Isolated PCL tearをどう扱う? 完結編。

前回からの続きです。
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Literature reviewによれば、PCLの単独損傷の場合、
 ●Grade1-2の損傷の場合は、Conservative treatmentが適切。
という揺るぎない結論が出ています。問題は、Grade 3 PCL tear (後十字靭帯完全断裂)の場合。
文献によれば、「患者のInstability、pain、機能障害が著しい場合、手術の必要性・可能性は話し合われるべきだ」とされています。手術そのもののガイドラインとしては:

1) アメリカの症例ではAchilles tendon allograftを用いたケースが最も多い。
  その他の国の統計ではHamstring(HT) autograftが一番commonであるが、
  short & mid-termの結果はどれも等しく良い。
  HT graftで言うと、4-strandより6 or 8-strandのほうが優れている結果が。
  しかし、全ての研究を合わせたoverall failure rateは215件中25件、と、全体の11.6%。
  ACLよりもかなり高い数字で、果たしてこれは胸を張って「良い結果」と言っていいものか…
  という疑問が残ります。

2) 献体を使ったlab settingの実験ではDouble-bandle(DB)のほうがSingle-bandle(SB)よりも、
  より本来のPCLの解剖学的機能を正確に再現している、という結果が出ているものの、
  人体を使った実際の手術の結果にそれは今のところ反映されていない。
  よって、現時点で、DBのほうがSBよりも優れている、と断言することはできない。

3) 同様に、献体を用いたlab settingでは、Tibial inlay technique(↓写真B)のほうが
  より忠実にPCLの機能をrestoreしている、と考えられていたが、
  人体に施された手術の結果としてはTranstibial tunnel technique(↓写真A)と
  違いは見られない、という研究結果が出ている。
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しかし、全体の結果を色々と比較してみても、PCL reconstructionの結果は全体的にACL reconstructionと比べると劣るのだな、という実感です。ぶっちゃけ、11%のfailure rateはunacceptableですよね。術後の経過として、「機能回復は"Satisfactory”と言えるほど好ましい結果が出ていても、stabilityとpainに改善が見られないケースが多い」というのです。これにはもしかしたら、

 - 整形外科医の経験、故に技術が圧倒的に不足している。
 - PCLそのものの構造がACLに比べて非常に複雑。
 - 体育座りのような休憩の姿勢を取っている時に、重力によってgraftに常にストレスがかかり、
  failureに繋がり易い。(Posterior sag sign↓でもこの事実は確認できますよね。
  PCLがないと、重力でtibiaががくっと落ちるわけですから)
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等の理由があるのかも知れません。
個人的に、今回様々な研究・論文を読んでみて、まだまだ「手術が(絶対的に)良い!」と断言できるだけのevidenceはないのかなぁと思います。もちろん、患者の症状にもよりますが、痛みや不安定感が残るという事実、それからgraft failureの高さ…まだ自分のアスリートに勧めたいレベルではないかなぁと。

一方で、手術をせずに、大腿四頭筋の強化に重点を置いたリハビリ+治療をする、というConservative treatmentでも十分に良い結果が、ほとんどの症例で確認されています。Conservative treatmentに関して文献で見つけて面白かったのが、

1) PCLの損傷というのは非常に興味深いことに、
  the amount of laxity ⇔ the severity of symptoms、それから、
  the amount of laxity ⇔ limitations in the functional ability間のcorrelation
  というのは存在しないのだそうです。つまり、Posterior drawerをしてみて、
  ぐらぐらめっちゃlaxityがあったからと言って、必ずしも痛みがひどいとか、運動に障害が出る、
  とか、そういうpredictionは全く出来ないぞ、と。面白いですね。

2) 手術をしないからと言って、instabilityが悪化することはない。むしろ、限度はあるが、
  改善するケースも少なくない…というのは個人的に今回最も面白い!と思ったポイントでした。
  PCLは、どちらかと言うとACLよりもMCLと似ていて、
  比較的十分なblood supplyがあるため、損傷をしてもそれなりに治癒が可能なのです。
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  Shelborne氏とJennings氏の、PCLの損傷を負った患者を対象に行った研究(↑)によれば、
  怪我発生直後のMRIでは完全に靭帯のbridging fibersが存在しないことが確認された
  (=PCLを疑いようもなく完全に断裂した)22人の患者のうち、19人が、およそ3年後のMRIで
  continuityをregainしたことがconfirmされています。
  同様のMRI studyは幾つか出版されていて、An injured PCL, even with a complete tear,
  can heal with some residual laxity through nonoperative treatment、というのが
  これらの研究の一貫した結論です。
  完全に断裂した状態からでも、繊維の一部に回復が見られる、というのは驚きです。
  
そんなわけで、今回色々調べてみた最終結論としては、
『完全断裂で、よほどひどい場合は整形外科医とconsult。条件が揃えば手術。
 そうでなければ、Nonoperative treatmentのほうが確実性が高い』
…というのがこれからの私の指針になりそうです。

幸い、今回のうちの選手にした決断は、偶然にも最善のものだったようです。
症状の悪化を防ぐべく、夏の間からみっちりメンテナンスして、最高の状態でシーズンを迎え・終えられるようコンディションを上げていければと思います。よーし、もっと調べるぞ!
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  by supersy | 2012-05-20 09:18 | Athletic Training | Comments(3)

Commented at 2012-05-22 23:34 x
ブログの持ち主だけに見える非公開コメントです。
Commented by さゆり at 2012-05-23 00:52 x
コメントありがとうございます。Graft choiceとしては、Achilles tendon, Quad tendon, Anterior tibialis tendon, HT, PTが文献で見かけた全てです。選択肢としてはあると思いますが、ACL同様、個々の手術医の経験に大いに基づいてしまうのかと思いますね。QTをサポートする良い文献があれば教えて下さい!ちなみに、私が参考にしたメインのReview Articleはこちらですの、興味があれば。
http://www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/21079509
穴が多少大きくなっても骨自体は比較的早期に再生するので治癒してしまえばあまり影響はないのでは、と個人的に思います。
Commented by sh at 2012-05-23 13:00 x
返信ありがとうございます!
PCLのようにinsertionが少し複雑に付着している場合、QTやachilles tendonに比べ、HTのようないわゆるfree tendon graftがPCL reconstructionには適しているのかな?と勝手に思い込んでいましたが、やはりDr.によりですよね。

PCL reconstructionについて今まで触れる機会がありませんでした(multiple ligament injulyはみたことありますが)ので、今回大変良い機会をいただいたと思い、少し調べてみたいと思います!
ありがとうございました!

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