ビタミンCに風邪の予防効果・回復効果はあるのか。

風邪がっ!治らないんですよっ!ズルズルズルズル治りきらないまま、かかり始めからもう一か月以上経ちますわ。睡眠に気を付けたり、休める時はスパっと休んだりしてるつもりなんですけど、なんででしょ?もう歳ってことかな。ちょっとしたかすり傷も痕が残るようになっちゃったし、免疫機能、回復機能が落ちてるのは残念ながら近年身に染みて実感しております。
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ところで、風邪にはビタミンC!とよく言われたりしますね。免疫機能を助けると。実際風邪の引き始めにビタミンCサプリメントをせっせと飲んでる人を見かけるのも珍しいことではありませんし。…しかしながら私はサプリメントや薬の類がもともとあまり好きではなく、積極的にわさわさ取る方ではないので(少し補足すると、folic acidやomega-3など、取っておきたいと感じるサプリはいくつかあるのですが、アメリカではサプリメントは全くFDA規制が及ばない、どれに何が入っているか全くわからない闇鍋業界なのです)、今まではどちらかというとそういう人を冷ややかな目で見ていました。効くわけないじゃん(むしろ腎臓に負担かけてるだけじゃん)、と思っていたわけですね。しかし、よく考えたらそういう分野の論文をちゃんと読んだわけでもないので、「ビタミンCのサプリメントが風邪の予防・回復には効かない」というのは私の偏見でしかありません。一度くらいはちゃんとエビデンスを見てみないといけないな、ということで、ちょっとレビューしてみました。
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手始めに全体像を掴むため、最新(2013年)のCochrane Libraryによるメタ分析論文1を読んでみました。合わせて29(総患者数11,306人)の研究をレビューし、RRを計算した結果のまとめでは、1) 一般の人がビタミンCを摂取することによって起こる風邪の予防効果はRR 0.97 (95%CI 0.94-1.00)でほぼ全く効果なし; 2) マラソンランナーやスキーヤー、兵士など普段から身体を酷使する人らがビタミンCを摂取した場合の風邪予防効果はRR 0.48 (95%CI 0.35-0.64)で大いに効果あり; 3) 前もってビタミンC摂取をしておくと、風邪を引いている期間が成人では8% (95%CI 3-12%)、子供の場合は14% (95%CI 7-21%)短くなる傾向にあり、特に子供が多めのビタミンCを摂取した場合(一日当たり1-2g)、その効果はより大きくなる(18%); 4) 風邪の深刻度(severity - 仕事や学校を休まなければいけなかった日数や、symptom severity scaleなどによって推し量られる)も、普段からビタミンCを摂取している患者のほうがより軽い風邪にかかるのみで済んだ…などの報告がなされています。ほうほうほう。面白い。しかし、5) Therapeutic Vitamin C、つまり風邪の症状が出始めてからのビタミンC摂取に関してはまだまだ研究の数も少なく、結果にもバラつきがあって一貫性ある効果は今のところ認められていない…と言う感じなんだそうです。

副作用はないのか?というのも気になるところなんですけど、2490人のhigh-dose (≧1g/day)のビタミンCを取った被験者と2066人のプラシーボ薬を取った被験者を比較すると、「副作用発症」率は5.8% vs 6.0%と大差なし。つまり「気のせい」の範囲内ってことですね。深刻な副作用は全く報告されていないそうです。

…となると、日常的なビタミンCサプリメントの摂取は、1) 風邪予防には普段から身体を酷使していなければ効果はないが、2) 風邪の期間や深度を下げてくれる効果はそれなりに期待できる、且つ3) 深刻な副作用はない、ということが言えそうです。ほぉー!
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もうちょっと新しいオリジナル研究論文はないかな?と調べていて見つけたのがこちら(↑)。2 2014年発表のrandomized, double-blind, placebo-controlled study。サクッとまとめちゃいますね。

30人の健康で喫煙歴のない、年齢幅18-35歳の男性を対象に行われたこの実験。これらの被験者は現在ビタミンCサプリメントを摂取していない、且つ普段食事で取っているビタミンC量が“marginal (決して多くない、基準値ギリギリくらい)”であることが条件で、血液検査でビタミンC濃度が45 μmol/Lであることを確認した上で実験を行ったそう(血液中のビタミン濃度ってどれくらいのスパンで変化するものなのだろう…食べたものや飲んだものの影響をモロに受けやすいなら、これは『普段からビタミンCをあまり摂取していない』という事実を確認するのに十分なテストなのか?という疑問は浮かびます。どちらにせよ私自身あまり詳しくない分野なので、どうして45 μmol/Lを閾値としたのかなど、個人的にはもう少し説明してほしかったです)。

んで。ランダムにビタミンC組(n = 15, 平均23.0±3.1歳)とプラシーボ組(n = 15, 平均23.2±4.3歳)に分け、風邪が流行りやすい1-4月の期間に、各被験者が「ビタミンC (500mg x 2 tablets/day)もしくはプラシーボ錠剤 (ビタミンCサプリメントと見た目は全く同じ)のサプリメントを朝と夕方の一日二錠摂取を毎日8週間続ける、というデザインで、被験者は1) 実験期間中フルーツジュースを飲むことは禁止され (self-reportのみ?どうやって確認を取っていたのかの記述はなし。果物の摂取そのものについては記述が無かったので、これについては制限は無かったと思われる)ていたほか、2) Wisconsin Upper Respiratory System Survey-21(5点以上が複数日続いたら『風邪』と判断)を毎日、3) Godin Leisure-Time Exercise Questionnaireとshort food frequency measureを毎週記録していました。実験開始から4週間と8週間(実験終了時点)にビタミンCとヒスタミンの血中濃度も計測されていたとのこと。

プラシーボ組15人のうち2人(13.3%)が途中drop out(1人は指示通りに錠剤を飲まないnon-compliantな被験者、もう一人は実験開始直後に回復に24日かかる酷い風邪を引いたため)したので、最終分析に含まれたのはビタミンC組15人とプラシーボ組13人(元々サンプル数が少ないうえに13.3%のdrop out rateは少し高いかと。どうしてITT分析にしなかったのだろう?)。

んで結果です。ビタミンC組では4週間(41.3±10.9 vs 30.8±11.4 μmol/L; p = 0.02)と8週間(41.2±10.4 vs 33.9±10.9 μmol/L)時点でプラシーボ組よりも著しく高い血中ビタミンC血中濃度が確認された、というところはまぁ驚くことはないかと思います。食事ログによればグループ間での食事の質、食事によるビタミンC摂取量に大差はなかったそうですが、こういったログのcompletion rateが何パーセントなのか、それから錠剤をどれほどきちんと指示通りに飲んでいたのか、というcompliant rateなどについては全く記述がありません。ここらへんが雑だとせっかくのrandomized, double-blind, placebo-controlっぷりが台無しになってしまうと思うんですけどねー…。
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実験期間中の被験者の平均運動量については「ビタミンC組のほうが少しばかり活発に運動できた!」ということが書かれているんですが、p値が最小でも0.10ですし、そもそもbaselineでのMET数値がグループ間で著しく違った(57±24 vs 38±22でビタミンC組のほうがそもそも活動レベルが多い人たちが集まっていた; p = 0.03)ので、実験期間中の比較自体が成立しなくなります。Treatment effectsが週数を増すごとに増えているのも見受けられるんですが、95%CIは0をまたいでおり、統計的に決定的ではないことがわかります。ここは、筆者が強調しているほど重要ではない、trivialなfindingであると私は判断します。
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風邪を引いた人数、回数、深刻度や日数なんですが、これも上の表にあるように、統計的に有意な差が見られたのは「各グループ内で風邪を引いた人数(7 vs 11人; p = 0.04)」のみ。RRは0.55 (95%CI 0.33-0.94)と、うーん、イマイチピンとこないというか、ギリギリ効果があるんだかないんだかって結果というか…。風邪を引いてしまったあとの発症期間の比較は統計的にmarginalな違いがある、といってもいいとは思うんですが(2.2±1.4 vs 5.4±4.5日; p = 0.06)、そしてこれは平均してビタミンCを日常的に摂取しているヒトは、摂取していないヒトに比べて、風邪を引いても約3.2日回復が早い(p = 0.06)という風にも言い換えられるんですが、うーん、他の計測値で特筆すべきことはありませんね。

結論としては、「普段十分にビタミンCを摂取できていない若年男性にはビタミンCのサプリメント摂取は活動レベルを上げ、風邪にかかっている期間を短縮させる効果がある」と言い切る形で述べられているんですが、個人的にはタイトルや結論で言われているほど、飛び上がって興奮するような効果ではないと感じます。marginalって感じですよね。より大きいサンプルサイズで、しっかりサプリメント摂取ログも提出させ、compliance rateも推し測った上でもう一度検証を行ってほしいなぁと思いますね…もちろん、女性を被験者とした研究も見てみたいです。

…そんなわけで、今回こうして複数の研究を読んで、「なるほど、確かにビタミンCの日常的摂取は副作用も無いし、風邪をもしかしたら薄っすら予防、そして発症しても軽度に抑える効果はあるのかも」という風に認識しなおせるいい機会にはなったんですけど、よーーーく考えたらエビデンスで実証されつつあるのはそもそも「風邪を引く前からビタミンCサプリメントの摂取している人達」に対する効果であって、「風邪を引いてからのサプリメント摂取開始 (= therapeutic supplementation)」に関してはほとんどエビデンスがないのが盲点でしたっ!もうすでに風邪をひいてしまっている私にはあてはまらない内容だったので、そこは反省して、とりあえずアパートの部屋を気合い入れて今週末に徹底的に掃除してやろうと思います。今週中には治したるー!

