NATA Convention in New Orleans その2。

この日は朝イチから特に行きたい講義がなかったので、
目玉の特大-ホールで行われるJ&J Feature Presentationから参加することに。
議題は“Consequences of Repetitive Brain Injury In Athletes”

ここで初めて耳にしたのがSub-concussiveという単語。
横にいたPTスクールに通う相方に尋ねてみても聞いたことがないそうなので、
まだまだ浸透していないtermなのかな、と思いましたが、もしかしたら単に私の勉強不足かも…。
…ともあれ、Sub-concussive blows、などという風に使われるこの単語ですが、
つまるところ、“いわゆる『Concussion(脳震盪)』を起こすほどの強い力ではないけれど、
脳に微量な損傷を与える衝撃”という意味のようです。sub = belowなので。
これにあてはまる日本語ってあるんだろうか…。

脳震盪、という言葉は日本語でも幅広く知られ、
ここアメリカでも近年は特に注目されている分野でもあります。
中でも今、一番問題になっているのはFootballにおけるConcussion。
Footballは実に激しい接触を伴うスポーツなので、その分脳震盪の危険性も高く、上はプロ(NFL)から下は高校やPee-Weeまで、ありとあらゆるレベルで脳震盪をどう扱っていくべきかが全米規模でここ数年ものすごく熱く討論されているのです(私は非常に良い傾向だと思っています)。脳の損傷は一度起きればほぼpermanent。記憶障害や性格の変貌(例:穏やかだった人が暴力的に)などが一生続く(むしろ徐々に悪化していく)ことは、今までの研究で十分に立証されています。近年ではFootballにおいても、選手がますます重く、速く(*)なっていること。そしてプレイスタイルもより接触が多いものに変わりつつあることから、脳震盪の起こるfrequency & severityはどんどん高まりつつありと言えます。
*ニュートン力学的に、運動をする物体の運動エネルギー(K)は、質量(m)と速さ(v)の2乗に比例する。すなわち、K = mv²/2であることから質量と速さが上がれば衝突時のインパクトもそれに付随して上がるわけです。単純計算ですが。
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もちろんそれを防止するためにヘルメット等の防具は今も常に最新技術が追求され、Spearing禁止などのルールも導入され、それに伴う「正しいタックルの仕方」に関する技術指導の意識も高まっているわけですが、それにしたって選手は毎日がしゃんがしゃんとぶつかっておるわけです。写真(↑)のようにヘルメットがふっとぶような、ひやっとする場面を見たことある方も多いでしょう。こういったhitsを第一線で間近で見る事になる私たちATが知っておくべき、重要な情報をこの講義でshareしていただきました。

まず、最初のプレゼンターであるD. Julian Bailesが述べていたのは、“脳震盪は頭を打つこと(hitting the head)によって起こるのではない、脳が突発的に動いて(sudden movement of the brain)起こるのだ”というさらっとした定義の確認から。(極端なことを言うと、頭を打たなくても脳震盪が起こることは十分有り得ます。脳が動くってどういうこと?と思った方は、参照動画:こちらこちら)
そして、
・今まで何度も脳震盪を受けてきた人が40-50代でChronic traumatic encephalopathy(CTE)というProgressive neurodegenerationを起こす脳障害に罹ってしまい、近年元NFL選手でもCTEに伴う欝病等の発症から自殺が相次いでいる。
ここまでは分かりやすいのですが、ここからが衝撃的。
・CTEを患い自殺した中には、過去に一度も『脳震盪』を起こしたことのない選手もいた。
つまり、脳震盪と一度も診断されたことのない = 頭痛や眩暈等の自覚症状が全く出ていないいわゆる“普通”の状態でも、日々の蓄積された衝撃により、脳の損傷は眼に見えないところで着実に進んでいる、ということです。で、その8-10年後、40-50代くらいになって一気に症状が出始め、人生のありとあらゆる面に影響が出てくる、と。事業に失敗し、配偶者とも離婚し、欝病を発症して自殺、という坂道を転げ落ちていくようなケースが多いそう。
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(写真はfMRIのイメージ画像)
この“徐々に蓄積された損傷”はFunctional MRI(fMRI)でも確認できるようで、
1800-2500 hits/seasonを受けているフットボール選手は、仮に脳震盪の症状が全く無くても、
fMRIはpositive (= Decreased activitiesを示唆する脳の青い部分が増す)になる、
というデータが出ています。つまり、本人も気がつかないうちに脳の機能が衰えているわけです。

