β-Thalassemia、地中海性貧血について。その2。

昨日の内容から、β-Thalassemia Major/Intermediaの診断はかなりobvious、
というところはいいですよね。今日はβ-Thalassemia MinorとIron-Deficiency Anemiaの
診断基準の違いに焦点をあててまとめたいと思います。

さて。貧血の疑いがあれば(i.e. 慢性疲労や、頻繁な眠気などの症状がある)、
医者がまずオーダーするテストと言えばCBC、Complete Blood Countという血液検査でしょう。Iron(鉄分)やFerritin(フェリチン)、ビタミン値なども同時にチェックするかも知れませんね(↓)。
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もちろん、こういった精密検査の結果は医者が読み、判断すべきものなので私たちAthletic Trainerはこれらの結果の解釈の仕方など教わらないことのほうが多いと思います。私も例に漏れず、どの値が何を示すのか全く分かりませんでした…が、知っておいて損はないはず!ということで、これを機に調べてみました。貧血の診断を下すにあたって、重要なものを指摘していきたいと思います。

上記の数字(↑)はあくまで例ですが、
分かりやすくするために、「Out of range(異常値)」が出たものを赤字でマークしてみました。まず注目すべきはHemoglobinとHematocritの値。貧血の定義がそもそも「血液中の赤血球量・ヘモグロビン量が正常以下である」という状態のことなので、貧血患者の血液検査でこの値が低いことはもはやgiven、expectedと言って構わないかと。ヘマトクリットも「血液中に含まれている赤血球の%」のことなので、これも低くて当然ですね。
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…で、次にMCVなるものを見てみましょう。MCVはMean Corpuscular Volume
(平均赤血球容積)の略で、つまるところRBCの大きさを指します。
RBCは真ん中のへっこんだあんパンのような形をしています。通常の大きさは80-100 flなのですが
(↓下の写真はイメージ)、それよりも数値が小さい場合はmicrocytic(小球性)、
大きい場合にはmacrocytic (大球性)と呼んで区別されます。
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上の患者の例ですが、数値は71.6 flとなっていますね、小球性の貧血である、と言えます。
β-Thalassemiaはmicrocytic hypochromic anemiaの一種に分類されるので、
この数値が通常よりも小さくなるのも納得。

ちょっと話が反れますが、microcytic hypochromic anemiaという話が出たのでついでに。
microcyticの意味はもう説明しましたが、それではhypochromicのほうは??
Hypo = loo low, Chromic = color という意味から分かるように、
RBCがその特徴である赤い色を失い、無色・もしくは蒼白な色を帯びることを指します。何しろヘモグロビンの異常で酸素とうまく結合しないので、あの独特の赤い色が出ない、というわけです。
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写真(↑)の左が通常のRBC、右がMicrocyticでHypochromic (無色・蒼白の)のRBCを示しています。何と言うか、一目瞭然ですよね。淵の部分がほんのり赤いだけで、残りは無色。寂しいもんです。実際の赤血球を顕微鏡等で見る機会がある場合、こんな風に見えるわけです。
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CBCの表に話を戻します。次は残りの異常値3人組、MCH、MCHCにRDW。
MCH: Mean Corpuscular Hemoglobin(平均赤血球ヘモグロビン量)
赤血球に含まれる、酸素を運ぶヘモグロビン量の平均
MCHC: Mean Corpuscular Hemoglobin Concentration(平均赤血球ヘモグロビン濃度)
赤血球に含まれるヘモグロビンの濃度
くどいようですが貧血患者は血液内の赤血球の酸素運搬を担う正常なヘモグロビンの量が減少しているため、これらふたつ共数値が低下します。通常よりも低くなっているはずです。

RDW: Red Cell Distribution Width(赤血球容積粒度分布幅)
赤血球の大きさのバラつきの幅の大きさを指します。
興味深いことに、この数値のみは正常よりも高くなっているはずです。
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RBCが正常であれば、それぞれが、多少個々の違いはあるもの、同じ形、同じサイズで造られるはずです(↑写真左)。しかし、通常サイズのものから小さなものも混じっている貧血患者では、この「赤血球のサイズのバラつき」の幅がぐんと上がる(↑写真右)ことになります。

さて、ここまで見てきたものをまとめると、β-Thalassemia患者の血液検査の結果は:
    Hemoglobin, Hematocrit, MCV, MCH, MCHCが通常値よりも低い
    RDWが通常値よりも高い
ということが言えると思います。

これで診断基準には十分じゃないかって? ――とんでもない!

ここで面白い事実をもうひとつ。Iron-Deficiency Anemiaもmictocytic hypochromic anemiaに分類されるのです。つまり、ここまでβ-Thalassemiaに当てはまった全てのことが、こちらにも当てはまることになります。Hemoglobin, Hematocrit, MCV, MCH, MCHCが低く、RDWが高いのです。
えー、それじゃあ区別がつかないじゃないかって?
そうなんです。だから多くの医者も誤診してしまうんですよっ!
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ここで注目すべきは、Ferritin(フェリチン)値!
フェリチンとは、肝臓・脾臓・心臓など各臓器に存在する、内部に鉄分を貯蔵している蛋白のことを指します。つまり、フェリチン値が低い→体内に貯蔵されている鉄分が少ない、と考えてもらって良いと思います。
Iron-Deficiency Anemiaを発症しているときは、当然体内に貯蔵されている鉄分は低下しているわけですから、この数値は通常よりも低く出るはずです。しかし、β-Thalassemiaの場合は鉄分は全く関係ありませんから、この数値は通常の範囲内(10-154 ng/ml)になる。この違いを診断時の軸にすればいいのです。

