「AT離れ」が進む現状と向き合う。
しばらく更新していなかったのに、アクセス数が伸びているのでちょっと驚きです。
…しかし、私の教えている授業の期末試験は初日に終了したため、
実は私はもう成績も提出し終えて余裕をぶっこいております。
このへんの要領は2年目にしてだいぶ良くなりました。むふふん。
ただ、私が去年まで教えていた授業のサポートをしなきゃいけないので、実技試験の監督官等、まだ細々した仕事が残っています。春学期正式終了まで、あとほんの少し。
さて、更新していなかった間にも色々ありました。
最近の出来事で面白かったのは、SWATA Young Professionals' Committeeの代表者、
Tiffany McGuffin氏が我らTAMUCCを訪問して下さり、学生を対象に、「卒業後、プロとしてどうやっていくか」 「NATA、SWATAがYoung Professional達をどうお手伝いできるのか」というトピック等について色々お話をしてくれたことでした。内容はかなりざっくばらんで刺激的でした。
まずは、Young Professionals' Committee(YPC)というものの説明から。
YPCは32歳以下の若いメンバーで構成されたグループで、
Young professionalsのニーズとは何なのか、どうすればそのニーズを満たすことができるか、プロ意識とは何なのか、そして、若いものたち同士のprofessional socializationの場を深めていこう、若い世代に加速しつつある、AT離れを食い止めよう、など、様々な目標を掲げています。
(NATAのYPCのページはこちら)
誇張でも何でもなく、Athletic training student(以下AT学生)というのは
とんでもない日々を送っています。
フルタイムと見做される毎学期12単位以上の授業をこなしつつ、私が学生の頃は、インシーズンのスポーツに就くことになれば、週40-50時間の実習をこなすことは暗黙の了解でした。練習やトリートメントがあればそこに自分がいることは義務だと思っていたし、授業も練習時間に重ならないように組むことが最低条件。授業があるからと実習を抜けていれば白い目で見られていたもんです。
現在はそれとはだいぶ変わり、「学生はあくまで学生、学業の負担にならないように」というCAATEの現在の方針もあり、学業は絶対優先。「実習は週最大25時間まで」という厳しい規則がうちのプログラムでも設けれられるようになりました。これは近い将来にも、更に学生を守る方向へ変化していくかも知れません。
それにしても、平均して月⇔金まで毎日5時間もの実習をこなし、通常の勉強に加えて「知識」のみならず「技術」の習得を目指して、授業外・実習外でも多大な時間を費やすためには、私生活の色々なものを犠牲にしなければなりません。AT学生時代に友人からの遊びのお誘いを「今夜は試合があるから」「明日は朝練で朝早いから」「明日は実技試験があるから」と断った経験も、現ATCの皆さん、身に覚えあるでしょう?
…で、それだけの労力や努力を費やして、ATCになって1-3年くらいで、
すぐにこのprofessionを離れてしまうヒトが多いのです。
私の知り合いでも、ATをPT/PAへの踏み台として使っていたヒトたちもいたし、
医療から離れてPersonal trainerやコーチになってみたり、
Brace会社のセールスに就職したー、なんて同級生もいましたっけ。
彼なんかUFでバリバリGAやってただけに、正直聞いたときは「勿体無い!」と思いましたよ。
私の周りでも、同年代で「ATの勉強したけど結局今はやってない」なんてヒトは多いのです。
この仕事を2-3年やってきているならば、誰もが自らに問うたことのある質問なのではないでしょうか。これでいいのか、このままでいいのか。他の可能性、選択肢を考えた経験が誰しもあるのではと思います。私自身も例外ではありません。夢としてこの職業をずっと追ってきて、ようやくプロとして働き始めるようになった。理想と違う!というわけじゃない。厳しい職業であること、覚悟はしていた。でも、本当にこれでいいのかな?と考えてしまうんですよね。
このままでいいのか、と考える理由はmulti-dimentionalというか、
様々な次元の要素を含みます、特に日本人は。
(これはTiffanyが話してくれた内容からはずれますが…個人的なものも含めて)
-給料
-労働時間
この2つは本当に職場にも職種(高校vs大学vsプロvsクリニック)にもよりますが。
プロはシーズン中の労働は過酷な分、オフシーズンの4ヶ月ほどは休めたり、
高校でも夏の間は2-3ヶ月はオフだったり。クリニックは逆に12ヶ月契約でまとまった
休みは取れませんが、普段の勤務は8am-5pmだったりでリーズナブル。
苦労自慢をするわけじゃありませんが、大学の仕事が一番時間&金銭的には
不条理なんじゃないかとちょっと思います。毎日7am-7pmで働いて、
週末も休みもありませんし、お給料は安い。時給換算すると悲しい悲しいことに。
-この職業への周囲からの正しい認識・尊敬・感謝の欠如
昔、高校勤務時代に、私の医療判断が気に入らなかったらしく、
「私は看護師をもう20年もやっているのよ!」と保護者から怒鳴られたことが
あったっけ。別に看護師さんをバカにしているわけでもなんでもなく、
それぞれの医療従事者には専門性があって、
看護師には看護師の、私達ATにはATの「分野」がある。
それをリスペクトせず、ぐいぐい踏み込んでくるのは失礼極まりない行為。
…まぁ、私が20そこらだったからおかーさまも不安だったのかも知れませんが、
スポーツ医学に関してはちゃんとプロとして資格持って働いている身なので
ぎゃんぎゃんと怒鳴られて、私も相当悔しい思いをしました。
それにしたって、同じことをMDには言わないと思うんですよね。
やっぱり医学界でATが下に見られている証拠。
-家族、友人、大切な人から物理的に離れていること
-Inflexibility
お正月だろうがThanksgivingだろうが、仕事があれば仕事に行く。
大事な一家集まってのイベントなど、休みたい時に休めないのはもちろん、
風邪を引いたって休めない、というのはよくある話。私自身、食中毒でゴミ箱に
かぶりつきながら練習をカバーしたこともあるし、うちの現在の同僚は今年、
遠征中にACL/半月版を損傷したのですが、手術後3日から仕事復帰を余儀なく
されていました。十分な治療やリハビリはできないままです。
医者の不養生とはよく言いますが、実際の私たちの生活ってこんなもんです。
-Quality of Life
学生自体はそれでもなんとか趣味を楽しむ時間を確保していましたが、
最近は家に帰っても仕事、たまの休みは外に行く気力もない、
という軽いひきこもり状態に。人生の質…良くない…よなぁ。
欲しいものはちゃんと欲しがらなきゃだめ!It's ok to ASK!!