1. Hemilä H, Chalker E. Vitamin C for preventing and treating the common cold. Cochrane Database Syst Rev. 2013;(1):CD000980. doi: 10.1002/14651858.CD000980.pub4.
2. Johnston CS, Barkyoumb GM, Schumacher SS. Vitamin C supplementation slightly improves physical activity levels and reduces cold incidence in men with marginal vitamin C status: a randomized controlled trial. Nutrients. 2014;6(7):2572-2583. doi: 10.3390/nu6072572.

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  # by supersy | 2017-11-16 21:00 | Athletic Training | Comments(0)

ゴミはゴミ箱へ、舌は“スポット”へ:舌のポジションが下肢の筋肉の出力に及ぼす影響

もう4年以上も前に「口を休めている時の歯と舌のポジション」について記事を書いたことがありましたね。

顎の話をしよう:Having A Dentist in the Sports Medicine Team (2013年5月23日)
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今日のトピックはあっかんべー、ではなくて、舌についてです。舌は、咀嚼、嚥下、呼吸、そして「喋る」能力にも深く関わる奥の深い器官で、その機能の全てがCNSによって司られている(CN V-咀嚼、VII&IX-味覚、X-嚥下・発声、XII-舌の動き, etc)ことからも器官としての重要性が伺えます。

…で、一方で運動時に筋肉がどれだけ出力を上げられるかも、CNSが最終的な決定力を持っているわけですよね。舌のトレーニングによってCNS活性に変化が起こる、という過去の報告1 をふまえて考えると、舌の状態に影響を受けたCNSが、筋活動にも連鎖的に影響を及ぼす可能性は十分にあるわけで。これを研究として検証してみよう!というのが今回紹介する記事2 の概要です。
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b0112009_07570573.jpg健康な男性被験者(平均年齢26.6±4.5歳)18人が対象で(Pilot studyなので被験者は少なめですね)、条件はレクリエーショナル・アスリートであることと、循環系疾患、神経系疾患、整形外科外傷がなく、試験前24時間以内にアルコールやカフェインを、実験前4時間以内に食べ物・飲み物を一切摂取していないこと。加えて、概日リズム(生物体に本来備わっている一日の周期リズム)の影響を受けないよう、どの被験者も一日のうち同じ時間に実験を行うようにしたんだそう。丁寧に色々調整してる印象ですね。

デザインとしては、舌のポジションを少しずつ変えながら、Biodexを使って膝の伸展・屈曲の最大torqueを図る…と言う感じなのですが、サッカーボールを蹴る足を「利き足」として、利き足のみをテストしたそう。舌の異なる3種類のポジション(A: Middle Position-舌を前歯に押し付ける、通称MID; B: 口蓋上部のPalatine Spotと呼ばれる“スポット”に軽く触れる、通称UP; C: 下顎歯列弓の後ろに触れる、通称LOW)の影響を検証するために、各被験者それぞれ3日間のテスト日(疲労等を防ぐために中2日)を設け、ランダムな順番(人によってはUP→LOW→MIDとか、MID→LOW→UPとか)でテストを行ったそうです。

どの被験者も、スタンダード化されたウォームアップ(10分間のバイク、5分間のアクティブ・ストレッチ)を同様にこなし、最大torque計測中に唾などを飲み込んでしまうと舌のポジションが微妙に変わってしまうため、実験中の飲み込みは禁止。細かいところまで徹底されていますねー、よくできてる。

…で。結果がマジヤバイです。百聞は一見に如かずなので、とりあえずTable 1をご覧ください。

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もう、完全に一貫してUP(B)ポジション(赤枠)がことごとく勝利してるんですよ!MAX peak torqueもMAX workも加速も減速も、全ての計測において、舌が“スポット”に当たっているときが3つの異なるポジションのうちもれなく最も優秀だったわけです(*はp<0.05, ♰はp<0.01)。計測値の信頼度も非常に高く、ICC = 0.952-0.987とこれも文句ありません。

この研究の結論は、「舌のポジションは下肢の出力に多いなる影響を及ぼす」、もっと正確に言うと、「舌を“スポット”に当てておくと、下肢の出力が上がる」ということです。被験者の数こそ少なかれ、これだけ信頼性の高い数値が出たなら、被験者の数を増やしても再現性は高いのではと個人的には推測します。もっと大きいサンプルでもやってほしいし、上肢の出力も検証してほしい…!めっちゃ興味ある…!

こうなってくると、Palatine Spot(日本語では通称“スポット”で通じるみたいです)って何者なんだ、って話なんですけど、これは論文には“The palatine spot is a place in the mouth ceiling in correspondence of the palatine bone between the inter-dental papilla of the upper front teeth and the first fold of the palate (p.318)”と説明されていて、つまるところ、口蓋皺襞前方部の比較的平らな部分を指します(↓下図参照)。ええっと、やってみたい方は実際に舌を動かしてみてほしいんですけど、上前歯のすぐ後ろの歯茎部分にザラザラした突起がありますよね?そのすぐ後ろは逆に凹んでいて、ツルツルとなだらかな表面になっているはずです。そこのことなんです!一般的には、「ヒトが口と顎を休めているときは、舌はここに収まっているべきである」と言われる場所です。
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この「舌の収納場所」は興味深いことにTrigeminal nerve (CN V、三叉神経)のbranch (神経枝)があり、多くのexteroceptors (外受容器)集まっていると言われています。ここに舌を置くと、ゼルダの伝説の謎解きのように、カチッと何かのスイッチが入るんですかね。なんかこうして絵を見ていると(↓)、“スポット”に舌をあてることで、三叉神経がまるで電気回路のようにclosed loopを作りますもんね。確かに、自分がここにいるという知覚を確立するには十分なのかもしれない…。口蓋や歯科の知識はまだまだ乏しいので、これ以上の話は私には今日の時点ではできませんが、どちらにしても興味深い発見であることは確かです。どなたか、Palatine Spotについてもっとよく知るために良い論文などご存知でしたら教えてくださいー。
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1. Kothari M, Svensson P, Jensen J, et al. Training-induced cortical plasticity compared between three tongue-training paradigms. Neuroscience. 2013;246:1–12.
2. di Vico R, Ardigò LP, Salernitano G, Chamari K, Padulo J. The acute effect of the tongue position in the mouth on knee isokinetic test performance: a highly surprising pilot study. Muscles Ligaments Tendons J. 2014;3(4):318-323.

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  # by supersy | 2017-11-15 18:30 | Athletic Training | Comments(0)

異常と普通の境目: 画像診断の進歩による弊害、「Overdiagnosis」について考える。

風邪を連続で引いてあまり元気がなく、書こう書こうと思っているブログ記事もまだ終えていないんですが、そちらのアップはまた今度にすることにして、今日は久しく絶対に読んでおきたい論文を見つけたのでこの機会にまとめておきます。こういうのを目にすると途端に元気が湧き出てきますっ。
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もうタイトルからしてうほうほです!とにかく読んでみましょー。
画像診断の技術は年々目まぐるしく進歩していますが、だからといって見えるものをいちいち全て文字通りに取る必要もないのかもしれません。私、小学生の時に徐々に視力が落ちてきて、初めて眼鏡を作って「これでどうでしょう」とそれをかけてもらったときに、眼鏡屋さんのお兄さんの顔に無数のシミが見えてぎょっとしたんですよね。その時に、ああ、ニンゲン見えればいいってもんじゃないのね、と小学生ながらに思ったりしたんですけど…(お兄さんごめんなさい)、同じことが近年の画像診断でも言えるのではと思うんです。

さて、この論文の冒頭1では1) SLAP損傷と診断される患者の数が年々増えていること、2) そのうち、SLAP損傷手術を受ける患者の大半が「中年(40-65歳)」であることを挙げ、2-5 これらの手術が全て高い成果を上げているならばまだしも、現実はそうではない、3,6-9 であればこそ、患者の訴えている症状とSLAP損傷の存在との因果関係がどれほどあるのかをまず知る必要があるのでは、と訴えています。これは、尤もです。

