プロとしての責任を果たす。責任を負う。

アメリカでBOC試験に合格し、Certified/Licensed Athletic Trainerとして働く…というのは若かった頃の私自身も含め、たくさんの人の「夢」であると思うのですが、それは決して華々しいことばかりではありません。医療ライセンスを手にするということは、それを持って下した医療判断の結果が良かった場合も悪かった場合も、全ての責任が自分に返ってくる、ということでもあります。判断ミスをして患者を危険に晒すようなことはあってはなりませんし、深刻な場合はライセンスを剥奪され、二度とこの国でATとして働けなくなることも当然ありえます。

「プロとして働くに足る十分な知識や技術を有している」ことと、「プロとしての責任を常に意識した思考方法を熟知し、自分自身の見せ方を知っている」ということは、ふたつの異なる次元の出来事である、と私は考えます。しかし、プロとしての「責任」を意識しながら働く、というのはなかなかどうして、もはや現場に出ていない身としては学生に教えにくい議題です。女子バスケでバリバリと働いていたころは学生に私がどういう意図をもって選手やコーチとコミュニケーションを行っているか、という「文化」や「哲学」を日常的に共有することができましたが、現在の私の肩書はフルタイムの臨床教授。各授業には「この授業で教えなければいけないこと」の長い項目リストが存在し、「プロとしての心構え」に言及できる頻度にも限界があって「文化」として確立しきれないもどかしさが何となく自分の中に残っています。しかし、それでも、これを教えないわけにはいきません。

「責任を取ります("I take full responsibility")というのは簡単だけど」3年生の診断の授業でも強調します、「どう責任を取るの?結局被害を被るのは患者さんの手に肩に肘に膝に足首でしょ?君はそれらと残りの人生を共にしないんでしょ?じゃあ責任を取るってどういうことなの?」

「じゃあすみあせん、ライセンス返します、と言う?罰金を払う?確かに法的には正しい責任の取り方で、それらは君の人生に大いに影響を与えることかもしれないけど、患者さんからしたら『だからなに?』かも知れないよね。残ってしまった障害には何の影響も与えないもの」
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「これは私の個人的な考えも多く含むので、もしかしたら全員が全員賛同するわけじゃないとも思うんだけど」と前置きして(ここらへんは本当、各プロの哲学というのがあると思うので)、「私は責任を取るということは、先回りして『悪い可能性』を考えられて、それを予め潰す行為のことを言うんじゃないかと思ってる。ついでにいうと、こういった行為はごくごく小さくて、ほとんどの場合そんなに目立たないものだとも思う。例えば、バスケットボールの練習中に水休憩が入り、選手が水を飲んでいるとしよう。君の目の前の選手が少し水をこぼして、コートを濡らした。君はごく自然にタオルを手に取り、その水をきれいに拭き取るかもしれない。なぜ?その水滴が君とって『怪我の危険因子』だったからでしょう?そんなに深く考えずとも、君はATとして練習現場を少しでも安全な環境にする責任がある、と理解していて、床を拭くというごくごく単純な行為でその責任を果たしたんだ。能力的には誰にでもできることかもしれないけど、そういう考え方を持っていない人にはできない行為でもある。これを『プロと呼ぶにふさわしい行為』以外に何と呼ぶ?」

●Know Your "Scope of Practice"
「私が若いころにした失敗の話をするね。まだGAだった頃にね、私はとある高校で唯一のATとして働いていたわけだけど、肩関節唇後方断裂疑いが濃厚だった選手に『これはMRIが要るから、お医者さんのところへ行こうね』と言ったことがある。数日してその選手と親御さんが怒って帰ってきてね、『医者がMRIを撮ってくれなかった』というんだ。話を聞くと、医者は肩関節唇断裂ではないと判断し、『2-3週間して良くならなかったらまた来てください』と言ったという。頼んでも、MRIは『現段階では要らないでしょう』と撮ってくれなかったと。医師のほうへ電話を入れてみると、医者も怒っていて『困るんだよね、君が余計なことを言うから』と言うんだ。ここで私が犯したミスはなんだろう?」
「ATは画像診断をオーダーできないので…さゆりが言ったことはATが法的に責任を取れる範疇を超えていた("beyond the scope of practice")?」と答える学生。「その通り!画像診断無しで診断できるところまでするのがATの仕事であり、どの画像診断が適切で、どれを実際に行ってということを決められるのは医師だ。後日談で結局2週間待っても良くならなかったこの患者が最終的にMRIを撮ったところ肩関節唇断裂が確認されて、その後手術をしたことは私の個人的なエゴのために追記しておきたいけど(笑)、この話で重要なのはそこじゃない。私の判断が正しかったことは問題じゃないんだ。ここで責められるべきは、私が法的責任を取りきれないことを軽々しく言ったこと。私が医者がすべき判断を勝手にしようとして、お医者さんの爪先を踏んづけてしまったこと。プロにあるまじき行為だ。はっきりと私が悪い。じゃあ、どういう風に伝えればよかったんだろう?」
「うーん、とにかく医者に診てもらおうと、それだけ言うとか?MRIのことは全く言わないで…」
「それもひとつの手だね。思っていることを全てそのまんま患者さんに言わなくてもいい。敢えてぼかす、というのは非常に大変なコミュニケーションのテクニックだ。でも、あまりに情報を制限してしまうと、逆に患者さんの不安が小さくなることもないかな、と思ったりもするんだよね。私がよくするのは、『伝えられる範囲でウソ無くなるべくしっかりと伝える』ことで『こういう理由で、こういう怪我の可能性が否定しきれない。まずは、これじゃないということをしっかりと確認する必要があると思うんだ(=発見の共有と説明、比較的深刻な怪我の可能性を排除する重要性を伝える)』『だから、お医者さんに診てもらおう(=次のプランの提示)』『この怪我をしているかどうか確認するのによく撮られる画像診断はMRIだけど、とりあえず骨の状態を見てみよう、と思ったら安くて早いレントゲンをまず撮っちゃうこともあるし、もしかしたら画像は一切必要ないかもしれない。まずはお医者さんの判断を仰いで、何がベストか決めよう(=いくつかの可能性があることを示唆。最終的決定権は医師にあることを明示するが、患者に精神的に準備をしてもらい、質問などを用意しやすくする)』…とかね」

「私は幸運なことに、その後私の判断を100%信頼してくれるチームドクターと仕事をさせてもらったことが何度かある。私が『これまじMRI要るっす』と直接連絡を入れると『よっしゃ、患者いますぐこっち送ってこい、撮ったる』と言ってくれるような人とね。でもそれはその医師らが我々の知識と、状況の切迫性を理解してくれる本当に例外的な方々だったからで、普通の医師なら「まずオフィスに送ってください、こちらで診察・判断します」というのが当たり前だ。彼らも彼らのライセンスをかけて日々仕事しているんだから、それはこちらも尊重しなければいけない。『例外的な幸運』を期待してはダメだ。立場をわきまえて仕事をする、自分ひとりでできないことを軽々しく口にしない…という当たり前のことを、若いころの私はできなかったんだよ。皆は私の失敗から学んで、他人の土俵で武器を振り回すような真似をしない医療従事者になってほしいな」

●Share Prognosis, What to Expect/NOT to Expect
「君たちは賢い子たちだ、医療の知識がある。患者の99%は、君たちのようではない。それをはっきりと自覚したほうがいい」
「例えば、急性の膝半月板損傷疑いが濃厚な患者を(診断を終えて)家に帰すとしよう。今のところ受傷から一時間、目立つ腫れは無い。私が何を考えているかというとね、今はそうでなくても、今夜この子の膝が寝ている間に腫れて、朝に気が付いて、ギャー膝ぱんぱん!パニック!なんてことがあるかもなぁと思っているんだ。目に浮かぶんだよね、そういう光景が。予想できちゃうから、こう伝えるよ。『半月板損傷があった場合に、腫れが遅れて出るってことが結構あってね。なるべく最小限に抑えるために、今夜はこういうことをして寝てほしいんだけど(=elevation, compressionなど)、それでも明日の朝起きて腫れてた!ってなってもあんまりびっくりしないでほしいんだ。あ、さゆりが言ってた腫れってこれか、って思ってくれれば。そういうのは珍しいことじゃないからね。でもあんまり腫れてて心配だったら、確認のためにこんななんだけどって写メ撮って送ってくれてもいいよ、明日の朝』という風にね。一時的な症状の悪化が既に予測できてるんだったら、先に伝えちゃおうよ。まあそれは普通の範囲内だよって教えよう。患者さんの不安も、いたずらに大きくならなくて済む」
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「脳震盪なんかだと、睡眠障害もこれにあたる。異様に眠くなっちゃう(過眠症)場合ならともかく、逆(不眠症)ということもある。眠りたいのに眠れないというのは本当にしんどいんだよね。『眠れぬ夜』を過ごしたことある子はよくわかるんじゃないかな?睡眠の質というのは患者さんのHRQOLには多大な影響を与えるんじゃないかと私は予測する。だからこれも家に帰す前に伝えちゃおう。『今夜、なかなか寝付けなかったり、眠りが浅かったりすることがあるかもしれない。これも脳震盪の場合はよくあることでね。思うように寝られなかったら不安になったりするかもしれないけど、そういうときはイライラせず、とりあえず目をつぶって、ゆっくり呼吸して、横になるだけでいい。その状態でも体はちゃんと休めているからね。無理に寝なきゃ寝なきゃと思わなくていいよ。できる範囲で休もう』と。…あとはね、『これが起こったら異常であり、急変なので、救急(ER)行かないとダメっす』という、いわゆる医療的なレッドフラッグってあるよね?それもはっきり伝えよう。脳震盪なら、どんなのがある?」
「意識レベルの低下、激しいもしくは悪化する頭痛、一度じゃなく、繰り返される嘔吐…」
「そうだね、その場合は硬膜下・外血腫などの疑いが強まる。これは『これも脳震盪だったら普通なのかな?明日さゆりに会うまで待ってみよう』と悠長に構えてほしくない、緊急を要する事態だ。すぐに行動を起こさなきゃいけない。赤は赤とはっきり伝えよう。何が『普通』で何が『普通の範囲を超えている』のか、明確にコミュニケーションする必要があるね。これもしっかりとしたプロとしての責任だ」