ちゃんとプロとして、交渉できるようになりなさい、と明言したのにはちょっと目から鱗でした。
Leave(sick, vacation)やPerk(clothing, allowance, etc)、昇給について、
オファーをacceptする前にきちんと質問する。明確な説明を求め、私はこれだけ要求したい、
とはっきり伝える。交渉なので、お互い妥協点を見つけなければいけなくはなるけれど、
理不尽さは残らないようにする。不利な条件は飲まない。
「例えば、年給が$13,000なんて仕事を取るのは本当にバカよね」と、Tiffany氏。
「バカなんてもんじゃないわ。相手がこの仕事にそれだけの価値しか見出してないなら、
私の仕事はそんなに安くないと言ってやるべきなのよ。他をあたって下さいってね。
…本当にバカだと思うでしょ?これ実は、私が大学卒業後一番最初に取った仕事の給料。
こんなことをしては本当にだめよ。ATの価値そのものを下げることになる。
この職業そのものに対する侮辱をしてしまったと、今では反省しているわ」
「頭の固いお偉いさんなら、言うかもしれないわね『そういうもんなんだ』って。
子供の運動会のために仕事休めないのも、友人の結婚式に行けないもの、
『そういうもんなんだ、あきらめろ』ってね。でも、そういうもんじゃないのよ!
時代は変わってる。この職業も成長している。こういうところから変わらないといけないのよ。
Young Professional達が、自分の身を守るために立ち上がらないといけないの。
人間らしく、自分らしく生きられないなんておかしいわ。他の職業にはできているのに!」
なるほど。仕方ない、と受け入れるのではなく、上手に要求・交渉できるようになる。
「Noと言えるようになる」というのと同様、
確かに、このProfession全体として学んで行かなければいけないスキルかも。
「例えば私は、お給料自体はちょっと少なめでも、ちゃんと他のbenefitを提示してくれる仕事のほうが有難いと感じるわ。健康保険や扶養保険とか、CEU費用の負担をしてくれるか、とかね。NATAのMembership feeも」
「面接時に、こういうことをちゃんと聞いておくのよ。『やった前例がないから』とか逃げるように言われたら、では可能かどうか検討していただけますか?と尋ねる。ダメならダメで仕方ないけど、CEUなんか資格保持のために必要なことなんだから、頼むこと自体はフェアじゃない?」
欲しいものは欲しいと言わなきゃいけない。交渉しなきゃいけないというのは、
なんだか自分の中で妙な「気づき」でしたねぇ。
就労ビザを持って働いているイチ日本人としては、
ビザのスポンサーになってもらうだけでもありがたい、出された条件は飲まなきゃいけないし、
与えられた仕事にnoと言ったら、自分がアメリカに残れている理由(=仕事)を
自ら否定しているような気になるので、あまり強気に出たことはありませんでした。
一生懸命仕事してれば、それをきっと周りが見てくれる。評価してくれる、
そしてふさわしい条件を提示してくれるはずだと。
それはそれで間違いではないと今でも思うけど、同時に欲しい物を欲しいとも言わなければ、
えぇっ、これ欲しかったの?言ってくれればよかったのに!なんてミスコミュニケーション
につながることもあるかもしれないしね。聞くことは悪いことじゃない。
彼女の言った言葉で一番心に残ったのは、
"Be an advocate of your own profession."
この言葉は実に深くてですね。私は「自分の職業で気に入らないことがあるなら、自分で行動を起こして変えていかないと!自分が心から愛せる職業に変えていくことも、この職業に就いた義務の一つ!」という風に今回は取りました。これを一人ひとりがしていけば、AT離れはかなり減るんじゃないかと思います。費やした努力、時間やエネルギーを全てムダにして、もうATはこりごりー、とATを辞めてしまうより、よっぽど建設的な解決法だと思う。私自身、色々と悩んでいる最中なので、まずは自分の行動から変えて行こうと思っています。現在活躍中の若いATC諸君、皆も私のようにちょっとでも目から鱗してくれれば幸いです!
by supersy | 2012-05-09 20:00 | Athletic Training