Vertigo(眩暈)について考察する。

サッカー女子日本代表の澤穂希選手がポルトガルにて開催されたアルガルベカップ中に体調不良を訴え、アメリカ戦・ドイツ戦と欠場。風邪かと思われたものの、帰国して良性発作性頭位眩暈(めまい)症と診断された、というニュースが先日発表されました。

この良性発作性頭位眩暈症、というやつ。
日本語ではピンと来なかったので調べてみると、Benign paroxysmal positional vertigo(BPPV)のことなんですね。相方が数年前これで苦労したので私は幸運にもちょっと知る機会があったのですが、Athletic Trainer(AT)には一般的にちょっと不慣れな分野かと。眩暈を訴えてくる選手って珍しくないし、その場合、私たちは脱水や風邪、脳震盪や脊髄障害から中耳炎、三半規管等の耳に関係するCondition、ひいては欝やパニック障害などの精神障害まで色々な可能性を考えなければならず、診断が難しかったり時間がかかってしまうことはよくあります。この際、BPPVの可能性をrule in/outするちょっとしたテクニックがあれば、耳のスペシャリストにreferする必要性の有無がささっと決断できて、便利じゃないかなーと思うので、ちょっとこれを気にまとめてみようと思います。興味ある方はお付き合いくださいませ。

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眩暈を経験したことがない方はいないんじゃないでしょうか。
私自身初めて経験したときは、地球がひっくり返ったんだと思って(まるで重力が横から来たかのように引っ張られ、どーんと倒れたので)びっくりしたのを覚えています。今でも立ちくらみは比較的頻繁に来るのですが、買い物中に下の段にある商品を取るためにかがんだり座り込んだりして、立ち上がった瞬間にくらりと来る、なんてしょっちゅうです。視界が歪んだり、周りが真っ白・真っ黒に見えたりしますよね。
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これはほんの一過性のもので、身体のポジションを変えた際に本来ならば血圧もそれに合わせて変化し適応すべきはずなのですが、私の身体はちょっとその順応が遅いようで、血圧が十分に上がりきらず、脳が一瞬酸欠状態になっているようです。ゆっくり立ち上がれば平気です。気をつけています。

さて、一言にVertigoと言っても様々な種類があり、メニエール病等の深刻な病気に関わるものから、アルコール摂取によるものや、前述の立ちくらみ等の一過性のものまで、色々です。
長々と書いてもキリがないので、今回はBPPVについてのみ焦点を当てたいと思います。

Benign paroxysmal positional vertigo (BPPV)の典型的な症状としては、
  ●頭部を急に動かすと、回転性の眩暈がする。吐き気を伴うことがある。
  ●横になったり、しばらく動かなければ眩暈は消える。
というのがあります。
相方がこれになったときも、「横になって寝ている分には全く元気だけれど、起き上がろうとした瞬間に眩暈がして、立ち上がれない。結果、何もできない。トイレに行くのも一苦労。」…だったそうです。回転性の眩暈(ex. 部屋がぐるぐる回るように錯覚する)、というのもかなり特徴的なので、他と区別できる点かな?

こういった症状は、前触れ無くある日突然始まるケースがほとんどです。
それでは、一体何が原因なのでしょうか?
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注目すべきは、Inner ear(内耳)の構造です。
Cochlea(蝸牛)というのはカタツムリ状の聴覚を司る組織で、鼓膜と3つの耳骨から受け取った音圧を電気のインパルスに変え、Cochlea nerve(蝸牛神経)に伝達します。
一向、カタツムリ以外の部分(↓下図の色がついている部分)は平衡感覚を司ります。
Utricle(卵形嚢)とSaccule(球形嚢)には炭酸カルシウムでできたOtoconia/Otolith(耳石)という骨のような小さな塊があり、Semicircular canals(半規管)という管の中はリンパ液で満たされています。(ちなみに半規管が3つあるので三半規管です。脊椎動物はほとんど全て半規管が3つあるのですが、無顎類のウナギの中には2つもしくは1つしかないものもおり、これらには「三半規管」という名前は必然的に使えないことになります)
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(ちなみにこれも完全におまけですが、魚の耳石は木の年輪のように一年一年大きくなってゆくため、これを数えることで魚の年齢が分かると言われています。この写真右のニシンの稚魚(↓)は、透明なため耳石が眼の左に浮き出て見えます。)
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この耳石は、本来ゼラチン状のOtolithic Membraneという膜にくっついているのですが
そのうちUtricleにあるものが稀に剥がれ落ち、ころころと転がって半規管内に入り込み、
管の液体内でふわふわと浮遊し始めてしまうことがあります。
それが液体の異常な揺れを引き起こすことで、脳がイレギュラーなシグナルに混乱を起こしてしまい、情報を正しく解釈できずに直立していてもぐるぐる回転しているような錯覚を起こしてしまうのが、BPPV(良性発作性頭位眩暈)なのです。

