The QUADAS toolとその使い方。

上司に無茶な要求をされるようになって最近ちょっと困っています。

CEU Workshopを私の名義でホストしろ、とか、夏に高校生対象のATキャンプを開催しよう、フライヤー書いて構成作って、とか、さゆりが授業で学生にガンガン教えてるEBP、スタッフが実はちゃんと理解できてないから、スタッフ相手に講習会をやってくれ、とか。いや、いいんですよ、いいんですけどね、全部ATEPのためにも宣伝にもなるんですけどね、でも別にこのうちのどれやっても私にお金は全く入ってこないし、通常業務プラスアルファなので睡眠時間を削って働くことになるわけです。シーズン中にやられると本当に倒れそうになります。

大きな仕事や大きな授業、大きな責任をどんどん任されるようになるのは素直に嬉しく感じます。
学生だけでなく、ATEPの構成員(Graduate Assistant、同僚から上司まで)も
引っ張っていかなきゃいけないんだな、というのは良い緊張感ですし。
ただ、自分の仕事のクオリティーは落としたくないから、時間的調節はある程度はさせてほしいし、
ATEPのスタッフがひとりひとり、この組織に何かContributeできるものはあると思う。
切磋琢磨できる関係が理想です…が、この一年半、正直あまり周りから学べていない。
月に一回くらい、スタッフ間で、一人ひとりが交互に何かを発表していくような勉強会ができればいいのに。ケーススタディーの紹介でも、実技でも、なんでもいいからさ。

実際、皆忙しすぎて全員が揃える時間なんてなかなかないんだけれど。

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さて、なんだか愚痴っぽくなってしまって申し訳ありません。
今日は前述したThe QUADAS toolについて少しまとめたいと思います。
これ、今学期から私が新たに授業に取り入れた内容で、
下肢の評価のクラスでとても役立っているtoolです。
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Evidence-Based Practiceを実践するということは、
日々様々な文献と向き合う、ということでもあります。
私も授業を教えている以上、知識でカネを稼いでいるわけです。常に最新の情報を頭にいれておかなければなりません。なので、例に漏れず机の上には常に出版された研究の山があります。

色々なArticleを読んでいくうちに、「あれ?この内容はさっきの文献の内容とまるで逆じゃないか。矛盾している?」 「それでは、どちらを信じればいいのだろう?」となることも少なくありません。
同じ題材について幾つもの文献があり、その内容が食い違っている場合、一体何をもって「よし、こっちの研究のほうが信頼するに足る!」と言えばいいのか?
それをシステム化したのがthe QUADAS toolです。

The Quality Assessment of Diagnostic Accuracy Studies (QUADAS) tool
読んで字のごとく、診断に関する研究の質を計るための道具です。
これは、14つの質問から成っており、それぞれの質問に対して“Yes”か“No”、もしくは“Unclear(不明瞭)”かで回答をしていきます。そして、その後にYesの数を数える、という単純なScoring systemです。14つの項目というのは下記の通り。(クリックで拡大)
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これらの項目に“No”または“Unclear(不明瞭)”と答えざるを得ないとなると、研究にバイアスがあったり、公平性に欠けていた、ということになります。当然満点は14項目すべて“Yes”の14点満点なのですが、基本的には10点以上あればその研究は高いクオリティーだった、と結論づけられることに、反対に10点未満だと、ちょっとその研究は構造・デザインに不備が多いかも…ということになります。

さて、それでは実践編です。
例えば、O'Brien's Testという肩のスペシャルテストがあります(↓)。
Labral tearの判別によく用いられ、非常に歴史もあり有名なテストです。
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このスペシャルテストの正確さに関しては様々な研究が重ねられており、
その統計の一部はと言うと、こんな感じ(↓)。
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SensitivityやSpecificityを見ていくと、数値は実にバラバラ。「良い」とみなされる数値を超えているものもあれば、11や13と、程遠いものもある。さて、それでは一体どれを信じるべきなのか?

ここでまず注目してほしいのが、一番上にある研究結果(↓赤で印がついたもの)。
これによれば、Sensitivityは100、Specificityは97-99と、驚異的とも言える数値が出ています。この研究が正しければ、O'Brien's Testはほぼ完璧にLabral tearを判別できるぜ!ということになります…が、他の研究に比べて、飛びぬけて数値が高いのが気になりますよね。
どういうことなんでしょう…?
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それでは、QUADAS scoreのほうも見てみましょう。14点満点中、たったの3点。
10点未満のものは低クオリティーの研究とみなされることを考えれば、これは非常に低い数値。
つまり、この研究にはバイアスや不明瞭な点が多々あり、信憑性にかけるものだった、
という結論付けができます。ん?なんでだろうって?研究者の名前を見てください、「O'Brien」。
このテストを作ったご本人じゃーありませんか。自分が作ったテストなら、素晴らしいテストであって欲しいと思うのは当然。色々バイアスがあったとしても、驚くようなことではありません。

それでは、QUADAS scoreが10点以上の、質の良い研究に限って数値を見てみましょう(↓)。
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これらを見る限りでは…どの数値も「良い診断基準になる」と考えられる値を満たしていません。
SensitivityやSpecificityも40-50あたりにぐっと落ち込んでいます。
つまり、この有名なO'Brien's Testが「Clinically usefulである」と断言しているのはO'Brien本人の研究のみ。その他の質の高い研究の全てが「使用価値は極めて低い」と評価しているということになります。
ねっ、QUADAS toolの存在を知っているかいないかで、結論が全く変ってくるでしょう!