で。この研究は53人(45-60歳、平均51±4歳、男性26人、女性25人)の、一度も肩を怪我した経験がなく、現在も肩の痛みが全くない(VAS=0)健康な被験者を対象に行われました。これらの被験者はまず「肩が健康である」ことを確認するために、3名の担当医師のうちひとりによるスタンダード化された肩の診察を受け(ROM, RC Strength, Palpation, Apprehension Test, Jerk Test, Anterior and Posterior Load and Shift, Sulcus Sign, Active Compression Test, and Crank Testなど)、それらのfindingが全て正常であることが実験の参加条件だったようです。SLAPを除外するのに選ばれたのがActive Compression TestとCrank Testなんですが、私はこれは実にいいセレクションだと思っています。Rationaleは具体的に書かれていませんが、除外するためには統計的にこのふたつが比較的優秀と言っていいと思うんですよね。確定って言われたらYeargason TestとAnterior Slide Test入れたくなるところですけど、今回の目的は除外っすからね。個人的には、(どうせAnterior Apprehensionをするなら)Biceps Load Test入れるのもアリかな?と思うけど。

さて。そんで「両肩共に健康である」条件を満たした被験者の肩を片方ランダムに選び、Non-contrast MRIを撮りましたよと。これはContrastじゃあかんかったのかな?その画像をこの研究の目的を知らず、患者のbackground(年齢や性別など)を知らない筋骨格専門のトレーニングを受けた2年目と4年目の2名のRadiologistさんにそれぞれ読んでもらって、その結果を検証しました、というのがこの研究の流れです。MRIの機械とviewは全く同じものを53人の被験者全員に使ったようです(私はこのあたりは良くわからないのですが、より高い画質でMRIが取れるとされる1.5-T scannerという機械だったそうです)。

で、結果へ飛びましょう。
Radiologist #1は53人中38人(71.7%)を、Radiologist #2は53人中29人(54.7%)を「Superior Labral Tear」ありと判断。k = 0.41(p = 0.001)というinterrater reliabilityはカテゴリーとしてはギリギリmoderateなんですけど、正直言って思ったより低いですね。同じMRI画を画像を見ても53人中9人(17.0%)の被験者でSuperior Labral Tearがあるかないかの判断が食い違うというのはなんとも…(文章中のTable 2は細かく見ると結構衝撃です)。自分が患者だったら、LabralとかRC損傷アリと言われてもsecond opinion聞きに行きたくなっちゃうなぁ…。

しかーし!驚くべきは、低く見積もっても、肩の怪我の既往歴も痛みもなく、診察の所見でも全く異常が見られない健康なヒトでも、その半数以上(≧54.7%)にSuperior Labral Tearが認められたという事実です。その他にも、Anterior Labral Tearは53人中3人(5.7%)、Posterior Labral Tearは少なくとも53人中8人(≧15.5%)で確認できたというのだから、これもびっくりです。つまるところ、「歳を取れば関節唇は自然と衰えていくものである (= A superior labral tear confirmed by MRI may need to be considered as one of the normal variants associated with aging」、言い換えれば、「肩の痛みを訴えてきた中年患者のMRIでSuperior Labral Tearが確認できたとしても、それが患者の主訴と直接因果関係があるとは限らない (= The presence of a superior labral tear in MRI may or may not be relevant to the patient's chief complaint」ということになります。関係が無いかもしれないものに対してメスを入れるというのは、他に疑わしきものがなければ確かに理解できない思考ではないのですが、しかし少しばかりぞっとする、怖いアイデアのような気もします。他の選択肢をexhaustする前に「SLAPが認められますね、手術しましょう」と医師に言われたら…私は「ちょっと待ってください、このSLAP損傷と私の肩の痛みが直接関係しているという根拠はどこにあるのですか?(How do you know it's clinically relevant to my pain?)」と聞きたくなってしまうかもしれません。医者にしたら嫌な患者でしょうけれど、それでも患者として医師に説明を求める権利はありますよね。喧嘩腰にオラオラと質問したいのではなくて、純粋に医師の考える根拠を聞いて、自分でも納得した上で手術を受けたいのです。「だってたぶん関係あると思うから」では、目をつぶって銃を打っているようなもんじゃーありませんか。当たればいいけど、当たらなかったら…?

うーん、冒頭に戻ってしまうんですけど、科学が進歩したが故に、見えなくていいものが見えるようになってしまった、過剰診断 (overdiagnosis)という現象が起こるようになってしまった、というのはあると思うんですよね。私は肩のSLAP、腰椎の椎間板ヘルニア、股関節の関節唇損傷、膝のChondromalaciaなんかは、「知らないほうがいい、見えないほうがいい『損傷』トップ4」だと勝手に認識しています。特に中年患者の場合、『異常』が見られても、それが『正常 (normal variant)』であるケースは、かなりあるんじゃないかと…。私みたいに「なんでなんで」とズカズカ図々しく聞いちゃうニンゲンが患者ならそれもまだいいんでしょうけど、逆に例えば医療従事者側が「これは画像診断では認められたけど、今回の患者の主訴とは関係ないだろう」と判断しても、患者が「えっでもこれなんですか、やばいですよね、これやばいやつですよね!」と過剰反応してしまったら、事態はさらに悪化するかもしれません。例えば、今回の被験者全員に、「実はMRIで貴方の肩には関節唇損傷が認められましてね…」と素直に結果を伝えたら(実際伝えたかどうかは分からないですが)、彼らはどう思うのでしょう?全く痛みも異常も見られない、「健康」だったはずの肩が、彼らの中で「損傷のある肩」に変わってしまうかもしれません。病は気からと言いますが、損傷があると分かって送るこれからの生活の中で、「あれ?なんか肩が痛い…気もする?」「なんかパキって言った?これも損傷のせい?」と「病」を作り出してしまう可能性だってあるのです。そうなったら、治療すべきは関節唇損傷なのか、「被害者意識」なのか、「損傷がある」という認識なのか?うーむ?どんどんややこしくなってきますね…。

次は同じ研究を大学スポーツ選手やプロスポーツ選手でやってほしいですね。年齢が若い分、もしかしたら「損傷」が認められる頻度は落ちるのかもしれませんが、それ以上に肩を使い込んでいるのも事実ですから…。Overheadスポーツとそうでないスポーツにわけて…、いや、各スポーツとレベルごとに細かく分けて、massive MRI studyしてほしいですね。お金めっちゃかかりそうですけど、かなり興味深い結果になるはず!

1. Schwartzberg R, Reuss BL, Burkhart BG, Butterfield M, Wu JY, McLean KW. High prevalence of superior labral tears diagnosed by MRI in middle-aged patients with asymptomatic shoulders. Orthop J Sports Med. 2016;4(1):2325967115623212. doi: 10.1177/2325967115623212.
2. Onyekwelu I, Khatib O, Zuckerman JD, Rokito AS, Kwon YW. The rising incidence of arthroscopic superior labrum anterior and posterior (SLAP) repairs. J Shoulder Elbow Surg. 2012;21:728–731.
3. Weber SC, Martin DF, Seiler JG, Harrast JJ. Superior labrum anterior and posterior lesions of the shoulder. Incidence rates, complications and outcomes as reported by American Board of Orthopedic Surgery part II candidates. Am J Sports Med. 2012;40:1538–1543.
4. Zhang AL, Kreulen C, Ngo SS, Hame SL, Wang JC, Gamradt SC. Demographic trends in arthroscopic SLAP repair in the United States. Am J Sports Med. 2012;40:1144–1147.
5. Vogel LA, Moen TC, Macaulay AA, et al. Superior labrum anterior-to-posterior repair incidence: a longitudinal investigation of community and academic databases. J Shoulder Elbow Surg. 2014;23:e119–e126.
6. Neri BR, ElAtrrache NS, Owsley KC, Mohr K, Yocum LA. Outcome of type II superior labral anterior posterior repairs in elite overhead athletes. Am J Sports Med. 2011;39:114–120.
7. Park MJ, Hsu JE, Harper C, Sennett BJ, Huffman GR. Poly-l/d-lactic acid anchors are associated with reoperation and failure of SLAP repairs. Arthroscopy. 2011;27:1335–1340.
8. Sassmannshausen G, Sukay M, Mair SD. Broken or dislodged poly-l-lactic acid bioabsorbable tacks in patients after SLAP lesion surgery. Arthroscopy. 2006;22:615–619.
9. Stetson WB, Snyder SJ. Clinical presentation and follow-up of isolated SLAP lesions of the shoulder. Arthroscopy. 2011;27:e30–e31.