●Set Up the Next Appointment Before Letting Them Go
「本当に軽いものだったら『良くならなかったらまた来て("F/U PRN" = follow up as needed)』でいいときもあるけど、特にATの仕事環境でこういう指示を出すのは非常に稀だと思う。やっぱり多くの怪我は要経過観察だよね。私だったら99%の確率で何もしなくても良くなると確信が持てる場合(i.e. 筋肉痛や軽度の打撲)には『気になったらまた来て』というけど、そうじゃなければ他の言い方をするよ。さて、目の前にちょっと気になる肘の違和感を訴えるジョン君がいる。今のところ大したことなさそうだけど、これから経過を観察していきたい場合、何を言えばいいだろう」
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「『気になったら』じゃなくて…『また来て』?」
「そうだね、また絶対来てほしい。またってでも、いつ?」
「『また明日来て』?」
「おっ、いいね、『明日』!ちょっと限定的になったね。じゃあちょっと想像してほしい。ジョン君に『また明日来て』と言った翌日、私はジョン君を一度も見かけなかった。それから数日、私も忙しくてバタバタしていてすっかりジョン君のことを忘れてしまって、あれ、そういえば良くなってるってことなのかな、なんて思っていた2週間後、徐々に肘の痛みが悪化していたジョン君はついにUCLを断裂してしまいました。責められるべきは、誰だ?誰の『責任』だい?」
「ジョン君でしょ?」
「ジョン君に『どうしてもっと早く来なかったの』と聞いてみたら『次の日会いに行ったけどさゆりいなかったもん』と答えました。聞いてみたら私がたまたまスタッフミーティングをしていた時間だったようで、すれ違ってしまったようです。さあ、誰の『責任』?」
「それでも…ジョン君…だと思うけど…」
「これが裁判沙汰になったら向こうはそうは言ってくれないよ。私がジョン君に出した指示は『また明日来て』が全てで、彼はその責任を果たした。この場合、曖昧な指示を出した私が悪い。要経過観察患者と分かっていながら観察義務を怠ったのだから、私が責任を取らなきゃいけないだろうな」
「えー?肘の悪化を感じていたのはジョン君なのに?」
「そうだよ、私の曖昧な指示が全てだ。『また明日来て』ではただの口約束。もっとちゃんとしたアポイントメントを作ればこんなことにはならなかったかもしれないね。例えば、『明日、授業何時にある?』と彼の予定を聞いて、『じゃあ明日の朝9時にここで再評価をしよう。約束ね。あ、今のうちに、自分の携帯のカレンダーに入れちゃってよ。私もそうするから』と、正式な『約束』を取り付けることができたはずだ。そうすればすれ違うこともなかっただろうし、万が一彼がその時間にこなかったらそれはアポイントメントをすっぽかした彼の責任であることは明確だ。もっとも、そうなるためには私がもうひとつだけ何かをする必要があるけれど。…何かわかる?」
「書類に残しておくこと(document it)?」
「大当たり!いつもいうけど、書かれていないことは存在しないのと一緒だからね("if you don't document it, it didn't happen")。SOAP noteの最後、プランのところに、こう書くよ」

"Pt. was instructed to F/U w/ AT @9am Sept 26, 2016 at Island Hall AT Center."

「これで場所も時間も明確だ。ボールは彼のコートにある。もし次の日彼が来なかったらNS (= no show、すっぽかし)もしっかり記録しておかないとね。 私はここに座って彼を待っていたんだから。法的責任の所在云々ももちろんそうなんだけど、大事なのはミスコミュニケ―ションを起こすような要素を先回りして取り除いておくことなんだよ。ジョン君に目の前でカレンダー入力してもらったのもそのためだ。どんな相手でも間違えようがない明確さで我々は仕事をする責任がある。『また明日』ではその責任を果たせているとはいえないんだ。『明日の練習前に来るから』なんてよく聞くフレーズではあるけれど、私はその曖昧さが嫌だな。『練習前っていつ?じゃあ10時半に来られる?』と具体的な時間を聞くよ。だって練習開始5分前に来られたって何もできないからね」

●「この責任は、私にあります」と言えますか
「最初の話に戻るけど、私はこういう日々の小さい行為の積み重ねが『プロとしての責任を取る』ことだと思っている。何かあったときにすんませんでした、これが私のライセンスです、罰金です、さあ持っていってください、と言うんじゃなくて、何も起こらないよう最大限の努力を前もって積み重ねるということなんだ」
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「これを踏まえて改めて言う。それでも何かが起こることはある。そしてそのときは、『私の責任です』とはっきりと手を挙げて認めるべきだと、私は思う」

「最後に、私が失敗を成功に変えられた話をするね、私も失敗してばかりじゃないんだよ(笑)。さて、私はNCAA Division Iのとあるチーム担当で、その年は新しいヘッドコーチが就任した。ATからしたらヘッドコーチが変わるってのはそれはそれは一大イベントなんだ…彼の好き嫌いや性格を把握するのは本当に大事でね、最初の一年なんかはお互い探り探りやるんだけど…その年は慎重にコミュニケーション取りながらゆーっくりと信頼関係を築いていたつもりだったんだ」

「そんなときにこんなことが起こった。とある怪我をした選手の経過が思わしくなくてね。シーズン中だったのでちょっと試合でのプレーを制限しながらリハビリ・治療を毎日していたんだけど、一週間半ほど経っても思ったような改善が見られないんだ。Division Iの奨学金を貰っている選手が、一週間半も試合でプレーできていないという状況は思わしいものじゃない。こっちも焦るよ」

「これが例えば選手がリハビリをすっぽかしています、というならそれは私はコーチに正直に伝えるんだけどね。でもこの場合はそうじゃなかった。この選手はとてもよくやっていて、毎日毎日全力でリハビリに取り組んでくれていた。私もエビデンスに基づいて最善のプログラムを積んでいたつもりだった。それでも、なかなか良くならなかったんだ」

「ここで、私の選択肢はいくつかある。患者の回復など、神でも何でもない私は到底コントロールできるものじゃない。『全力は尽くしてますが仕方ありません、こういう怪我、こういうケースなんです、諦めてください』ということもできるし、正直言いたくなるときだってある。でも私は自分のライセンスをかけて、患者を改善させるためにお金をもらっているわけだからね、言い訳するわけにもいかないと思った。正直、こっちだって泣きたいほど悔しいよ、これでも全力でやっていたんだからね。それで練習前にコーチに会いにいって、言ったんだ。『選手は毎日これ以上ないくらいの努力と態度で取り組んでくれています。彼女が改善しないのは私の責任です("I take full responsibility of the situation")。そこで提案です("But here's the new plan")。今までのリハビリはこういうことを重視していましたが、今日の練習後のセッションから方向を少し変え、こういったものに重きを置いていきたいと思います。今週金曜日までにここを目標にしようと思っています。何か質問などはありますでしょうか』と。そしたらコーチはにっこり笑って『わかった、ありがとう』というシンプルな返事をくれた。文句を言われると思っていたのに、あまりに短かったので拍子抜けでね、心の中ではね、『ああ、これで信頼が一気に崩れただろうな』と思った。覚悟はしたよ」