もうひとつ、興味深い数字が。
フットボールのヘルメットにAccelerometerという速度計を装着して行なった実験では、
Head impact 90G or higher is associated with 75% concussion rate.
(90G以上の衝撃が頭にかかると、75%の確率で脳震盪が起こる) という統計が出ているそうですが、
同時に、Football linemen receive 20-30G in EVERY PLAY. ということもわかったそうで…
それを毎日練習や試合で受けている彼らの脳はどんなことになっているのか、
考えただけでもちょっと怖いですね。うぅむ。

ここまでをまとめると、
Some players (who constantly receive sub-concussive blows) are cognitively and physiologically impaired but are NOT presenting symptoms. ということになります。
しかし、何故全員ではなくて、“some”なんでしょう。同じチームで同じポジションをプレーしていても、impairmentが出る選手と出ない選手がいる。この違いはどこから出てくるのか?ということを研究したのが次のプレゼンター、Dr. Larry Leverenz。
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彼は、その原因のひとつはHelmetのどこに接触が起きるのかによるのでは、というところに着目。
Impairmentが起きた選手と起きていない選手のhit distributionを比べた場合、結果は以下のようになりました。(↓この画像は私が作ったものでDr. Leverenzのオリジナルではありません、念の為)
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Impairmentが出ていない選手 = hitが上手い選手はその多くがfacemaskに集中しているのに比べ、Impairmentが出てしまった選手はヘルメットの前方上部に多く接触を起こしているというデータが出ました。Facemaskのほうがマスクそのものを通じて衝撃が分散されたりするんでしょうか。彼は講義をテクニックや技術の指導、そしてhit countsをkeepすることが今後CTE予防に大きなチカラを発揮するのではないか、というstatementで締めくくっていました。ふーむー。

最後のスピーカーはDr. Ann Mckee。彼女もまたCTEの権威で、Brain Bankで様々な故人の脳を研究している著名人ですが、これもまたすごかった…。彼女のプレゼンはCTEがどんな変化を脳にもたらすか、という話と、有名な元NFL選手たちがこのCTEによってどう人生が壊れ、自殺していったかという話でした。CTEに侵された脳は、初期だとこんな風に見えるんだそう。
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Tau proteinという特殊なプロテインが蓄積され、脳の一部がこげ茶色になっています。これが破壊されつつある箇所。もっとひどくなるとこのこげ茶色が脳に転々と広がり、特にMedial temporal lobe & Frontal cortex→Hypothalamus & Thalamus等がよくaffectedされるのだそう。症状としてはEmotional/behavioral changesに始まり、徐々にLosing impulse control, Mood changes (Depression), Suicides, Dangerous behaviorsと悪化していって、最終的にはMemoryやSpeech Problemsにまで発展するのだとか。前述したように、症状の進行はアルツハイマー等の病気よりも非常に遅く、現役を引退して8-10年くらいしてから初期症状が始まるケースもあるそう。今までには、Football選手以外に、Boxing, Wrestling, それからHockeyにMilitary veteransで確認されているそうです。

私が興味深いと思った箇所は、低下した脳機能は、オフシーズン中にフットボールを離れ、休養をとることで回復する、というデータでした。これが本当に完璧にbaselineまで回復しているのかどうかはまだ確かではない、とのことでしたが、fMRIの画像を①シーズン前、②シーズン直後、③オフシーズン後・シーズン再開と比べた場合、①と③は見た目にはほぼ一緒のところまで回復していました。つまり、オフシーズンの休息は肉体的のみでなく脳にも必要不可欠、ということが言えます。