頭の良い方は、「鉄分の量が見たいなら普通に鉄分値(Iron, Total)を見ればいいんじゃないの?」と思うかもしれませんが、これは必ずしも正解ではありません。患者が例えば鉄分のサプリメントを取り始めたりなどした場合、体内にどんどこ鉄分が入ってくるわけですから「総合鉄分値」は面白いように上がります…が、それらの全てが体に「貯蔵」されるわけではないので、「貯蔵鉄分値」を必ずしも反映しているわけではないんです。なので、値としてはFerritinのほうが良い指針になるわけです。

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つまり、この2者の大きな違いは、フェリチン値に出ることになります。フェリチン値が通常より低い、というのはIron-Deficiency Anemiaを診断する上でsensitiveかつspecificな評価基準なんだそうな。なので、フェリチン値が通常の範囲内ということは、鉄欠乏性貧血ではない、とほぼ断言できてしまう。こうなってくると、Red flag。鉄欠乏性ではない別の何かの貧血、つまり、同じカテゴリーに分類されるβ-Thalassemiaの可能性が高まってきます。

●最終診断・Qualitative and Quantitative Hemoglobin Analysis
ここまで可能性が高まったなら、最終手段はヘモグロビン分析です。
体内にあるヘモグロビンの種類を分別し、どれがどのくらいあるのかを調べるのです。
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HbFFetal hemoglobin (胎児性ヘモグロビン)と呼ばれ、胎児の体内にはこのタイプのヘモグロビンが最も多く見られます。α-chainがふたつとγ-chainがふたつ、という構造をしています。直接肺呼吸が出来ず、身体に供給される酸素量が少ないため、より酸素と結びつく能力が強いという機能を携えたヘモグロビンになっているのです。生後、新生児の胎内でこのタイプのヘモグロビンは徐々に失われてゆき、生後6ヶ月を迎える頃には<1%と、ほとんど成人ヘモグロビンに取って代わられます。
HbAAdult Hemoblobin (成人ヘモグロビン)ですね。通常の人間の体内には、これが96%以上含まれているはずです。α-chainがふたつとβ-chainがふたつの、至って普通の構造です。
HbA₂とはほんの少し構造が違う(α-chainがふたつとδ-chainがふたつ)だけで、機能はHbAとほぼ全く同じ。つまり、"Normal variant of Adult Hemoblobin”と言えるものたち。

β⁰/β⁰(重度β-Thalassemia Major)の患者はそもそもβ-chainを作り出す能力が存在しないので、HbAは全く存在しないことに。ほとんどのヘモグロビンが胎児性のままです。β⁰/β⁺かβ⁺/β⁺だと、HbAは多少確認できるものの胎児性ヘモグロビンがまだ大半を占める形に。
β-Thalassemia Minorの場合は、「通常」とは僅かな差になるんですが、それでも確実にHbAの数値が少し低く、代わりにHbA₂値が上昇します。うちの選手の分析結果も「95%, <1.0%, 4.2%」とキレイに出たので、まさにβ-Thalassemia Minorと診断されたわけです。

他にも診断方法は幾つかあるのですが、調べた中ではこれで十分そうだったのと、実際にうちの選手がした検査がこれらだったので、このへんにしておきます。くどいようですが、鍵となるのはFerritinの値が正常であること。これがきっかけとなって、「あれ?もうちょっと検査してみようか」という流れになり、見つかることが多いのかなと思います。うちの子みたいにβ-Thalassemia MinorとIron-Deficiency Anemiaを併発していたら、それはとってもとっても面倒なことになるんだけど…。

●運動をする、ということについて
前述したように、β-Thalassemia Minorの患者は自覚症状の無いことがほとんど。
普通の生活にはほとんど支障は出ません。
…では、アスリートとしてはどのような影響が考えられるのでしょうか?

アスレチックトレーナーとして私の一番の心配は、「命に関わるようなことはあるのか?」でした。Sickle Cell Traitみたいに、早期の症状が出始めたら運動を即辞めさせて休憩、さもないと深刻な合併症や死の危険があるんでは?と。Rhabdomyolysisとか、血栓のリスクとか、もうとにかくよくわかんなかったので不安で。

しかし、色々調べたり、チームドクターに相談したりもしたんですが、結果は否!でした。
Sickle Cell Traitの一番の問題は、赤血球そのものが変形を始めることなのですが、
β-Thalassemia Minorでは赤血球のサイズがあくまで小さい、というだけなので、
それほど深刻な症状を引き起こすことはないようです。
もちろん酸素を満遍なく速やかに身体中に運ぶ能力が通常の人よりも低いので、
心肺機能という意味では他のアスリートにもハンデを背負う形になるかも知れません。
しかし、β-Thalassemia持ちの選手は生まれてからずっとその状態で生き抜いているわけですから、うまく順応できてしまっている可能性が大いにあるのも事実。実際、うちの選手も他の子に比べて全く遜色ない持久力があります。adaptationって素晴らしい。

そんなわけで、私が調べた限りでは、Sports participationに関して危険性がある、という記述はどこにも見つけられませんでした。地中海周辺の国々では、β-Thalassemia Minorを持ったプロスポーツ選手もかなりいるようですし、リスクはないものだと、今のところ私は認識しています。もし何かご存知の方がいましたら、是非ご一報くださいませ!

さて。これで書きたいことはほぼ終わりなのですが、
明日Genetic predispositionについてちょっとだけまとめようかと思います。
次回で完結です!
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  by supersy | 2012-09-27 18:30 | Athletic Training | Comments(0)

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