「でもね、そのあと向かった練習で、練習前にコーチがチームを集めてね。『僕はこのリーグで30年間コーチをしてきたから、優秀なATがチームにいてくれることがどれだけ重要で貴重か知っている。うちのチームのATは間違いなく世界一だ。さゆりの言うことを尊敬し、従っていれば健康面では僕たちは何の心配もない。さあ、今日も思いっきり練習をしよう』と言ってくれたんだ。これは予想だにしていなかったから、チームがハドルを組んでいる間、私は目を真ん丸にして立ち尽くしてしまったよ。まさかあの会話で評価を上げてくれるとは思わなかったから。それから彼とは数年一緒に仕事をしたのだけれど、これは本当にお互い本当に夢のようだった(あ、この選手も新しい方針のリハビリでぐんぐん改善してね、ほどなく競技復帰できたよ)。コーチが私の医療判断に疑問を呈することは一度もなかったし、大きな怪我もチームで一丸となって乗り越えた。ああいう素敵なコーチと最後に仕事できたのは本当に幸運だったよ」

「失敗は成功の基、というけれど、苦しい状況にどう行動するかでその人のプロとしての本質が問われるのだと思う。もし私があの日の会話に用意していた文章が"I take full responsibility of the situation"で終わって、それで一人悦に入ってプロとしての責任を取ったような気になっていたとしたら、コーチはそれこそ私に腹を立てたと思うし、我々の関係も終わっていたかもしれない。彼が最も評価してくれたのは、"but here's the new plan"―次のプランを用意していったことだったんじゃないかなと思うよ。言い訳をすることやあきらめることは責任を投げることと一緒だ。責任を取る、ということは自分ができることをどんな苦境でも見極めて、まだまだ!としつこくやり続けることだと思う。そんなことを思ったよ」


プロとしての責任を取ることはReactive(後手に回り、事後に行うもの)ではなくてProactive(予測し、先手を打ちに行く)な行為であり、そしてどんなに何かが上手くいかなくても、引き出し引っ繰り返して手持ちカード全部広げて「まだまだ!あれもこれもまだ使ってねー!」と手を変え品を変え挑戦し続けること。言葉にすればアタリマエですが、私はそういった哲学を教室で教わる機会がなく、自分で失敗を繰り返しながら(まだまだ他にもいっぱいありますよ、失敗談なんか)育てていったので、これを共有することでうちの学生がもっと早く大きく彼らなりの「プロ意識」を育てていってくれればと思います。Clinical Practiceを構成する要素は、意外にもこの知識・技術ではないプロとしての思考プロセスが占めることが多いと思うので…。

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  # by supersy | 2016-09-25 13:30 | Athletic Training | Trackback | Comments(0)

アメリカの根強い銃社会。

全然医療と関係ない話ですが、個人的に思ったことを少し。
テキサス州では新たな法律が制定され、8月から大学内でConcealed Carryが合法的に許されるようになりました。つまり、今まではキャンパス内では原則銃の持込は禁止だったのが、「Concealed = 隠している状態ならば持込ok」になったのです。そもそも、Concealed CarryとOpen Carryの定義すら普通の日本人は知りませんよね?Concealed Carryは「本人以外誰も武器を持っていることが分かりえない状況」を指し、逆に銃を堂々と他人に見えるように持ち歩くことをOpen Carryと言います(↓)。
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もうちょっと詳しく言うと、銃の一部が少しでも見えていたり、見えていなくても形から「銃である」ことが推測が可能だったり(↓)、言葉で「実は銃を持っている」と明かしたりそれに近いことをほのめかしたりすることはConcealed Carryという法を犯した行為になります。大学内ポリスからは、こういう行為が見られた場合、「法律違反」なのですぐに警察に連絡するようにと言われています。私もつい最近までこういったことは全く知らなかったのですが、大学内の教授対象の銃に関する勉強会やトレーニングに出させてもらって必死に勉強中です。
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Concealed Carryは教授陣にとってはなかなか恐ろしい法律です。我々の立場が人の恨みを買いやすいものだからです。例えば私なんかは、授業に来ない、クイズもテストも受けない/勉強してこない学生が数字的データに従って"F(不可)"をもらうのは当然のことだと思うのですが、そういう学生こそ「風邪引いていたんです」と情報を後出ししてきたり、「奨学金もらってるアスリートなのでこの成績だとプレーできないんです。特別課題などして点数を稼ぐことは可能ですか」などとごねてくるものです。「事後報告の場合は医師からの書類がないとその訴えが妥当かこちらも判断しかねる。提出してもらえますか」「アスリートだからと優遇しては、他の学生に公平にならないので貴方だけに特別課題は出せません。授業内の課題で必要点を取る必要があります」とこちらも一貫性ある対応を心がけてはいますが、彼らは「公平さ」では納得しないことが多く、腹を立てた学生が声を荒げたり脅迫してくるなど、そのやりとりでこちらが危機感を感じたことは今までにも数回あります。もしたまたまその時に彼らが銃を持っていたとしたら…?と考えるとゾッとします。

何故こんなことを書いているかというと、今日は大学警察がホストするActive Shooting Training(キャンパス内に銃を発射している人間がいる場合の対処法トレーニング)に出席してきたからなんですけど…。内容がふわふわしていて余計に不安になりました。

勉強になったのは犯人がバリケードを蹴破って教室に入ってきた時の対処法(モノを投げながら一気に近づいて羽交い絞めかノドを攻撃)とか、警察が突入してきたときの対応の仕方とかなんですけど(警察に向かって走っていってはいけない。指を指そうとしたり、携帯を持っていると銃らしく見えて発砲されることがあるので、動かず、両手を挙げて手のひらを見せるetc)、我々の多くが抱える問題が「教えてる教室の多くが中からの施錠ができない」「ドアが廊下に向けて広がるタイプなので、内側からバリケードが作れない」ということなんですよね(↓この写真のバリケードも、教室内に向かってドアが開くタイプだから有効なのでしょう?うちの建物のは全部逆なのです)。
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これについてポリスは「各教授が自分の使う教室のドアの数、位置、タイプを確認して、施錠できないタイプの場合は各自道具を購入して開けられない状態を作れるようにしてくれ」というゆるーいアドバイスしかくれなくて。え?それって我々個人の責任なの?施錠できないドアがどうしたらsecureできるかなんて、私の専門外じゃないし全然わからないんだけど…とますます混乱中です。せめて大学側が積極的にcollegeやdepartmentレベルで「この建物でshootingがあった場合、避難所はここ、ドアの対応はこう…」という場所別の緊急用プランを作り、我々にトレーニングを積む機会を設けるべきだと思うのですが…。「とりあえず銃が入ってくるから。あとはよろしく」では、生粋の日本人の私は特に対処に困ります。やはり銃社会、怖いです…。

そんなら教授陣も銃を持ち込めば、と思う方もいるかもしれませんが、大学の建物の中でも一部は「Concealed Carryも禁止区域」に指定されており、うちの大学ではNCAAの規則に則って、アスレティックスのイベントで使う可能性のある施設は全て「特別禁止区域」という規制が課されています(スポーツイベント事は人々が感情的になりやすいからという理由だそうです)。選手の治療施設であるAthletic Training Centerもその対象のひとつで、この施設内にオフィスがある私は銃を持ち込むことはできません(↓下の写真はうちのAT Centerの目の前のここから先は銃持込禁止サイン)。まあ許可されていても私は銃を持ち込もうとは思わないんですけど。
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これだけのゴタゴタというか…不利益がありながらも銃の存在がありきということこそがアメリカの根強い銃社会の実態なんだよなぁと実感しています。特にテキサスは皆銃が大好きなので、「銃そのものの所持を全面違法にしちゃえばいいのに」なんて私がぼそっとでも言おうものなら袋叩きにあうことでしょう。日本人の私にはなかなか理解しがたい現状です。まあ私が理解するにせよ、しないにせよ時は流れていくので、不思議だなぁと思うながらも地味にもうちょっと勉強続けてみたいと思います。本音は、そんな暇あるなら論文のひとつでも読んでいたいんですけどね。。。

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  # by supersy | 2016-09-23 17:00 | Just Thoughts | Trackback | Comments(0)

脳震盪の鑑別診断。

今週はふたつの異なる授業で「脳震盪の診断」について話す機会がありました。ひとつはAT学生3年生の上肢評価の授業(頭部外傷の章)で、もうひとつはAT学生4年生の一般医療の授業(神経疾患の章)で、です。異なるレベルの学生が相手でしたが、脳震盪の基礎知識を共有したあとでこんな質問をぶつけてみました。
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「脳震盪で起こり得る諸症状、挙げてみて?」

意識障害、記憶障害、睡眠障害、人格障害、視覚障害、頭痛、眩暈やふらつき、吐き気、光や騒音に対する過敏性、耳鳴り、集中力や反応時間の低下、倦怠感、混乱、イライラ、落ち着きがない、理由もなく悲しい…さすがにこの辺りは生徒を指していくと次々と出ます。これらを全てボードに書き上げます。
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「脳震盪とヒトクチに言っても症状は実に多岐に渡るよね。それじゃあ、この中でも特によく見られるものって何か知ってる?」