こんなことを、生徒を交えてわいわいやっているわけです。
このテストは良いテスト、こっちはそうでもない。わいわい。わいわい。
でも、EBPをやっていく上で、「最終決断はクリニシャン自身が下すもの」というところにも、常に重きを置くようにしています。例えば、こういう授業をやったあとで、「そいじゃあ、O'Brien'e Testはやらないほうが良いテストってことなのかね?」と生徒に聞くと「やらないほうがいいー!!!」と彼らは声を揃えて言うのですが、「本当にそうかい?統計的に価値がある=素晴らしいテスト、それだけやる!統計的価値がないテスト=ゴミ、ってわけじゃないんだよ。救急時でもないんだったら、30秒かけてO'Brien'sをささっとやったって、別に害になるわけではないよね?」と問題提起します。

「例えばスペシャルテストAとBとがあったとする。
統計的にはAは完璧とも言えるすんばらしーテスト、Bはまぁまぁそこそこのテストだとしよう。」

「でも、スペシャルテストAは実際performするのがとっても難しい。患者の足をこう持って、こうしながらこうまわして…なれない人がやってもなかなかできないテストだとする」

「実際あなたが患者を前に、どちらのテストをやろうか、迷ったとする。スペシャルテストAが素晴らしいのはあなたも重々承知している。でも、テストを上手くできる自信がない。」

「そんな場合だったら、スペシャルテストBのほうをやったって、何にも問題ないじゃない?むしろそれが、その場合のBest clinical decisionと言えるでしょ。EBPは三本柱でできてるんだったでしょ、Evidenceだけが全てじゃない。自分自身と、患者さんの意見も大事にしなきゃ。」

「もちろん、スペシャルテストAをちゃんと練習して、できるようにするのも大事だけれどさ。」

「統計だけにとらわれてもだめだよ、それが全てじゃない。状況に合わせた一番の決断を、いかに素早くするかってことなんだよ。Evidenceと、自分自身と、患者さんのバランスがきちっと取れたところを見つけるんだ。それがEvidence-Based Practiceだよ。」

この回のレクチャーは、学生たちも目を真ん丸くしてよく聞いていたなぁ。
…さて。問題はうちの学生たちはいまやこれを理解してどんどん実践しつつあるのですが、
スタッフである同僚や部下、ひいては上司までもがこのレベルに達せていないというところです。
EBPに関しては、ホント皆、初心者中の初心者です。

そんなわけで、前述の通り、来週辺りスタッフ対象にこういう講義をやってきます。
そのために前代未聞の一時間Athletic Training Room完全Closedですよ。
スタッフ一丸となって、レベルを上げていかなきゃいかんね。
Clinical Coordinatorとして一肌脱ぎますよ。よぉしっ。
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  by supersy | 2012-02-06 21:00 | Athletic Training | Comments(6)

Commented by Daisuke at 2012-02-07 13:12 x
さゆりさんの授業受けてみたいです。
Commented by かや at 2012-02-08 11:23 x
時が経ち,いろいろ仕事をこなしていくと,どんどん新しい(レベルのあがった)仕事が増えてくるよね!
大変だろうけど,がんばれ!
もちろん健康(Off timeや睡眠時間の確保)には十分気をつけてね。
Commented by Jiden at 2012-02-09 11:46 x
ほんま、それがEBMやわ。知ってるかもしれんけど、去年の10月に,QUADAS-2のにアップデイトされたで。ほな、仕事がんばって!
Commented by さゆり at 2012-02-09 14:23 x
>Daisuke
ははは、ありがと!BOC approved providerとして、CEUセミナーを6月あたりにCorpus Christiでホストする予定だよ。私が一応主催で、後他に3人レクチャーします。暇があったら来て(笑)!

>賀屋先生
ありがとうございます!お昼ごはんは意地でも食べるように、時間調整を改善しております。実際自分が身体を壊してしまうと、医者に行っている時間もないというのが皮肉ですね。健康第一です!

>じでん
マジでか!それは知らんかった、置いていかれてるな!ちょっと文献探して読んでみるわー。でも実際QUADAS-2を使った資料が集まってくるのはもうちょっと先なんだろうな。その頃には、QUADAS-2で授業せんといかんね。
Commented at 2012-05-26 09:49
ブログの持ち主だけに見える非公開コメントです。
Commented by さゆり at 2012-05-28 02:59 x
ご連絡をいただけたので、前半部分を消去して再掲します。以下前コメント後半:
記事は、リンクとして使われる分にはどうして下さっても結構です。確認ありがとうございます。

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