診断にはDix-Hallpike Testというテストが有効で、
YouTubeでの動画ですとこちらなんかが非常に分かりやすくまとまっています。
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1. 患者をテーブルに長座させる。この際、患者がこの状態から仰向けに寝たときに
  首から上がテーブルから出るような位置に患者を座らせておくこと。
2. 患者の首を45度回転させ、まっすぐに患者の目を見る。
  この際、患者の眼球が安定していることを確認する。(↑写真左)
3. 患者の首を回転させたまま、素早く患者を仰向けに寝かせる。(写真中央)
4. 患者が完全に仰向けになったら、回転を保ったまま首を20度進展させる。(写真右)
  患者の眼球の動きを観察し、Nystagmus(眼球振)の有無を確認する。

陽性の場合、仰向けの体制(4)でNystagmusという眼球振が確認できます。
脳が混乱して、バランスを失いそうだと勘違いして、
姿勢を修正する努力の過程で、眼球を左右または上下に震えるように小刻みに揺らすのです。
この時、Peripheral Nystagmusの場合、目が振動をし始めるまで
数秒(5-10秒)かかる場合があるので最低でも10秒はこの状態を保つことが大事です。
一度発生すると、患者は眩暈と吐き気を再発し、
眼球振の消滅と共に数秒から一分くらいで通常に戻ります。

指でやっとつまめるくらいの小さな石が原因で、
立ってもいられなくなるというのだから、人間の身体の構想というのは実に興味深いものです。

さて、それでは治療は?
一般的には、Epley's maneuverという治療が最も有効だと言われています。
問題は、石が剥がれて変な場所にいってしまってる、ということなんですから、
石をまた逆に移動させて、直してやればいいだけのこと!
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どの半規管に耳石がstuckしているかにもよって回転の方向は違ってくるのですが、
簡単に言うと、一定の順番とタイミングでころころ転がって、
重力を利用して石を移動させ、Utricleに戻してやるようにするのです。
例えば、後方半規管に耳石がある場合、図のようにDix-Hallpike positionから、
患側の耳を下にして寝て30秒静止。そのあと、90度首を回転させ、
健側の耳を下に向け、また30秒静止。
そのあと、今向いている方向に寝返りを打つように方を回し、また30秒静止。
そして首の回転を保ちながら、また長座の姿勢に起き上がります。
これを、2回繰り返し、合計3回やるだけ。上図のように、耳石がUtricleに転がり戻り、
正常の変更感覚がrestoreされます。分かりにくい方用に、もうひとつの図解(↓)を。
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それぞれのポジションで30秒静止して、石が移動する時間を十分に与えてやると同時に、眩暈が回復してから次のポジションに進むこと。そしてもちろん、このテクニックを最大限に利用するためには、「どこに耳石があるのか」を正しく把握することにあります。専門医に診てもらい、場所を正しくidentifyしてから治療を開始しましょう。どこにあるか分からず適当にやってしまうと、症状が回復しないどころか悪化させてしまう可能性もあります。

Antihistamines、Anticholinergics、Sedative-hypnoticsといった薬を処方することもあるそうですが、あまり利かないのだとか。ひどい場合には手術もあるようですが、
多くのケースはこういったRepositioning Maneuverで回復するようです。
相方も専門医に診断をもらうまでの数日はひどい眩暈で大変だったそうですが、これをやってもらって一発で良くなったのだとか。治療のあと、数日は安静にしたほうがよさそうですが、コレに関して文献等ではまだconsensusに達しているわけではないようです。どういったアクティビティーをどれだけの期間避けたほうがよいのかはまだ不明ですが、行動に制限をかけなかった場合の患者は再発を経験する可能性が高く、同じトリートメントセッションをもう1-2回受ける必要が出てきたりと、不具合があるそうです。

結局長々と書いてしまいました。
風邪っぴきの頭でうんうん唸って書いていたら、熱が出てきてしまったので(苦笑)、今日はこれくらいにして休むことにします。とりあえず自分で理論と治療が分かったから自己満足!
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  by supersy | 2012-03-12 22:00 | Athletic Training | Comments(0)

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