色々と推測を飛ばす学生。「頭痛?」と言う子がいたので、「大当たり!頭痛は脳震盪の9割超…数字にすると93%だったかな、94%くらいだったかな、それくらいのほとんどの場合に見られるという統計が出てる。1 これが第一位。じゃー第二位は?」
「吐き気?」という声が聞こえるも「これは思ったより少なくてね、3割くらいと言われてる。二位は実は…」「眩暈?」「その通り!眩暈とかふらつきなんだよね、これは全体の75%くらいかな。それでね、3位が集中力の低下。これは60%いかないくらいだったと思うよ1

「じゃあ記憶障害とか、意識障害は?どのくらいの頻度で見られるものだと思う?」

あんまりないと思う、と答える学生たち。「そうなんだよね、脳震盪といえば『ココハドコワタシハダレ』みたいな印象がある一般の人って少なくないんだけどさ、健忘症(Amnesia)は全体の25%以下くらいにしか見られないと言われていて、それから意識消失(LOC)に至っては10%以下…5%以下という統計もあるね。1 まあ、意識消失も例えば5秒以下とかの極短期のものだったらそもそも我々ですら確認が取れない可能性が高いわな。駆けつける頃にはもう意識取り戻してるかもしれないから。あんまりこればっかりに頼るのもよくないけど、脳震盪の諸症状の中でもどれがより一般的で、どれが珍しめなのかは何となく知っておくといいよ」

「じゃあ、ちょっと違う視点からこれを見てみよう。これらの症状を引き起こすような、脳震盪以外の障害や病気…つまり、鑑別診断(DDx)には何があるかな?」

うーん?と首を捻る学生たち。

「言い方を変えるね。『頭が痛い』『眩暈がする』…ここに書き上げたような主訴で来た患者さんに、君たちは他にどんな可能性を考える?脳震盪じゃないとしたら?」

ここは面白いくらい学年差が出ました。3年生は頑張って「労作性熱中症・熱疲労、脱水症、低血糖症、脳卒中、硬膜外・下血腫、頭蓋・顔面骨折、睡眠不足や不規則な生活による過労、一般的な風邪 (URI)、偏頭痛、軽度の頭部打撲」くらいでしたが、4年生はこれに加えて「アブサンス発作やfocal seizureなども含む広い意味でのseizure、内耳炎などの耳の障害、糖尿病合併症、カフェインの過剰摂取/離脱症、ドラッグやアルコール乱用/離脱症、鬱・パニック障害や過呼吸などの精神疾患、貧血などによる慢性疲労、労作性低ナトリウム血症」なんかも出てきます。なかなか厚みのある、いいリストです。これも全部「脳震盪の諸症状」の横に書き上げます。

「うわー、いっぱい挙がったね。じゃあ、患者さんが『頭が痛いです』『なんだかだるくてしんどいです』とやってきました。これだけの可能性があります。どうやって絞る?問診するなら、何を聞きたい?○○を除外するために△△と聞きたいです、ってな感じで教えてよ」

これにも色々な回答が飛び交います。「えーと、脱水とか不規則な食生活をしてないか見るために、『今日のお昼ご飯食べた』とか?」という学生いるので、「そうだね、でも決して適切な食事でなくても本人がそれすら認識できてなければ『一応腹に何かは入れた』ってことで『うん』と答えられてしまう場合があるし、単純に食べてなくても怒られたくなくて『うん』とウソをつく可能性もないわけじゃない。もうちょっと別の、もう少し工夫した聞き方ないかしら?こう、もっともっと答えを引き出すような?」と尋ねると「『お昼ご飯に何を食べた、飲んだ?』ですか?」という学生。「そうだね、質問をopen-endedにして、具体的なメニューを言わせた方がいいよね。お昼ご飯だけじゃなくて、今日の食事を朝から全部言ってもらったっていい。ついでにカフェインの摂取についても聞けるし、これで健忘症の検査も同時にできちゃうね(笑)。しかし、脱水についてはもうちょっと聞きたいな…水分をどれだけ取ったか以外に、体の脱水状態を見られるような指針になるものあるかな?」「尿の色?」
b0112009_13203058.png「おおいいね!私だったら『最後にトイレに行ったのいつ?そのとき尿の色はどんなだった?』と聞きたいね。トイレに行ったのが2時間以内だとなお良い。ちなみに、どんな色が適切なんだっけ?」学生は揃って「clear」と声を上げますが「clearじゃ選手はイメージしにくいかもしれないな、透明ってこと?水みたいな?」とさらにつっこむと、「そうじゃなくてー、ちょっと黄色くてー」というふわふわした返事。「選手でもわかりやすい例えを使ってくれると助かるな。選手は君たちのようにこの尿のカラーチャートを記憶してるわけじゃないからさ。同じ色をイメージしてることを確認したいじゃない。例えば、レモネード色はどう?」「レモネード色はOK!」「だね、ピンクレモネードじゃない限りはね。じゃあアップルジュール色は?」「それはダメ!」「脱水状態だね。茶色でどす黒かったりなんかだったりしたらもっとダメだ、そんなんだったら横紋筋融解症かもしらん。こういう風に、選手が反応しやすい言葉を選んで質問するのもテクニックのひとつだね」

「偏頭痛とか糖尿病合併症かどうかの可能性を探るのには何を聞く?」「既往歴を聞けば…既に診断された病歴や、以前に同じような経験をしたことがあるかどうかとか…」「そうそう、ここは深く考えず聞いちゃえばいい。とくに偏頭痛なんか、『偏頭痛持ちなの?普段の頭痛と比べてどう?』ってね」「外傷(trauma)かそうでないか(nontraumatic)を判断するのに、MOIというか…どう症状が始まったかも聞く必要がありますよね?」「もちろん!このとき、『頭をぶつけなかった?』と質問するのはどうかな、良い?悪い?」「頭部をぶつけなくても脳震盪が起こることを考えればいいとは言えないのかと…」「そうだね、別にこう聞いても悪くないけど、『いいえ』と返答されたときに、『それじゃあ首や肩、胸や腰にタックルを受けたり?』と他の部位にも質問を広げる必要もあるね。あとはね、本当に脳震盪だったらどう始まったなんて覚えてない可能性もあるよね?珍しいとはいえ、健忘症があったらさ?『よくわからない、覚えてない…』と言われる覚悟も持っておくようにね。高校アメフト選手に呆れたように、『さゆり…タックルなんて毎プレー受けてるからそんなの分からないよ』と言われたこともあったな。この手の質問は答えがYesなら外傷疑いが強まるけど、No/I don't knowだからといって除外はできないことを肝に銘じておいてね」

「あとは脳震盪よりももっと深刻なものもまず除外しなきゃいけないね。この中で命に関わり得る外傷は?」「脳卒中、硬膜下・外血腫と頭蓋・顔面骨折」「正解!脳卒中も年齢を考えればゼロじゃない、若年層の脳卒中の原因一位は頭部外傷による二次的なものだから。脳卒中だったら、どんな症状が他に見られる?」「顔がdroopしたり、しゃべりがもたついたり、片腕が下がってきたり(バレー徴候)…」「そうだね、そこらへんは検査方法を君たちはもう知っているね。硬膜下・外血腫の話も前回した…これらは症状の出方に特徴があるんだったよね。前者は静脈からの出血で下手すると数日・数週間かけてじわじわ悪化、後者は動脈からの出血でより進行が早く、lucid intervalを挟んで一気に悪化。CNテストも異常が見られる可能性が高い。そいじゃあ、頭蓋や顔面の骨折は?何か見つけられるようなサインなんかある?」「触診による圧痛や、crepitusが確認できるかも…」「そうだね、あと、見てわかるサインなんかは?」「Battle's signにRaccoon Eye」「いいねいいね!あと何かが漏れちゃったりとか?」「Halo sign!」「そのとおり!ということはどういうことかわかる?君たちが積極的に耳や耳の裏、鼻なんかを見にいく必要があるってことだよ。Halo signが天から降ってくるのを待ってちゃダメだ、見に行くのは君たちだからね、能動的にね!」
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こんな風に鑑別診断のひとつひとつの可能性のつぶし方を話し合い、検討し、その上で「じゃーこの中から何かひとつ選んで、シナリオを作り上げて!どういう症状で、どういう既往歴で、どういうcomplaintで…ちょっと練りこんで考えてみて。それから、人格もつくりあげてportraitの仕方を考えて!プレーしたくてたまらないアメフト選手(ウソつきがちかも?)とか、とにかく倦怠感で受け答えがゆっくりな患者さんとか…。できた?できたら、パートナー組んで、評価の練習!」…ということで、あとはひたすら練習です。どういう目的をもち、何を聞き、何を探し、何を引き出し、それらをどう並べ、意味を持たせるのか。ここまでいけば練習を繰り返すしかありません。シナリオを作り上げるのも、勉強の一環になる…と私は願っています。そんなわけで、今週はこんな練習ばっかりしてました。演技派の学生もいっぱいいて、見ていて楽しいです(笑)。