しかし、ここで不安に思ったことがひとつ。
アメリカの高校では、ひとりの高校生がいくつものスポーツを掛け持ちでプレーするのは珍しくありません。フットボールのシーズンが終わったらバスケットボール、という風に。フットボールほどではないにせよ、バスケットボールも立派なcontact sports。ここに体を休ませないデメリットはあるのか…?高校生だけではありません。私の友人でAFLとUFLを掛け持ちし、一年中休まずフットボールをプレーしているヒトもいます。あの子はどうなっちゃうんだ?フットボール選手は例え高校生でも問答無用でオフシーズンには接触を避けるよう義務付けたほうがいいのか?休ませるならどのくらいの期間があれば十分なのか?問題提起の多い、まだまだ研究の余地の残る分野です。

私自身、今回のこの講義で興味が沸いたので、CTEについて色々調べているところです。
もしまた機会があればここでまとめさせていただきます…。
ともあれ、非常に収穫の大きい講義でした。さすがJ&J、すごいのぶつけてくるぜー。

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ちなみに、大学のFootball選手であったOwen Thomas選手のストーリーはこちら
彼はUniversity of PennsylvaniaでO-lineを務め、チームメイトの信頼も厚く、チームキャプテンに任命されるほどでした。この明るく、頼りがいもあり常に人の中心でいたはずの彼は、大学のテストで良い点が取れるか心配だ、と友人に漏らした翌日、突然自殺をしてしまいます。
検死の結果、彼の脳にはCTEの初期症状が確認されました(↑実は、上にあるTau protein云々の画像は彼のもの)。このケースはCTEで死亡した最初の大学フットボール選手として、そして一度もConcussionの診断を受けたことが無い選手のCTE死亡例として、非常に有名です。
興味のある方は是非ご一読ください。
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  by supersy | 2011-06-21 23:59 | Athletic Training | Comments(5)

Commented by かける at 2011-06-28 10:07 x
Larryは自分の元アドバイザーです笑 彼のゆるい語り口調が好きでした笑
Commented by さゆり at 2011-06-28 10:34 x
あっ、そうか、Purdueだもんね!彼の研究は素晴らしかったよ、publishされたら手元に置いておきたいです。でも、すごーくお金がかかってそうだったけどねー。真似はできん。
Commented by まさ at 2011-06-28 11:29 x
興味深いトピックだね。僕もsub-concussiveという言葉は聞いたことは無かったです。重要なトピックなだけにこれからもっと研究が進むといいね。僕ももっと文献を読もうと思う。休養を取ることで回復をするというのは興味深いこと。日本なんてシーズン制じゃないから一年中やってるんで将来的に問題が出て来るのかもね。アメフトはアメリカ程のインパクトは無いとはいえ1年中やってたら影響はあるだろうね。日本はラグビーが盛んだからその選手あたりに問題が出てるかもね。
Commented by yoshi@元ISU at 2011-06-28 20:04 x
フットボールのフェイスマスク上部(留め金のあたり)でのhitは、ヘルメット部でのhitより衝撃が少ない、というのは体験してみるとよーくわかります。
ここ2年くらいでヘルメットのメーカーが相次いで新作を発表しましたが、そのなかでもschuttの新作は、フェイスマスクとヘルメットの接合部がバネみたいになっていて、衝撃を吸収するようになっていますね。
http://www.schuttsports.com/aspx/Sport/ProductCatalog.aspx?id=787
日本にはまだ入ってきていないので、早く入ってきて欲しいものです。
Commented by さゆり at 2011-06-29 08:19 x
>まささん
このレクチャーは本当に面白いことばかりでした!ラグビーはヘルメットすらないですからね…その分タックルの技術が高いんだとか相方はわぁわぁ言いそうですが、彼自身もラグビーをやっていて脳震盪を起こしたことがあるようだし、日本のようにATがあまりいない、例えば高校等のラグビーやアメフトは本当に注意が必要ですね。

>yoshiくん
そうかー、やっぱりプレー経験があると違うところも見えてくるね。ヘルメットは最近本当にいっぱい出てるよ。丁度一年前のコンベンションでも面白いやつがあって、それについてもその時にまとめたような気がする。日本への流通ラインができれば、重宝されそうだけどね。まだまだ値段が高いのかな?

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