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  # by supersy | 2017-11-14 21:00 | Athletic Training | Comments(0)

CAATEのスタンダード改訂に伴うカリキュラム必修項目変更について。

毎年恒例のフロリダはタンパでのCAATE Conferenceに参加してきました。充実していた!の一言です。

このカンファレンスで私が一番聞くのを楽しみにしていたのは、最新版CAATE Professional & Curricular Content Standardsの開示でした。CAATE認定を受けているATプログラムでは、どういった構造で、どういった教育内容を提供しなければいけないという細かな決まりがあるのですが、それが定期的にアップデートされるんですよね。この最新版はもう2年程活発に議論が重ねられており、Public Commentも2回openになっていたのですが、「そろそろ最終決定される」という噂がまことしやかに囁かれていたわけですよ。いったいどんな風に着地するのだろうとわくわく待っておったわけです。

個人的に、驚くことが幾つかありました。感覚が新鮮なうちに感想をまとめておきたいと思います。

*念のため、ですが、これらのスタンダードは草案段階であり、まだ最終決定一歩手前で、変更される可能性は(小さいですが)ゼロではありません。2020年7月1日から施行開始に向けて、あと半年以内に正式発表になるものと思われます。

[新たに改訂版必修項目に含まれる可能性が濃厚なものたち]
・脱臼修復
・止血剤・止血帯(tourniquet)使用
・OD患者に対する救急剤の投与(ナロキソンの静脈注射)
・足底板やキャスティング等の選択又は作成
・関節マニピュレーション
個人的に、最初は「tourniquetの使用はスポーツの現場ではほとんど必要ない。軍隊などの限られたsettingでしっかり教えられればいいのでは?」と思ったのですが、いやいやしかし、ボストン・マラソン爆破事件や最近のラスベガスでの無差別銃撃事件を見ていると、確かに今のアメリカには必要なものなのかもしれない、と思い直しました。Mass casualtyに備えての訓練と捉えればいいのかな、生命にかかわる場面では確かにこれを知らないと話にならないか。
脱臼の修復は学ぶのも教えるのも楽しみです…が、実際の患者で練習するわけにもいかないし、訓練キットの購入が必要になってくるかな。脱臼修復で一番トリッキーなのは指だと思うんですよね、簡単そうで、あれ奥が深いんですよね、意外と。
足底板やキャスティングについては少し含みのある表現になりそうですが、Customized orthoticsの作り方を教えるプログラムも出てくるってことですねー!むー、私が学生の立場なら是非これを教えてくれるプログラムに学びに行きたいもんです!

[必修項目に含まれると思われていたけれど、ぎりぎりで外されそうなものたち]
・血液検査(採血)
・ECG
・縫合
血液検査(採血)、ECGについては「やり方を実際に学ぶか、そうでなければ適切なreferをして、できるヒトにしっかりと繋げられるようにする」という表現に留まりそう。
縫合も確実に入るかと思ったのですが…"wound care and closure"という緩めの表記にこれもなるそうで。つまり、"suture (縫合)"という言葉は明記はされず、例えばsteri-stripsを用いたwound closureでもOKという感じになりそうだとのこと。
ぬぬー。これについては少し残念な気もするのですが…。Public commentからのフィードバックに基づき、こういった幅を持たせた表現が最も適切だと決められたのでしょう。別に認定プログラムが採血、ECG、sutureを教えられないわけじゃない。むしろ教える自由はプログラムに委ねられており、それを躊躇するプログラムにはその自由をdeclineする選択肢がついている、という風に私は捉えています。私の一存で決められるものなら、これらの内容はそりゃーもう、うちの学生には絶対に教えたいです。

それから、この学会で幾度も、CAATEは国境を超えATのグローバリゼーションを推奨していく、海外との提携とも広げていくという表現を耳にしました。既に海外のプログラム2つが認定に向けて準備を進めており、CAATE曰く、「カナダ、イギリス、アイルランド、日本、スペインとの提携を視野に入れている」んだそうです。非常に勝手で個人的な感想ですが、私はここで母国の名前を目にして非常に嬉しく思いました。こんな素晴らしい機会を我々が掴まない手はありません。是非私が生きているうちに日本CAATE認定のプログラム第一号誕生の実現を目にしたいものです。逆に言うと、この波に日本が乗らなければいよいよ日本のATは末期かもという危機感も抱いています。CAATEの教育水準と少なくとも競える内容を教えていなければ、向こうだって興味を無くすでしょうから。変わるなら今です。これらの一押しが日本でのATという(いや別に違う名称だっていいんですけど)医療資格としての確立、教育カリキュラムの統一などに力を入れるきっかけになればと願っています。

以前某書でアメリカのATは思春期を迎えた中学二年生の子供のようなものである、と書きましたが、今回の学会で、いよいよ今中学三年生に進学し、卒業・高校進学を視野に入れてめきめき成長を遂げていっているなぁ、という印象を強くしました。なんだか気が付けば顔も大人びてきて、一気に頼もしくなってきているではありませんか(何様だ、という感想ですけども、いやほんとに客観的に見て)。高校での3年間は濃密で、心も体も一気に成長する時期です。一度高校に入れば、アメリカのATは爆発的な成長を遂げるでしょう。これからどういう風にこのProfessionが舵を切り、方向を定めて成長していくのか楽しみでなりません!

一方で、これらの必修項目改訂を目にして、なんだこれは、知らないものばかりだと少しそわそわと落ち着かない気分になるATの方もいるかもしれません。その気持ちを是非大腕を広げてギュッと受け止めてやってください。貴方の中に湧き上がるそのdiscomfortこそが、他でもない、この職業が進化し続けているという揺るがない証拠なのです。ATCというcredentialを持って活動している以上、我々は最新の知識を得、新たに需要が生まれてくる臨床スキルを習得する責任と義務があります。資格を取って、BOC合格してオワリ、ではないことは覚悟してみなこの業界に入ってきたはずです。これから様々な学会や勉強会で今回のブログに書いたような(i.e. 脱臼の整復、静脈注射、マニピュレーション)分野の技術・知識を学ぶ機会が皆さんの目の前に現れることでしょう。是非その機会を活用してください。自分が知らないこと、苦手だと思うこと、どんどん積極的に勉強していってください。時代のニーズに合ったAT像を、我々個人がしっかり追い求めなければ、我々はあっという間に用無しと言われる対象になってしまいます。
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変わることを恐れていては、ロクなことがないんです。アメリカAT界は、今までに2回恐怖感から身体をすくませ、それが原因で重要な機会を逃がしています。一回目は、もう何十年も前。全米規模で高校でAT雇用を強制化しようという法案が生まれたのですが、実はそれを採決手前で取り消したのは他でもないATら自身でした。「そんなに膨大な数のATを全米規模ではとても輩出しきれない」と恐れ、二の足を踏んだことが原因だったそうです。もし、その法案が可決していたら、今日のアメリカスポーツ医療界にはどんな景色が広がっていたでしょうか。
二度目は、インターンシップ制度を廃止し、カリキュラム制度のみに切り替えるその決断時期でした。まだ要るんじゃないか?もう少し続けようか?皆嫌がるかな?と無くすことを恐れた結果、インターンシップ制度廃止をするタイミングを逸し、長く続けすぎてしまったのです。フレームワークの無い職業育成はクリニシャンの幅を上へも下へも際限なく広げ、結果、この業界そのものの成長を妨げる原因になってしまった。これらの「足踏み」を後悔している熟練ATの懺悔を何度も耳にする機会がありました。
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さぁ、我々は3度目の大きな試練を迎えています。Health Care Teamの一員として、我々は初めて他の「オトナ」の座るディナーテーブルへの招待券を得たのです。私たちはしっかりと身嗜みを整え、正しいテーブル・マナーで、他の職種の人たちと同じ言葉を喋り、ウィットの効かせた会話を広げながら、お食事を楽しめるようでなければなりません。

こんなところにカーキにポロシャツで来てはあまりに場違いですし、エビデンスのエの字も知らないようでは我々は会話に混ぜてもらうことすらできないでしょう。言いたいことは分かりますよね。このテーブルでチーム医療の一端を担うメンバーとして適切に振る舞うことができなければ、「やっぱりまだ早かったみたいだね」とオトナたちに苦笑されるのは目に見えています。そうなれば、我々が次にこのテーブルに招待してもらうまでもう10年はかかることでしょう。慣れない「オトナ」のテーブルに座るのは少し居心地が悪い、でもせっかくの機会を怖がっていてはいけないのです。3度同じ過ちを繰り返すことが無いよう、躊躇することのないよう、息を吐いて帯を締めて、勇気をもって一歩を踏み出しましょう。できないんじゃないか?という恐れに身を任せ、歩みを止めることが最大の悪。知らないことを知らないと認める潔さと、変わることを恐れない勇気さえあれば、我々はもっともっとどこまでも進んでいけるはずなのです。

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  # by supersy | 2017-10-17 23:30 | Athletic Training | Comments(0)

運動中の適切な水分補給に関する最新NATA Position Statement。

Hypohydration vs Hyperhydration。防ぐべきはどっち?(2012年6月13日)
EAHおまけ。そしてキャンプ終わり!(2012年6月14日)

脱水を予防しようとするNATAのFluid ReplacementのPosition Statementと、水の飲みすぎを予防しようとするInternational Exercise-Associated Hyponatremia (EAH) ConferenceのConsensus Statementがいかに食い違っているか、Heat Illness/Dehydration予防とEAH予防の境目はどこなのか…などについて昔まとめたことがありました。

『恐らくもう少しでUpdated NATA Fluid Replacement Position Statementも新たに出版されると思うのですが、ここ5年ほどで高まったEAHのawarenessがどれほど反映されるのか、他の問題(高体温症・脱水)と比べてどれにどれほど重きを置くのがATとして相応しいのか等、組織としてNATAがどういう判断をするのかとても楽しみになってきました。』

