Second Impact Syndromeは本当に存在するのか。
ATCなら知らないなんてありえない、という常識ですが、日本での認知度はどうなのかな。
理由は後述しますが、今回色々と調べてみて、もしかしたら日本ではあまり
馴染みのない言葉なのかも知れないなぁ、なんて思いました。
興味がある方は是非。
で。
SISはATCがConcussion(脳震盪)に対してconservativeになる理由の筆頭に挙げられます。定義で言うと、”Sustaining another (second) impact while you are having symptoms from the initial concussion"という状態のことを指し、日本語だと「脳震盪を起こした後、それが回復しきらず、まだ頭痛や吐き気といった症状が残っている状態で、再び脳に衝撃を加えること」と言った感じでしょうか。
『二度目の衝撃』が掛かってから、患者本人が倒れて意識を失うまで、たった2-5分程度だと言われています。そして、一度倒れれば死亡確率は50%以上。仮に生き残ったとしても、重度の障害が残ることが今までに確認されています。だからこそ、私達ATCは脳震盪の認識の大切さをこれまでも訴えてきたわけです。「ちょっと頭が痛いけどプレーに支障はない」「大したこと無いから、アスレティックトレーナーには言わなくてもいいや」とかすかな、でも大事なsigns & symptomsを無視してプレーを続けていると、本当に命に関わることになるんだよ、と。少なくとも、私はこういうargumentが軸なんだと思ってました。脳震盪が本当に怖いのは、無視しているとSISが起きちゃうからだよ、だとね。
だからこそ、結構衝撃的だったんです。この記事(↓)を目にしたときは。
McCrory氏の論理を非常に簡潔にまとめると、
1. SISのエビデンスはそもそもanecdotal case reportのみによってしか基づけられておらず、それらの症例も全世界で17件しか発表されていない。 =症例自体がそもそも信ぴょう性に欠ける。
2. その17件全てが北アメリカによる文献で、ヨーロッパやアジア、オーストラリア圏等での症例は今までにゼロ。単純にスポーツで言うと、アメリカンフットボールよりも脳震盪の起こる確率が15倍高いと言われるオーストラリアン・フットボールではSISの症例がもっと確認されても可笑しくなさそうなのに、過去35年のオーストラリアン・フットボールで起こった死亡例を全て確認してみても、SISという記述は一切無い。 =本当に存在する症状ならば、これはあまりに不自然すぎる。 (=あ、だから日本ではあまり知られてないのかなと今回思ったわけです)
3. SISというのは、構造的な損傷(structural injury)を含まず、あくまでrapid brain swellingだと考えられてきたが、『SIS』によって死亡した患者を解剖したりCT scanを撮ってみると、実際はsubdural hematoma (= structural injury)を伴っているケースも多い。 =直接の死亡原因はむしろこちらにあったのではないか。
4. 全17件の症例のうち、実際に"Second" impactが関係していたのはたったの5件(それ以外はrepeated injuryではなく、initial injury)。この5件に関しても、initial injuryとsecond injuryがどれほど関係があったのかは怪しい。 =single blowでも起こりえるのならば、second impactという名前は不適切では?
そんなわけで、McCrory氏は、「SISは、"Second" impactに限って起こるわけではなく、一度の衝撃でも十分起こりえる。よって、SISという名前より、Diffused cerebral swelling(DCS)、という名前のほうが相応しい」 「脳震盪の症状が残っている患者はRTPすべきでないというのは変わらない、が、それはあくまで(一般的な)怪我の予防という観点からであって、SISを予防するという必要性に迫られるべきものではない」という独自の議論を展開しています。ここらへんは賛成反対するは別として、途中の主張はかなり説得力があるように思えました。
私が個人的に今思っていることを乱雑に書くと、
●でもvulnerable windowは存在するわけだし(←ここはMcCrory氏も認めている)、やっぱりこの期間内のsecond impactは更なる脳の損傷を引き起こすわけで。死亡するに至るかは別として、プロとして「second impactの恐ろしさ」はこれからも伝えたい…というか、無くなって欲しくない。ぶっちゃけ、SISってかなりインパクトがあるので、素人さんやアスリートにも覚えてもらいやすくて、concussionのseriousnessを伝えるのにかなり有効な手段だったから、無くなるとまたアプローチの仕方を考えなきゃいけないなぁ。(←イチクリニシャンとしての勝手な感想)
●名前っていう意味ではDCSのほうが包括的で正しいんだろうなぁ。
●こんなにSISに関してやんわりしたevidenceしか存在しなかったとは知らなかった。そんなほわほわコンセプトが力を持っていたとはかなり意外。
…なーんてことを色々考えています。こういった傾向を受けて、NATAがこれからどういう立場を取っていくのか興味が湧きますね。いやー、しかし、「教科書や教室で教わることは10年前の知識」なんてことを良く言うけれど、本当なんだなぁと実感。学生の頃かなりしっかり教えられてきたし、先入観でSISは完全に確立されたコンセプトなんだと思っていたけれど、その存在すら疑ってかかることが時には道を開くカギになるわけで。直接的にも、間接的にも、かなり目から鱗させていただきました!面白かった。
by supersy | 2012-06-24 20:30 | Athletic Training