写楽に見る江戸時代のHuman Posture & Biomechanics。

以前、Short Right Leg Syndrome & Common Compensatory Patternを解説するときに、
ドミニク・アングルやボッティチェリの絵画を例に説明しましたが、
今日はそれと似たようなことを写楽でやってみたいと思います。

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さて、今日は上野にある東京国立博物館で行われている特別展「写楽」へ行ってきました。
東洲斎写楽と言えば三代目大谷鬼次の奴江戸兵衛が有名な、江戸時代の浮世絵師。
震災の影響で会期が遅れ、本来5/15までだったのが5/1~6/12に変更になったお陰で、
5月中旬に帰国した私も見に行けるようになりました。写楽は、見ておかないとね!

b0112009_17314484.jpg写楽はデフォルメだという人と、当時の画家の中では写楽はかなり美化をせずに描いていたほうであり、照明等を考えればむしろこれが写実なのだという説とありますが、当展の解説に、“写実と言われることもあるが、彼の絵は人物を必ず中心に置かない”というものがあり、なかなか興味深かったです。
例えば、この江戸兵衛(←)。描かれている人物は前傾姿勢で、身体は絵一杯に、そして顔は絵の右寄りにあります。逆に、他の絵では何も描かない空間をたっぷりと持ったり。言われるまで気がつかなかったけど、写楽は空間やスペースの使い方が独自なんですね。現代でいうと“人気芸能人のブロマイド”みたいなものなのだけど、何かユーモアが溢れるような気がするのもそういう空間演出の効果なのでしょうか?

さて、芸術を楽しんでいても、私の目に飛び込んでくるのは写楽の人物・人体の描き方。
これはもう職業病みたいなものです…。なかなか面白い発見が多々ありました!
例えば、こちらは「二代目嵐龍蔵の不破が下部浮世又平」「中島勘蔵の馬士ねぼけの長蔵」「中島和田右衛門の丹波屋八右衛門」という異なる人物を描いた3作品(↓)ですが、よくよく見てみると気になるところが沢山あるのです。例えば…
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●肘と膝
まず気になるのは肘と膝のボコボコ感(↓)。
まるで細菌性のbursitisになったのか?と思うほどぶわわっと膨れています。
手の関節もゴツゴツ描かれていることが多く、重度の関節炎だったのか、当時の歌舞伎役者はげっそり痩せていたのか、はたまた当時はそういう風に描いたほうが“セクシー”に見えたのか…。正解は分かりませんが、ちょっと目を引きました。
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…そしてそして。
●脛
上の図に加えて、これら(↓)を見ていただくと分かるんですけど、
写楽の絵はどれも脛にスッとスジが入ってるんですよね。
恐らくTibial Crestだと思うんですが、どんなに痩せていてもこの骨がこれほど浮き出ることって無いと思うんです。Palpableだけどそこまでvisibleでないというか…。
これも、こういう描き方が「粋」だったんでしょうか??
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●Flat Foot, Egyptian Foot & Claw Toes
同じ写真になりますが、今度はFeet & Toesに注目してみてください。
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どの足もFlat Foot(偏平足)、Egyptian Foot(母趾が他の指より長い*)、Claw Toes(足の指が第1&第2関節共に曲がった状態)なのにお気づきですか?(見難い場合、クリックで画像が拡大表示されます) 江戸時代の人たちは、下駄か裸足で生活していたでしょうし、さぞかし土踏まずがしっかりしているんだろうと思ったら…。意外とぺったりなんですね。アーチ落ちまくり!Egyptian Footが多いのも、以前私が導き出した“昔の日本人はEgyptian Footが大半であり、現代の日本人はSquareが多い(*)”というStatementを半分裏付けるものでもあります。Claw Toesは歌舞伎を上演中につき舞台で踏ん張っているからなのか、元々こうなのか、またまたデフォルメなのかは断定しかねますが、それでも写楽の絵のほとんどがToeがくにょりと曲がっているものでした。
ふーむ。足には悪いですね。
 *…詳しくは、以前まとめた足の形特集12をどうぞ