…と昔の記事は締めくくられていますが、いやー、あれから4年!かかりましたね!ついに新たなPosition Statement1 が発表になったのでまとめておこうと思います。
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まず目に付くのはタイトルの違いですよね。以前のタイトルは『National Athletic Trainers' Association Position Statement: Fluid Replacement for Athletes』だったのが、今回は『for Physically Active』に。より対象を広げることで、例えばレクリエーショナル・ランナーといえども、ultra-distance走ったりトライアスロンしたり、かなりの強度の運動をする人が増えてきているじゃないですか、こういう方たちにもこのガイドラインを活用して欲しいと言う願いが込められているんじゃないかなと思いますよね。

イントロからしてかなり面白いです。個人的に自分にremindしておきたいことを箇条書きにしておきます。
 - 半数以上のプロ、大学、高校のアスリートは、練習に来た時点で既に脱水状態にある
 - 喉の渇きに従い、自主的に水を飲んでいるだけでは、失った水分の2/3程度しかreplaceされない
 - 人体から熱を逃がす最も効率の良いメカニズムが発汗とその蒸発であるから、身体の中の水分が失われると深部体温が上昇することになる(= 効果的な体温調節には適切な水分補給が必要不可欠)
 - そんなわけで脱水しすぎはもちろん良くないが、逆に水を飲みすぎてもEAHになる。EAHはteam sportsで起こることは稀だが、distance athletesの10-20%には起こるという決して珍しくは無いconditionである

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冒頭に各用語の定義があるんですが、これがものすごくhelpfulでした!!私、いくつかの用語を勘違いして理解していた!私なりの理解を図にしてまとめてみました(↑)。まずは体内に理想的な水分がある状態がEuhydration(水分の損失・獲得が本来の体重の±1%以内)、そこから水分を失うプロセスのこと(左方向へのシフト)をDehydrationといい、それによってできた状態のことをHypohydration (体内の水分移行のスペクトラムで水分が不足したendにいること)というんです。逆に水分がありすぎる状態はHyperhydrationと呼ばれます。私、HypohydrationとDehydrationは同義語なのだと思ってた!Hypohydrationの状態が作られるのにDehydrationが起こらなければいけないのは一目瞭然ですが、Dehydrationが必ずHypohydrationを伴うわけじゃないんですね(なぜならHyperhydrationからEuhydrationになるそのプロセスもDehydrationだから)。ほえーすげくアタマがすっきりしーたー。

推奨事項 *私が個人的に覚えておきたいもの
1. 普段の生活において、一日にどのくらいの水分を摂取し、どれほどを排泄で失うのかは個人差が大きく、同様に運動中の発汗率、喉の渇きの感覚や自主的な水分補給の度合いにも大きな個人差が存在する。故に、水分補給の指針もその人に合ったものでなければならない 推奨度・A
全ての人に当てはまる普遍的な推奨事項を作ることは不可能である、とも断言していますね。理想を言うならば、様々な練習環境を想定して、Sweat rateのassessmentを数回行えと。発汗率は一時間当たり少ない人は0.5L、多い人は4.0Lもあったり、発汗による塩分のロスも一時間当たり0.2~7.3gと個人差が大きいから…と確かにそういう数字を示されると…うーむ…もちろん追及していけばそういうことになるんでしょうけど…。でも同じ人でもプレシーズンとインシーズンで数値も変わってくるでしょうし、moving targetを追って何度も計測を繰り返すのは現実なかなか実践が難しいと感じます。特にDivision IIやIIIの大学で、アスリートの数に対してATが見合わないところではまず不可能かと。いや理想なのはわかるんですよ、わかるんですけども。

2. HypohydrationもHyperhydration(ここではHyperhydrationとEAHがinterchangeablyに使われていますね)も過度になれば命に関わる。初期症状は喉の渇き、倦怠・疲労感、頭痛に嘔吐と酷似しているが(Hyperhydrationでも喉が渇くんだ…)、後期の症状は:
Hypohydration - 喉の渇き、胃痙攣、暑いや寒いなどの体感異常
Hyperthydration - 異常な発汗、精神異常に癲癇
など、区別が付きやすく変化してくる。ここまで進行する前に、少しでも早く正確に診断しようと思ったら血液検査や体重測定が必要である 推奨度・B
なるほど確かにCNS involvementがあるかどうかで患者がHydration Spectrumのどこにいるかはアタリがつけられるかもしれません。しかし、Hypohydration状態でEHSも併発していればEAHとの区別化はほぼ不可能でしょう。この場合はRectal Tempを使っての診断分けが必要不可欠になってくるのではと思いますね。ここらへんは、今回のPosition Statementでは触れられていませんが。

3. 1%のHypohydrationで体温調節能力が低下し、>3%のHypohydrationでExertional Heat Illnessのリスクが中(moderate)から上(severe)へと跳ね上がる 推奨度・B
運動中、1%水分を失うたびに深部体温が0.15~0.20℃上がるという記述もありました。あと、1%失うあたり、毎分心拍数が3-5回上がるとも。面白い、そんな比例関係知らなかった…。めもめも。

4. EAHはHypotonic fluids(水はもちろん、スポーツドリンクも含む)の飲みすぎで起こる。一時間以上の運動をしたあと、体重が増えているということは水分補給に対して排泄が追いついていない、EAHのリスクを高めている、ということなので、運動をするヒトは運動前・後の体重を量り、どの程度が「飲みすぎ」なのか学んでおく必要がある 推奨度・A

5. ATはEuhydration (±1%)をプロモートし、運動後の水分のロスを2%以内に保つ努力をするべきである 推奨度・A

6. Individualized Hydration Planを作る際に考慮すべきは発汗率、練習環境、Acclimatization (acclimatizeしていればいるほど、運動中かく汗の量は増えるが失う電解質は減る=損失を最低限に抑えたまま、効率良く体温を下げる汗がかけるようになる)、身体の大きさに運動の長さ、強度、そして個人の飲み物の好みとfluid tolerance (どの程度の水分を無理なく飲めるか)である。摂取した水分がどれほどの早さで身体を出て行くかは飲んだ水分の量、温度、浸透圧、pH、炭水化物濃度…など、様々なものの影響も受ける 推奨度・A

7. 水分は練習前、中、後の何時でも気軽に手の届くところに準備されているべきである 推奨度・B

8. ATは練習中のWork-to-Rest Ratio (運動vs休憩の割合)、水休憩の頻度などを定めたポリシーを作り、コーチやAdministratorと協力してimplementすべきである 推奨度・B
これ…さらっと書いてはありますが相当な時間と労力のかかることだと思います。なんか…こういう言い方はなんですが、最近は何でもかんでもポリシー作成ですね。重要性は痛いほど分かるのですが、脳震盪に学業復帰、精神疾患に喘息に感染症に歯科の怪我、サプリメントに落雷、熱中症に糖尿病と、我々はいくつのポリシーを作らなければいけないのか。そしてそれを実践するために、どれだけの人数の人たちと日常的なコミュニケーションを積まなければいけないのか。ATの責任は年々膨れ上がるばかりで、このままでは我々自身が潰れてしまう可能性も十分に考えられます。もう少し上手い責任のdelegationの仕方もこれから考えられなければいけない課題なのではないでしょうか。個人的な感想なんですが…。

9. カフェインは運動中の人間にとっての利尿作用はない。なので、過度でさえなければ、運動前、運動の最中のカフェイン摂取をATが止める必要は無い。 推奨度・A
これ、結構長く言われていることだと思うんですけど、未だに「アスリートのカフェイン摂取=悪」だと言う人いますね。推奨度・Aなので知っていなければいけない事実ですね。

10. アルコール濃度は4%以下であれば運動している人間にとっての利尿作用はない。4%より高い場合は利尿作用が買ってしまうので水分補給のドリンクのチョイスとしては不適切である 推奨度・B
まぁ…これは脱水以外の効果もあるのでスポーツ後に嗜むくらいはともかく、スポーツ中にごっきゅごきゅ飲むものではないと思いますが…。

11. 朝一番の尿をサンプルとした尿検査(特にspecific gravity値)は当人のHydration statusを見極めるのに有効である 推奨度・B

12. 本人の水分補給の目安として、喉の渇き、尿の色、どのくらいの頻度でトイレに行っているか…などを考慮することは有意義なバロメーターである 推奨度・C

13. 中(2-5%)・重度(>5%)のHypohydrationの場合でも、可能な限りは経口水分補給を行うべきである。本人が積極的に水分を取れない場合、もしくは脱水が止まらない(嘔吐や下痢など)場合にのみIVが使われるべきである。Hypohydrationが認められない患者に予防目的でのIVは行うべきではない 推奨度・B

14. 子供は成人よりも発汗が低く(推奨度・B)、50歳を超えた人は喉の渇きを感じにくくなる傾向がある(推奨度・A)。これらを考慮に入れた、年齢別の水分補給法が作られるべきである