各授業の最後に学生に強調したのは…「脳震盪だと分かった前提ありきの脳震盪診断なんて誰だってできる。問題は脳震盪だかなんだか分からない怪しい主訴の患者さんが来た時に、このDDxのリストを頭にぱぱっと並べてさ、効率よく除外していけるのかっていうのが本当に難しいところだし、醍醐味かななんて思うんだよね」
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「あとね、もうひとつ最後のカーブボールを投げるよ。脳震盪患者の主訴がいつも脳震盪関連の症状だとは限らない。本当に難しいのは他に見た目に明らかな怪我がある場合だ。例えば顎関節脱臼の患者さんが脳震盪も受傷していたとか、眼底骨折の患者さんが脳震盪を…とか、歯の脱臼の患者さんが…とか…。こういう風に見た目が派手な怪我は、こっちも「あっ」となって注意力を全部そっちに持っていかれちゃうことも珍しくない。だから私いつも言うでしょ?"Do you have any pain anywhere else (主訴以外のどこか身体の他の部位に痛みはありませんか)?"って絶対聞けって。こういう目を奪われる鮮やかな怪我があるときにこそ、『もしかしたら脳震盪受傷しているのでは?』と考え、しっかり除外(もしくはもちろんしっかりと確定)できる能力を持つことが大事だよ」

「さゆりはDDxにうるさい」とは今ではすっかり学生の間では知られたことですが、私は「他の可能性」を考えられる能力、そしてそれらの可能性を潰すのが上手いかどうかがかなり現場での実力に繋がると思っています。最終診断は△△です!と学生がつけた名前が仮に正しくても、「○○の可能性は考えた?」の答えがNoだったら、私の立場からすればそれは完璧な診断ではないと思うからです。最短で最長の遠回りを。ここらへんがOrthopaedic injuryの診断の奥が深いところですかね…。

1. Meeham MP, d’Hemecourt P, Comstock RD. High school concussions in the 2008-2009 academic year: mechanism, symptoms, and management. Am J Sports Med. 2010;38(12):2405-2409.

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  # by supersy | 2016-09-21 23:59 | Athletic Training | Trackback | Comments(0)

「脳震盪受傷後に休息しても意味はない」論を考える。

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月刊トレーニング・ジャーナル10月号が発売になっています!
連載5回目の今回は「医療最前線だからこそ求められる救急力」という前回からのテーマを引き継ぎ、『急性頚椎損傷疑い』を米国ではATがどう判断しどう処置を施すのかという具体的な手順と手法に焦点を置いています。最新のPosition Statementに書いてあることはもちろん、未来のそれに含まれるであろう変更点についてもまとめました。いつもは難産ですが、これは筆の走りが良かった回です(笑)。興味のある方はこちらからどうぞ。一部書店で販売していますがオンラインでも購入可能で、送料は無料だそうです。



さて。
キレイなもの、美しいもの、好ましいものを見せられて「素晴らしい!」というのは簡単ですが、見たくないものを目の前に出された時にヒトの本性が出るんじゃないかななんて思うんですよね。貴方はそれを直視し、冷静に見定められますか?こっそりと見なかったことにしますか?それとも感情的になって「こんなものはデタラメだ、嘘っぱちだ、認めない」と叫びますか?
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研究や論文の世界…つまりエビデンスの世界でもひとつのことに対してふたつの食い違う見解が出てくることはよくあります。例えば前回は「脳震盪受傷直後に、いかに速やかに運動を中止し、休息することが大事か」という論文を紹介しましたが、そしてそれを読んだ多くの人がその結論を「好ましい」と感じ、900を超えるFacebookの "Share"や "Like"をしてくださった訳ですが、今回は前回同様最新の、しかしこんなタイトルの論文を紹介したいと思います。1「脳震盪後、急性期の精神的・肉体的休息は回復を早めないかもしれない」―つまり、前回の論文と真逆の響きです。

この研究は脳震盪受傷後翌日丸一日(24時間)に、「徹底的な肉体的・精神的休息」を強制させた患者("Rest"組)25人と、そうでない患者("No Rest"組)25人の回復を調べたもの。症状が完全消失までにかかった日数、神経認知テスト (CNT)、バランステスト (BESS)、SACがBaseline値に戻るまでの日数、と競技復帰に向けた運動開始までにかかった日数を比較すると、CNT、BESS、SAC値回復と運動開始までの日数はグループ間に差は無かったものの(p > 0.183)、症状消失までにかかった日数はなんとRest組のほうが悪いという結果に(5.2 ± 2.9 vs 3.9 ± 1.9日, p = 0.047)。

この研究では「Rest組の患者は(受傷当日と翌日の合計で)平均約40時間ほど休息をしていたわけであるが、この比較から、急性期の肉体的・精神的休息は脳震盪の回復を早めないどころか、症状の消失を1.3日ほど遅らせる可能性があると言える」…という結論が出されています。休息が悪影響を及ぼす?一つ前のブログ記事とは完全に矛盾する内容のように思えます。では、我々はこの結果をどう受け止めればいいのでしょう。
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この結果を鵜呑みにすることも、拒絶することもできます…が、私が思うに、真のクリニシャンがすべきはそのどちらでもありません。真のEvidence-Based Practitionerが持つべきは「Be open-minded and skeptical (受け入れろ、しかし疑え)」というマインドセット。「真実」に近づくためには、より多角的にモノを見つめる必要があります(上図: 「これは丸だ」「いや四角だ」と、一見食い違うように見える意見も、本当はどちらもその角度から見たものとしては正しくて、複数の意見を合わせた「円柱」こそが真実なのかもしれません。どちらかの意見に捕らわれすぎていては永遠に真実は見えてきません)。受け入れろ、しかし疑え―今回もするべきは同じだと私は考えます。「ふむふむ、キミの見方、考え方は面白いねぇ」とその切り口に敬意を払い、感謝をしつつ、「でもじゃあまぁ、キミの疑わしいところをまず洗ってみようか」と冷静にざっくりと見定める必要があるということです。ではこの研究の「疑わしいところ」とはなんでしょう?

●Odd Study Design and Potential Selection Bias
この研究のデザインは実に妙です。分類するならRetrospective (後ろ向き)とProspective (前向き) study(研究)の合いの子といったところでしょうか。というのも、これは論文冒頭にも書かれている通り、事前に計画されたわけではなく、偶発的に生まれた研究だからなのです。元々何らかの脳震盪研究をしていた真っ最中に、たまたま脳震盪からの競技復帰(RTP)に対するポリシーの変更が決定し、「じゃあ、前後で回復の早さを比べちゃえ」ともうひとつエクストラの研究(今回の論文)をひねり出したわけ。なので、ポリシー変更前の脳震盪患者25人が「No Rest組」でどちらかというとRetrospective(=取っておいたデータを急きょこの論文を書くのに使うことにした)のに対して、変更後の25人が「Rest組」でProspective(=この研究をすると分かった状態で新たにデータを取った)なんですよ。グループ分けがランダムではなく時間軸で分けられており、加えてよく読むと「consecutive(連続した)」という表記もないので、「RTPポリシー変更直前に脳震盪受傷した連続した25人と直後に受傷した連続25人(下図、例1)」ではなく、「RTPポリシーを変更する前に脳震盪受傷した25人と変更後に受傷した25人(下図、例2)」を使った可能性が高いです。ニュアンスの違いがわかりますか?後者は格段に研究者が使用するデータを作為的に選んだ可能性が高まります。使用するデータを研究者が作為的に選んだのだとしたら、この研究結果には研究者のバイアスが色濃く残っているかもしれません。
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●"History" Effect
加えて、RTPポリシー変更が採用された2012年7月という時期も引っかかります。アメリカでは各メディアの報道や各州での脳震盪法令の制定に伴って、脳震盪に関する世間の知識と意識はここ数年で劇的に変化しつつあります(今では「CTE」という言葉を理解するアメリカの一般の方も多いんじゃないでしょうか)。この「意識改革」の真っ只中にいたであろう被験者たちが、たまたま2012年7月より前には脳震盪の影響を軽視して復帰したいがために「もう症状はない」とウソをついていた可能性 、そして2012年7月以降は脳震盪の深刻さを実感する被験者が増え、「実はまだ頭が痛む」などとより正直に報告するようになった可能性というのは十分にあります。研究者の意図しないところで、時代そのものの変化の影響を受けた可能性があるわけです。これはちなみにHistory Effectと呼ばれ、研究の妥当性を下げる要素としてよく知られています。
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●グループ間のDemographicの差
これは論文内のTable 1で性別、年齢、身長・体重や過去の脳震盪受傷数などに関して「グループ間の差は無かった、p > 0.05でした」という報告がありますが、私個人としてはきちんとp valueをそれぞれの項目に対して見せてほしいです。例えば、p = 0.055だったら統計学的に有意な差まではいかなくても十分に影響を与えうるトレンドがあった可能性もあります。少なくとも、男女差はかなりあるように見えるので(Rest組は男18/女7、No Rest組は男13/女12)、実際に数値を表記してくれないなんて、何か後ろめたいことでもあるの?と意地の悪い私なんかは疑りたくなってしまうわけです。

