はははは歯の話。
変な怪我が多かった。初めて見るわけじゃないけど、Pec Strainとか。
一番びっくりしたのは、どかーんとフェンスに激突して歯が一本取れた選手でした。
顎も強打したので赤くなっていて、私のところに来たときは泣きじゃくっておりました。
おうおうかわいそうに。
さて、歯が取れた。
そんなときアナタはどうしたらいいのでしょう?
ATならもちろんのこと、そうじゃない方々も知っておいて損はないと思います。
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歯が取れてしまうことを英語では歯をノックアウトする(knock a tooth out)と表現し、
専門用語ではTooth Avulsionと言います。日本語では脱落歯と言うみたいですね。
欠けてしまうことはTooth Fractureと言うのですが、fracture=骨折という意味なので、
まぁなんと言うか、これも骨折の一種になるのですね。面白い。
あまり細かいAnatomyは今回飛ばしますが、一番上のEnamelは、ミネラルがぎゅぎゅっと
凝縮された人体の中で最も硬い部位になっています。ヒトの噛む力ってものすごいですし、
毎日食事をするときの咀嚼に耐えているんですから、よく考えてみれば納得できますよね。
歯の深部は神経と血管が走ってます。軽度の虫歯が痛みを伴わないのは、この神経まで到達するほど深くないからなんです。それから歯と歯茎の間には、periodontal ligamentという繊維質な靭帯が在り、木の根っこのようにがっしりと歯を支えています。
まぁそんであれです、こんな風(↓)に歯が並んで生えているわけですよね。
歯が取れると、歯の周囲を固定していたperiodontal ligamentがぶちぶちっと切れて(↑)しまいます。
replantしたときに、これらの靭帯がまだ生きていれば
またくっついて回復することができるのですが、靭帯が死んでしまってはそうはいきません。
つまり、靭帯が生きたままの状態で、取れてしまった歯を入れなおす。
これができればいいわけです。
一番手っ取り早いのは、ていやっ、と取れた歯を入れてみることです。
土などがついてしまっている場合は、ササっと水で流して、口にそのままはめてみましょう。
このとき、手に持つのはenamel部分だけにして、rootに触らないよう気をつけて、
それから水では軽く流す程度で、決してこすったりしないようにしてください。
靭帯まで擦り落としてしまってはもってのほか!ですからね。
上手くはめることができたら、とりあえず大成功。
そのままの状態で歯医者さんにすぐ向かい、診察をしてもらいましょう。
それでは、上手く入れることが出来ない場合には?
歯が取れてしまった状態では、取れたほうの歯に付着している靭帯は栄養を受け取ることができません。時間が経てば経つほど徐々に細胞が死んでゆき、replant成功率は低くなってしまいます。
つまり、いかに早く、細胞を生きたまま保存して歯医者へ辿り着けるか。
こういうシナリオではここらへんが大事になってくるんですね。
手に持ってそのまま歯医者に向かったのでは、乾燥はするは雑菌はつくわでロクなことがありません。何らかの液体に入れて運ぶのが良いのですが、それでは、どんなものが良いと言われているのでしょうか?好ましい順に紹介してみたいと思います。
・Save-A-Tooth:
これは商標名ですが、
こんな見た目のパッケージ(→)をしています。
24時間avulsedした歯を保存しておける液体です。
常温保存が可能で、歯を保存するのに最も理想的なpH、
浸透圧を兼ね備えた液体が中に入っています。
リサーチによればreplant成功率91%という
素晴らしいものだそうです。
お値段はひとつ$15。
・牛乳…実はかなり良いんです、牛乳。
3時間periodontal ligamentの細胞たちを生かしておくことが可能です。
バクテリアも少なく、pHや浸透圧も細胞のソレに非常に近いそうです。
・塩水…もちろん人工でなく医療用のもの。salineはisotonicだし殺菌されていますしね。
・口内…飲み込まないように注意しつつ、口の中に入れておくこともできます。
とりあえず乾燥は防げますが、浸透圧が異なるのと、pHの値、
それから口内に無数に存在するバクテリア等を考えると、あまり好ましくはありません。
・水…これ、実は一番良くないんです。何も無いよりはいいんですけども、
低浸透圧による細胞破壊が起こってしまうのです。
今回考えさせられたのが、Save-a-tooth kitを買うべきか否かということで…。
うちの高校には元々置いていなかったし、予算に限りがある高校と言う現場では、いつ起こるか分からないtooth avulsionのためにお金を使うなら他に買いたいものは山ほどあるというのが現状でなんです。うーむ。そんなわけで今日うちの学生と話していて、いやー、牛乳でも十分良いって言うけれど、牛乳普通ATRに置いて無いしねぇ。仮に買ってきて冷蔵庫に入れておいても腐っちゃったらやっぱダメだもんねぇー、なんて言っていたのですが。。。
そこで学生が、“凍らせてアイスキューブにしてもダメ?”と言い出して、
おおっ、それいいかも。そうしたら溶かすだけで使えるもんね。でも、凍らせて牛乳ってどのくらい保つのかな…という新たな疑問がわいてきて、うーむ…とまた悩んでしまいました。
牛乳って凍らせればかなり保ちますか?ご存知の方います?
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ちなみに欠けてしまった場合(←)、そのカケラはできるだけ密閉できる容器が袋に入れておく必要がありますが、痛みさえひどくなければそのままプレーを続けても平気です。1-2日以内に歯医者に行き、カケラを接着剤でくっつけるなり詰め物を作るなりしてもらいましょう。
骨折面が血管まで届いていると出血を伴う場合がありますので、
その際はガーゼを患部に詰めます。実は私も数年前にスポーツをしているときに友人と衝突して、
下の前歯が欠けたんですよねー。日本に帰ったときに詰め物をしてもらったんですが、
結構前にそれも取れてしまって。でも痛みも無いし、ヒトが気づくほど大きく欠けてるわけでは
ないし、別に支障は無いのでもう放っておくことにしました。なんぼのもんじゃーい。
ただ、Rootまで届くような深いfractureやヒビ、それからぐらついていたり
曲がってしまったりした場合は、なるべく早く歯医者さんに見てもらうのが一番です。
私たちは歯の専門家じゃありませんし、歯って自己治癒力が低いですからね。
毎日美味しいご飯を食べるために頑張ってくれている歯たちですから、大事にしてあげましょう。
by supersy | 2009-02-10 23:59 | Athletic Training