運動開始時に既にhypohydration状態である、ということを避けるために、そして運動中のリスクを最低限に抑えるために、可能であれば練習に臨む時点で1%くらい(2%未満)うっすらHyperhydrateしているのが理想的なんですね。なるほどなるほど。

少し意外だったのが、「自分の発汗率を把握している場合はそれに沿ったRehydrationを、そうでなければ水を飲みすぎるリスクを防ぐために、喉の渇きを指針に水分を補給するのが恐らく安全だろう」という表記です。以前のPosition Statementは「喉の渇きを指針にしていてはHypohydrationになってしまう(= 渇きを感じる前に積極的に水分を補給せよ)」という書き方がされていたはずですから、ここはInternational Consensus Statementの「喉が渇いたときにのみ水を飲め」という主張が勝ったことになります。しかし…冒頭で「喉の渇きに突き動かされるまま水分を補給していたら失った水分の2/3ほどしか飲まない」とも言っていたではありませんか。「喉の渇きに従えばいい」という急な指針路線変更は先のStatementと自己矛盾していますし、あまりに大雑把では?これは本当に「安全」と呼んでしまっていいのか?これが「安全」ならそもそもどうしてわざわざSweat Rateを計る必要があるのか?と、ここまで気づいてきた理論がガラガラと音を立てて崩れていくのを感じます。文章後半では、「ヒトが喉の渇きを感じるのは水分損失が2%に近づいたとき」とも書いていますから、喉が渇いたことを指針にしてしまっては2%のHypohydrationを許してしまうことになります。これは前述の「ATはEuhydration (±1%)をプロモートし、運動後の水分のロスを2%以内に保つ努力をするべきである 推奨度・A」という推奨事項とも食い違います。「喉の渇きを指針に水分を補給するのが恐らく安全だろう」というこの箇所だけは、今回のPosition Statementで個人的には賛成しかねる箇所です。

私が結局煮え切らないのはここなんですよね。Sweat rate計測してIndividualizedしたHydration Planが理想なのはわかる。それが無理だった場合、どうやってHypohydrationとHyperhydrationのリスクのバランスを取ればいいのか?前述しているエビデンスを見る限りではTeam Sportsで、通常1-2時間程度の練習であればHyperhydrationのリスクのほうが低いのだから、どちらかというと水分補給は気持ち早め、気持ち多めをモットーに、「喉が渇く少し前に意識して」「喉が潤ったと思ってからも一口二口おまけにごくごくっと飲む」くらいにしておいたほうがよっぽど現実的なのではと思ってしまうのですが…。今回の推奨ではそういう表現は全くされていません。

…とまぁ、最後だけ噛みついてしまいましたが。全体的には非常に勉強になることの多い、素晴らしいPosition Statementです。ATCを持ってらっしゃる皆さんはぜひこの機会にご自分でもご一読くださいませ。つーか、255もの参考文献を使い、まとめられた論文って初めて見ました。推賞度も今までのPosition Statementに比べて高いものが多いです。この12ページのPosition Statementに、現存の人間の英知が詰まっていることを実感しますね。これを書いて下さった専門家様の膨大な尽力と費やされた数え切れない時間に感謝して、さぁこの知識が一人でも多くの現場の人間に届くように、我々も我々にできる努力を重ねようではありませんか。

1. McDermott BP, Anderson SA, Armstrong LE, et al. National athletic trainers' association position statement: fluid replacement for the physically active. J Athl Train. 2017;52(9):877-895. doi: 10.4085/1062-6050-52.9.02.

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  # by supersy | 2017-10-11 22:00 | Athletic Training | Comments(0)

膝の前十字靭帯再建時に、前外側靭帯(ALL)も再建されるべきなのか?最新エビデンスまとめ。

膝に靭帯が新しく見つかった!? - Anterolateral Ligament of the Knee (2013年12月23日)

膝の新しい靭帯、Anterolateral ligament (ALL)が見つかった、という記事をまとめたのはもう4年も前なんですね。その際、記事の最後にこんなことを書いていたようです。

『ACLの再建手術って、実は成功率が高いとも言えなかったりする。グラフトが切れてしまうこともあるし、慢性的な術後の膝の痛み、グラグラ感、カタさを訴える患者さんは多く、骨関節炎を若いうちに発症する可能性も上がる。これらは、もしかしたら私達がALLという靭帯を全く視野に入れてなかったことから起こっているのかも?もしかしたら、ACLの再建手術の前に、患者のALLの状態が健全なのかも調べ、もし損傷があればこちらも再建したほうが、膝の安定性・機能回復には理想的なのかも知れない。』

…んで。その再建手術に関する研究も4年の歳月の間にじわりじわりと進んでいるようです。今回は今年8月に発表されたこの論文(↓)1 を読んでみようと思います。
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ALL再建テクニックはここまでに数種類報告されているらしいのですが、中には内旋制限を生みすぎてしまうのでは?という懸念も出てきていたりするんだそうです。そんなわけで、このシステマティックレビューではここまで文献で紹介されたALL再建の各テクニック、そのテクニックが生むバイオメカニカルな影響と、臨床的アウトカムのレビューと比較をおこなっております。あんまりこのトピックは追いかけていなかったので、こうしてさらっと色々カバーしてくれているところがありがてえー。

最終的に分析に含まれたのは12の文献で、うちテクニックに言及したものは6つ、バイオメカニックス分析をした研究が5つ、clinical outcomeを推し測った研究は1つだったそうな。

●再建テクニック
5つの研究はACL + ALLのコンビネーション再建テクニックについて、ひとつはALLの単独再建についてだったそうなんですが、気になったのがALL再建時のProximal Attachmentの違いです。全6テクニックのうち(↓)、A・B・C・Eは"Posterior and proximal to the femoral attachment of the LCL"、D・Fは"anterior and distal to the lateral epicondyle (大腿骨の外側上顆)"なんですよね、distal attachmentはGerdy tubercleとFibular headの中間と、一貫性があるんですけど。
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●バイオメカニックス分析
Anterior Tibial Translation(脛骨前方移動量)、脛骨IR(内旋)に対する耐性、 Pivot Shift Testの結果などが報告されているそう。言及しておきたいのが、Posterior/Proximal Attachmentを使った2つの研究がIRに過度な制限(overconstraint)が認められた一方で、Anterior/Distal Attachmentを使った2つの研究ではIR過制限なしだった、というところでしょうか。
もうひとつ、膝の0-120°の屈曲・伸展の動きの中でどういうグラフト位置だとグラフトにかかるテンションが代わるか調べたものもあり、この研究によれば「Posterior/Proximal、詳しくは大腿骨の外側上顆から4mm後方、8mm近位をグラフト位置として使うと、膝伸展時にもグラフトにテンションがかかりにくい」んだそう。ALRIをコントロールするにはPosterior/Proximalがいいのでは、というのがこの論文の結論ですね。伸展時にALRIが出やすいということなので。
そんなわけで、Posterior/Proximalのほうが膝が安定させやすいが、そのぶん過制限も生むのでは?みたいな傾向は見て取れますね。うーむ、stabilityとoverconstraintを取るのか、instabilityとnon-constraintを取るのか?『最善』はもちろんその間にあるんでしょうなぁ、現時点でこのグラフト位置が最高!というのは一概に言えないようです。

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●臨床的アウトカム
この論文で紹介されているひとつの研究(↑)2 は、比較研究ではなくあくまでcase seriesなので、強いエビデンスとは言えないのですが…。ざっとまとめると、ACL + ALL再建手術を受けた92人の患者(平均24±9歳)を平均32.4±3.9ヶ月(最低でも2年)経過後にfollow-upした結果、15人(16.3%)に合併症が認められたそう。詳しくは、1人(1.09%)がACL再断裂、7人(7.61%)が逆側のACL断裂、1人(1.09%)がcyclops lesionのため、二度目の内視鏡手術を受け、1人(1.09%)が部分的外側半月板除去手術を、5人(5.43%)が部分的外側半月板除去手術を受けたそうな。最終的には、92人中65人(70.1%)がpre-injury level of activityに戻れた、と。ACL再建のみと比較していないのでなんとも言えませんが、手術した膝に限っての再断裂率(1/92, 1.09%)は決して悪くないのでは?と思いますね。
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これに関しては、実はもうひとつ興味深い論文(↑)3 が出ています。これは今年6月に発表された新しいものなので、今回のシステマティックレビューでは言及されていません。少しだけまとめておきますね。103人のACL損傷患者(全て男性)をランダムにGroup A: ACL + ALL再建手術組(53人、平均26歳)と、Group B: ACL再建手術組(50人、平均26歳)にわけ、平均27ヶ月後に1) 諸症状の有無、2) Anterior Drawer Test, Lachman Test, Pivot Shift Testの結果、3) KT-1000、4) Lysholm Knee Score, Tegner Activity Score, IKDC Scoreをチェックした、というこの研究。結果をざっくり言ってしまうと、KT-1000意外の結果はグループ間に大差なし(p > 0.05)…なんですが、KT-1000だけはグループAが20 poundのチカラで平均1.3mmのtranslationが生まれたのに対し、グループBは平均1.8mm (p < 0.001)と0.5mmの差が確認されました。グラフトのテンションに関して、0.5mmという差は確かに大きいような気もします。Complicationは両グループ共にほとんど報告されず(グループAの患者のひとりにsuperficial wound infectionがあったのみで、抗生物質の投与で問題なく完治)、機能や諸症状に差が無かったことを考えればこれはあくまで「この脛骨前方移動量の差は統計学的に有意でも臨床的に有意ではない」と言えるのかもしれませんが、これを3年、4年と長期的なアウトカムを追っていくともっと如実になったりはしないのか…?再断裂に繋がったりはしないのか…?という疑問は沸きます。