●実際のRest組とNo-Rest組のアクティビティー
もうちょっと詳しく解説したいのが両グループのアクティビティー制限です。
1) Rest組: 受傷当日はもちろん、翌日丸々、コーチと連絡を取り、一切のチーム・個人練習や筋トレ、他の怪我の治療も禁止。Student Disability Service Officeの協力も得て授業には参加させないのはもちろん、チームミーティング、スタディーホール、課題やテスト勉強も禁止するという徹底っぷり。テレビやパソコン、携帯電話の使用も「やりすぎないよう」患者に直接指導したそう。しかし、この24時間研究者が実際に監視を行っていたわけではなく、患者がこの「指導」に従ったかどうかは直接患者に「実際のところはどうだったの」とself-reportする形でのみ確認を取っています。患者がウソをついた可能性が十分に考えられるのと、それよりももっと大きな問題なのはこれをデータ化して結果として報告してないことですかね。もし患者が「いやー、休めとは言われたけど一日中ゲームしてましたわ」とか「結局宿題ちょっとやっちゃいました」とか正直に報告していたとしても我々読者はそれを知る余地もないのですから。
2) No Rest組: 2012年7月以前の25人は学業に関する制限はなく、むしろ授業はなるべく休まないように指導していた("absence is strongly discouraged")という記述が確認できます。肉体面は、チームとの運動は症状がなくなるまで再会してはいけないという制限は当時もあった一方で、私生活での運動やADLには特に制限を設けなかったそう。なるほど。これもRest組との「指導」の違いは理解できますが、こちらのほうがより不明瞭なアドバイスで、「学校にはなるべく行くように」と「指導」されていた患者が実際に学校をサボって一日休んでいた可能性も確認できませんよね。self-reportで確認もしなかったわけですから、選手が実際受傷翌日に何をしていたかのデータは一切存在しません。「体調と相談して」と言われたら休みたくなり、「絶対に学校に行ってはダメ」と言われたら行きたくなるのが、人間の性じゃありませんか?私だけ?
そんなわけで、グループ・アサインメントが実際のアクティビティー・レベルを示唆していない可能性がまだまだ強く残っている以上、この研究の結果は慎重に読み取るべきだと私は考えます。第三者の監視役にActivity Logをつけてもらうとか、最近ではAccelerometer(加速度計)やPedometers(歩数計)、Activity-Tracking Phone Appsなど様々なテクノロジーがあるわけですから、こういったものも併用しながらより客観的に患者のCompliance Rateを表記するべきだと思います。

●Statistical Analysis
あとは私が個人的に数字のデータが好きなので、95%CIの報告がない、Effect Sizeの報告がないことは評価を下げざるを得ませんね。被験者の数が各グループに25人というこのグループサイズもPower Analysisで定められた最低数に基づくものではないようですし、この研究で出たPoint valueはPoint valueでともかくとして、統計的に十分なパワーがあったのかなかったのか分からない状態ではどんな結論も出せません。

さて、それでは私がこの研究を受け入れ、疑った結果は「上記したような問題点が改善された研究を見てみないと最終的な結論は出せない。が、他に急性期の休息が効果がなかったとする論文(こちらは受傷後5日間のStrict Rest)2が出ていることも考慮すれば、やはり『休めばいいというものではない』という最近のトレンドを支持する研究は増えてきている6-8」という結論です。現時点で私は「受傷翌日の休息は有害である」というのはOverstatementだと思わざるを得ませんし、各団体のPosition Statement/Consensus Statement3-5がまだ受傷後24-48時間ほどの急性期の休息を推奨している以上、この研究結果だけを受けて急性期対応を変えるわけにもいきません。…が、しかし、脳震盪のリハビリとして運動が効果があるのではないかと言う声が徐々に大きくなってきているように、「やりすぎず、やらなすぎない」絶妙にコントロールされた肉体的・精神的ストレスはむしろ回復を早めるのではというエビデンスも次から次へと出てきています。私の勝手な見立てでは、この「程よいストレス」という理念が現在の「休息」一辺倒のガイドラインをいずれ取って代わるでしょう。これからも目を離せない分野です。

卑怯な言い方かもしれませんが、この記事が前回と比べていくつくらいのFacebookの "Share"や"Like"がつくのか個人的に興味があります…。恐らくタイトルがそれでも好ましくないという理由で、前回の1/9もいかない(つまり100以下)だろうというのが私の勝手な予想です。

1. Buckley TA, Munkasy BA, Clouse BP. Acute cognitive and physical rest may not improve concussion recovery time. J Head Trauma Rehabil. 2016;31(4):233-241. doi: 10.1097/HTR.0000000000000165.
2. Thomas DG, Apps JN, Hoffmann RG, McCrea M, Hammeke T. Benefits of strict rest after acute concussion: a randomized controlled trial. Pediatrics. 2015;135(2):213-223. doi: 10.1542/peds.2014-0966.
3. Giza CC, Kutcher JS, Ashwal S, et al. Summary of evidence-based guideline update: evaluation and management of concussion in sports. Report of the guideline development subcommittee of the american academy of neurology. Neurology. 2013;80(24):2250-2257. doi: 10.1212/WNL.0b013e31828d57dd.NATA.
4. Broglio SP, Cantu RC, Gioia GA, et al. National athletic trainers’ association position statement: management of sport concussion. J Athl Train. 2014;49(2):245-265. doi:10.4085/1062-6050-49.1.07.
5. McCrory P, Meeuwisse W, Aubry M, et al. Consensus statement on concussion in sport-the 4th international conference on concussion in sport held in Zurich, November 2012. Clin J Sport Med. 2013;23(2):89-117. doi:10.1097/JSM.0b013e31828b67cf.
6. Gibson S, Nigrovic LE, O'Brien M, Meehan WP. The effect of recommending cognitive rest on recovery from sport-related concussion. Brain Inj. 2013;27(7-8):839-842. doi: 10.3109/02699052.2013.775494.
7. Majerske CW, Mihalik JP, Ren D, et al. Concussion in sports: postconcussive activity levels, symptoms, and neurocognitive performance. J Athl Train. 2008;43(3):265-74. doi:10.4085/1062-6050-43.3.265.6.
8. Silverberg ND, Iverson GL. Is rest after concussion "the best medicine?": recommendations for activity resumption following concussion in athletes, civilians, and military service members. J Head Trauma Rehabil. 2013;28:250-259.

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  # by supersy | 2016-09-11 21:00 | Athletic Training | Trackback | Comments(0)

脳震盪受傷にすぐ競技中止をしなければいけない理由。

SNSで見かけて、面白そうだったので読んでみました。ほんの3日前に発表になった論文です。忙しくてあまり時間がないので、簡潔にまとめます。
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脳震盪受傷疑いがある場合は直ちにスポーツをやめ、専門のトレーニングを積んだ医療従事者の指示を仰ぐこと…とは様々なガイドラインや米国の州法律で謳われていることですが、1-3 選手自身がその深刻さに気が付いていても4 やはりその3割程はまだ報告義務を怠り、5 なんとかプレーを続けようとする傾向も根強く見られます。
「もうちょっとだけならいいんじゃないか…」「この試合終わってから報告するから…」という甘い考えを改めさせられるのがこの記事。6 脳震盪を受傷したならSecond Impact Syndrome/Diffused Cerebral Swellingの危険性を回避するために即刻プレー中止すべきである、というのももちろんですが、この論文6 によれば脳震盪を受傷後にプレーを続けた患者は即座にプレーを中止した患者に比べて脳震盪からの回復が倍以上もかかったというのだから驚きです。69人の脳震盪患者(年齢12-19歳)に「受傷後プレーをすぐ辞めたか、続けたか」を聞き、その回復を追った、というこの研究では、「受傷後もプレーを続けた」と回答したPlayed組(n = 34, 49.3%)が、「すぐに中止した」と答えたRemoved組(n = 35, 50.7%)と比較して、来院時の言語記憶、視覚記憶、情報処理能力、反応速度の全てにおいて著しく劣っており(p ≦ 0.002)、完全競技復帰までにかかった時間も44.4 ± 36.0日 vs 22.0 ± 18.7日 (d = 0.80, p = 0.003)と格段に長くなっている様子が報告されています。脳震盪界では21日以上かかっても回復しない患者を時折「Protracted recovery (長引いている)」とカテゴリー分けしたりしますが、この研究の統計によれば受傷後プレーを続けた場合、回復が「長引く(≧21日)」可能性が8.8倍高くなるそうです。