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●Forward Neck Posture & Genu Varum
こちらはまた新たな3種の絵ですが(「市川鰕蔵のらんみゃくの吉」「二代目坂東三津五郎の百姓深草の次郎作」「三代目大谷広次の名護屋が下部土佐の又平」)、まずは3者の首に注目してみてください。随分前に突き出していますよね?全身のバランスを見てみると、かなり不自然に重心が前にずれている感じ。真ん中の人なんか、後ろからポンと押されたらすってんと転げそうな前傾姿勢ですね。これを見て、“ああそうか、見得を切るときなんか、これくらい大袈裟に首を突き出してやるものなのかしら?会場全ての人によく顔が見えるようにということなのかしら”と反射的に思ったのですが、よく調べてみると、歌舞伎は普通にたたずんでいるときはもちろん、見得を切るときでも随分姿勢の多い方ばかり(↓)で。“首を突き出す”というよりは“顎を引いて前を見据えている”という表現のほうが近い感じ。絵とは随分ギャップがあります。
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写楽の絵を見る限り、首を伸ばし目線を上に上げ、しゃんとした姿勢をしている絵が一枚もなくてちょっとびっくり。当時はこういう姿勢が実際多かったのでしょうか?首が前に出た、猫背の人がいっぱいだったのかな?それともこれが写楽なりの“動き”のある構図なのか…?ふぅむ、面白いところです。

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もうひとつは足元です。今度は構造ではなく、両足の位置とその向きに注目してみてください。まず特筆すべきは、どちらかの足が少し前に出ているという点。そして、前に出ているほうの脚が、右足ならば1時の、左足ならば11時の方角を指しています。後方に置かれているほうの足は、右は3時、左は9時といったところでしょうか。お気づきの通り、かなりのガニ股っぷり!相撲の構えのように足を開いているもの写楽の作品には幾つかあるんですが、その他の大半はちょこりと立っている、というか、肩幅よりもかなりスタンスが狭く、両足の踵がくっつくように、文字通り時計の長針と短針のように佇んでいるものが多いんですよね。それで軽く膝を曲げていたりなんかするともう、かなりのTibial External Rotationが…。膝にかかる負担も多そうです!

帰ってきてTwitterでも呟きましたが、日本人って歩き方が美しくない人が多くて、forward neck(+猫背)とガニ股の率が多いなぁ、なんて最近思っていたのです。それって単純にそういう姿勢の人が多い、ということだけではなく、それをあまり注意する人がいない、つまるところ、それを容認している文化もあるのかな、なんて漠然と思っていたのですが、この時代から“Forward neckとガニ股”という文化が確立されているとなれば、それも納得できます。別に、この姿勢が悪いものとは思われてなかった、ということになりますからね。(電車なんかでこういう人、よく見かけませんか?↓)
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…なんてですね。
そんなことを考えながらおじさまおばさまたちに混ざって写楽を堪能してきました。
こんな薀蓄だけじゃなくて、ちゃんと絵そのものも楽しんできましたよー。
服はざっくりと大筆で描いているのに、顔は細筆で繊細なタッチ。
当時の顔は書き込まずシンプルで、桜の花びらのような唇と、狐のような目、そして大きな鷲鼻。
高く上がった眉毛は、おすまししているようにも、すっとんきょうな顔をしているようにも見えます。
刀の紋様や着物の柄は非常に細かく描き込まれており、見てみて思わずため息が漏れますね。
あと、深爪が多いです(↓)。足も手も爪短い。あ、これは違うって?
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顔の輪郭が随分丸いので、私、当時の役者は結構太ってる人もいたんじゃないか、って思ってます。着物着ているし、体型は分からないんですけどね。こんな顎してて、細いってこともないだろう、とか、思っちゃうのも多いんです。当時の食生活じゃ、それはないのかな?これは完全にただの感想ですが。

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写楽展を見た後は上野恩賜公園を駅へ向かっててけてけ歩いていたら、
さつきフェスティバルというものをやっていました。
全国から出展された数々の作品の中から厳選された優秀作品がずらりと並んでいます。
しばし足を止めて鑑賞。さつきはお花が華やかで大きいのねー。
上野公園は緑が深くて綺麗なところなので、こういう色もまた映えますね。
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その後は、小雨の降る中、アメ横をふらふら。
ここは賑やかで良いですね、元気が出ます。
“超暇人” “無責任”と背中にデカデカと書かれたパーカーを、
アメリカの友人に買っていこうかと思ったのですが、あんまりなのでやめました(笑)。
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そんなわけで今日は上野周辺をぶらぶらして帰ってきましたー。
夜は高校時代の部活の後輩と飲んでわいわい。
明日は高校の同期と、大学院時代の友人とわいわい。
会ってくれる人がいるのは嬉しいですね。連日わいわいしております。
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  by supersy | 2011-05-27 23:55 | Athletic Training | Comments(2)

Commented by 一風斎 at 2013-02-11 12:52 x
はじめまして。この扇面画について特集ページを作りました。
ご高覧いただけたら幸いです。
Commented by さゆり at 2013-02-21 09:27 x
ご丁寧にありがとうございます。

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