さぁ、そんなわけでこれらの論文をまとめてしまうと、「論文で発表されたテクニックに一貫性がなく、比較研究も少ないため、まだまだわからないことが多い」という元も子もない結論になってしまうのですが、個人的な印象としては「ACL再建時にはALLも再建したほうがいいのでは、という統計的エビデンスがin vitroやin vivoで薄っすら出始めているが、臨床的有意さにはまだつながっていない」「環境が許せば(= コストやグラフトのavailability、手術医の経験が問題でさえなければ)、disadvantageは今のところ認められないし、試してみてもいいのでは?」という感じでしょうか。Posterior/Proximal vs Anterior/DistalでRCTやって長期的(個人的には5年くらい)にアウトカムを追ってみる、みたいな研究が将来的に出てこないかなーと楽しみにしています。

1. DePhillipo NN, Cinque ME, Chahla J, Geeslin AG, LaPrade RF. Anterolateral ligament reconstruction techniques, biomechanics, and clinical outcomes: a systematic review. Arthroscopy. 2017;33(8):1575-1583. doi: 10.1016/j.arthro.2017.03.009.
2. Sonnery-Cottet B, Thaunat M, Freychet B, Pupim BH, Murphy CG, Claes S. Outcome of a combined anterior cruciate ligament and anterolateral ligament reconstruction technique with a minimum 2-year follow-up. Am J Sports Med. 2015;43(7):1598-1605. doi: 10.1177/0363546515571571.
3. Ibrahim SA, Shohdy EM, Marwan Y, et al. Anatomic reconstruction of the anterior cruciate ligament of the knee with or without reconstruction of the anterolateral ligament: a randomized clinical trial. Am J Sports Med. 2017;45(7):1558-1566. doi: 10.1177/0363546517691517.

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  # by supersy | 2017-10-08 21:30 | Athletic Training | Comments(0)

12月17・20・21日のEBP講習in東京 & 熱中症対策に防具脱衣は必要か

最初は告知です。

EBP講習がパワーアップして帰ってまいります!今までの「評価編」「治療介入編」「予防医学編」の基礎レベルの講習3つに加え(各3時間、それぞれ3 EBP CEUs)、臨床応用レベルの講習が新たにふたつ追加されました(「治療アプローチ・AMI編」「治療アプローチ・腱障害編」、各2時間、それぞれ2 EBP CEUs)。全5講習に出席すればなんとBOC EBP CEUが13.0も獲得できてしまうという良い機会ですようー。日程と構成は以下の通りです。

ちなみに、基礎レベルの講習は「エビデンスに基づく…」とかよく聞くけど、どういうことか実はよくわからない、今更ヒトにも聞きにくい、という完全初心者さんウェルカムな講習で、むしろエビデンスに対して苦手意識のある方にこそ来ていただきたいと思っています。エビデンスって思ったほど難しくないや、結構楽しいかも!と思って帰っていただければそんな幸せなことはありません。全講習、参加者の資格は問いません、学生さんも大歓迎です!もちろん、リピーターさんも(リフレッシュにまた、という方も結構いらっしゃいます。BOC-CEUも、サイクルが異なれば再履修しての再申請が可能です)!

<講習日時>
2017年12月17日(日)
9:30am-12:45pm  エビデンスに基づく治療介入: 基本から応用まで
           *途中休憩15分含む3時間講習
12:45pm-14:00pm 昼食(各自)
14:00pm-16:00pm エビデンスに基づく治療アプローチ: AMIと抑制解除療法 (NEW!)
16:20pm-18:20pm エビデンスに基づく治療アプローチ: 腱障害リハビリ (NEW!)

2017年12月20日(水)
18:20pm-21:35pm エビデンスに基づく予防医学: 基本から応用まで
           *途中休憩15分含む3時間講習

2017年12月21日(木)
18:20pm-21:35pm エビデンスに基づくスポーツ傷害評価: 基本から応用まで
           *途中休憩15分含む3時間講習

今回お届けする新作講習ふたつはどちらも「臨床応用レベル」の講習で、今まで教えてきた「基礎レベル」の講習から一歩踏み込み、p値や効果量というコンセプトを踏まえた上で実際に臨床の現場で皆さんがぶつかっていそうな症例にとびかかり食らいついていきます。「エビデンスに基づく治療介入: 基本から応用まで」講習の事前履修を強くお勧めしますが、必須ではありません。p値や効果量の何たるかがわかっている方であれば問題なく楽しめる内容になっております。
AMI編では「Arthrogenic Muscle Inihibition (関節因性筋抑制)って何?」「どんな悪影響がある?」など紐解いた後で、「では、実際に現場ではどうすれば?」というところまで、腱障害編では「腱障害とはなんぞや?」「エキセントリック・エクササイズってそんなに効くの?」という話をしてから、「では、実際に現場で腱障害の患者がいたら、どうすれば?」というところまでをエビデンスを探し、読み解きながら検証します。「エビデンスを探す」部分では、私の愛用するPubMedのちょいとした小技もご紹介できればと思っています。

<会場>
〒190-0022 東京都立川市錦町3-3-20
   JR中央線立川駅南口より、徒歩13分
   JR南武線西国立駅より、徒歩7分
   多摩モノレール立川南駅より、立川南通りを直進、徒歩12分

<定員> 12月17日各講習45名、12月20・21日各講習90名

今回も主催は高橋さんにお願いしています。お申し込みはGuardians Athletic Training & Therapyのウェブサイト上のこちらから。参加は一番興味のあるコースひとつだけでも、お好きな組み合わせで2つや3つでも、5つ全てでももちろん可能です(お手数ですが、複数講習参加する場合は、リンク先から各イベントひとつずつお申し込みください)。複数参加される方には前々回から導入した『セット割引』システムが適応、そして『学生割引』も健在です。

<受講料> 
一般 3時間講習(基礎編) 各9,000円; 2時間講習(臨床応用編) 各6,000円
   2講習同時申込で10% off
    (例: 基礎講習2つで1,800円引き、基礎+臨床応用で1,500円引き)
   3講習以上同時申込で15% off
    (例: 基礎講習3つで4,050円引き、基礎1つ+臨床応用2つで3,150円引き)
学生 3時間講習(基礎編) 各8,100円 (10% off - 900円引き);
   2時間講習(臨床応用編) 各5,400円 (10% off - 600円引き)
   2講習同時申込で20% off
    (例: 基礎講習2つで3,600円引き、基礎+臨床応用で3,000円引き)
   3講習以上同時申込で25% off
    (例: 基礎講習3つで6,750円引き、基礎1つ+臨床応用2つで5,250円引き)
     *現役大学・専門学校生(国内外不問)さん対象。申込後に学生証の提示が必要です、

より多くの皆様にお会いできるのを楽しみにしております!セミナーの内容に関して質問があればここのコメントか私に直接ご連絡ください。会場、参加費など運営に関しての質問は高橋まで(tdtakahashi@guardiansatt.com)お願いいたします。



以前、「アメフト選手が熱中症(Exertional Heat Stroke)になった場合、Cold Water Immersion (CWI)最中に防具を外すべきなのか?(2015年11月1日)」というブログを書きました。このときに紹介した論文1 では、「むしろ防具はつけたままのほうが冷却効果が高いのでは」という結論でしたが、いくつか他の論文を目にしたのでてれーとまとめておきます。
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まずはこちら2。2015年発表。
前回も書いた通り、現行のNATA Position Statement3 は「選手が(shoulder padや幾層ものユニフォームなど)過度な服を来ていた場合、もちろん脱がせたほうがcoolingの効果は上がるのだが、それに時間が取られた故にcoolingが遅れるほうが致命的なので、これは冷水の中でやること」と明記しており、つまりは「脱がせるべきである」というスタンスを取っています。

