リハビリのすゝめ。

前回、UNFでの練習は全て終了、という話を書きましたが、
書類以外にも治療やリハビリという実務はまだあります。怪我を引きずってる子たちですね。
今年度の怪我は今年度中に。秋には100%健康で戻ってきてもらうために、
AT陣共々頑張らなくてはなりません。

さて。私の担当で、術後7週間程のリハビリ中の選手が二人います。
一人は足首、一人は肩にそれぞれほとんど同じ時期に手術を受けました。
この二人、実に対照的。
一人はものすごくやる気があって、私が指示した運動では物足りない、
早く良くなる為にもっとやりたい!というコ。もう一人は、私が指示したことを忠実に
やるものの、それ以外のことはしない、という気張っておらず、非常にlaid-backなコ。

やる気なんてあるに越したことはない!とお思いかも知れませんが、
これ実は、後者のほうが断然Athletic Trainerには好かれるタイプの患者です。
ATが良く使う表現を用いるなら、“more compliant, better potential in rehab”
(リハビリの効果を最大限得られる可能性が高い)ということになるんです。

ふたりとも手術後の経過はビックリするほど良好なのですが、
前者の子はちょっと目を放すと私が指示していないことを、私の目が届かないところで
やり始めてしまいます。えぇ、そういうのだってちゃんと耳に入ってくるんです。
他のathleteがこっそり教えてくれたりするんですよ、
“あのコ、この間こんなことしてたよ。まだそんなのするには早いでしょ、
Syには言っておかなきゃと思って”って。

休むべきときは休む、ということの必要性を本人にはくどいほど説明しているのですが、
頭では分かっていてもなかなか心には届かないみたい。屈託の無い良い子なんですけど、
運動に関してはとにかく出来る限りやらなければ、という強迫観念があるみたいです。
本人がするかもしれない余計なことも想定しつつ、リハビリの量も調節してみてますが、
そうはいってもリハビリの満足感を得てもらいたいし…変なところで頭を悩ませています。

先日、後者の“手のかからない"選手とリハビリをしていた時のこと。
本当に何一つ苦労することがないので、しみじみとこう言ってしまいました。

“You are a one of the easiest patients to do rehab with.
 1. You do what I ask you to do,
 2. You don't cheat,
 3. You don't do what I don't ask you to do.”

1はまぁ一目瞭然ですよね。これをじゃあ10回2セットね、と指示したことを彼女は
実に忠実にやってくれます。回数を誤魔化したりなど、決してしません。
2は、“サボらない、ズルをしない”という意味。実はリハビリをやっていく上でとっても大事。
選手に課すexercisesは現実的且つchallengingな(努力を要する)ものたちばかり。
つまり、分かりやすく言うと、“ちょっとキツイ”んです。頑張らないと出来ない。
b0112009_11201961.jpg
例えば肩のリハビリで、筋持久力を上げる目的で、筋肉が疲労を感じるくらいまでShoulder abduction(↑外転運動)をやらせているとします。疲れた~、もうできない!というところからもうちょっと頑張ってみることで、限界を少しずつ上げていくことができ、結果進歩が見られるわけです。
b0112009_11215346.jpg
この目的を理解せず、疲れてきたからと言って、本来使うべき筋肉とは違う筋肉を使い出し、
肩甲骨を上げて腕を上げているように見せる(↑)、というズルの仕方があります。これでは、
ターゲットとしている筋肉はrecuitされないので、いくらやったって意味がありません。
単に言われた回数だけ動きを繰り返しただけではダメなんです。“胴体や足を使って、
勢いをつけようとかしちゃダメよ。そんなにキツいんだとしたら、負荷を下げるから言ってね。
この運動は、肩関節だけに集中して他の部位を動かさないようにやるのが大事よ”と、
ちゃんと事前に説明しておかないと(そしてそれを本人が本当の意味で理解してくれていないと)、
費やしている時間もエネルギーも無駄になってしまいます。
運動の目的を理解し、“正しいやり方”に忠実にやる。
それが、cheatしない患者ということです。

さて、問題は3です。
私が指示しないことは、やらない。これってとっても大事なのです。
私達がリハビリでやることには、ひとつひとつ意味があり理由があります。
そのステージで最もやるに相応しいことを経験と知識から選んでいるので、
それから外れたことをするとこれが大きなマイナスになりかねないのです。
その要因は、患者の感覚と実際の治癒のプロセスの間に生まれる差、なんです。

手術直後は、部位がどこであれ、傷口もまだ塞がっておらず、
患部の痛みもあるので、患者本人もその部位を動かすことに恐怖感がある場合がほとんどです。
安静に安静にと自分でも周りからも言い聞かされ、当然、無理に動かそうとしたりはしません。
問題は、手術後数週間経ってから。本人が“あれ、結構順調なんじゃない、もっと出来るわ!”
と思い始める辺りなのです。これ、実はリハビリでは結構危険な感覚なんです。
患部の痛みも随分引いたし、ちょっと動かしてみても痛みが出ない。お、治ってるじゃない!
と感覚的に思ってしまうかもしれませんが、実際は患部はまだまだ治癒の真っ只中。
b0112009_1139578.jpg
disruptされたtissueにはcollagen fiberが張り巡らされ、とりあえず足場は繋がったとは言え、
Fiberの並びもランダムで、種類としてもまだまだ強度の弱いもの(上図左下)。
これを、時間をかけリハビリをして患部に適度な負荷をかけることでfiberの並びは徐々に平行に
なっていきその強度を増します。同時に、最初はtype IIIという弱っちいやつらで構成されていた
fiber達も、徐々にもっと強度の強いtype Iにreplaceされます(上図右下)。
患者の感覚“治った!”と実際の治癒の進行状況“まだまだ再建途中”というギャップ。
これが最も大きくなるこの時期が、患者が無理をしてre-injury(怪我の再発)をして
しまいやすい時期でもあります。

そんなわけで、餅は餅屋。リハビリをする機会が皆さんにもあった場合、
ちゃんと専門家の意見を仰ぎ、それを守ることをお勧めします。
もちろん人にもよるでしょうけれども、私がリハビリをするときには、
患者さんの性格をよく踏まえ、結果はもちろん本人の達成感も重視し、一緒に運動のひとつひとつ説明していきながら、“一緒に進んでいく”というスタイルにしようと自分なりに工夫しています。
運動も飽きないように、新しいものを入れつつ、ちょっと難しい課題を時折課すことで
真剣に取り組ませ、またその進歩を一緒に楽しむ、というね。
リハビリに皆が笑顔で来てくれる、というのが密かなる目標です。
得意気に、“ちゃんと家でもストレッチやってるよ!ほら!”と自慢するようになってくれれば
してやったりです。しっかり本人も楽しめてる証拠!元々頑張り屋さんの彼女たちですから、
努力は正しいほうに使うように誘導してあげないとね。

怪我、というのはいつの時代も憎らしいモノですが、
リハビリが必要になれば、それを楽しんじゃうしたたかさも必要ってもんです。
“いつも出来ていたことが出来なくなった”という感覚は怖いですけれど、
そういうときこそ専門家さんにしっかり頼って指示を仰ぎ、知識を共有しましょう。
きっとリハビリだって、そんなに悪いもんじゃないって、気がつくはず!
[PR]

  by supersy | 2010-04-26 21:30 | Athletic Training | Comments(0)

<< 悲しかったり嬉しかったり。 怒涛の週末。 >>

SEM SKIN - DESIGN by SEM EXE

AX