見るだけで痛い。

私、こんな仕事してますが、
怪我の瞬間を捕らえた動画とか、血だらけの怪我の写真とか、実はすごく苦手です。
実際に自分の選手がそういう怪我をしたときは妙に冷静なので大丈夫ですが、
写真とかなるとなんかダメ。うへぇぇ、と顔をしかめてしまう。
自ら進んで見よう、という気はさらさら起きません。
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      (↑写真はDistal RadiusのOpen Fracture、ちなみにこのくらいなら平気)

でも、アメリカ人って(って、囲いすぎかな?日本人でも多いのかな?)、
こういう派手な動画・写真が好きな子って多いんですよねぇ。
私が学生の頃、センセイが授業でそういう写真を見せると周りの同級生は皆大喜びしていたし
(私は一人顔を覆っていた)、教授や業界関係者の知り合いで、
見るも痛々しい怪我の写真をどんどこチェーンメール的に送ってくる人もいますしね。

さて、今日のLower Evalの授業のトピックはInjury Pathology Nomenclature。
つまるところ、様々な種類の怪我について話をしていました。
Strain(肉離れ)、Sprain(捻挫)から始まって、打撲や骨折や脱臼などなど…。
それぞれがどういう風に起こるのか、どういった現象なのか、どんな症状が出るのか、治療法にはどんなものがあるのか…情報は盛り沢山です。とにかく目にも楽しいものにしたかったので、朝でおネムの学生さんにも目をぱっちりさましてもらおうと、写真やレントゲンやMRI等色々入れてかなり時間をかけて作ったスライドたちを総動員。
その甲斐あって、学生さん達は興味津々で聞いてくれました。
私自身もかなりの種類の怪我を見てきたので、教科書通りの記述だけでなく、自分の経験から色々とコメントを足せるようになっているのが、我ながら今まで気がつかなかった成長なのかも知れません。学生たちも、それぞれの怪我について、自分もしたことがある・見たことがある、というエピソードをいっぱい出してくれます。わいわいがやがや全員参加型。楽しい。

しかし、授業中に皆の顔を見渡していて、気がついたことが。
他の生徒は真面目な顔でノートを取っているのに、
とある生徒だけは満面の笑みをたたえて、目をきらきらさせてスライドに見入っていて。
中途半端な“微笑み”というレベルではないんです。にっこにっこの満面の笑みなんです。
“…なに笑ってるのさ?”と聞いてみたら、“だって楽しくて興奮しちゃって!”と。
聞けばその子(ちなみに女の子)、怪我の写真を見るのが楽しくて仕方ないんだそう。
血まみれのOpen Dislocation(開放性脱臼)の写真なんか、きゃーきゃー喜んでいます。
うぅむ、わからん。センセイはそんなキミの喜びがさっぱりわからんぞ。
しかしキミは私よりATの素質が格段にあるかも知れん。b0112009_1333513.jpg
センセイは期待しているぞ。

いやー、しかし、自分の好みに反して、私のオフィスのパソコンには、
怪我の写真のファイルが山のようにあり、毎日すごい勢いで増えています。
大腿骨が見事にぱっくり折れているレントゲン写真(→)を見て、
これは学期後半に使える、とっておこう!なんてうきうき保存している私は、
実は本人が思う以上に重症なのかも知れませんね(汗)。

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●Don't be old-school!!!!
さて、今日の授業で話した内容の中から、少しだけですがまとめてみたいと思います。

- Tendinitis(腱炎) vs Tensinosis(腱症)
Tendinopathy(腱障害)というのは、Any tendon pathology(とにかく何でも、
腱に問題がある、という状態のこと)という広い意味を持っていますが、
中でも3種類の腱障害があります。
  1. Tendinitis (腱炎)
  2. Tendinosis (腱症)
  3. Tenosynovitis (腱鞘炎)
Tendinitisは、名前の通り、Inflammation of the tendon、腱の炎症のことを指します。
ここで意外に知られていないのが、
私たちが思うほど、Tendinitisはcommonではない、ということ。
Patellar tendinitis、Biceps tendinitis、RC tendinitis、Achilles tendinitis…
普段から私たちは使いすぎというほどこのTendinitisという言葉を使っていますが、
実はその多くは間違いなのです。これは何故か?