この実験では2、18人の健康な男性被験者(平均22±2歳)にフル装備を着けた状態で、室温40℃の人工気候室で運動をしてもらい、直腸温が39.5℃のhyperthermiaになった時点で: 1) 防具装着したまま vs 2) 防具脱衣して; CWI(水温10℃)治療を開始し、体温が38.0℃まで低下するのにかかった時間の比較をおこないました。防具脱衣に平均1.2±0.2分かかるので、39.5℃になってからトレッドミルで歩き続けながら(体温を下げないことが目的だと思われる)、1) 脱衣無しの場合は靴だけ脱いで、脱衣にかかる分の時間歩き続ける vs 2) 防具脱衣の場合は脱衣する、という細かいプロトコルを採用。つまり、体温が39.5℃になってからCWI開始までにかかる時間を平等にして実験に臨んでいるわけです。これは、hyperthermiaを認めたらすぐに治療を開始する現場とのギャップはありますが、比較実験のデザインとしてはよくできてますよね。ちなみに被験者の体脂肪なども計測したり、尿検査を事前に行い脱水状態にある被験者は同日の検証ができないなど、ここでは省いていますが細かい指定も多くあり、かなり丁寧に作られている印象です。

で、結果ですが、やはり防具を脱いだほうがcoolingは効果的であった、と。冷却率は毎分当たり防具有 0.21 ± 0.11℃ vs 防具無 0.28 ±0.14℃で、統計的に有意な差がある(p = 0.02)一方で、患者自身の身体の冷えの感覚も、震え(shivering)の開始タイミングや有無もグループ間で大差はなかったそう。この論文では、「統計的な差は認められたものの、両冷却率共に『acceptable』とされる数値は超えている(>0.16℃/min)し、この差は臨床的な価値は伴わないであろう」と結論でまとめられています。同時に、防具を付けたままのほうが震えが起きにくいのではないか、患者の精神的負担も減るのではないか、というargumentもdefeatされた形になり、防具をつけたままでいることに特に目立ったメリットはないことにもなります。なるほど、これらはたしかに尤もに聞こえますね。まぁつまりどちらでもいいのだと。

ATや防具に精通した専門家が対応しているならともかく、bystandersが救護をおこなっている場合には、ユニフォーム脱衣をしようとしてプロセスをこんがらがらせるよりも、シンプルに「着たまま」でやってもいいのでは、ということなんだそうです。熱中症になるアメフト選手は1) 肥満体形が多い、2) CNS dysfunctionの影響でイライラ攻撃的になっていたり、意識が消失していたりする可能性があることも考えれば「シンプルさ」を追及・推奨しようというのは、一般の人相手には良いかもしれません。防具のせいでprognosisが悪くなることは、少なくともないというのですから。
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次です。こちらは2017発表のもので4、ほとんど似たような研究を水温10℃のCold Waterではなくて、水温21℃のTemperate Waterでやってはどうか?というのを検証しています。つまり、氷が現場で出に入らない場合の苦肉の策として、Temperate-Water Immersion(TWI)、つまり、水道水程度の温度でも冷却が可能化か、ということを調査したわけですね。

被験者は男性13人と少なめ(平均22±2歳)。防具有りと無しでの冷却率は毎分あたり0.12±0.05℃(95%CI 0.09-0.15℃)と0.13±0.05℃(95%CI 0.10-0.16℃)で、統計的に有意な差はなかったそう(p = 0.79)。患者の温度の体感も差は認められなかったとしています。研究の考察には「両状況共に『acceptable』ではあるが(>0.08℃/min)、『理想的』とは呼べないレベルの冷却効果が認められた」まとめられています。ん?先ほどの研究ではacceptableというのは>0.19℃/minと定義されていたはずだけど?いつの間にその半分以下でもacceptableになったんだ?>0.08℃/minが本来の『acceptable』で、>0.19℃/minは『ideal』ということ?何かを定義したり、cut offを設けるならば、一貫性を持ってほしいです。…まぁともあれ、「TWI(水温21℃)はCWI(水温10℃)ほど効果的でないというのは明らか。深部体温が42℃から38.6℃に下がるまでに、CWIだったら13.9分かかるところが、TWIだったら約二倍の26.2分かかることになる」というのが考察部の結論です。30分以内の身体冷却ができれば生命の危機は脱せられる可能性が高い、と一般的には言われるので、理論上prognosisには大差が出ないかも、とも書かれていますが、救急時の13分は永遠にも感じられるでしょうから、早いに越したことはないですよね…。最善を尽くさず、患者に何かあってもいけませんから。なので、「可能であればCWIを、氷が無ければTWIを」「防具脱衣は二の次、まずWater Immersionを開始し、水の中で脱衣をおこなうこと」というのが最終的な結論、といったところでしょうか。
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ついでにというかなんというか、おまけです。この研究5 では、17人の健康な被験者(男14人、女3人、平均23±2歳)が前述の2つの実験同様、運動して体温が39.5℃に上がるまで運動→38℃になるまでCWI治療というプロトコルに参加。この際、食道温(鼻から計測器を食道へ入れるらしい…うへぇ!: 比較スタンダードとして計測された)と、3つの異なる深さで計測した直調温とを比較。体温計を肛門から4cm, 10cm, または15cmの深さまで挿入した場合のどれが最も食道温に近かったか、比較してその差を検証しました。
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文中のFigure 1(↑)を見てみると、食道温(黒で表示)は意外にも計測時間中一貫して最も低かったのに対し、直腸温は深ければ深いほどより食道温に近い、という結果になっています。最初、私、「冷却期間中の食道 vs 直腸温度の差がかなり大きい、unacceptableなのでは?」と少しハラハラしたのですが、アレですよね、一番大事なのは運動中の深部体温変化が正確に追えているか、つまり、Exertional Heat Strokeを見逃すことなく正確に認識・診断できるかのはずです。そういう意味では、運動中の体温の変化にほぼ完ぺきな相関性が見られることは素晴らしいと言っていいでしょう。もちろん、冷却中の温度変化も一致するにこしたことはないと思うんですけど…。冷却率は食道: 0.79±0.16℃/min、直腸4cm: 0.24±0.13℃/min、直腸10cm: 0.24±0.13℃/min、直腸15cm: 0.28±0.12℃/min…と、食道 vs 直腸ではハッキリとした差が出ています(all p < 0.05)。NATA Position Statementには、直調温が39.0℃程度になったら冷却を終了し、病院へ搬送…と書かれていますが、この研究結果を見る限りだと食道温度が38.0℃になった時点で直腸4cm、10cm、15cm の温度はそれぞれ39.09℃、39.06℃、38.99℃だったといいますから…ふむ、なるほど、「直腸温を基準にした現行のガイドライン通りのままで問題ないだろう」と、本文には書かれています。温度を測るなら、直腸温によるpelvic organの温度のほうが、食道温によるupper air wayやesophagusの温度よりもrelevantかもしれませんしね。

ATの教科書には1-4インチ(2.5cm-10cm)の様々な深さが「適切」と書かれているものの、この論文の結論としては、「柔らかい素材の直腸温度計を用い、6インチ(15cm)の深さで体温を計測するのが最も理想的である」と述べられています。我々が教えられているよりも深いほうが好ましいということですね。救急時にスムーズに実践できるよう、体温計そのものに、インチのラインがマークされていると理想的といったところでしょうか。

さて、では全てのまとめのまとめです。私の理解としては、やはり「直腸温(15cmの深さ)を計った時点で体温が40.5℃以上あればHeat Strokeと診断。患者が防具を装着している場合はまずはCold Water (理想的には10℃以下)首から下をつからせ、冷水をかき回し、体温を効率良く下げながらの防具脱衣を試みる。この脱衣は冷却効果の増大が目的というよりは、患者の心肺機能が低下した場合、適切な治療を即時実施するだめの準備行為である。直腸温が39.0℃になった時点で患者をタブから出し、病院搬送開始」…をすると、患者の生命はほぼ保証できるかなと。まぁこう書いてしまえばあまり現行のガイドライン3 と大差ないんですが、細かい論文を少し読み込めたお陰で自信が付きました。大事な数字を忘れないよう、頭に叩き込んでおこうと思います。

1. Miller KC, Swartz EE, Long BC. Cold-water immersion for hyperthermic humans wearing american football uniforms. J Athl Train. 2015;50(8):792-799. doi: 10.4085/1062-6050-50.6.01.
2. Miller KC, Long BC, Edwards J. Necessity of removing american football uniforms from humans with hyperthermia before cold-water immersion. J Athl Train. 2015;50(12):1240-1246. doi: 10.4085/1062-6050-51.1.05.
3. Casa DJ, DeMartini JK, Bergeron MF, et al. National athletic trainers' association position statement: exertional heat illnesses. J Athl Train. 2015;50(9):986-1000. doi: 10.4085/1062-6050-50.9.07.
4. Miller KC, Truxton T, Long B. Temperate-water immersion as a treatment for hyperthermic humans wearing american football uniforms. J Athl Train. 2017;52(8):747-752. doi: 10.4085/1062-6050-52.5.05.
5. Miller KC, Hughes LE, Long BC, Adams WM, Casa DJ. Validity of core temperature measurements at 3 rectal depths during rest, exercise, cold-water immersion, and recovery. J Athl Train. 2017;52(4):332-338. doi: 10.4085/1062-6050-52.2.10.

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  # by supersy | 2017-10-02 10:03 | Athletic Training | Comments(0)

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