将来この質問に何て答える?」と問題提起してます。
こういう単純な質問こそ、正しく答えるのが意外と難しい。
misleadingにならないよう、必要な情報を与えつつ選手自身に選ばせる、
というのが私の信条。皆さんはどのように答えますか?

1. Dizon JMR, Reyes JJB. A systematic review on the effectiveness of external ankle supports in prevention of inversion ankle sprains among elite and recreational players. J Science Med Sport. 2010;13:309-17.
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  by supersy | 2013-01-03 16:30 | Athletic Training | Comments(0)

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