この実験の被験者が総じて若いことは特筆されるべきかと思いますが(子供の脳震盪からの回復は成人より遅いことが知られています。故に、この結果がそのまま成人に当てはまるかは少し疑問が残ります。同様の研究を是非プロや大学選手でもやってほしい)、「このプレーだけやらせて!そしたら引っ込むから!」などとbargainしようとする選手に「『あとワンプレー』で回復にかかる時間が倍になるんだよ。2-3週間をフイにするほどの価値が本当にある?」と返せる、切り札になる非常に重要な研究だなと思います。あとはこの研究と「回復が『長引いている』脳震盪患者には運動」というコンセプトを組み合わせれば、「脳震盪受傷後にプレーを続けた選手は来院時点で『high risk』患者と認定し、直ちにExercise Protocolを始める」みたいな新しいガイドラインも生まれそうな気もしてます。続報を待ちます…。わくわく…。

1. Broglio SP, Cantu RC, Gioia GA, et al. National athletic trainers’ association position statement: management of sport concussion. J Athl Train. 2014;49(2):245-265. doi:10.4085/1062-6050-49.1.07.
2. McCrory P, Meeuwisse W, Aubry M, et al. Consensus statement on concussion in sport-the 4th international conference on concussion in sport held in Zurich, November 2012. Clin J Sport Med. 2013;23(2)89-117. doi:10.1097/JSM.0b013e31828b67cf.
3. Giza CC, Kutcher JS, Ashwal S, et al. Summary of evidence-based guideline update: evaluation and management of concussion in sports. Report of the guideline development subcommittee of the American Academy of Neurology. Neurology. 2013;80(24):2250-2257. doi: 10.1212/WNL.0b013e31828d57dd.
4. Chrisman SP, Quitiquit C, Rivara FP. Qualitative study of barriers to concussive symptom reporting in high school athletics. J Adolesc Health. 2013;52(3):330-335.e3. doi: 10.1016/j.jadohealth.2012.10.271.
5. LaRoche AA, Nelson LD, Connelly PK, Walter KD, McCrea MA. Sport-related concussion reporting and state legislative effects. Clin J Sport Med. 2016;26(1):33-39. doi: 10.1097/JSM.0000000000000192.
6. Elbin RJ, Sufrinko A, Schatz P, et al. Removal from play after concussion and recovery time [published online August 29, 2016]. Pediatrics. 2016. pii: e20160910.

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  # by supersy | 2016-09-01 07:00 | Athletic Training | Trackback | Comments(0)

不要な筋抑制を取り除け!最新エビデンスの示す最も有効なAMI治療、Disinhibitory Interventionとは?

AMIの知識をアップデートしようと思って下のSystematic Review1を読んでました。面白かったのでめもめも。ちなみにこの記事は無料公開されているので誰でも全文読めます。下の参考文献にリンクをぺたりと貼っておきますので興味のある方はどうぞ。
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1965年から2012年までに発表された大腿四頭筋の活性化に関する論文をまとめたこのReview、条件を満たした10件の論文を最終的にincludeしていますが、実験対象は健康な被験者からKnee OA、膝の人工関節手術後にPFPS、Meniscusまで様々です。比較対象(control)としてAMI患者との対比目的で健康な被験者を使っているならともかく、AMIのない健康な被験者のみを使った研究も含まれているのは個人的には少し納得が行きません。あくまで大腿四頭筋に抑制がかかっていることを前提とした研究のみをreviewすべきと思うのですが(じゃないとdisinhibitoryという言葉そのものが成り立たなくなりやしませんか?)…私がこのReviewを行ったわけではないので、まあここは仕方ないですね。

さて、読み進めてみると知らないことがいっぱいだったので驚きました!私の知識は2002年発表のHopkins氏らの論文2あたりで止まっていたようで、今日の今日まで1) AMIに最適な物理療法はCryotherapy。20分のアイシングでdisinhibitory効果が40分は持続する。2) 30分のTENSも同様のdisinhibitory効果が見られるが、電流を流し終えたとたんにその効果も消えてしまう。TENSをしたまま運動をさせることは現実的に考えて簡単ではなく、故にDisinhibitory InterventionとしてのTENSは実用性に欠ける…と理解していました。前回ブログにまとめた内容そのままですね。しかしよくこのReviewと、それからReviewに含まれる個々の論文も読んでみると、どうやらこの論文(↓Pietrosimone et al, 20093)あたりで「TENSのほうがCryotherapyよりも効果が高いのではないか」という研究結果が出始めて、結論がひっくり返った様子ですね。知らんかった!
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Pietrosimone氏らのこの研究2では33人の膝OA患者をランダムに 1) 20分間座っているだけ(Control); 2) 20分間の膝周りのアイシング (Cryotherapy); 3) 45分間のTENS治療 (TENS)の3組に分け、それぞれの治療を施した後に大腿四頭筋の活性度を検証。結果だけざっと紹介してしまうと、こんな感じ(↓)。
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この研究で大腿四頭筋の活性度を示すのに使われたのがCentral Activation Ratio (CAR)というコンセプトですが、このCARのベースラインからの変化をパーセンテージで表したものが上のグラフです(+の変化が改善、-が悪化を意味します)。見ての通り、より+の、高い数値をたたき出したのはTENS。著者らの「CryotherapyのほうがTENSよりも効果が高いだろう」という仮説に反して、「Disinhibitory効果はTENSのほうがより長く強く続いた」という結果が出たのです。Controlと比較して、TENSは20、30、45分後全てのタイムポイントで、Cryotherapyは20分後のみに統計的に有意な差が認められました。Effect sizeはTENSは3つ全てのタイムポイントで"strong"だったのに対し、Cryotherapyは20分後と45分後が"strong," で30分後は"moderate"。つまるところ、膝OA患者により程度の高い大腿四頭筋の活性化を促したいならば何もしないよりも、アイシングを20分するよりも、TENSを45分使った方が効果が高い、という結論が出たわけです。

これを踏まえて一番最初のSystematic Review1に戻りますが、こちらでも最終的な結論は:

●20分間のCryotherapyをしたのちのdisinhibitory効果は最低でも45分間は持続するようである。Effect sizeは時間と共に増加する傾向にあり、30分後でCohen d=0.46 (moderate)ほどなのが45分後にはCohen d=0.76 (large), 95%CI -0.13 ~ 1.59まで上がる。しかし、見ての通り95%CI幅は広くゼロを挟んでいる

●45分間のTENSは、治療後20分後は小さな(small)効果しか認められないが(Cohen d=0.38, 95%CI -0.52 ~ 1.25)、30分後には"moderate"(0.63, 95%CI -0.30 ~ 1.50)、45分後には"large" (1.03, 95%CI 0.06 ~ 1.92)になり、最終的に95%はゼロを挟まない生の数のみになる。つまり、統計的に良い効果が保証される。

●Lumbopelvic manipulationやPROM、Active Releaseなどの徒手療法は総じてイマイチ。治療直後は効果が少し見られるものの(Cohen d=0.38, 95%CI -0.35 ~ 1.09)、時間と共に効果は薄れ、60分後には消えている(0.18, 95%CI -0.54 ~ 0.89)。95%CI幅はやはり広くゼロを挟んでいる

●4-5人を対象にしたCase Seriesによれば、4 NMESは長期的に使えばそこそこ効果があるようである。 3週間継続して使えばCohen d=1.66 (95%CI 0.10-2.90)、6週間で1.65 (95%CI 0.09-2.89)、3ヶ月で1.71 (95%CI 0.13-2.96)に6ヶ月で1.87 (95%CI 0.24-3.13)とどのタイムポイントでも非常に大きく、決定的な効果が得られるという報告がされている4一方で、効果が無いどころか悪影響(5週間NMES使用で -0.25, 95%CI -0.94 ~ 0.45; 16週間使用で -0.50, 95%CI -1.19 ~ 0.22)があったというRCT研究もあり、矛盾が見られる。長期に渡って使用した場合のみの数字であることを踏まえ、さらにエビデンスのレベルとして信用すべきはRCTのほうと判断すれば、現場で使う臨床的価値には今のところ欠けるか。


…といった感じで、Systematic Review1 の結論としては "The current literature finds TENS to be the most effective intervention in increasing voluntary quadriceps activation because it produced positive homogeneous findings and CIs that did not cross zero (p.418)" ということになるようです。ふぅむー、まだまだ研究が足りないのは考慮するにしても、現時点でのこの結論は納得です。Cryotherapyより今はTENS、なんですね!