Tendon(腱)は“avascular tissue”と言われることがよくあります。
つまり、血液の供給を受けない組織である、という意味なのですが、個人的にはこれはoverstatementじゃないかと思っています。血管は通ってるんです。神経も通っています。
ただ、問題はInnervationとVascular supplyが同じ腱の中でも非常にばらつきがある、
ということなんです。部位によっては多かったり、少なかったり、そして全く無い部分もある、と。
そういうことだと思うんです(↓)。
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血管分布にばらつきがあるということが何故問題なのか?というと、炎症という現象が起こるには、血管を通して様々なChemical Mediatorが送り込まれる必要があります。逆に言えば、腱の中でも血管の供給を受けない/極端に少ない部位は、炎症を起こすことが出来ないわけです。

つまるところ、腱にとって炎症を起こす、というのはなかなかの難題。
結果、炎症を起こせずに、徐々に変質していき、腱が弱く脆くなってしまう、というケースのほうが、実は格段に多いのです。これが、Tendinosis(腱症= degeneration of the tendon itself without inflammation)。もちろん、TendinitisとTendinosisが同時に起こっているケースも存在しますが、TendinitisよりもTendinosisのほうがoccurrenceとしては遥かに一般的なのだそう。
Tendinitisという言葉ばかり連発していたら、もう古いと思われちゃう?
今度選手を診るときには、“ああ、これはTendinosisだね…”と、どや顔で言ってみましょう!


- Heterotopic Ossification(異所性骨化) vs Myositis Ossificans(骨化性筋炎)
同じようなケースがもうひとつあります。
Myositis Ossificans(骨化性筋炎)といえば、重度のMuscle contusion(筋打撲・筋挫傷)やRepetitive muscle contusionの後に見られることのある、筋肉の中に骨が形成されてしまう症状のことを指しますが、実はこの名前ももう古いものとされています。
私、お恥ずかしながら、つい最近まで知りませんでした!!
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    (↑白くもやもやと写っている塊が、骨形成が進んでしまったところです)
新しい名称は、Heterotopic Ossification (HO)。
Heterotopic = wrong place(間違った場所)、Ossification =骨化、ということで、
つまるところ、本来起こるべきでない異常な部分に起きてしまった骨形成、という意味です。
何故Myositis Ossificansという呼び名が駄目なのか、というと、こういった骨化は、筋肉の中だけでなく、筋肉を取り囲むFasciaの中で起こることもよくあるらしく、Myositis(=筋炎)という名称は必ずしも全てのケースに当てはまるわけではない、という認識からきているのだそう。

いやー、実はこれは私も最近知ってさぁ、と正直に言ってみたら、
“Jerry(Head Athletic Trainer)は未だにMyositisで教えてるよー”と生徒の声。
“そいじゃ、皆今日習ったんだから教えてあげなさいよ。いいのよ、新しい情報には皆のほうが敏感なんだから、正しい事柄を教えることは、それが仮に上司相手でも、悪いとか後ろめたいとか思う必要は無いのよ。色んなことがどんどん変わっていくのが医学界の常なんだから。”…という、
また別のメッセージを教えるいい機会にもなりました。

しかしびっくりです。私がundergradの学生で習っていた立場の頃から、よく考えたらもう3年半。
物事も移り変わっていくわけです。そのペース、思ったより、速い!
ちゃんと情報をupdateしていかないと、あっという間に取り残されますね!
old-school (保守的で古臭いやつ)と呼ばれないよう、やっぱり日々の勉強を続けなければ。
EBPをクチをすっぱくして教えている立場の者として、自分でもその実践を怠ると、
周りからそれが露骨に見えてしまうこともあるぞ、と、背筋が伸びる出来事でした。

さて、明日はまたヒューストンに遠征です。
パッキング全然してないけど、明日の朝にががっとやろうっと。
それでは、おやすみなさい!
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  by supersy | 2011-01-20 23:15 | Athletic Training | Comments(3)

Commented by nori at 2016-10-06 12:45 x
いつも楽しく読ませてもらってます。

この以前の記事にコメントしたのは、腱障害の訳について検索していたらたどり着いたからで…
tendinopathy:腱の障害
tendinitis:腱炎
tendinosis:腱症
tenosyovitis:腱鞘炎
の違いはよくわかったのですが、調べていたらtendonitisという言葉まで出てきまして、、、これも腱炎と訳してよいものなんでしょうか?
いつも質問ばかりですみませんが、教えてもらえたら嬉しいです。
Commented by さゆり at 2016-10-06 13:54 x
ものすごく懐かしい記事にコメントありがとうございます。TendonitisとTendinitisは全く同じconditionを指すものと理解しています。スペリングのバリエーションと言うんでしょうか?7="なな"と"しち"みたいな?一般的なのはTendinitisのほうですよ。
Commented by nori at 2016-10-11 11:41 x
ありがとうございます。
異音同義語といったところなんですね。例もわかりやすかったです。

こういった用語は紙面上では読むものの、書くことも口に出すこともほとんどないので、細かなスペルまで見ていないことがあります。Muscle Latis...で、広背筋かなと思ったり。(そうしないと量が読めない程度の英語力というのが哀しいもので…)
だから改めてスペルを気にしてきちんと読むと、いろいろなことが気になります。そういった時に相談に乗ってくれる方がいるのは、本当に助かることです。いつもお世話になりっぱなしですが、ありがとうございます。

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