しかしこの結果は真摯に受け止めた上で、私はそれでも個人的にCryotherapyをこれからもAMI治療目的で使う可能性は大いに残しておきたいと思います。なぜか?CI幅が広いのはまだ研究が少ないのでこれから狭めていくとして、Cryotherapyのdisinhibitory効果を否定するエビデンスは現時点で存在しないこと、そして今まで出ている研究結果は総じて「効果アリ」であるから、ということと、あとはやっぱり効果の早さですかね。20分のアイシングで得られる効果 vs 45分のTENSで得られる効果、となると、Cryotherapy < TENSだったとしても、その20分という足の速さが魅力的に思える現場の症例も多くあるんじゃないかと思うからです。例えば、患者がリハビリできる時間が45分しかない場合、その45分全てをTENSに使うだけで終わらせてしまうのか、20分Cryotherapy使って、残り25分思いっきり運動させるのかではだいぶ、こう、なんというか、実用性が異なると思いませんか?逆に時間が無限にある場合、Cryotherapyを45分使ったとして、もしかしたらTENS45分を凌ぐほどのDisinhibitory効果が出る可能性もあるのでは?そっちの研究も是非見てみたい…という欲求もムクムク沸いてきますね。TENSが必ず45分でなければいけないのか(もっと短くても同様の効果は認められないのか?)という疑問も生まれます。現時点ではどうやらTENSがベスト、ということを学べたのはとても良かったですが、理想のprotocolを是非これからも皆様に突き詰めて研究し続けていってほしいです。私は数年したらまたこのトピックに戻ってくることにしましょうー。

1. Harkey MS, Gribble PA, Pietrosimone BG. Disinhibitory interventions and voluntary quadriceps activation: a systematic review. J Athl Train. 2014;49(3):411-421. doi: 10.4085/1062-6050-49.1.04.
2. Hopkins J, Ingersoll CD, Edwards J, Klootwyk TE. Cryotherapy and transcutaneous electric neuromuscular stimulation decrease arthrogenic muscle inhibition of the vastus medialis after knee joint effusion. J Athl Train. 2002;37(1):25-31.
3. Pietrosimone BG, Hart JM, Saliba SA, Hertel J, Ingersoll CD. Immediate effects of transcutaneous electrical nerve stimulation and focal knee joint cooling on quadriceps activation. Med Sci Sports Exerc. 2009;41(6):1175-1181. doi: 10.1249/MSS.0b013e3181982557.
4. Stevens JE, Mizner RL, Snyder-Mackler L. Neuromuscular electrical stimulation for quadriceps muscle strengthening after bilateral total knee arthroplasty: a case series. J Orthop Sports Phys Ther. 2004;34(1):21-29.
5. Palmieri-Smith RM, Thomas AC, Karvonen-Gutierrez C, Sowers M. A clinical trial of neuromuscular electrical stimulation in improving quadriceps muscle strength and activation among women with mild and moderate osteoarthritis. Phys Ther. 2010;90(10):1441-1452. doi: 10.2522/ptj.20090330.

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  # by supersy | 2016-08-30 21:30 | Athletic Training | Trackback | Comments(0)

遺伝する感情。

これは全然ATに直接関係ない内容なんですが、しばらくつらつらと考えていたことで、どこかに書き残しておきたかったので。備忘録のような内容ですみません。

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恐怖は遺伝する、という実に興味深い現象が動物実験によって2014年に実証されているんですね。1 それまでは赤子は親の感情を見ながら良き悪きを学ぶ(=「お母さんが怖がっているのだから、悪いものに違いない。僕も怖がろう」)、というsocial learningのコンセプトが主流でしたが、この研究では『母親が恐怖だと思った対象に生まれた子が初めて接触したとき、子も同じように恐怖を覚えるのか?』という感情の遺伝性について調査しています。
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Debiec & Sullivan1 が行った実験は至ってシンプル。メスのネズミに「ペパーミントの香りがすると電気ショックを受ける」というペアとなる刺激を繰り返し、恐怖を刷り込ませておいて、そのあと妊娠・出産した赤ちゃんネズミがペパーミントの香りを恐れるかを検証するというものでした。実験結果をみてみるとあら不思議。学習された「恐怖」は母親ネズミ妊娠前に刷り込まれたものであったにも関わらず、赤子もちゃんと初めて嗅ぐ「ペパーミントの香り」を恐れたというんですね。ネズミの赤ちゃんは生まれたばかりでは目も開かず、耳も聞こえないため、母親と同じ巣にいる状態で示したこの反応が「母親の行動を見て、それを真似たもの」であることは考えにくいのですが、念の為、と研究者は1) 親ネズミが巣にいない場合と2) (刷り込みをされていない)代理母ネズミが赤ちゃんネズミと一緒にいる場合なども検証。母親ネズミがいる、いないに関わらず、赤ちゃんネズミはペパーミントの匂いを嗅ぐと恐怖を示すという結果が確認されました。

母親が「後天的に」学んだ恐怖が、世代を超えて子供に「先天的に」植えつけられるようになる、というのは実に興味深い発見です。この「恐怖の遺伝」が一世代という短い期間で起こり、少なくとも2世代先まで伝えられることが別の研究2でも実証されています。母親のみでなく、父親が学んだ恐怖でも同様の遺伝が起こるようです。2 文字通り、感情が遺伝子に刻まれるわけですね、考えてみると面白いです。
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元々感情って生存確率を上げるために大いに意味があったものだと思うんですよね。我々が脂肪分や糖分のたっぷりのケーキやピザを食べて「おいしい!」と思ってしまうのも、それらが非常に効率のいいエネルギー源で、それを食べてきた種や個体が多く生き残ってきたからこそ。逆にカラフルな色彩を持つヘビやカエルやクモを見て「なんかやばい、怖い」という感情を持つのも、こういった生き物が毒を持っていることが多く、「恐れる」をいう感情を覚えた種や個体がその毒にやられることなく生き延びたからでしょう。

上に紹介した実験で検証されていたのは「恐怖」に限定したphenomenonでしたが、生存と言う観点から考えると「喜び」の感情も遺伝されてしかるべきという気もします。これらも是非似たような研究で見てみたいものです。例えばペパーミントの香りを嗅いで、同時に餌を与え続けると、子供もペパーミントの香りを嗅いで興奮するようになるのかとか…。面白いのが「ペパーミントの香りを嗅ぐと興奮する母親」と「ペパーミントの香りを嗅ぐと恐怖を感じる父親」と交配させたときですね。遺伝として、喜びと恐怖と、どちらの感情が勝つのか?もしくは母親と父親、どちらの遺伝子力がより強いのか?様々な研究ができそうです。わくわく…。あとは、どれだけ早く遺伝をひっくり返すことができるのか?先天的に「ペパーミントの香りは怖い」という遺伝子をもって生まれてきた子供に「ペパーミントの香りは実はいいものだ」と真逆のことを覚えこませ、それを遺伝子に上書きするのに一世代で十分なのか、数世代かかるのか?今のところ、「遺伝子の感情によるアップデートは我々が思うより早い」ように私には見えるので、ここらへんもすごく興味があります。

科学的な観点から、この結果を自分たち自身に反映させると、これもまた面白いディスカッションが引き出せそうです。何を遺伝子に残すか、その究極のコントロールをしているのは我々の全てのDriving Forceの源である脳のはず。ヒトに渡される遺伝子すら感情によって書き換えられるのだとしたら、我々の所有物である脳が受ける影響はそれよりも大きいのではと私は考えます。湧き上がる感情に引っ張られ、脳は刻一刻と変化する…『脳の可塑性(neuroplasticity)』というコンセプトが改めて浮かび上がってくるんですよね。我々のなかで日々うねっている「感情」は我々の脳に確実に刻まれ、そして恐らくその脳が「これは後世に伝えるべき重要な感情だ」と認識したら遺伝子にも書き残されるということになるんではないかな、と思うのです。
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あなたが「好き」で見ると興奮するような事柄を、あなたの子供も同じように「好き」になるのでしょうか?となれば、あなたが「大嫌い」なものも同様にあなたの子供は「嫌う」のでしょうか?あなたが「これは子供に遺伝して欲しくないなぁ…」なんて思う感情はありますか?そうであれば、手遅れになる前にあなたの感情そのものも修正すべきでしょうか?ううむ?

例えば私は少し潔癖症なところがあって、回し食いなどできないタイプの人間なのですが、自分の子供はそんなに神経質にならないといいなぁ、なんて無責任に思います。ふふふ、我ながら、自分を棚に上げてなんて勝手な欲求でしょう。自分に起こる「いやだな、汚いな」という感情をもう少しコントロールできるようになれば、後世にも良い影響が残せるかも知れません(笑)…少し努力してみようかな。なんだか頭の中を、小さな誰かに覗かれている気分です。自分の頭の中の感情で影響を受ける人が未来にいるのかもしれないと考えると、少しばかり背筋が伸びますね。

1. Debiec J, Sullivan RM. Intergenerational transmission of emotional trauma through amygdala-dependent mother-to-infant transfer of specific fear. Proc Natl Acad Sci. 2014;111(33):12222-12227. doi: 10.1073/pnas.1316740111.
2. Dias BG, Ressler KJ. Parental olfactory experience influences behavior and neural structure in subsequent generations. Nat Neurosci. 2014;17(1):89-96. doi: 10.1038/nn.3594.

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  # by supersy | 2016-08-26 17:00 | Just Thoughts | Trackback | Comments(0)

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